笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

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 本編の五〇話目です。
 
 当初の予定ではこの作品、きっと三〇話くらいで完結するんだろうな~っていう気楽な感じで始めたのですが――――次から次へと頭の中で改変されていくストーリーが織り込み、まだアニメ一期も終了していない癖に五〇話きてました。

 やだ~! 最終回とかには何話までいっちゃうのかしら!? 
 私、気になります!!

 ……という訳で折り返し地点(?)の本編五〇話です。
 よろしくお願いします。






50話 それはあまりに途轍も無く厖大すぎて

 

 

 風呂上がりに全員が一旦リビングに集まり、それぞれ言葉の投げかけを交えた末に就寝の挨拶を交わし、予定していたユニット別に分別される部屋へと入っていった。

 

 無論、マネージャーでありユニットの内輪にいない俺は静かな一人部屋だ。

 

 ゆったりとイヤホンを付けて音楽でも聴きながらベッドに横になっていようとも思ったのだが、作詞作曲の仕事をしてやるのだと啖呵を切ってしまった手前、そうもいかないだろう。

 

 部屋の扉の前まで来ると、背後で俺を呼ぶ声がした。

 

 海未と、先程少し会って話したばかりの真姫だった。

 

「美雪、本当に大丈夫なのですか? 一人で作詞作曲など……。私自身その担当を担っているのでよく分かるのですが、あまり経験のない人では難易度が高いかと……」

 

 というか、元々は海未の言葉に乗らされてあの場じゃあぁ言わざるを得なかった訳だが。

 

 だがそれを、目の前で俺の顔を不安混じりの心配そうな眼差しで見上げてくる海未に告げる事はなく、俺はドアノブに手を掛けながら口を開いた。

 

「つゥか何も、俺一人だけで一曲の歌を最後まで完成させるつもりはねェよ。お前らだッて俺にはほんの手伝いさえしてくれりゃそれで構わないッて言ッてたろうが」

 

 ドアノブを回す。

 鍵は開いていた。

 

「僅かでもヒントになるような出来具合だッたら、後でお前らにも見せる」

「そ、そうですか……いえ、なら心配する事もないのですが」

 

 少しの間の後、海未は言う。

 

「無理はしないでくださいね?」

「…………お前、内心じゃ俺が滅茶苦茶に酷ェモンを作ッてくるンじゃねェかッて危惧してねェか?」

「なっ!? ――ん、コホン。ま、まさかぁ……」

 

 ……おい、図星なのかその反応は。

 

 顎を引いて露骨に視線をずらしやがった海未に細めた目を向けていると、廊下の向こうから海未を呼ぶ凛の声がした。

 

「あっ、はい! 今行きます!」

 

 声に応えてから廊下を小走りに行く彼女はふと、俺の方に振り向いた。

 

「それでは美雪、真姫、おやすみなさい」

 

 何かあったのか、随分と凛が急かすように海未を呼ぶので彼女も俺達の返事を待たずに走り去っていった。

 

 ……で。

 

「お前は何してる訳?」

 

 海未に付いてくるように俺の元へとやって来ておりながら一言も発しない真姫に、俺は尋ねる。

 

 もしかしたら風呂に入る前、水浦竜三の件で二人で話した事について、まだ少々気にしているのか。

 

 そんな事を思ってフォローした方が良いのか否かと思案していると、予想に反して真姫の至っていつも通りな声が返ってくる。

 

「別に、ただあなたが作曲に苦しむんじゃないかと思って、大丈夫かって聞きに来ただけよ」

「……何だ、そりゃ今も言ったろ。最後まで完成させるつもりはねェしヒントだッてお前らに与えてやれるかッて事も保証できない。だが何かしらの細い糸を掴んだら渡してやる」

「ねぇ」

 

 ふと。

 真姫の視線が俺を真正面から見据える。

 

「あたし、今日はあなたと同じ部屋にいてもいい?」

「……は?」

 

 癖のように赤い巻き毛を指先にクルクル絡めながら、もう片方の腕を胸下に組むようにして彼女は言う。

 

「作詞よりも作曲の方が明らかに難易度が高いのよ、歌詞のフレーズが用意されてない時なんて全く思いつかないのがほとんど。そもそも夜の時間帯じゃピアノは弾けないし、実際に奏でる音楽と口ずさむ音符じゃ訳が違うのよ」

「だから、俺はそこまで本格的には――」

「あぁでも、この建物は完全防音だからピアノ弾いても安眠妨害にはならないわね。ならリビングのピアノであたしと一緒にやりましょうよ。作曲のコツとか、ピアノの弾き方とか享受させてあげる。音楽を奏でながら考えた方が作曲は捗るものよ」

「…………」

 

 ……やけに積極的――というか強引に来ているような気がする。

 

 

『あなたとも、もっと仲良くしたいと思ってるわ。友達以上に、もっと深い関係をあなたと持ちたいと、思ってる』

 

 

 不意にそんな、昨日の夕陽に照らされる海岸沿いの道端で真姫に言われた言葉を思い出した。

 

 

 ――こいつかもしれない。

 

 

 ふと思う。

 

 西木野真姫。

 彼女は、μ'sのメンバーの中でも特に最も、俺に近づいてこようとしている。

 

 自惚れだと笑われるかもしれない。

 自意識過剰だと引かれるかもしれない。

 

 それでもなぜか、それは確信に近い俺の見解だと思った。

 

 

『あたし、μ'sのみんなとこの場所に来れた事、本当に嬉しく思ってるわ』

 

 

 あぁ。

 そういやそんな事も言っていた。

 

 小、中学校生活を孤独のまま過ごし続けてきた彼女。

 もしかしたら他のメンバーに対しても、素直になれない性格ながらも自分なりに努力して、少しでもその間を縮められたらいいなと思っているのかもしれない。

 

 今回は、俺。

 故に、現状。

 

 理解できると言えばできるだろう。

 だがそれだけで元の予定を切り崩せるかと言えば、そうではない。

 

 真姫はきっと酷い不器用だ。

 同じユニットメンバーである絵里やにこを後回しにし、一人である所の俺の元へやって来ている時点でそれは分かりきっていた。

 

「真姫」

「ん――なに?」

 

 決して傷つけようとしている訳じゃない。

 そこら辺は理解して欲しい訳だが。

 

「お前にはお前の仕事があるだろ。俺の事はいいから、さッさと自分達の部屋に戻れ」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 あの後の真姫は俺も思わず拍子抜けしてしまう程に素直で、俺の言い付けに文句一つ言わず頷き、廊下を渡って自分の部屋へと戻っていった。

 

「どうも分かンねェなァ……」

 

 過剰な執着態度を見せて言い合いになるという展開を避けた、という点が最もらしいだろうか。

 

 俺は一人きりの部屋に置かれた椅子に座ってデスクに向き合い、机上に用意したルーズリーフの束を睨む。

 

「……まァ、今の仕事はこッちだ」

 

 脳を切り替える。

 

 作詞作曲。

 ノーヒントの一から手付けるのは初心者の俺にはあまりに無謀な挑戦。

 

「海未にサボッてたンですかと叱咤を受けない程度までは頑張りましょうかねェ」

 

 芯を補充したシャーペンを右手に取り、試験開始のチャイムを聞く受験生の心境を頭に浮かべた俺は――。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 ――いつの間にかベッドの上に寝そべっていた。

 

「まァ……モーツァルトじゃあるめェし、できる訳ねェンだよなァ」

 

 作詞はまず思い浮かんだ言葉の羅列――楽曲に命を吹き込むだとか何とか海未が前に言っていたが、抽象的すぎて何が何だかさっぱり分からん。

 真姫だって曲の土台となるコード進行を組み立てる事が必要だとかチンプンカンプンな事を抜かしていたが、まずコード進行ってのが何かを教えろよ。

 

 そもそも俺はロックバンドとかクラシック系の曲は聴くが、アイドルの歌なんてあまり注目してこなかった。

 それこそμ'sの今までの歌とか、ネットで目を通しただけの地方に分けられるスクールアイドルグループの曲ぐらい。

 

 経験が浅すぎる。

 バットも手にした事のない人間がプロの試合で代打で出場させられたみたいなもんだ。

 

 絶賛難航中である。

 

「さてどうするかな……」

 

 そんな時だった。

 

 寝転がった俺の顔の隣に置いたスマホが光を点滅させながら震動している。

 メールかと思って手に取ると、それは着信だった。

 

 そしてディスプレイに表示されるその名前によく目も向けないまま、俺は通話に応じるように耳にスマホを当てる。

 

「はい――」

『やっほー! 世界で最も君の事を愛している人と言えばこの博学多才の品性高潔清廉潔白また美辞麗句も並べる必要すらないほど神からの叡知を授かり将来は君と鴛鴦の契を結ぶこの僕っっっ!!! ひいら――』

 

 ブツッ――。

 

 何だ、間違い電話か。

 それかタチの悪い悪戯電話か怪奇宗教の勧誘か。

 

 まぁとりあえず関わらないという路線が最も安全だから切ってやった。

 

 するとそこから数秒とも経たない間にまたスマホが手の中で震動する。

 

 しかしこうなってはもうこちらが諦めるしか道がないという事はとっくに知らしめられている事実。

 

 大きなため息を吐いて覚悟を決めてから、通話を受け入れスマホを耳に添えた。

 

『――ぎ蒼太郎くんでーーーす!!』

「何で綺麗に続きから言ッてきたンだよ、しかもいつも以上に遥かに鬱陶しいテンションだなお前何か良い事あッたか」

 

 柊蒼太郎。

 またこいつに捕まった。

 

 こいつはいつでもそうだ。

 自分の都合を最優先だと考えれば他人の都合なんか知った事じゃない。

 自分の用件があればその優先度を相手に押し付ける。

 

 どうしてこんなクズが大学じゃ女にモテてるのかがさっぱり分からない。

 

「何の用だ……」

 

 自分でも笑ってしまう。

 まるでフルマラソンでも走りきった直後のように疲労しきった掠れ声が、溜息と同時に俺の喉から出される。

 

『あれ? どうしたのさ美雪ちゃん? 何か凄くお疲れのように窺えるけど、今日は何してたの? お父さんの話じゃどっか遠征に出掛けてるって話だけど、僕そんな話聞いてないよ?』

「何でわざわざお前に話さにゃならンのだ。つゥか、マジで何の用件だよ。くだらねェ事だッたらぶッ飛ばすぞ」

 

 そう、自然に圧し殺される声で言う。

 

『あ~、そうそう美雪ちゃん。その……たった今君が口にした「ぶっ飛ばす」って言葉なんだけど……』

 

 ……?

 どこか、柊の声に違和感を感じたのは気のせいか。

 

 だが――。

 

 

『それ、本当に誰かにやっちゃってたりとかするの?』

 

 

 その言葉で、何かが見えた。

 

「……あ?」

『例えば、そのせいで美雪ちゃんはどこかの誰かに恨みを持たれてさ……あるいはそれが原因で何かに巻き込まれているとかしてない?』

 

 背中に嫌な――言葉ではとてもじゃないが言い表せないゾワゾワとした不気味なものが垂れる。

 

 こいつは――柊蒼太郎は何を話しているのか。

 奴はいったい何を知っているのか。

 

 俺の頭からはもう、すでに、作詞作曲の事なんて遥か彼方に飛ばされるように忘れ去られていた。

 

「……つまり何が言いたい?」

 

 俺の短い問いと要求に、柊はいつものチャラけた様子が欠けている口調で話す。

 

『将来の僕のお嫁さんとして面倒事は控えてもらいたいんだよ。後々になって君の争奪戦とかに展開するのは御免だし、何より僕自身の道も危ない。本当はこういう話は君と直接、顔を合わせてしたかったんだけど』

 

 どこまで知っているのか。

 相手が柊蒼太郎だという時点でもう見当なんて付かなければ下手な予想もできない。

 

 最も考えられる線として――。

 

「柊、お前……水浦竜三とよく絡ンでンのか?」

『それと同じ名前をこないだ僕を襲ってきた男が言っていたよ』

「ッ――!」

 

 やはり何かあった。

 柊蒼太郎も巻き込まれている。

 

 なら、それはなぜだ――?

 

 口ぶりからして柊の奴は竜三と知り合いじゃない。

 なら、奴が俺と知り合いだから、か――?

 

 正直な話じゃ柊がどんなにボコられようが俺の知った事じゃないんだが、なら俺を襲ってきた『あの集団』の奴らは、すでに俺の周辺に取り巻く人間関係についても把握している――?

 

『あぁ、僕を襲ってきた男と会ったのは本当にたまたまだったよ。僕がついうっかり美雪ちゃんの知り合いですって口を滑らせた途端、やらかした~って思ったけどね』

「……」

 

 それを聞いて、少しだがホッとした。

 一瞬前に統堂英玲奈の顔やμ'sの面々が脳裏に浮かび、ヒヤッとしていた所だった。

 

 だが――。

 

 うっかり俺と知り合いだと口を滑らせた?

 

 いいやそうじゃない。

 柊蒼太郎は馬鹿じゃない、そんな間抜けな失態を犯すような頭はしていないはずだ。

 

 こいつは自ら飛び込んできたんだ。

 またこいつは俺に近づいてきた。

 

「たまたま会ッたッて、そりゃお前が大学から帰る道の途中でか?」

「いんや? その日は美雪ちゃんに会いに行こうとしてたから、夜伽ノ家の近く」

 

 ――つまり纏めると、だ。

 

 奴ら――詰まる所じゃ俺の事を嗅ぎ回った挙げ句手を出してきた敵とやらは、すでに俺の家のだいたいの住所に目星を付けている。

 その付近を歩いていた柊に俺の事を尋ねたという事は、今後も周辺の住人にも聞き込みを続ける可能性が高い。

 

 なら、なぜそこまで執拗に俺を追いかける?

 その理由はどこから来ている?

 

 単に、水浦竜三の知り合いだから。

 それだけじゃ何か足りないという気もする。

 

『そこで、だ美雪ちゃん』

 

 今度は抑揚の効いた上機嫌そうな声で柊が電話越しに言ってくる。

 

『僕は今の状況を一気に覆せる――つまり君の敵とやらを一網打尽にしてやる作戦を考えた』

「作戦だァ?」

 

 どうやら柊はもう、俺にまとわりつく面倒事から登録を外すつもりはないようだ。

 

『まず、彼らの本拠地をどうにかして探し出し、そこに君を差し出す』

「おいコラ」

『最後まで聞きなよマイエンジェル。そこで君の姿を見つけた敵とやらが、君を捕まえる為に一気に出てくるはずだ』

「…………」

 

 おかしい。

 何か。

 

『その瞬間に僕、あとは依頼として雇って水浦竜三が前線に出て、奴らを倒す。あ、もちろん君は僕が守るからね?』

 

「ふざけてンのかテメェ」

 

 ピシャリと。

 低く唸るような声で俺は言う。

 

「単純馬鹿のやる素直で教科書通りの電車ごッこか。敷かれたレールの上をただ走ッた所で解決にはならねェ。いつからお前はそンな単細胞生物に成り下がッた」

 

 柊はシンプルイズベストだとでも考えてんのか?

 

 確かに戦略としちゃ単純すぎる事も方法の一つだろう。

 だがそれでも、今の作戦は穴だらけだ。

 

 前提がまるで存在していない。

 

 あまりにも柊蒼太郎らしくなかった。

 

 

『……と、一時期はそう考えていた僕もおりましたとさ』

「あ?」

 

 態度をケロッと変えるように柊は内容を反転させようとする。

 

『僕自身も本当にそれでいいのかと思ってね、愛しの美雪ちゃんの為に様々なツテや技法を駆使して調べ上げてみたんだよ』

 

 しかし、やはりこいつは柊蒼太郎だった。

 

『まぁ裏で活動していながらもその存在は表にはみ出していたから、調査は案外と楽チンちんだったけどね』

 

 次の瞬間、見えない所で展開されていたそれは紫電一閃としてレベルを上げる。

 

 

 

『美雪ちゃんが敵にしているのは、音ノ木とその周辺の街に蔓延る悪逆無道なゴキブリ集団――梶ヶ谷燐桐という男が率いる【音ノ木愚音隊】。総勢は六〇人程度の少数派だけど、鍛えて磨き上げられた精鋭達が集うって恐れられる暴力団だよ』

 

 

 

 一つの前提が、予想を遥かに凌駕した――。

 

 

 

 




 作詞作曲の話から急展開、また新事実が明かされましたね。
 
 【音ノ木愚音隊】――〈おとのきぐおんたい〉

 名前、けっこう頑張って考えました笑

 え? ださい?――それは梶ヶ谷くんに言ってください笑(やべぇすげぇ矛盾)

 それでは次話もよろしくお願いします!
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