皆さんお久しぶりです、西海です。
同時に今日の終業式の際にお腹が痛いとトイレに籠もりながらスクフェスをプレイしていた西海です。
マイクから響く校長先生の話を耳にしながらシャンシャンするってそれどんな罰ゲー(いやマジで)・・・。
そして今回のお話も進むにつれて急展開が待っています。
何だか最近お話を更新させるペースが落ち気味なのが気がかりですが、それでも全身全霊を込めて作り上げているので、皆さんどうか今回もよろしくお願いします!
美雪と真姫ちゃんの二人の会話のお話です!
何だか真姫ちゃんは美雪と二人になる場面が多いですね!
美雪が比企谷八幡ならとっくに勘違いして告白して盛大に振られて本物のヒッキーになってるレベル。
八幡「って、振られちゃうのかよ……いや知ってたけどさ」
透明色とはほど遠い濃密度を込めた色に染まる海水をなぞり、濡れた指先に舌を触れさせた。
「……しょッぱ」
随分と塩分の濃厚な水だ。
海に潜ると誤って口内に海水を含んでしまう事があるらしいが、この場所の海水はきっとそれよりも塩辛い。
撮影は終わった。
中央の階段の上に彫られた石組みの彫刻の前に集合し、次なるCD発売の為のジャケット写真用の撮影もした。
今は、人生で滅多に――一度でもその目に映す事が難関とされるだろう神話的光景を脳裏にまで焼き付けるかのように辺りを見回し、いつまでもこの幻想的世界から離れたくないと執着するように、各々のメンバーは洞窟内の泉ではしゃぎ回っている様子だった。
平然を装っていられているのは絵里と海未くらいか。
ザブザブと足下の海水に飛沫を上げながら、俺は周囲の自然を見渡して歩いた。
人工で造られたものでは再現できない手触りや香りのする緑色。
神話の中に登場してくる何千万との歴史を持つ神々たちが人の地に授けたものではないかと、そんなロマン溢れる想像を巡らしてくれる大量の彫刻作品や石像。
しかし不自然な事に、この場所には泳ぐ魚もいなければ、蔦を這い渡るネズミや木々を飛び交う野鳥も存在しない。
「不思議な場所だ、本当に……」
坂上の一般道で車を走らせる運転手たちは、きっと自分達が愛車を走らせているその道の真下に、世の理を逸脱させるような美麗的神話の世界が広がっているとは想像もしないだろう。
そもそもこれ程の絶景が広がる場所ならば、とっくにテレビや雑誌の報道陣たちが群がっていてもいいはずなのだが、俺はこの泉の事をテレビや雑誌で拝見した事は一度としてない。
もしかするとこの洞窟内はおろか、外の岩肌にガッポリと開いた入り口の存在すら、知っている人間は少ないんじゃないか。
――だと言うのに。
「さッきから感じる……何だ、この妙な既視感は……?」
おかしい。
こんな場所、こんな光景。
一度目にすればきっと生涯を終える最期の瞬間まで忘却の彼方に飛ばされる事は決してないと自信を張れるというのに、なぜだか俺は、この洞窟内のマリンブルーに染め上げられた泉の世界に、微かだが見覚えがある。
そういう気がする、というのではない。
間違いなく、俺はこの場所を知っているという毅然たる確信があるのだ。
だが、なぜだ?
なぜ俺はこの場所を知っていると思った。
俺はいつ、ここを訪れた。
誰と、俺はここに来たんだ。
ふと足を先程よりも高く上げた。
古めかしい、緑色のコケで一面を覆われた石造りの階段を昇り始める。
目の前に、歪な楕円形に模られ、中央が大口を開くようにくり抜かれた石組みの彫刻が現れる。
その楕円の輪っかの内部の天辺からは一滴一滴の雫が垂れ落ち、輪っか内部の下底部分に跳ねている。
「間違いない……絶対に、見た事がある」
独りでに呟いた。
膝を曲げ、顔と石組みの彫刻の輪っか部分を平行に合わせてみる。
楕円形の中央に開いた穴は俺の顔の一回りも二回りも広く模られている。
内側の断片は鑢で磨かれたようにツルツルとしているものではなく、老朽化が進んで破片が細かく崩れ落ちたかのようにいくつものクレーターができあがっていた。
「なに、してるのよ?」
唐突な声と同時に、俺が覗く輪っかの向こう側に赤毛を下げた顔が出現した。
「ン……真姫か。急に出てくンな、少しびびッたぞ」
「ちょっと意外ね」
「あ?」
真姫は俺と同じように折り曲げていた膝を伸ばすと、楕円の彫刻の横を通って俺の隣まで歩いてくる。
「あなたならどんな時でも、例えこんな神秘的な場所に連れて来られようと、いつもの調子を崩さずクールなままの態度を貫くかと思ってたけれど。あなたにも目の前に広がる光景に黄昏れるって事があるのね」
腕を組み、また俺より余裕な顔持ちで胸を張るようにしてくる真姫はそう言った。
俺も立ち上がり、真姫と顔を合わせる。
「滅多に見られない光景だ、別に構わねェだろ」
「駄目とは言っていないわよ、あたしもそれに驚いただけ」
ふっ、と口元を綻ばせながら言う真姫は頭上高くの崖崩れの隙間から射す陽射しに目を細めた。
「パパの知り合いに、もうおじいちゃんで腰も曲がってるような歳になる考古学者がいるんだけどね……」
「……?」
「この泉の場所は、数百年前から存在していたらしいの。まだ日本っていう独立国も存在しない、ここが海上を行き来する小さな船どうしの貿易の為だけに使われていた、ただの諸島だった頃からね」
「……なンだそりゃ。そりゃ俺達が学校で習う教科書範囲よりも以前の、しかもかなり細かな短い時代の頃か」
「そういう事ね、有名な考古学者さんが言うんだから間違いないかも。その人、名前だってテレビで何回も出てるし、検索をかければ一発で分かるわよ」
そう真姫は話す。
だが正直、俺にはその考古学者の名前なんかには興味がなかった。
「どうもこの場所は当時の時代に、財宝の隠し場所として使われていたようよ。どの時代にも泥棒みたいな悪党はいるものだから、その時代にも海でも陸でも大暴れする……まぁ時代の早い海賊みたいなものがいたのね」
そしてその話は考古学者の言う所か。
信憑性があるかどうかそこは俺自身の判断だが、しかし単純に興味が沸いた。
好奇心という人間の本能が久しく働いたような気がした。
「その海賊擬き達は略奪した財宝や奴隷をこの入り江に隠蔽し、誰の目にも触れさせないようにしたって話よ」
「……だが見渡す限りじゃ残念ながら、その財宝とやらは現代には残ッてねェみてェだな。どッかの――それこそお前の言う父親の知り合いの考古学者が持ッていッたか?」
「ううん、そうじゃないわ。金銀の財宝は山のように積もり、洞窟内を夜の闇の中でも眩しく照らす程の輝きを集めた。でも、それらは全てその時代のうちに消え去ったわ」
その内容に、俺は少しガクッ、ときた。
若干だが自分の肩が落ちたのを感じる。
別に欲が心をくすぐっていた訳ではないが、なんとなく――期待が外れたようで眉が垂れた。
「それは……つまり何だ? その時代の海賊擬き達が使い果たしちまッたのか? それとも何か厄災……大地震とか津波が全てを藻屑に変えちまッたとかか?」
「いいえ、そうじゃないわ」
真姫は首を振る。
そして一歩前に出たかと思うと、目の前の楕円の彫刻の頭に手を乗せた。
ざらざらとする手触りに目をやりながら、彼女は続ける。
「神よ」
「………………あァ?」
一瞬、俺は自分の耳を疑った。
「だから神よ、神様。人の想像を遥か超越する叡知を司る、唯一世界の果てを知る天空からこの世を俯瞰する神」
「……そりゃ、考古学者がそう言ッてたのか?」
俺のその質問は馬鹿げていた。
古代の遺跡や財宝を発掘するのに人生を懸けている考古学者という存在は、常に子供のようで大人びた夢とロマンに満ち、フロンティア精神に溢れた思想を持っている。
常に世界の理を根っこから受け入れ、さらにその深みに潜っていこうと開拓精神を漲らす人間達が、存在するかどうか説明すらできない神だとかそんな類のものの名前を、口に出す事がおかしい。
「違うわ。……これは、あたしの友達の考えよ」
「……友達」
その解答に安心している俺がいた。
もし、神だとか持ち込む説を西木野真姫本人が唱えているのだとしたら、きっと今後から俺は真姫に『ちょっと痛い子』という視線しか送れなくなっていただろう。
「つか、友達ッて誰の事だ。μ'sに加入する以前じゃお前――」
「友達『だった』……って言うべきね。あたしが小学生の頃にここに来た時、その一日だけだったけど、その子と会ってこの場所を案内してくれたのよ」
「……へェ、一日限りの友達ッて奴か」
「まぁ、そうなるわね」
真姫はこちらに身体ごと振り向き、背中を楕円の彫刻にあずけるようにして立った。
「女の子だったわ、あたしと同じくらいの歳だって言ってた。小学校低学年であるにも関わらずにその女の子はこの場所で、誰かから聞いたのか自分で考えたのか分からない、こんな説を唱えてたわ」
懐かしむような色が真姫の表情に窺えた。
緑とマリンブルーの世界を背景に、俺は語り手となった真姫の言葉に集中しようとする。
「当時の海賊擬き達はありとあらゆる金銀の財宝、王室に飾られる展示物や高値を叩かれる衣装、そして難民や奴隷船から頂戴してきた人間を自分達の奴隷にして、それら全てをこの入り江に隠した」
ありがちな話だろう。
いつの時代かは知らないが、そんな海賊映画に出てくるようなエピソードは現実にだってもちろんありえたはずだ。
さて、問題は次からだった。
「そんな悪党達の悪行に憤慨した地の神は――」
「地の神だ?」
聞き慣れない単語に思わず、話の腰を折ってしまう。
「……つまり陸地――大地の全てを司る神様って事よ」
案の定、真姫は少し不機嫌そうに目を細めた後、説明を付け加えるように言った。
「地の神は、地球が誕生した初っ端から存在している最も付き合いの長い、活火山のマグマを操った」
「マグマ……?」
「えぇ――地の神の力が授けられたマグマは氾濫した河川なんて生半可な程度の勢いじゃ済まされない膨大な破壊力を持って、超濁流の如き陸地を流れ、洞窟内の全ての財宝をその溶岩でもって熔解し尽くした」
つまり、真姫の友達だった女の子とやらは、俺が先程述べたただの自然災害によるものではなく、神という天空が振り翳した鉄槌なのだと言いたい訳だ。
……そう考えると子供の妄想という雰囲気が漂い、急に信憑性が堕落する。
「そして悪党達に頭にきていたのは地の神だけでなく、海の神も同様だった」
真姫はまた、別の神様とやらを登場させてくる。
いや、厳密には真姫の友達であった女の子が、なのだが。
「罪のない奴隷達は分からないけど、洞窟内の全てを焼き尽くした地の神に続いて、海の神は悪党達に直接手を下した。雨や風、雷を分厚い雲の真上から振り翳し、海に巨大な蜷局を巻いた渦を創り出して、全ての悪党達を飲み込んだ……」
……あぁ、なるほど。
実に面白いお伽噺で作り話だ。
そんな世界がありえるのは映画やアニメの世界だけで現実とは異なるという線を俺は心に引いている。
無慈悲だと他人に思われるだろうが、俺も真姫も、今でも子供が信じる夢の世界に浸れる歳でもないのだ。
だが、なぜだろうか。
なぜだか――そんな事を、今の真姫の目の前では口にしてはいけないと……そう本能が必死に訴えかけているような気がするのは。
クスッ、と笑った真姫は神妙な雰囲気を纏わせた口調を切り替え、普段の癖のある話し方に戻す。
「どう? こんな話、美雪なら信じる?」
質問に何かの意図は汲み取れない。
だが曖昧に誤魔化す必要もないと考え、俺はその話から浮き彫りとされる問題点をいくつか挙げた。
「まず一つだが、全てがマグマに熔解し尽くされたこの場所に、どうやッてこンな神話的な景色が生まれた。あと二つめ、これは今の話と関係があるか分からンが、なぜ今までこの場所は表沙汰になッていないのか」
人指し指と中指をピンと立たせて俺は指摘する。
二つめは単なる俺からの質問だが、好奇心がそれを出させた。
考古学者であろうとなかろうと、人はやはり未知なるものや立証不可能と噂される事柄に関しては敏感らしい。
好奇心とは、常に恐ろしい。
「まず一つめの解答」
真姫は俺を真似るように、白く細長い、それまで作曲の為にピアノを弾いていた人指し指から直立に伸ばした。
「結局の所、あの子は答えてくれなかったわ」
「……お前の友達だッた?」
「えぇ。あたしもまったく同じ質問をしたけれど、『その先は自分で想像を膨らませてごらんなさい』って言われたわ」
「……小学生だよなァ。随分と大人びた、生意気な口調だなそいつ」
続いて、真姫は中指を立てる。
「二つめの解答だけど……惜しい気もするけど、この場所がニュースとかで表沙汰になるのはそろそろ時間の問題よ」
「あ? 何で分かる」
「この洞窟内に入る際、あなた見たでしょ? 魔物が口を開けて構えているような大きな入り口」
「あァ……ありゃ確かにでかかッたな」
「あの入り口、あたしが生まれた年代になるまでは絶壁の岩肌で覆われていたのよ」
「…………はァ?」
いよいよ、俺もこの話が馬鹿らしくなってきた。
正直、矛盾している所の話ではない。
「あたしが生まれた歳に大きな津波がきた日があって、その威力によって薄い壁が破壊されて、あの入り口の道が誕生したって話をパパから聞いたわ」
「……おい、それ、お前の友達だッた女の子とやらには話したのか」
「もちろん話したわよ。でもその女の子も、きっとその岩壁も地の神が創造したものだって頑なに言い張っていたわ」
……所詮は子供の肥大妄想。
無知なる人間の戯言だったって訳だ。
何の根拠もない発言は人々を惑わすだけだ。
「随分とまァ、無茶苦茶だな……そのお前の友達だッた少女とやらは」
「今思うとね。当時はあたしも興味をそそられた話だと感じたけど……」
そしてどうやら真姫自身も、そういうものなのだと感じていたらしい。
先程に俺が思った事を口にしても、別に問題はなかったのだろうか。
「まぁ、今のご時世は大荒れだからね。この付近の海域にはたまに中国の漁船が密漁に来てるから、その中国人がここを見つけるかも」
真姫がいきなり現実的な話をしだした。
ふと、辺りを見回してみる。
それこそ神の創造物ではないかと疑う光景の中に遊び呆けるμ'sの面々は余所に、自然豊かに溢れる泉を視界いっぱいに取り込む。
やはり、未だあの既視感は拭えない。
真姫の話を聞いた後だからと言ってそう変わるものではないと理解していたが、どうも心の内で分厚い靄となる部分が気持ち悪く感じた。
「ねぇ美雪」
ふと真姫に呼ばれ、視線を戻す。
背中を楕円の彫刻から離し、すでに彼女は俺と楕円の彫刻を挟む位置でこちらを向いていた。
こっちに来いと。
そういう意図だろう、手招きをしている。
俺は素直に従った。
回り込んで真姫の隣に来ると、何の言葉もなくしゃがみ込んだ彼女に続き、俺も両膝を折り曲げて視線をかなり低くする。
「見て」
俺と同じ高さの視線からさらに真姫は見下ろし、石組みの楕円形の彫刻の最下部――緑色に生えるコケに触れてしまいそうなギリギリの部分を指でなぞった。
「なンか財宝でも埋蔵されてンの?」
「だからそれはマグマで溶かされたのよ」
「お前その説信じてンの? 信じてないの?」
言いながら俺はそこに目をやった。
隣で真姫が言う。
「これね、当時にあたしとその女の子が彫った……この場所に来た記念の印なのよ」
そう言い、指をどかす。
見えた。
楕円の最下底部分。
先が細く尖った鋭利なもので刻んだかのように見える文字。
「結局、あの子は最後まで名前を教えてくれなかったのよ、こっちはちゃんと名乗ったのにね。だから多分、これはあの女の子のイニシャルだと思うのよ」
隣で真姫の声が耳に入る。
確かに、その通りだろう。
削られた痕跡の文字は二つセットの四つのアルファベット。
M・N
歪で変形したような汚い文字だがそう読めるこれは恐らく『真姫・西木野』だろう。
そして、その隣――。
視線をずらした。
A・M
ドクンッ――!!
心臓が、人生で一番の荒波を打った。
エー、エム?
えー、えむ?
これは…………――。
途端。
「ッッッ……――!?」
額から背中にかけて熱湯にも勝るような熱い、大量の汗が噴き出した。
寒いはずなどないのに、喉奥から荒呼吸の息が真っ白に染まり出た。
制限できないように両目が見開かれる。
なぜか全身がおぞましい何かに恐懼するように小刻みに、しかし誤魔化しきれない程にまで震え始めた。
上下の歯がぶつかり合ってガチガチと音を鳴らす。
両手両脚が麻痺するように痙攣して動かせない。
ぐっしょりと汗で濡れた長い髪は海に潜ったかのように尋常でないほどベタ付き、髪先からはポタポタととめどなく汗の雫が垂れ落ちる。
それらが、一瞬。
生きている心地が感じられなくなる。
五臓六腑が悲鳴を上げ、脳がこれ以上は許容できないと神経を全否定し、身体の内部の中心から外部の端という端までの意識を余す所なく手放そうと藻掻き始めた――。
「A……ッ、M……ッッ……???!!」
喉奥から掠れた声が漏れる。
なぜだ……。
なぜだ。
なぜだ?
なぜだ!?
このたった二文字だけのアルファベットを目にしただけで、俺の身体に何の症状が引き起こされた――ッッッ!?
いつの間にか俺は両手と両膝を地面につき、項垂れるように倒れていた。
隣から真姫の声がノイズとなって聞こえる。
異変を察したのか、他の八人の姿が急ぐように近づいて来る。
だが俺自身、外野の事に気遣っている余裕なんてなかった。
頭痛が酷い。
吐き気を催している。
全身が熱い。
心臓が痛い。
自分の心臓が波打つ鼓動で世界の全てが震動している感覚を味わう。
自らの体温で溶岩に熱せられるような錯覚を見る。
もはや自分の声すら聞こえなくなっている。
自分がどんなペースで呼吸を繰り返しているのかがさっぱり分からない。
A・M
あれは何だ。
あの文字に俺は何を感じた。
何かの引き金になったのか。
グニャリ、と。
目の前の世界が歪んだ。
「…………ッッッ!!」
見えた……?
別の世界。
「――ッッ!? ……――ッッッ!?!?」
……あぁそうかなるほど。
なぜ俺はこの入り江に見覚えがあったのか。
なぜ以前に来た事があるような気がしていたのか。
目の前の画面に答えが見えた。
俺は一度、間違いなくこの神秘的な世界の地に足を踏み入れている。
手を引かれる俺が見えた。
随分と幼い頃の俺の姿なのか。
誰かが俺を引っ張っていってくれている。
これは失われたと思われる、俺の記憶の一部分なのだろうか。
いや、きっとそうだろう。
A・M
あの文字は記憶を蘇らせるトリガーだったのか。
少なくとも俺は、その人物を知っている。
名前がAで、苗字はM。
混濁した画面に微かに見える昔の記憶。
俺はこの地で、手を引かれていた。
こっちだよと、案内されていた。
俺の、まだ汚れていない頃の右手を掴むその人物――。
もう少し。
もう少しで見え……。
「――――ッッッ!!!」
見えた……。
黒髪の少女。
後ろ姿。
長い黒髪だけが認識できた。
この少女は……A・Mなのか?
本名は……何て言ったのだろうか?
「……ッ」
ブツンッ、と。
テレビ画面の電源がいきなり切られたかのように、一瞬の真っ白な閃光と共に、黒髪の少女とその景色は真っ暗な闇に切り替わる。
グチュリ――。
「――――ッッッ!?!?!?」
今。
潰れたのは俺の右目か、左目か?
それとも、脳か?
激痛が、何の前触れも警告もなく、襲いかかる――。
「ガァァァアアアアアアアアあああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!?!!!!!!!!!?!!!!!!!!!!!!??!!!?!!!!!!!???!!!!!!!!!」
――――――間違いない。
俺はこの場に、あの黒髪の少女と訪れている。
なら……。
あの黒髪の少女の名前は、何て言ったっけ――?
あの黒髪の少女は、どのような容姿をしていたっけ――?
身体全身が急激に冷えた。
極寒の北極に一糸纏わぬ姿で放り込まれたような、寒さを超越した痛みの冷たさを感じた。
景色の色が戻る。
失われる意識の中、どこかすぐ近くで、それでいて二度と出会えないような別世界の遠さを臭わせる感覚で、あの黒髪の少女が微笑んだような……そんな気がした――。
……さて、皆さんいかがでしたでしょうか?
久々に出てきましたね、黒髪の少女。
そして真姫の手がかりから美雪が発見した『名前がAで苗字がM』というメッセージは今後の大きな手がかりとして活用されるでしょう。
そして同時に黒髪の少女は、西木野真姫とも関わりがあったという事実も自然と浮上してきています。
そこで悩んでいるのが、今後のお話で西木野真姫の過去編として真姫ちゃん(幼女ver)と黒髪の少女の出会いを描こうかどうかという事ですね。
さらに謎が増えただけと感じる人もいれば、物語の鍵の破片を拾えただろうと感想を持ってくれる方もいるでしょう。
次話からもミステリアスな美雪ちゃんと黒髪の少女――またμ'sの面々との関わりも深く書き連ねていこうと思いますので、次話からもよろしくお願いします!!