お久しぶりです、西海です。
最近、世界は自分を中心に回っているんじゃないかと本気で信じ込んでしまっている西海です。もう今の自分なら『ザ・ワールド』も平気で顕現できちゃうんじゃないかって思ってるまであります。時止めてイロイロしたい(混乱)
そして今回はとうとう長かった第五章に終止符を打ちます!
他の章に比べて随分と長く続いてしまった第五章。
いったいコレどこで収拾をつけようかと試行錯誤しました。
ですが何とかいい形で終わらす事ができた……と、思い……ます、――ので皆さん、今回もよろしくお願いします(汗)
目を覚ましてからは、まるでビデオの早送りボタンが機能したかのように時間が早く進む感覚だった。
話を聞けば、俺はあの洞窟から繋がる入り江で気を失ったらしい。
意識を取り戻した頃には、青色一面の空に輝きを主張していた太陽が夕焼けとなって辺りを燃える炎のように真っ赤に照らしていた。
酷く心配されたのを覚えている。
寝起きの自分が何を言ったかは記憶として曖昧なのだが、メンバーも一応の形では納得してくれた答えを持っていたようだった。
手伝えなかった晩飯作りににこに謝罪をしてから、椅子に座って目の前のテーブルに広がる合宿最後の晩餐を眺める。
食事中にメンバーと何かを会話した気もするが、それに未だしつこく俺の身体に気を使ってくる特定のメンバーに大丈夫だと言いながら、気づけば飯を食べ終わっていたような感覚がする。
明日の出発は早いからもう寝ようと、いい時間になってからリビングで絵里がそう言ったのを覚えている。
……眠った心地もまったく感じられないまま朝を迎え、メンバーの面々からおはようと言われながら俺は日課でもあった朝のコーヒーすら飲む事を忘れていた。
疲れが溜まっているのだろうか。
時の流れに呑まれているような感覚に、いつも以上に随分とボーッとしている時が多いような気がする。
「はァ……」
帰りの電車内。
鬱陶しい程に外の天気は晴れ晴れとしているその光景を車窓から眺めながら、俺はあの神秘的だった洞窟があるであろう方向に頬杖をついた顔を向けて溜息を吐いた。
行きと同様、列車のモダンな造りとした内装の座席は対面型となっている。
俺と向かい合うようにして座席にソファ座席に腰掛ける希が、昨夜に引き続きまたそんな質問をしてくるのは目に見えた。
「美雪ちゃん、平気?」
「……あァ」
昨日と同じ答えを口に出す。
だが、自分でも頷くその回答は嘘ではないと言えるのだろうかと思う。
妙に身体が怠く、重く何かがまとわりつく感じ。
気分が悪いという訳ではないのだが、今は何も行動したくない――何事も面倒臭いと感じてしまうような精神的な問題かもしれない。
なら、その原因はなんだ――?
「ほんま? やっぱりこないだ深夜遅くまで作業していたのが応えたんとちがう?」
「少し寝不足気味なのはそうかもしれンが、別に大した問題じゃない。眠くなッたら眠ッちまうから、乗換駅に着いたら起こしてくれ」
「けど、あの時の美雪ちゃん正直な話、尋常やなかった気がするし……」
「……しつけェな。だからそれはもう大丈夫だッて何度も言ッたろ」
同じ事を何度も何度も聞き返してくる人間に苛ついてしまうのは気分の問題ではなく、きっと俺の性分だろう。
そして希の言う『あの時』、というのはやはり、入り江で俺が倒れた時の事を指しているのか。
話を聞けば、俺は気を失う寸前に両手で頭を押さえつけ、両膝を地面に落として天を仰ぐようにしながら、とてつもない悲鳴を発したらしい。
その事については真姫や海未、にこも激しく心配しながら言及してきた訳だが、生憎としてこちらはなぜそうなったのかという理由すら見つけられないでいる。
ただ、心当たりがないという訳ではない。
引き金となった部分がこれではないかとあくまでの予想はできあがっているような気がする。
あの二文字のイニシャル。
黒髪の少女。
一瞬の中で垣間見た幻。
それはただの夢だったのか、もしくは原因不明で失った俺の昔の記憶なのか。
「多分、後者なンじゃねェかなと思ッてはいるンだがなァ」
「……え? 美雪ちゃん、今なんて?」
首を傾げた希に問われた所で、考えるのをやめた。
なんでもないと言いながらこれ以上、思考を回転させる事すら気怠く感じてしまったとげんなりしながらまた息を吐いた。
「かーっ、あんたこんな時まで単語帳とか出してる訳ぇ? よくやってられるわね、そんな意識高い事」
前後席からメンバーの声が重なり聞こえるが、通路を挟んだ隣の座席――そこに座るにこの声に俺は視界を車窓の眺めからそちらに移す。
同じく対面式の座席に、にこと絵里が座っていた。
耳に入ったにこの言葉の意味が理解できたのは、脚を組んで座席に座りながら片手に単語帳を開いている、そして珍しくその両耳に眼鏡の弦をかけている絵里の姿を見てからだった。
「こんな時だからよ。にこ、あなた、隙間時間で行う勉強法を知らないの? 通学路や下校時、学校での休み時間といった少しの時間でだって、英単語の五つや六つ覚える事ができるのよ?」
そう説明する絵里だが、彼女の視線は前方のにこではなく目下の単語帳から離れていなかった。
「ふ~ん。優等生はやる事が違うわね」
「受験生のあるべき姿よ。みんな将来の事を考えて必死に勉強しているわ。単純で一方通行な考え方しか持っていないあなたとは違ってね」
「な、なんですってぇ……?」
無表情のままの絵里のあれは……挑発だろうか。
眉をピクピクとし頬を引き攣らせながら無理矢理な笑顔を生むにこは対抗する為の言葉を選別し始めた様子だった。
「……なンかなァ」
「え?」
俺の誰に言いかけた訳でもない呟きに、希が小さく反応する。
何の抵抗もなく、思考が再び稼働し始めた。
以前からおかしいと思っていた。
言葉ではどこか言い表しにくい違和感が確かにあった。
絢瀬絵里。
俺がμ'sに加入する前。
俺が生徒会長としてしか認識していなかった頃の彼女。
そして彼女が俺をμ'sに勧誘してきた時期。
あの頃の方が、まだ表情が豊かだった気がすると思った。
生徒会長として生徒を指摘したり、問題行動に説教しにくる彼女の怒った表情。
隣のクラスを訪ねてまで俺をμ'sマネージャーとして誘いに来た時に見せた笑顔。
最近の絵里に、それがない。
あったとすれば、ウォーミングアップもせずに遊び呆けていたメンバー達を鋭く睨んで説教をかましていた時の絵里か。
「近頃のあいつ、随分と素ッ気なくないか……?」
今度の俺は、その質問を希に向けた。
副生徒会長という立場から、絵里と最も長く共に高校生活を送ってきたであろう人物に。
そんな彼女。
不可解な一言だった。
「あぁ……、美雪ちゃんは、見てくれているんやね」
どこか、悲しげに見えた。
同時に、どこか嬉しそうに期待する眼差しだった。
「…………なにが」
「いいや、別になーんもないんよ」
ただ、と。
彼女はやや微笑む程度の表情を浮かべる。
「君は、μ'sのマネージャーやろ?」
東條希の言葉は時に理解し難いものがある。
俺の悩みの種を一つ、こいつはまた蒔こうとしているのかもしれない。
これ以上の思索は無理だ。
判断した俺は、再び前後席から聞こえるメンバー達の会話を耳に、車窓から見える景色を眺め始めた。
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「お家に帰るまでが合宿やで。みんな気を付けてな。それじゃ……解散!」
駅の中央改札入り口付近で行われた、希のちょっとした挨拶の後に、メンバー各々はやや疲れ気味の雰囲気を出して帰路についた。
この後にみんなでご飯食べに行こうと言っていた穂乃果だが、みんな疲れているからと絵里に言われ、譲歩した上で幼馴染み二人をクレープ屋に引き摺っていく。
元気があり余っている様子の凛も、疲労の表情を浮かべる幼馴染みの手を引いてラーメン食べに行くとか何とか叫びながら走り去っていった。
「それじゃ、うちはこっちやから」
バイバイと手を振りながら帰路につく希に、俺ははてなと思う。
彼女は途中まで絵里と同じ道のはずだ。
荷物を担いで一人で歩いて行く希を見送りながら、絵里はと言えばその場に立ち尽くして動こうとしなかった。
真姫とにこも同様だった。
二人はいずれも明後日の方向に視線をやりながら、荷物を足下に下ろしたまま一向にその場から動こうとしない。
怪訝に思ったが、何か用事でもあるのだろうと考える。
「ンじゃ、俺も帰るわ」
そう言い、身を翻して帰路につこうとする。
「美雪」
背後から呼び止めるような声がした。
数歩も進まないうちに首だけを振り返さすと、今度は三人が一致するように俺に視線を送っている。
「少し、付き合ってもらえないかしら」
そう代表して言ったのは絵里だった。
随分と分かりにくい、色の読み取れない無表情のままでいる彼女に少し寒気を覚える。
μ'sに入ってからイエスマンになりすぎじゃないか。
そう思ってしまったが、きっとこの場でも拒否権はあるにも関わらず行使できない。
東京の――地元の久しぶりとも言えない、待ち遠しかった空気に帰巣本能が稼働しそうになるのを抑圧し、俺は荷物を肩に担ぎ直して踵を返した。
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四人で俺だけが見慣れた道を歩く。
特に何か会話をしたという訳ではなかったが、別に気まずさはない代わりに、その静寂が余計に気温の猛暑を感じさせた。
俺がこの三人の誘いに乗ったのは、指定された場所が好条件だったからだ。
自宅。
つまり、俺の家。
絵里はきっと見透かしているのか、俺が帰宅時にわざわざ他人の家を出て自宅に向かう事の省略と、一刻も早く家に帰りたいという帰巣本能が強い俺を考慮しての事だろう。
その辺のファミレスでも良かったのだが、今は時間にして午後の二時。
都会のレストランはどこもかしこも混み合っていた。
「今、クーラーつけるわ」
三人を家の中に招き入れ、リビングへと通す。
天井からぶら下がる西洋のランプにも似た形状の明かりを点けると、遠慮もなしににこが荷物を放ってソファに身を沈めた。
「けっこう大きな家ねぇ。ここにいる真姫ちゃんと言い絵里と言い、お家が金持ちの娘がμ'sに多くいて羨ましい限りだわ」
「ちょっとにこ? 絢瀬家がいつお金持ちだって言ったかしら?」
「希から聞いたわよ~? あんた、ロシアに住んでいた頃はお祖母様とやらのお家で随分良い暮らしをしてたそうじゃない?」
「……はぁ、希ったら、口の軽い」
そんな会話を耳にしながらクーラーの電源を入れ、温度調整を二三度に設定する。
対面型のキッチンに入って冷蔵庫から缶コーヒーを取り出し、また流し台の隣に飾られるコップ三人分に氷を入れ、麦茶を注いでいる所に真姫がこちらを見た。
「もしかしてだけど、美雪の家に招待されたのってあたし達が初めて?」
冷却された缶コーヒーと三人分の麦茶を抱えてリビングに戻り、二つのソファに挟まれているテーブルに置くと、三人が口を揃えて「ありがと」とお礼を言う。
真姫と絵里もソファに座らせ、俺は一人立ったまま缶コーヒーのプルタブに指をかけながら口を開く。
「俺が招待したンじゃなくてお前らがウチを指定したンだろ。それに、この家に来た俺の知り合いは別にお前らが初めてじゃねェし」
そう言ってからコーヒーを一口飲むと、三人は目を丸くしたように俺を見上げていた。
「……意外だわ」
「うるせェ」
にこの一言に少しイラッとする。
まぁ確かに気持ちは分からなくもない。
見た目喧嘩っ早い不良男のような女子高生に、自宅を訪れてくれるような友人なんているのかと思うのはまぁ普通だろう。
確かに水浦竜三や統堂英玲奈……それに遺憾だが柊蒼太郎だってカウントしている。
それに。
「前に一度、音ノ木坂の生徒だッて泊めた事もあるしな」
その発言には、両手にコップを持った三人もさすがに「えっ」と短く声を上げた。
「音ノ木坂の生徒って……それ、私達の知り合いじゃないわよね?」
にこが言うが、俺は首を横に振る。
「真姫は学年が違うからなァ。だが絵里とにこは知ッている奴だと思うぞ。つか、にこはそいつの知り合いだッたなァ」
えーっと、あいつ……あの茶髪。
あれ……名前なんて言ったっけな。
そもそも俺、あいつに名前を教えてもらったっけか?
「あァ、思い出した。……確か、夕霧靜霞とか言う奴だな」
その名前を口に出すと、わずかだが絵里とにこに反応が見られた。
いや、にこの方の反応はわりと分かり易いほど大きく見えた。
「あぁ、彼女……。いつも学年トップの成績を叩き出している夕霧さんね。あなた、彼女と交友があったの」
「いや、別に交友ッて訳じゃねェンだがな……。ただあの日、あいつが家の鍵を忘れただかなくしただかして帰れない状況だッて言うから、仕方がなく泊めてやッただけだ」
「へぇ。なら夕霧さんはこの付近の住人なのかしら」
「あァ、この家の隣だ」
「え? ……あ、そうなの」
そういえばあの夕霧……こないだ家に泊まらせてやった時、随分とおかしな事を言っていたような気がする。
「美雪って、特に親しくもない人を家に泊めたりするのね……」
「あ? 何か言ッたか真姫」
「別に、何でもないわよ」
そういえば、と。
俺は思い出す。
「にこ、お前確か夕霧の知り合いだッたよな」
「……あぁ~。前に同じクラスで一緒だったってだけよ。特に深い仲って訳じゃないわ」
確かにそうかもしれないと思った。
前の話だが、一度だけにこと夕霧靜霞が対面している場面に立ち会った事がある。
特に仲良くお喋りをする訳でもなければ、軽度のスキンシップすら交えていなかった。
「……ンで」
そろそろ本題に入ろうと。
まず俺が切り出した。
「お前ら、何か用事があンだろ?」
穂乃果や凛ではない。
よりにもよってこの三人だ。
ただ暇潰しで友人の家にやって来てしまいました~、で終わりではないだろう。
「えぇ。それじゃ、そろそろ始めましょうか」
絵里は、自分が合宿に持っていったエナメルバッグのファスナーを開き、そこから黒光りする大画面が特徴的な超薄型のタブレットを取り出した。
「うげ……それ、最新型の超軽量薄型モデルじゃないのよ」
「それ、あたしも同じの持ってるわ」
「こ、これだから金持ちは……っ」
俺、それ持ってませんけどね。
そして絵里は何やら手慣れた手つきでタブレット画面を指でタップしてはスライドさせていく。
画面を見るなら立ったままじゃやりにくいと言う事で、俺も真姫の隣のスペースが空くソファに腰掛けた。
「これが今の東京都東地区、ラブライブ予選ランキングの順位よ」
画面に明るく映し出されたのは、上から降順に表示される学校名とそのスクールアイドルグループの名前。
どうやら絵里が開いたページというのは、ラブライブ予選順位が更新されるラブライブのホームページらしい。
「あったわ、μ'sの名前」
真姫が指を指す。
俺を含めて三人が彼女の白く細長い指の先に注目した。
「…………三位?」
絵里は、トップランキングが表示されるその画面をスクロールしていない。
神々しく飾られる一位の枠に表示される『A―RISE』の名前から、二つ下に書かれた見慣れた文字。
「正直、私も初めて見た時はかなり驚いたわ」
「ほんと。あたしもにこちゃんがけたたましく報告しに来た時は、まったく信じていなかったもの」
「ちょ、ちょっと真姫ちゃん? それじゃにこがこの順位にうるさい程はしゃいでたみたいになってるにこ?」
「実際にそうだったじゃない。『真姫ちゃん見て! 三位よ! にこ達μ'sが予選三位の枠に入ってるの! とうとうここまで登りつめたのよ!!』なんて子供みたいにはしゃいじゃって……」
「……真姫ちゃん、にこの物真似めちゃくちゃ上手いじゃない」
「なぁっ……!? い、イミワカンナイ!」
にまにまと頬を緩ませるにこと顔を赤くして照れ出す真姫を放って、絵里は俺に視線を向けて口を開いた。
「予想以上のランクアップよ。やっぱり昨日撮影したあの入り江でのPVが大好評みたいでね」
しばらく、俺は答えられなかった。
タブレットの画面の文字や数字から目が離せずにいた。
「……美雪、聞いているの?」
「ン……あ、あァいや、すまん」
若干だが口籠もる。
そんな様子でいる俺に、絵里はクスッと口角を上げた。
「信じられない?」
「いや、信じられないッつゥか……なンだかな。気づいたらあッさりと、一気にここまでμ'sは登ッていたのかと思うとまだ自覚できねェし……随分と急な話だと思ッてな」
「でしょうね。私だって最初は運営側の更新ミスかと思ったけれど、今の時代のコンピュータがそんなミスを犯すはずもないわ」
絵里は、紛う事なく三位という上位にランキングされてあるμ'sの名前を軽くタップする。
すると今までに投稿してきたPV動画一覧の下に、メンバーのプロフィール。
またさらにスライドしていくと、閲覧者達のコメントが記載されていた。
「……なァ、絵里」
「なに?」
「ここに書き込まれてあるコメントを見る限りじゃ、俺達が撮影に取り込んだあの入り江の風景は完全なCGだと思われてンのな」
「そりゃそうでしょうね。実際、その場を訪れてその目で拝見する以外、あんな神秘的な場所が現実に存在するものだとは誰も信じないでしょうし」
「けどま、良いんじゃない?」
にことの一悶着に落ち着きがあったのか、真姫が再びタブレットへと視線を下げて言う。
「PV動画の応募要項にCGの使用は不可、なんて条件はない訳だし、何よりそのコメントでだって背景のCGの完成度が高すぎる、なんてものも書き込まれている訳だからね」
「正直、ここまで現実味の出てるCGを完成させられるだけの能力があれば、その道に進んでいるわね」
にこの言う通りだろう。
それに背景として使用された入り江の映像がCG駆使によるものだと完全に認識されようと、高校生如きにそこまでの知恵と技術がある生徒が音ノ木坂には存在する、という事になれば、それだけで学校のアピールにも繋がるだろう。
「さて、ひとまずはこれで……」
絵里はそう言いつつタブレット画面を一つブラウザバックさせ、様々なスクールアイドルグループの名前が表記された順位表のページに移す。
「というか、このまま順位が落ちなければ一ヶ月後に開催される地区最終予選にμ'sは出場できる訳だけど」
上位三チームだけが獲得できる最終予選枠。
いつかの朝練の日に、花陽が教えてくれた。
最終予選では上位三校、今までの順位関係なく一組ずつのパフォーマンスを披露し、その場での得点だけで本戦へ進める一校を選抜するのだと。
「正直な所、このまま三位をキープするのも難しいと思うのよ」
絵里の意見に、俺達三人は思わず頷いた。
確かに今の順位を守り通せれば最終予選に出場できるだろう。
しかし残り一ヶ月という期間の間に、μ'sの順位が陥落しないという保証はどこにもない。
「そこでせめて二位には入りたい……と私は思ったのだけれど――どうも現実は厳しいらしくてね」
そう言われ、俺はタブレットを再び覗き込む。
にこと真姫はすでにそれを目に通しているのか、俺と同じ動作をとろうとはしなかった。
「……あァ、なァるほど」
一目で納得してしまう。
これ以上に順位を上げるのは相当な難儀だと即座に理解してしまった。
一位――A―RISE
二位――Sexy・Charm
「確かに、この二組を出し抜くのは至難の業だろうなァ」
東京を代表する程の人気を司るこの二組のスクールアイドルグループ。
A―RISEは堂々たる不動の一位に君臨する。
一二人という大勢のメンバーで活動するSexy・Charmも、気づかぬ間にここまでの境地に昇り立っていた。
「弱音は駄目よ」
ピシャリと。
にこが言い切る。
「いくらA―RISEとSexy・Charmのパフォーマンスが凄まじいからって、にこ達μ'sも今や同じ舞台に立っているのよ。その距離は目に見える程に……いいえ、あと少しで手が届くって所まで来れたの」
賛同するように真姫も吊り上がる魏紫の瞳をギラリと構え、力強く頷く。
「そうね。今のあたし達μ'sに、A―RISEの事をただ憧れの的として羨望の目を向ける必要はないわ」
すると、絵里も便乗した。
「まぁ、確かにそうよね。今の私達の実力なら、彼女達を追い越せるかもしれないわ」
「……まぁ、絵里ちゃんはA―RISEに対して『素人にしか見えないチカ』とか言っちゃうんだもんね~」
「マジで? 凄ェな」
「な、なんでにこがそれを――っ、また希ね……っ!!」
人に聞かれて嫌な事なら、最初からそんな発言しなければいいじゃねぇか。
「だいたい私は『チカ』なんて言ってないわ!」
「いえ、エリー。あなた、結構言ってるわよそれ」
「チカァ!? ほ、ほんとに……?」
本人はきっと無意識なんだ。
そっとしておいてやれ。
「……ゴホン」
非常にわざとらしい咳払いに、三人は話すのをやめて俺に注目を集める。
「ンで、こッから繋がる用件ッて何だ。今のμ'sの現状をタブレット越しに伝えたかッただけじゃねェンだろ?」
予想していたのか、その質問を。
そう思えるぐらい、にこからの返答は早かった。
「今言ったように、私達μ'sはさらに上位に上がって完全な安全圏を手にしたいの」
「あァ」
そこからは真姫が引き継いだ。
「けどやっぱり、あたし達があの上位二チームを上回るには路線に沿っただけの方法じゃ駄目だと思うの」
「だろうな」
だから、と。
締め括るように絵里が立ち上がる。
「現在に取り組んでいる三人組ユニットとはまた別に、何か奇抜な――他のスクールアイドルグループが真似もしないようなアイディアを私達で生み出したいのよ」
言うのは簡単だと思った。
実行するとなれば話は別物。
さて、今年の夏休みは今までの中で最も忙しくなる。
そしてここまで予想を遥かに上回る程の好調を見せるμ'sに、何かこの先とてつもなく大きな落とし穴が待ち構えていてもおかしくはない、と。
俺は静かにそう覚悟した。
はい、これにて第五章は終幕です!
みなさん、いかがでしたでしょうか?
次話からは第六章!
そしてここで告白してしまいますが、次話の更新がもの凄く遅れてしまう恐れがあります……。
ですが、是非とも読者様方には待っていて欲しいと願います!
溜まりに溜まったエピソードのストックを第六章~エピローグまでどんどんぶち込んでいく予定ですので、皆様これからも西海の作品をよろしくお願いします!
それでは、アデュー!!