笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

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 先に謝らなければいけません……。

 今回の投稿は前回までの作品よりかなり内容が短くなっており、すぐに読み終えてしまう事が予想されます。

 いや本当にごめんんさい! こちらの都合上で誠に申し訳ありません!


 それでも構わないよという方は、どうぞお願いします!




5話 西木野真姫のプライド

 

 

 

 放課後。

 

 カーテンは閉めてあるが、わずかに開いている隙間から午後の陽射しが差し込む音楽室。

 

 西木野真姫は一人、ピアノを目の前に佇んでいた。

 

 しかし決して平常心ではない。

 

 彼女は焦っていた。

 また、後悔していた。

 自分の軽率な言動に。

 

(あぁ……あぁもう! あたしの馬鹿馬鹿! まさかこんな失態をやらかすなんて! うぅ……もう、あんな事言わなきゃ良かった……)

 

 葛藤するように頭を抱えてブンブンと大仰に振り、悶える様子の彼女の心臓の鼓動はいつもより遥かに速く打たれている。

 

(あぁ、いよいよもう放課後よ……そろそろ来るわ、あの人が。前に一度会った時は顔をジロジロ見ちゃったし、絶対変な女だって思われてるわよ! もう! 何であたしがこんな目に!?)

 

 まぁ、それもこれも全て彼女が招いた薄倖な運命なのだが……。

 

 それでは少し、

 本日の午前中。

 三時間目の授業が終わったあたりの時間帯まで遡ってみよう。

 

 西木野真姫がやらかした、とある失態をご覧になる為にも――。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「やっぱり引き受けてくれる人なんかいないにゃ~」

「し、しょうがないよ凛ちゃん……みんなまだ入学したばっかりの一年生なんだから……」

 

 西木野真姫の席に集まった星空凛と小泉花陽が肩を落としているのには訳があった。

 

 μ'sのマネージャーとなる存在。

 彼女ら二人はそれを追い求め、一クラスしかない一年生全員に声をかけて回ってはみたが、クラスメートの誰一人として受け入れてくれる者はいなかった。

 

 勉強したい。

 部活に精を出したい。

 

 そう意見する人がほとんどだが、廃校の話が持ちかけられている音ノ木坂学園でその言い分はどうもパッとしない。

 きっとほとんどの者が「面倒臭そうだし関わりたくない」やら「どうせ私が入った所で……」などといった感情を内面に少なからずとも抱いているだろう。

 

 だが、星空凛も小泉花陽も基本的には性根からピュアガールだ。そんな思いに気づける二人ではない。

 

「な~んでみんな嫌がるのかにゃ~。運動部のマネージャーはやれるのに、どうしてμ'sのマネージャーはできないの?」

「きっとみんな、忙しいんだよ」

 

 ふて腐れるように机に顎を乗せる星空凛をなだめるように言う小泉花陽。

 二人を見て、唯一席に座っている西木野真姫がくせっ毛の赤毛を弄くりながら口を開いた。

 

「三年生も受験間近で期待できそうもないし、やっぱり穂乃果達にかけるしかないのかもね……」

 

 机の下で上品に脚を組む彼女の顔を見て、ふと、星空凛は小首を傾げて思った事を言ってみた。

 

「ところで真姫ちゃん、今まで何してたにゃ?」

「………………………………何の事かしらね?」

 

 とぼけてみたが、西木野真姫は内心、ギックゥ!! としていた。

 

 ――やばい、勘付かれたかも。

 

 そう感じた西木野真姫に、星空凛の言葉は容赦なく続く。

 

「真姫ちゃんが勧誘してるところ、そういえば一度も見てないにゃ」

 

 ギクギクゥッ!! と。

 西木野真姫は両肩を跳ねさせた。

 

 その反応を見て何かを確信した星空凛は、ニマ~っと意地が悪そうに口元に笑みを浮かべ、ズイッと上体を起こした。

 

「あれ? 真姫ちゃんどうしてにゃ? 何で誰にも声をかけなかったにゃ? おかしいにゃ? これはどういう事にゃ? にゃ?」

「り、凛ちゃん……」

 

 いたずらに責める星空凛から西木野真姫が必死に顔を背けようとしているのを見て、小泉花陽が焦ったように制止の声をかける。

 

「だ、駄目だよ凛ちゃん……! きっと真姫ちゃんはわたし達が色んな人に声をかけていったから、話せるチャンスがなかっただけなんだよ」

 

 主に声をかけていたのは星空凛の方で、彼女の説明に補足が必要だった所を小泉花陽が担当する役回りだったが。

 

 それに、西木野真姫は便乗する。

 

「そ、そうよ。あなた達が早いペースで勧誘に回ってたから、自動的にわたしの出番が減っちゃって――」

 

 突如。

 招き猫のようなポーズを構えた星空凛が「シャーッ!」と鳴いた。

 

「ひっ!?」

「真姫ちゃん、誤魔化すのは駄目にゃ。きっと真姫ちゃんの事だから初対面の人に恥ずかしくて、話しかけられなかったという事を凛もかよちんも了承済みにゃ」

「う……」

 

 その言葉は適確に的を射ていた。

 西木野真姫はプライドが高い反面、その性格はどこか素直になれない所と、恥ずかしがり屋な面もある。

 

 故に星空凛や高坂穂乃果のように、誰彼構わず声をかけるなんて事はできないし、勧誘という仕事にはとことん不向きなのだ。

 

「だ、大丈夫だよ真姫ちゃん! わたしも結構恥ずかしがりだし……それをこれから一緒に克服していこうよ!」

 

 もう庇う事は不可能と悟った小泉花陽の慰めは、今の西木野真姫に取っては痛快なものだった。

 

 星空凛。彼女は彼女でまた一つ、西木野真姫に勝っている点を見つけて嬉々としているのか、あからさまに上機嫌である。普段より語尾に「にゃ」が付いている事が多い。

 

「まぁまぁ大丈夫だにゃ~真姫ちゃん! きっとμ'sでアイドルを続けていくうちに羞恥心は克服できるにゃ! 凛だってまだ可愛い衣装を着て踊るのは恥ずかしいけど、めげずに頑張っていくつもりにゃ!」

 

 星空凛としては、これは慰めの言葉だった。

 

 だが――プライド高き西木野真姫は、それを自らへの挑戦と受け取る。

 

「――わよ」

「え? 何か言ったにゃ真姫ちゃん?」

「できるわよ……」

 

 低く圧し殺した声に星空凛と小泉花陽は、とうとう怒らせてしまったかと一歩後ずさる。

 

 ガタンッ! と。

 勢い良く席を立ち上がった西木野真姫は廊下にまで響く程の大声で宣言する。

 

「勧誘くらいできるわよっっっ!!」

 

 また、その声に隆盛が溢れる。

 

「えぇいいわ! やってやろうじゃない!! あなた達覚えているかしら? 部室で名前が挙がっていた三年の夜伽ノ美雪! 彼女を勧誘して、見事μ'sのマネージャーに引き入れてやるわよ!! 見てなさいよ! この真姫ちゃんに喧嘩売った事、後悔させてあげるんだからぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 自分の声の余韻が残っている間に彼女は走って教室を出た。廊下を疾走し、トイレに駆け込む。一つの個室に入るとスマホを起動させ、ラインのグループから一つのアカウントをタップし、通話をかける。

 

 スマホを耳元に当て、西木野真姫はヤケになって叫んだ。

 

「もしもし希!? 放課後、夜伽ノ美雪って人を音楽室に連れて来て!! この真姫ちゃんがμ'sのマネージャーへ彼女を説得させてやるんだから!!」

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 して、現在に至る。

 西木野真姫は音楽室内をうろうろと右往左往しながら忙しなく動き回り、その額には若干の汗が滲んでいた。

 

「もう少しで来るわよね……あぁどうしよう、ほんと、何て言えば……」

 

 夜伽ノ美雪。

 

 部室でその名前を耳にした時は少し面白い名前だなと思った。だが高坂穂乃果が口にしていた彼女の特徴を聞いて、西木野真姫はピンと来た。

 

 長い銀髪に赤い瞳。

 

 間違いない、この間、渡り廊下の自動販売機でぶつかったあの人だ。

 あんな目立つ外見をした人間が同じ学校に二人といるはずがない、と。

 

 また西木野真姫は。

 渡り廊下の自動販売機で夜伽ノ美雪と鉢合わせた時、思わず彼女の顔をジロジロと瞳で覗ってしまった。きっと相手もその視線に気づいているだろう。

 

 だがあの時、西木野真姫は思った。

 

 ――かっこいい。

 

 どこかの怖面のイケメンが女子校に侵入してきたのかと思ったが、彼女はこの学園の生徒だったのか。

 

 μ'sのイケメンキャラ担当。

 なるほど、言われてみれば納得できる。

 

 女の子であの容姿はそうそう出来上がらないだろう。高坂穂乃果が強く彼女を推しているのにも、西木野真姫は頷けた。

 

 だが、その人物の勧誘担当が自分となれば話は変わってくる。

 

 西木野真姫でも、怖いものは怖い。

 

 いくらイケメン顔をしているといっても、その目つきから与えられる印象は恐怖。

 そこらのヤンキーの中に混じっていそうなあの顔は、西木野真姫だけでなくとも、畏怖する対象として見られる事は多いだろう。

 

 壁にかけられた時計の針の進みが遅い。もう一時間はこの部屋に立っていると感じながらも、実際には十五分も経過していない。

 

 そこで、西木野真姫はある妙案を思いつく。

 

「……帰っちゃおうかしら」

 

 そう思うと、もうそれしか考えられなくなるのが人間の性だ。

 必死に受験勉強をしていた生徒が「残りは明日でいいや」と思うと同時、急激にやる気が激減する現象と似たようなものである。

 

「ははは……そうよ、帰っちゃえばいいんだわ。明日の朝練での言い訳は……そうね、いくら待っても来なかったっていうのが妥当よね、うん。そうと決まれば早速帰りましょう。さっきから緊張で胃が痛くってたまらないわ」

 

 床に置いた鞄を肩に持ち、ブレザーのボタンを締め直すと彼女はそそくさと扉の方に歩いて行った。

 

 いざ廊下に出ようと扉に手をかけると、力を込めた訳でもないのに、自動的にそれが横にスライドされる。

 

「あ」

「あ?」

 

 西木野真姫。

 彼女は思わず自分の両親の顔を思い出した。

 

 だが目の前には、身長差がやや感じられる視線が自分を見下ろしている。

 長い銀髪からちらと覗く赤い瞳は、幼い頃、ベッドの上でよく母親に読んでもらった絵本に登場する悪魔を連想させた。

 

 息が詰まる。

 言葉が出ない。

 ばっっっちりと重なってしまった視線を外す事さえままならないこの状況。

 

 西木野真姫は直感した。

 

(あぁ――あたし、医者になる前に死ぬわ)

 

 心の中で両親に向けて謝罪の言葉を並べていると、目の前の上下ジャージ姿の女子生徒が不意に言った。

 

「誰か待ッてる訳?」

「ヴェッ!?」

 

 しまった、と西木野真姫は思う。

 ――向こうから話しかけてくるとは予想外で、思わず変な声が出てしまった――あぁ、相手も変な顔を浮かべている。

 

 だが、気まずい空間で相手から話しかけられると、人間は幾分、気が楽になる。

 

 西木野真姫は相手に悟られないように息を落ち着かせ、

 

 意外と至近距離に立つ夜伽ノ美雪にこう言った。

 

「い、いえ……別に」

 

  ーーーーーーーーーーーー

 

 クソったれ、面倒な所で会ったな。

 俺はそう思った。

 

 仕方がないから東條の指示通り、放課後に音楽室まで来てみたわ良いものの……。

 

 まさかここで西木野総合病院の一人娘に出くわすとは……。

 どうもこいつの顔を見ると、嫌でもあの病院の事を思い出しちまう。前に渡り廊下で会った時も、そうだった。

 

 だが訊いてみると、こいつは誰かと待ち合わせをしている訳じゃないようだ。

 

 なら、こいつは音楽室に一人でいて、何をしてたんだ?

 

 考えながらも俺が身体をよけると、西木野(あの病院を経営する奴の娘なんだから、性は西木野だと分かっている)はゆっくりと廊下へ出た。

 

「……ンじゃ」

 

 一応、じゃあなという意味で言葉を残し、俺は音楽室へ入り、

 

 扉を閉めた。

 

「ッておい……誰もいねェじゃねェか」

 

 がらんとした音楽室には黒いピアノが一台だけ置いてある。

 だがそれだけだ。

 

 俺をここに呼び出した東條の姿もなければ、矢澤にこの顔も見当たらない。可能性としてはありえなくもない絢瀬絵里もこの教室にはいないようだ。

 

 なら、なぜ俺はここに呼び出された?

 あの後、東條希は行けば人がいると言っていた。

 誰が、俺を待っていたんだ――?

 

 そして。

 

 その可能性に俺が気づいたと同時。

 背後で扉が開いた音がした。

 

 見ると、今さっき出て行ったはずの西木野が、視線を下げながら再び教室に入って来ていた。

 

「違うわ……駄目よ……ここで引いたら、また凛にからかわれるじゃない……」

 

 ぶつぶつ何かを呪文のように呟きながら、彼女は扉を閉める。

 

 ……おい、まさか――。

 

 西木野は依然と顎をかなり引いたまま、早歩きで音楽室の隅へと向かい、そこに鞄を叩き付けるように置く。

 すると踵を返し、今度は一段上がってピアノの隣に立ち、ようやく顔を上げた。

 

 間違いなく、俺を見ている。

 

「取り敢えず、じ、自己紹介……しておくわ」

 

 腕を組み、片足に体重を乗せるように身体の軸を傾けさせた体勢で彼女は言った。

 

「えっと……一年の、西木野真姫よ」

 

 いきなりそう言われても俺は困惑するだけなのだが、取り敢えず見習って鞄を肩から下ろし、同じように教室の隅に置かれるように投げ捨てた。

 西木野が「ひっ」と詰まらせた声を上げたが、敢えてそれはスルーする。

 

「三年の夜伽ノだ」

 

 相手が名乗ったのならこっちも名乗る。俺はその常識に乗っ取っただけである。

 

 彼女はまるで次の言葉を脳内で必死に練り上げるように「あー、えーっと」などと唸っている。

 

 やがて――

 

「みゅ……μ'sの作曲担当! 西木野真姫よ! この学校のスクールアイドルをしているの!」

 

 そう、胸を張って宣言した。

 

 つまり、俺の感じた可能性とやらは見事に的中していたらしい。

 

「あァ、なるほど。つまりお前が東條の言ッてた、音楽室で俺を待ッてた奴なのか」

「そ、そうよ!」

 

 ……なぜこいつはいちいち喧嘩腰の口調なのか。

 

「……ンで、何か用な訳?」

 

 早く帰りたいという気持ちが表れ、俺は自然的に後頭部を掻きながら気怠そうに尋ねた。

 

 だが返ってきた返事は予想外なもので、

 

「やっぱり、買っておいてよかったわね……」

 

 小さく呟かれたような声だが、確かにそう聞こえた。

 

 西木野真姫は制服のスカートに付けられているポケットからあるものを取り出す。

 

 何だアレ……栄養ドリンクか何かか?

 

 彼女は右手で蓋を開けると、小瓶に入った栄養ドリンクらしきものを一気に、休息なしで喉に流し込んだ。

 

 ゴクッ、ゴクッ、と液体を飲み干す音が伝わってくる。

「プッハ」と、可愛らしく息を吐いた彼女の手には空のビン。どうやら本当に一気飲みしたらしい。

 

 大きく、深く、数回。

 西木野真姫は深呼吸をする。

 

 そしてようやく、俺と顔を合わせた。

 

 先程までの余裕のない、周章するような顔色ではなく。

 

 そこには気の引き締まったような、落ち着きのある表情が見えた――――。

 

 




 
 やっぱり短くなってます……。

 ほんとゴメンなさい!
 それでも最後まで読んでいただきありがとうございました!!

 あまり満足してくれた方はいないと思いますが、感想をお待ちしてます! どうかお願いします!
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