笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

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 今日です! 
 今日、とある大学のAO入試を受けてきました!

 手応えはあるんですけど、どうですかね~……。
 去年のデータで倍率が10倍以上でしたから……(汗)

 
 まぁ、僕のお話はいいですね。


 このお話を投稿した後、すぐに、溜まってしまった他の作者様方の作品を大急ぎで読ませていただきたいと思います!


 ※要注意事項

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     ←凛ちゃんファンは、この間は閲覧注意。飛ばすのも可。

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63話 癒えない傷

 

 

 

 結局、俺の身柄は警察に突き出されるといった事はなく、警備員からによる小さな指導と警告だけで、難を逃れた。

 

 そりゃ、ショッピングモールの四階から飛び降り、一階の男の脳天を蹴り飛ばしたのだ。

 

 一歩間違えば……いや、常識的に考えて命に関わる事件となったはずだろう。

 そうなっていれば、俺は本当に刑務所行きだったかもしれない。

 

「はあっ!? 四階から飛び降りて人の頭を踏んづけたぁ!?」

 

 齟齬はあるようだが、その事実ににこが驚愕して大声を出す。

 隣で花陽も、驚きを通り越して呆然となっていた。

 

 ショッピングモールを出た所に開かれてある、広いガーデン仕様の広場。

 飲み物や一切れのケーキを購入し、俺達はそこのテラスの席に座っていた。

 無論、俺はブラックコーヒーだけだが。

 

「んで結局、凛は帰っちゃった訳ね」

「あァ。まさか帰ッちまうほど嫌がッていたとは思わなかッたしなァ」

 

 俺は、例の服屋で起きた一連の流れを一通り、二人に話した。

 

 凛がお洒落な服を欲しがるように見ていたこと。

 あまりに渋っているので、俺が強制的に更衣室に送り込んだこと。

 気づいたら、いなくなっていたこと。

 

 優木あんじゅというイレギュラーの存在は、この二人には話さなかった。

 にこと花陽。

 トップスクールアイドルである彼女に会ったなどと口を滑らせれば、我を見失ったかのように興奮して探しにいく構図が脳裏に浮かんだからだ。

 

「凛ちゃん、やっぱりまだ、気にしてるんだ……」

「……?」

「なに? どういう事よ、花陽?」

 

 ボソッ、と呟く花陽に、俺と凛は彼女を見る。

 プラスチックのカップを伝う水滴を指でつつきながら、花陽はバツの悪そうな表情で俯き、やがて話し出す。

 

「スクールアイドルに入って、μ'sのみんなと出会って、もう大丈夫なんだなって思ってたけど……」

 

 太陽が分厚い雲で覆われたようだ。

 目の前の陽射しの明かりがなくなり、全体的に薄暗い、灰色に包まれる。

 

「凛ちゃんはね、小学校の頃に、街の女子サッカーのチームに入ってたの」

「え、まじ……? 凛がサッカー?」

「あァ、それであいつ、昔から運動が得意だッて言ッてたのか」

 

 だが、それは俺もにこも初耳だ。

 そこに今回の件と、何の関連性があるのか。

 

「凛ちゃんは、チームの中でも特に才能があって、上手で、上級生が羨ましがるぐらいの実力を持ってたの。試合には毎回出て、いつもゴールを決めてた」

 

 サッカー選手の基本は脚力。

 足が遅くては話にならない。

 

 凛が体力に自信があり、足も速いと自慢できていたのは、中学での陸上部でなく、その前のサッカーで積み重ねた努力からくるものだったのかもしれない。

 

「その頃の凛ちゃんは、男の子にも引けをとらない程の実力があった。だから、男の子達が学校のお昼休みとかにやるドッヂボールとか、サッカーとかに、いつも参加してたの」

「あ~、確かに。凛なら積極的にそういうのに混ざっていきそうよねぇ」

 

 感心したように、にこが言う。

 俺もそれには同意見だった。

 

 悪そうな話ではないのだが、相変わらず、花陽の表情は晴れずにいる。

 太陽の隠れた空模様からできあがる灰色の背景に、どこか雰囲気が現れていた。

 

「あの頃から、凛ちゃんは誰とでも仲良くしてたの。男の子にも女の子にも人気だった。でも、お昼休みとか放課後に遊ぶってなったら、決まって相手はわたしか、男の子だった。女の子が好きそうな物作りとか、お遊戯じゃなくて、男の子と活発な遊びをする方が明らかに多かったの」

 

 ……なんとなく、だが。

 話が見えてきた。

 

「サッカーの邪魔になるからって言って髪を短くしたり、動き回るのに不便だからってスカートじゃなくて、ズボンを履いてたの。もう、その頃から凛ちゃんは、自分は男の子と遊んでる方が合ってるんだ、って言ってた」

「それじゃあ、なに……? 美雪が言ってた、凛が女の子らしい格好をする事を拒んでいるってのは、今でもその思いがあるからってこと?」

「馬鹿かお前は」

 

 頬杖をつき、俺はピシャリと言う。

 

「物欲しそうな目をしてたッて言ッたろ。ありゃ、明らかに女らしい服に興味を持ッてた様子だッた」

 

 つまり。

 

「何か他に原因があるンだろ? 凛が『そういうの』を着ようとしない……いや違うな、着れなくなッた、理由が――」

 

 花陽は、重々しく頷いた。

 

 

 

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『凛ちゃんって、女の子らしくないよねぇ』

 

 小学四年生の頃。

 ある日、放課後の教室。

 

 一人の女子のクラスメイトの言葉に、一瞬だが、子供の星空凛は言葉を失った。

 

 すぐにそれを、笑って誤魔化す。

 何だろう、自分をからかっているのかな。

 そんな程度しか考えていなかった。

 

 しかし、言葉は伝染する。

 

『確かに。髪も短いし』

『いっつもズボン履いてるし』

『男の子としか遊ばないもんねー』

 

 その女の子達に、悪意なんてものはなかっただろう。

 

 ただ自分の思った事を、純粋に口にしただけ。

 小学生では精々それくらいなのだ。

 

「え? そ、そうかな……」

 

 しかし、星空凛からすれば、それは思ってもみなかった棘。

 

 自分の事は女の子だと理解しているし、髪が短い事も、ズボンを履く事も、男の子と遊ぶ事も悪い事ではないんじゃないか、という思考が働く。

 

「凛は、かよちんとも遊ぶし……」

 

 自分には、特に仲の良い幼馴染みがいる。 

 小泉花陽。

 彼女はいつも、自分の隣にいた。

 

『花陽ちゃんは、女の子らしいよねぇ』

『だよねー。あんまり話した事ないけど』

『よくスカート穿いてくるし』

『たまに笑うところ見ると、可愛いよねー』

 

 知らなかった。

 

 ずっと一緒、ずっと同じ。

 そう思っていた小泉花陽と自分は、他人から見るとそうも違ったのか。

 自分と彼女には、それ程の差があったのか。

 

 星空凛は、なんとなく、嫌な気分になった。

 

『あ、凛ちゃん。今日はスカートなんだね』

 

 翌朝、いつもの集合場所に現れた星空凛は、スカートを履いていた。

 ピンク色で、花柄模様が描かれている、可愛らしいものだった。

 

「えへへ……何だが変な感じがする。これ、似合うかな?」

『すごく似合うよ! 凛ちゃん、とっても可愛い!』

 

 いつもより元気な声。

 幼馴染みの笑顔に、星空凛は励まされた。

 

 これで大丈夫。

 自分はこれで、もう立派な女の子。

 何より、最愛の幼馴染みと一緒なのだ。

 

『うわー! 星空の奴、スカートなんて穿いてるー!』

 

 教室に着いた途端、クラスは大騒ぎだった。

 

 星空凛は、いわばクラスの中心人物。

 個性的な性格で、活発な言動はクラスの全員から人気を集め、また、最も注目を浴びていた。

 

 彼らの中には、星空凛はスカートなんて穿かない、という決定事項が成立している。

 

 その枠を見事に破ってきた星空凛に、彼らはさらに注目し、悪意の混じった言葉を向けた。

 

『お前は女じゃないんだから、スカート穿いてたらおかしいだろ!』

『星空に可愛い服なんて似合わねぇよ!』

『なんか髪伸ばしてないか? お前は男なんだから、短くしろよ!』

 

 目の前の光景が信じられなかった。

 

 友達だと思っていた大勢が、自分に鋭い棘を差し向けてくる。

 その先端は心の中心部に深く突き刺さり、星空凛は、いつもならありえない涙を浮かべた。

 

『星空は男だろ!』

 

 違う。

 自分は女の子だ。

 

『お前は可愛くないんだから!』

 

 なんで。

 自分はそんなに不細工な顔だったのか。

 

 極めつけはこの後だった。

 何年も先へと残される傷跡を、星空凛は、この時に、負った。

 

『星空は男だかんな! みんなで髪引っ張って抜いてあげようぜ!』

『あっ、いいじゃん!』

『引っ張れー!』

 

『スカートも脱がせようぜー!』

『みんなでやれー!』

『スカートなんてお前には必要ないだろ!』

 

 泣き叫んだ。

 大勢の手に抵抗できないまま、容赦のない痛みと激しい羞恥は、永遠に続くようだった。

 

「やめっ……やめて、……やめてよ……」

 

 お前は男だ。

 スカートは似合わない。

 髪を伸ばしても無駄だろう。

 

 だって、お前は……。

 

 可愛い女の子なんかじゃ、ないのだから――。

 

 

「やめてぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっっっ!!!!」

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「わたしはその時、何もできなかったの。クラスメイトのみんなが怖くて、いつも笑顔の凛ちゃんが泣いてるっ事が怖くて……、ずっと、立ちっぱなしでいたの」

 

 俺も、にこも。

 どんな言葉を言えばいいのか、分からなくなっていた。

 

 

 

 甘かった。

 

 

 

 俺はただ、凛が恥ずかしがっているだけなのだと思っていた。

 

 ただ、男らしい服装を着慣れていて。

 女らしい格好に慣れてなくて。

 

 その挑戦に、少しの戸惑いや気恥ずかしさが薄い壁になっているだけなのだと、単純に考えていた。

 

 予想以上に、深い。

 星空凛という少女の心に刻まれた傷跡は、未だ癒えず、当時のまま残っているのかもしれない。

 

「ねぇ、花陽」

 

 ふと、にこが言う。

 話を聞いている時は険しい表情だったが、今の彼女は、キャラ作りも何もしていない、通常の真顔に戻っている。

 

「凛って、よく語尾に『にゃー』って猫語を付けてるけど……あれって、いつからだったか覚えてるかしら?」

 

 にこの質問に、花陽は少し考える様子を見せる。

 

「確か……、わたし達が中学に上がってからかも。でも、語尾に『にゃ』を付けて話すのは決まってわたしの前だけ。他のクラスメイト相手には、絶対に言わなかった」

 

 だからね、と。

 花陽は続ける。

 

「μ'sのみんなに対して『にゃ』を付けて話す凛ちゃんに、もうあの時の傷はなくなったのかなって思ってたんだけど……」

 

 肩を落とす花陽。

 友達思いで、特に幼馴染みの凛に肩入れする彼女に、昔の話をさせたのは少し酷だったろうか。

 

 

 基本的に。

 

 

 星空凛は、元気な女の子だ。

 

 誰にでも積極的に接する。

 やりたい事は何でもやる。

 とにかく身体を動かし、それと同時に声も出せる器用な奴。

 

 そして、可愛い女の子だ。

 そんな事、口にはしてやらないが、素直にそう認められる。

 

『今日も練習、いっくにゃー!!』

 

 いつかの彼女の掛け声が頭で再生される。

 あの笑顔は、きっと誰のものより輝いている。

 

 言っちゃ悪いが、矢澤にこのようなキャラ作りの笑顔ではない。

 高坂穂乃果にも同じ事が言えるが、星空凛のあの笑顔は、ただ己が表に出た、純粋で綺麗な心の現れだろう。

 

「なら――」

 

 そこで、一つの疑問が浮上してくる。

 

 俺の呟きに、花陽とにこの視線が向けられた。

 

 星空凛。

 過去に残酷な思いを経験し、自分の女の子の部分を拒むようになった彼女は――。

 

「凛はどうして、スクールアイドルになる事を決められたンだろうな」

 

 

 







 胃薬服用不可避。

 

 さて、ようやく入試も一段落(?)ついたので、これから皆さんの作品を読ませていただきたいと思います!

 こんなにハーメルンのサイトを開かなかったのは、マジで久しぶり(^^;


 それでは、次話もよろしくお願いします!!


 
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