笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

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 凛ちゃん編、頑張るぞい。





64話 会議

 

 

 

『凛ちゃん、平気?』

 

『急にどうしたの、かよちん?』

 

『昨日、いきなり凛ちゃんが帰っちゃったって美雪ちゃんに聞いて――』

 

『――あぁ、平気だよ。ちょっと急用を思い出しちゃってさ』

 

『……そうなんだ』

 

『うん……』

 

『――っ、あ、あのさ凛ちゃん、今度……』

 

『あ、ごめんかよちん……。凛、もう電話切らなくちゃ……』

 

『あ、……そ、そうなんだ』

 

『うん……。それじゃぁね?』

 

『うん。また、学校で――』

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 夏休みも中盤。

 その日は、一日練習は休みだった。

 

「へぇ、花陽もけっこうコレクターじゃない。まっ、例えばフィラリーズグッズのコレクションA,Bコースを全制覇してるにこには劣るけどね」

「えぇえ!? にこちゃん、あの激レアコースのグッズアルバムまで制覇しちゃったのぉ!?」

 

 俺の視界の中に、得意気に胸を張るにこと、目を丸くさせて驚く花陽の二人が映る。

 

 見渡せば、薄ピンクの壁紙の八割を隠す程の数があるショーケースの中に、本やらDVDやら、見慣れないグッズなどが数多と置いてあるのが見える。

 桃色のシーツと花柄の毛布が被されているベッドの上には、可愛らしい(俺の趣味とは合わない)ぬいぐるみやらが置かれている。

 

 場所は、小泉花陽の部屋。

 そこに、俺とにこが招待されていた。

 

「盛り上がッてるところ申し訳ないンですけどねェ、……今日は遊ぶために集まッた訳じゃないというのをご存知ですかお二人さン」

 

 胡座をかいた俺が言うと、四角いテーブルを挟んで座るにこと花陽は、隆盛一方にあった会話をピタリと止める。

 ブスッ、と憮然とした表情を見せたのは、にこだった。

 

「あんたねぇ……、さっきからその態度だけど、もっとこう、何かないわけ? 友達の家に遊びにきたっていうんだから、もっと何かあるでしょ、いろいろ」

 

 少し歯切れの悪い様子だった。

 多分だが、俺と同様で矢澤にこも、誰かに家に招待されたという経験が浅いのだろう。

 

「あっ、そういえばわたしから呼んだのに、何も出してなかったね」

 

 気づいたように、途端、花陽が焦りだしたように言った。

 

「ご、ごめんねっ。すぐお茶持ってくるから」

「えぇ? 別にそこまで……」

 

 にこが気を利かして言うも、花陽は聞く耳も持たぬ様子で部屋を出て行ってしまう。

 

 廊下を走り、階段を駆け下りていく足音を耳にして、俺とにこは顔を合わせた。

 

「あんた、友達少ないでしょ」

「あァ、お前と同じでな」

「は? にこは友達たくさんいるんですけど。クラスでもぉ、にこはぁ? みんなから超持ち上げられてるしぃ? ものすっご~く人気があるのよねぇ」

「へェ。ならお前、どうして授業の合間の時間じゃ独りぼッちで机に突ッ伏してるンですかァ?」

「……あんたと教室は離れてるはずだけど」

「購買部に行く時、前を通るンだよ」

 

 しばらくの沈黙。

 

 スッ、と表情を戻し、にこはやや、声を潜めた。

 

「で? あんたはどう思ってるのよ、凛のこと」

「まずは花陽の話を聞かなくちゃなンとも言えンだろ。あいつ、昨日のあの後に凛と電話したらしいしなァ」

「……というかさぁ」

 

 ふと、にこがトーンを高くした。

 納得のいかないような……、いや、と言うより、どこか疑問を持った声と表情だった。

 

「『凛ちゃんの事で相談に乗ってほしい』――って花陽からのメールに、あんたが応じたのは意外だって思ったわ」

「あァ? なンで」

「『なァンで俺がそんな面倒な事に関わらないといけないンですかァ?』」

 

 声色を低く落として、やけにキメ顔でにこは言う。

 

 ピクリ、と。

 俺の眉が反応した。

 

「それ、俺の真似か何かかァ?」

「あんたなら、こう言っててもおかしくなかったんじゃない?」

 

 丈の短いスカートを気にもせず、膝を立てて体育座りをするにこ。

 

 まぁ、確かに。

 俺なら、人からの頼まれ事に、そう言って突き放すのはありえたかもしれない。

 

 面倒事は苦手だ。

 茨の道を避け続け、常に平穏を求めて生きてきた。

 

 今の、俺は――。

 

「まァ俺も、今はお前らのマネージャーだからなァ。部員の頼み事を無視できる立場じゃねェッつゥか、まァ……そンな感じだ」

 

 少し、俺だって歯切れの悪い。

 

 そう言った俺はどんな表情を浮かべているか。

 正面からそれを眺めていたにこの口元が、ニヤリと笑った。

 

「……冗談よ」

「あ?」

「冗談に決まってるでしょ? 花陽が、美雪にもメールを送ったけど大丈夫だったかな、って訊いてきた時、私は迷わず、大丈夫――美雪なら来てくれる、って言ったわ」

 

 表情と同じで、自信のある口調だった。

 

「部員の怪我に真っ先に駆けつけてくれたマネージャーが、仲間の相談に乗ってくれないなんて、ありえないものね」

「……いつの話してンだよ」

 

 そういえば、そんな事もあった。

 ある日の朝練の光景が、目に浮かぶ。

 

「花陽も、あんたにメールを送った後に少し不安になったみたいだけど? けどまぁ、美雪に相談を持ちかけたっていう時点で、あの子はあんたの事、信頼してるのよ」

 

 仲間だとか。

 信頼だとか。

 

 そんな、ある響きのこもった言葉を堂々と言える彼女は、きっと凄い。

 まだ、今の俺でも渋っている。

 

 本音を言うと、少し照れ臭いんだろう。

 

 仲間。

 信頼。

 友達。

 絆。

 友情。

 

 そんな言葉を口に出すのが、恥ずかしいと俺は思っていた。

 

 統堂英玲奈にμ'sの話をする時、俺は彼女達の事を紹介するのに、仲間だとか、友達だとかの言葉で表現した試しがない。

 

 親父にだって、部活に入ったとは報告したものの、『友達ができたのか』と訊く親父に、素直に頷けない。

 

「随分と小心者だな……」

「ん? なによ?」

「いや、なンも言ッてねェ」

 

 そんな俺を、信頼してくれる『仲間』。

 必要としてくれる『友達』。

 

 いつだったか、東條希が言っていた。

 

『チームにまず必要なのは、やっぱり絆やね。どんな繋がりでもええ。相手の事は大切に、それと自分の誇りとも思える存在として接していかんとね』

 

 俺は、他人からそう思われているのか。

 なら、他人――μ'sのあいつらから見た、俺は……?

 

「お待たせ~っ」

 

 ドアが開き、再び花陽が部屋に現れる。

 両手には、三人分のコップが乗せられた盆を持っていた。

 

「はい、にこちゃん」

「うん、ありがと」

「これは、美雪ちゃんの」

「……?」

 

 にこと花陽は、透明のグラスに氷と一緒に注がれた水だったが。

 

 なぜか、手渡される俺のコップは……もう見た目がまんかコーヒーカップな訳だが。

 

「……あ、美雪ちゃん、コーヒーの方がいいかなって思って。あ、今日も暑いから、もちろんアイスコーヒーにしたよ?」

 

 なかなか受け取らない俺に、花陽がまた焦る様子で言う。

 

 ……そういえば。

 

 俺はよく、教室でも部室でも、よく缶コーヒーを飲んでいた。

 それは中学の頃から続く、日課のようなものだった。

 

 カフェインを楽しみたい訳ではない。

 ただ、コーヒーを飲んでいると落ち着いた。

 苦ければさらに効果はあった。

 

 見ていたのか。

 花陽は、俺の事を――。

 

 

 

「――あァ、ありがとう」

 

 

 

 カップを受け取る。

 

 ふと見ると、花陽がカップを離してもなお、そのままの体勢で俺の顔を唖然とした様子で見つめていた。

 

「……ン?」

「どうしたのよ花陽?」

 

 俺もにこも、怪訝に思う。

 

 ハッ、としたように、花陽は盆を両手で抱えて背筋を伸ばした。

 

「ご、ごめんなさいっ……。でも、ただ、その……」

 

 少し、頬が赤いような気がする。

 困ったように頭を掻き、視線を泳がせる花陽は言った。

 

 

「今の美雪ちゃん……なんか、凄く、綺麗な顔をしてたから……」

 

 

 ……何を言っているのかこの少女は。

 言葉にされても響くものと響かないもの……そりゃあるだろう。

 

 綺麗、だなんて言葉は、望んでもいなければ俺は他人に言われた事も――あぁ、柊蒼太郎……お前が邪魔だ。

 

 横目に視線をくれるにこを気にしながらも、出されたアイスコーヒーを一口啜る。

 

 苦ければ苦い程、さらに良い。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「話を聞いた限り、その様子だと、花陽の不安は的中してたみたいね」

「うん……」

 

 花陽から、昨夜に電話での凛との会話の内容を聞かせてもらってから、にこはそう判断し、一段落を落とすようにグラスに口を付けた。

 

 しかし、花陽。

 コーヒーの淹れかた上手いな。

 

「凛ちゃん、やっぱりいつもより元気なくて……。声だけでも、どこか落ち込んでる様子が凄く伝わってきたの」

「まぁ、多分だけど、凛も昔のトラウマを思い出しちゃったんでしょうね。着たくもないはずのスカートを、身近に寄せちゃって――」

「だから、そうじゃねェッてのは昨日も言ッたよな」

 

 俺は横槍を入れた。

 

「あの店で、間違いなく凛はスカートやら可愛い服やらに興味を示していた。じゃなきゃ手に取ッてみたりしねェはずだし、何より店の中に入らねェだろ」

 

 そう言うと、にこも花陽も黙ってしまう。

 

 また一から考え直しだ。

 不可解が多い。

 

 凛は、何に悩んでいたのか。

 

「少なくともあいつは――凛は、『女の子らしい服装』ッてやつに憧れてはいると思う。自分だッて可愛くなりたいとか、そンな想いは少なからずあるンだと思う」

「その意志を阻んでいるのが、昔のトラウマってこと?」

 

 にこの確認に、俺もはっきりとした答えは言えないが、

 

「まァ、多分な」

 

 とだけ、言っておいた。

 

「花陽」

「なに、美雪ちゃん?」

「凛はあれから……、その小学生時代の頃から、スカートなんて一度たりとも穿いた事がないッてのは確かなのか?」

「え? う、うん。そうだと思うけど……」

「……ふむ」

 

 つまり、凛はスカートという衣服に慣れていない。

 自分の外見を彩る装飾品として、スカートというものを知らずにいる。

 

「でも、ライブとか撮影じゃスカート、穿いてたわよね? それに学校の制服だってスカートじゃない」

 

 あぁ、確かに。

 その点はどうなっているのだか。

 

「多分だけど、周りの友達がみんな、同じ格好をしてるらだと思うの。でも、もしかしたら、少し無理してる所も……」

 

 落ち込むトーンの花陽の声に、俺はまた考える。

 

 しかし、そうとは思えない。

 

 星空凛は、常に目立とうとする。

 

 ライブの時も。

 撮影の時も。

 

 部室で行うミーティングでは、

 

『凛はここで前に出たいにゃー!』

 

 なんて言って、自分から積極的にカメラの前に立とうとする。

 

 撮影されたPV映像は、もちろん、サイトを通じて全世界に配信される。

 そんな基本的な事、さすがの凛でも理解しているとは思うが……。

 

「あ……」

 

 いや、待てよ。

 

「……美雪?」

「どうしたの?」

 

 俺の漏らした声に、二人が顔を向けてくる。

 

 そういえば、前にあった。

 凛が、ふと口にしていたあの言葉。

 

 別に、俺に言っていた訳ではないだろう。

 あの時、目の前にいた真姫かことりにでも話していたのだろう。

 

 だが、確かに言っていたじゃないか。

 

 凛は、はっきりりと自分は駄目だと、そう言っていた――。

 

 

『ほら、凛ってこんなに髪が短いんだよ? こんなの、全然可愛くないよ』

 

 

 つまり、原因はそれか――?

 

 いや、だが違う。

 そうじゃない。

 

 自分の見た目に劣等感を抱いているのなら、尚更目立とうとはしないはずだ。

 

 スカートを穿きたくないというのは、どういう事か。

 興味はあるのに、昔のトラウマがそれを邪魔している。

 その線が最も有力か。

 

 だが、衣装ではスカート。

 その姿で、前へと出ようとステップを踏む。

 

 何かおかしい。

 根本的な所から見直す必要があるかもしれない。

 

「……美雪?」

 

 ふと。

 にこに名前を呼ばれ、顔を上げる。

 

「平気? 随分と考え込んでいたけど」

「……あァ、平気だ」

 

 するといきなり、花陽が立ち上がった。

 両手でシャツの裾を握り、悲壮な雰囲気を帯びた様子で俺達を見る。

 

「あの、……わたしは昔から、凛ちゃんには可愛いよって言い続けてきました。けど、それはやっぱり届いてなかった、みたいで……。だから、お願いです! 凛ちゃんが立派な女の子としての自信を持てるようになる為に、どうか力を貸してください!」

 

 きっと優木を振り絞った声と姿勢。

 それは、にこも分かっているか。

 

 この小泉花陽も、基本的に恥ずかしがりな性格をしている。

 趣味はにこと似ているが、その人間性や表に見せる感情が真逆のタイプ。

 

 俺とにこが返答に口を開けたのは、ほぼ同時だった。

 

「任せなさいよ」

「了解」

 

 さて、しかしどうしたものか。

 

 だがまぁ、案はあるのだが。一応。

 

 

 







 この話は最初から短くするつもりでした。

 なので、ちょっとした美雪ちゃんの心の描写を入れてみました。

 次話もよろしくお願いします!



 ~短編小説を書いて気づいたこと~

 僕、一人称より三人称の文章の方が得意みたい。


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