笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

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 頑張って内容を削っても、凛ちゃん編が長くなる。
 実際、合宿編の話が長かったけど、あそこもまぁまぁ辛かったのです(汗)






68話 やはり彼女は留まることを知らない

 

 

 

「えぇっ!? 美雪ちゃんが自宅謹慎に!?」

 

 アイドル研究部の部室。

 窓からは熱を持った昼過ぎの陽射しが入り込んできていて、小鳥が鳴いている声もかすかに聞こえていた。

 

 生徒会の二人組から聞かされた話に、星空凛は驚愕し大声を上げた。

 

 制服姿で、落ち着いた様子で椅子に座っている他の六人を見るからに、どうやら事情は知っていたらしい。

 

 特に、にこと花陽は、原因となったその場に居合わせた当事者だった。

 

「ファミレスで、他の高校の生徒を怪我させたらしいのよ」

 

 教員から事情を詳しく聞いているはずの立場にいる生徒会長の絢瀬絵里も、重たい雰囲気を纏わせて言う。

 

「証言によると、通路に立っていたその男子高校生に、突然美雪が一方的に暴力を振るったらしいわ。男子高校生は首と口内に深い怪我を負って、今は病院で入院してるみたい」

 

 続くように、東條希も言う。

 

「被害届うんぬんの前に、お店側が警察に通報して、その場は収まったらしいんやけど……」

 

 その話に、星空凛はいささか信じられないといった思いだった。

 

 星空凛が抱く、夜伽ノ美雪のイメージ。

 

 確かに、威嚇するような冷たい怖面ではあるが、自分の誘いで街までのお出掛けに付き合ってくれたり、行きつけのお店でも意気投合できた、根は優しく、自分と波長の合う人物だと――そう感じていた。

 

 喧嘩が強そうという雰囲気はある。

 荒っぽい言葉遣いや女の子離れした身なりに、それでも頼れるようなイメージも持っていた。

 

 何より、夜伽ノ美雪という少女は、星空凛の幼馴染みである小泉花陽を一度、助けてくれた前例がある。

 

 そんな彼女が、無差別に一方的な暴力を人に振るうはずがないと。

 きっと何かの間違いだと。

 そう思いたかった。

 

「私も目撃者の一人だから、何とかフォローしようとしたけど……、やっぱり、あれだけ多くのギャラリーがいたらね」

 

 やりきれない思いがあるように、矢澤にこが言う。

 どこか、今の話に納得がいかないとでも言いたげな表情だった。

 

「で、でも……どうして……」

 

 星空凛は一人席を立ち、動揺を隠せない様子で呟く。

 

「何で、美雪ちゃんは、そんな……」

 

 分からない。

 いくら考えても。

 

 夜伽ノ美雪という人物は、何の恨みもない相手に無警告で手を出すような人じゃない。

 それが彼女に対して星空凛が組み上げた、勝手な人物像。

 

 なぜそんな事になった。

 その場でいったい何があった。

 夜伽ノ美雪は何がそんなに気に食わなかった。

 

 通路に立っていた高校生をいきなり襲った?

 そんなはずはないだろう。

 

 何か理由があったはずだ。

 夜伽ノ美雪が思わず手を出してしまいたくなった、その訳が――。

 

「り、凛ちゃん――」

 

 そこで。

 

 彼女の向かいの席に座っていた小泉花陽が、立ち上がる。

 

「かよちん……?」

 

 そう言えば。

 星空凛はつい数分前に話された事を思い出す。

 

 夜伽ノ美雪が事件を発生させたその現場。

 そこに、自分の幼馴染みが居合わせていた事を。

 

「じ、実はね――」

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 高坂穂乃果。

 園田海未。

 絢瀬絵里。

 

 三人は鞄を肩から提げ、下校の道を並んで歩いていた。

 

 時刻は午後の一時過ぎ。

 練習どころではなくなってしまったあの場にいてもしょうがないといった雰囲気の中で、高坂穂乃果の一言が事態を動かした。

 

『わたし、美雪ちゃんの家に行ってくるよ!』

 

 いつも、何かの始まりは彼女が発端。

 それを理解している園田海未も、従った。

 絢瀬絵里は一度、彼女の家に行った事があるという事での、道案内役だった。

 

「ラブライブは、どうなるのでしょうか」

 

 歩きながらふと呟いた園田海未の言葉に、高坂穂乃果が敏感に反応する。

 

「え、なに? どういうこと?」

「聞いた事がないですか? 甲子園出場を決めた野球部のメンバーの一人が、未成年で煙草を吸うといった不祥事が発覚し、その高校は甲子園出場権を剥奪されたという例などを」

 

 高坂穂乃果は幼馴染みの話に、少し頭を捻らすように考えた後、ハッとするように顔を上げる。

 

 それを察し、園田海未も頷いた。

 

「今回の美雪の件は、それに似ています。メンバーの一人が発端となっている事件のために、『ラブライブ!』の予選エントリーから、μ'sの名前が外されるといった事態は十分に考えられるでしょう」

「えぇっ!? そ、そんなのやだよ!!」

 

 焦るように慌てる高坂穂乃果。

 それもそうだろう。

 

 学校存続もかかっているが、今のμ'sメンバーは、主に高坂穂乃果が中心となり、苦労して集めた一〇人だ。

 ここでエントリーからμ'sの名前が消えようとなれば、学校存続はもちろん、今後の人間関係にも影響が出てくる。

 

 そういった事態を、高坂穂乃果という人間は酷く嫌う。

 とにかく彼女は、誰かが不幸になるような結末を好まず、何としても運命を変えてやろうと奮起する性格なのだ。

 

 しかし、そんな高坂穂乃果の懸念も――。

 

 

「あぁ、それなら問題ないわよ」

 

 

 杞憂におわる。

 

「へ?」

「はい?」

 

 今まで黙っていた絢瀬絵里の言葉に、二人は表情をポカンとさせる。

 

 構わず絢瀬絵里は続けた。

 

「美雪が暴力事件を起こしたのが二日前。学校に連絡が入ったのは同日。その次の日……まぁ、昨日の事なんだけどね」

 

 曲がり角に差しかかり、絢瀬絵里はいったん言葉を区切る。

 道は、なかなか大きい敷地を持った住宅が建ち並ぶ所だった。

 

「ある人が、音ノ木坂学院に訪問してきたらしいのよ。理事長から聞いた話だけど……確か、『柊』っていう弁護士だったらしいわ」

 

 首筋に垂れた汗を拭い、絢瀬絵里は続ける。

 

「その人のお陰で、『ラブライブ!』の予選エントリーから、私達の名前が剥奪される事はなくなったのですって」

 

 随分と端折られた言い方だと感じた。

 

 高坂穂乃果は意味を考えるように、無駄に難しい顔を浮かべ、園田海未は不明な点しか残らないものに怪訝とする。

 

「あの、つまり……どういう事ですか?」

 

 園田海未が尋ねる。

 

 絢瀬絵里は、息を吐いて目を瞑った。

 

「つまり、世の中は汚いって事よ。そうやって救済される人達もいれば、そうされる事を許されない人達がいるって意味」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 三人はようやく辿り着く。 

 と言っても、あまり時間はかからなかった気もするが。

 

 目の前には、立派な門と綺麗な緑の茂った庭があって、その先に大きな玄関がある、一つの家。

 さすがに西木野真姫の住む豪邸のような代物ではないが、一般家庭からすると随分と大きく見える。

 

 だが、そう思えるのは三人の中で、高坂穂乃果だけだったろう。

 

 園田海未は家元の娘として、様々な道場が建てられた木造の屋敷に住んでいる。

 絢瀬絵里だって、ロシアに住んでいた幼い頃は、まるでお城のような高級住宅地を住まいとしてたのだから。

 

「ここが美雪ちゃんの家か~」

 

 ほえ~、と。

 だらしなく口を開けながら屋根までを見上げる彼女の頭を、園田海未がポンと軽く叩く。

 

「何をボケッとしているのですか。……しかし、美雪のお父上がプロの世界で活躍する野球選手だという噂は、本当なのかもしれませんね」

「……え!? プロ野球選手!? 美雪ちゃんのお父さんが!?」

「夏休みに入る前、ヒデコ達がそんな話をしていたでしょう。確か、『読売』? とかいうチームに、同じ苗字の投手がいたと」

「まぁ確かに、『夜伽ノ』なんて苗字、少なくとも私は美雪しか知らないからね」

 

 絢瀬絵里の最もな発言に、二人もうんうんと頷く。

 

「だからこんなに家が大きいんだ~。いいなー! 穂乃果なんてたかが古臭い和菓子屋風情の貧乏娘だよーっ!」

「なんて親不孝な娘に育ってしまったのでしょうかこの子は……。あなた、お父様の前では絶対にそんな事を言わないでくださいね。あの人が一度涙を流してしまったら、収拾がつかないのですから……」

 

 何か、それを経験したというような口ぶりで話す園田海未の言葉に、少し詳細が気になる絢瀬絵里だったが、今はそんな場合ではない。

 

「さぁ、そろそろ行くわよ。美雪からしっかり話を聞かなくちゃいけないのだから」

「ん――ゴホン。えぇ、そうですね」

 

 妙に気を引き締めているような二人。

 

「それじゃ、インターホンを――」

 

 ピンポ~ン。

 

「あ、ごめんもう押しちゃった」

「穂乃果……いえ、まぁいいんですけどね」

 

 門の外から少し離れた位置にあるドアの向こうから、小さな足音が聞こえてきたのに時間はかからなかった。

 と言うより、その人物は初めからドアの近くにいたんじゃないかと思うほど、素早くドアを開け、その姿を見せる。

 

「……ん?」

「あら?」

 

 二年生組の二人は、思わず不思議そうな声を上げた。

 

 中から出てきたのは、金髪の男。

 歳は高校生辺りと思えるが、顔つきが悪く、長い前髪を真ん中から分けるようにピンク色のカチューシャを付けている。

 

 耳にピアス。

 首にネックレス。

 ズボンには鎖のチェーン。

 

 衣服を着崩した男だった。

 シャツの胸元を大胆に開け、裾はだらしなくはみ出している。

 

 その男も。

 

 三人も。

 

 互いの顔を見たまま一言も喋らず、十数秒が過ぎた頃だった。

 

「……どちらさん」

 

 金髪の男がそう訊いてきた。

 

「あ、えっと私達、夜伽ノ美雪さんの友達でして、彼女に用があって来たんです。あなたは、美雪さんのお兄さん、ですか?」

 

 絢瀬絵里は言った後、それはおかしいと思った。

 

 生徒会長として、学院生の全員分の名簿には目を通してある。

 夜伽ノ美雪という人物に、兄弟や姉妹がいるといった情報は目にした事がない。

 

「あぁ、そうじゃねぇけどよ。俺も、あいつの友達なんだ」

 

 その男が言うと、絢瀬絵里は軽く安心した気持ちになった。

 住所を間違えた訳でもないようだった。

 

 また、この三人は。

 目の前の金髪の男が、夜伽ノ美雪の親友である水浦竜三という事を、当然ながら知る由もない。

 

 お互い自己紹介でもすれば話は別だが。

 水浦竜三はそんな人間じゃないのだ。

 

「あのっ!」

 

 高坂穂乃果は、門の外から彼へと声を張り上げる。

 

 あなたは遊びにきたのか。

 どうしてここにいるのか。

 

 そんな面倒な質問は省き、彼女らしく、真正面から本題を切り出す。

 

「美雪ちゃんは、中にいますか? 私達、美雪ちゃんに会いたいんです!」

 

 無駄に元気で大きな、聞き慣れない調子の声に、水浦竜三は顔を顰めた。

 

 同時に、

 

「美雪ちゃん、ねぇ……」

 

 そう呟く。

 三人には聞こえなかったようだが。

 

 水浦竜三はドアから全身を出し、外へと出た。

 寝起きのように気怠そうに、頭をボリボリと掻きながら言う。

 

「あいつ、今は自宅で謹慎中のはずなのによぉ……、何の連絡もなしに勝手に出て行きやがったぜ。まぁ、あいつが誰かの命令に従うなんざ、想像もできねぇ話だが」

 

 ………………。

 

 出て行った。

 自宅謹慎を警察から言い渡されて。

 

 馬鹿な、それこそ。

 今度見つかれば、ただ事じゃ済まされないだろうに。

 

 園田海未はすぐさま携帯を取り出し。

 絢瀬絵里は頭を抱え。

 

 高坂穂乃果は、走り出した――。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 では、夜伽ノ美雪はどこにいるのだろう?

 

 言われた通り、自宅で大人しくしていれば、時間が解決してくれる問題をさらにややこしくしてまで、どこに向かおうというのか。

 

 誰かが言った。

 高校生なら無免許運転は当然、と。

 

 間違った知識だ。

 そんな当然が世の法に通るはずがない。

 

 しかし、それに囚われない考えを持ち、行動に移す人間は当然、存在する。

 

 夜伽ノ美雪はヘルメットを被り、以前に水浦竜三から譲り受けた、なかなか新品のバイクで一般道を疾走していた。

 

 それが、一〇分前。

 

 彼女はすでに、目的地へと辿り着いていた。

 

 

 西木野総合病院。

 

 

 怪我をした者は大抵ここに運ばれる。

 小泉花陽から奴の名前は聞いた。

 あとは病室を探せばいい。

 

 点滴をお供させるお爺さんに、車椅子の少年。

 顔の全体に包帯を巻き付けている男や、酷く咳が止まらない様子の女性。

 

 彼らの集団を分け入り、夜伽ノ美雪は白い廊下を進み、階段を昇った。

 

 やがて、とある階の廊下をまた進み、一つの病室の前で立ち止まると、すぐさまその扉をスライドして開けた。

 

 夜伽ノ美雪が病室に入ると、ベッドの上に全身を乗せて座り、首に分厚い矯正機具と包帯を巻いた男を見つけた。

 

 男も、突然の来客の顔を見た途端、顔から血の気を引かせた。

 

 彼はナースコールのボタンが繋がれる紐をすぐさま手繰り寄せようとする。

 その前に、素早い動きで夜伽ノ美雪が、その管を踏みつけた。

 

 

「小学校と、それに中学校時代の事についてだ」

 

 

 夜伽ノ美雪もベッドの上に乗る。

 土足のまま、男の身体を跨ぐように立っていた。

 

 

「テメェが……いや、テメェらが人の目の届かない所で、星空凛に対して何をしていたのか、どンな陰湿な行為を及ばせてきたのか――」

 

 

 男の瞳に映る夜伽ノ美雪の姿は、どう見ても、悪魔のようにしか見えなかった。

 

 それは正確。

 

 夜伽ノ美雪は、悪魔でさえ怯むような鋭利で冷たい目をしていた。

 

 右足の踵を男の腹へと、強烈なほどに振り落とす。

 息ができないアヒルのような鳴き声をする男に、夜伽ノ美雪は容赦なく言う。

 

 

 

「全て吐け。洗いざらいなァ」

 

 

 







 そろそろAO入試の結果が届けられますね~。
 いや~、緊張します。
 もし駄目だったら一般入試ですけど、その時は腹を括りましょう。

 それでは、次話もよろしくお願いします!


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