中間テストがやっと終わりました。
何の告知もなく長くお休みしてしまって、申し訳ありませんm(_ _)m
さて、こっからはどんどん書いていきますよ!
みなさん、どうかよろしくお願いします!!
「綺羅ツバサ……」
そこに、『ラブライブ!』という、荒れ狂う大海原のステージがある。
全国から集められた数多のスクールアイドルグループ達が航海している中で、その先頭を進むA-RISEという船艦。
その船艦に乗る、船長。
それが、目の前に現れた。
俺としては、幼馴染みの統堂英玲奈か、二度と会いたくないと思ったはずの優木あんじゅと出会えれば、それでよかった。
彼女らにほんの小さなお願い事をして、それを叶えてもらう道筋は頭の中で完成されてはいた。
それが、出鼻から挫かれる。
「ようこそ夜伽ノさん。UTXへ、歓迎するわ」
そう言って綺羅ツバサは、テーブルを挟んだ向かいのソファに腰掛ける。
「あなたが支えている音ノ木坂学院のスクールアイドルの事は、よく知っているわ。私達にとって最大のライバルであるμ'sのマネージャーさんと顔を合わせることができたことは、こちらとしても本当に光栄なこと――」
彼女は言いながら、開かれた右手をこちらに差し出してくる。
見れば分かる――それは握手を求めている、日本人ならではの礼儀作法。
「……あァ、」
俺の方も、ようやく目の前が見えてきた。
予定のルートを逸脱した展開に思考が混乱していたが、考えてみれば、この学院に訪れれば、彼女に会う可能性も当然あること。
ただその相手が、綺羅ツバサ――スクールアイドルの世界に関わってから、超有名だと大袈裟に聞かされていた名前と存在だっただけに、少し意表を突かれただけのことだ。
「私服姿の上に、アポなし訪問と言ッた礼儀知らずの態度を重ねてきたことに無礼は承知だが……俺は、握手は好まないンだ」
落ち着きを取り戻し、俺は静かに言う。
実際、そうなのだ。
彼女達は気にしていないのかもしれないが、μ'sに加入した時も、俺は誰とも握手なんて交わしていない。
「あら、そうなの」
不良な態度に怒るわけでも、憮然とした様子を見せる訳でもなかった。
綺羅ツバサは少し驚くように目を丸くした後、すぐに右手を膝の上に戻す。
「――失礼します」
ふと聞こえてきた声に視線を向けると、食堂と繋がっている部屋の入り口から、何段か重なる配膳台車を転がす女性が入室してくる。
「……メイド?」
「えぇ。うちでは、何人かこういったお手伝いさんみたいな役職の人を雇っているのよ」
綺羅ツバサの言葉に、俺はなるほどと、改めてお嬢様学校の規模というものを大きく感じた。
その女性は、言っちゃ悪いが南ことりが働いていたメイドカフェなんぞ比べものにならない程の、可憐でいてまた豪華絢爛なメイド服を着飾っていた。
長く繊細な黒髪と真っ直ぐ張られた背筋の姿勢、配膳台車を押しながらの歩き姿――仕える身でありながら、そのメイドにはまさに、お嬢様といった言葉が似合うと思う。
おまけに容姿も上級品と見える。
そのメイドは無言のまま、西洋風の模様が施された配膳台車から、薄く湯気の立つティーカップを、俺と綺羅ツバサの手前に置く。
またその隣に、フォークと一緒に苺とブルーベリーがメインとして飾られる、一切れタルトが乗ったお皿が置かれた。
「それでは夜伽ノ美雪様、ごゆっくり」
メイドは俺へと浅く例をすると、何も乗らない配膳台車を転がし、部屋を出て行った。
なんだ、この流れは、と。
正直、唖然とした。
野蛮な侵入者を広すぎる客室に通し、学院トップでスクールアイドルの頂点を極めた超人が現れ、当たり前のように豪華な洋菓子と紅茶が出てくる。
「こりゃ本当に、音ノ木坂なンかじゃ敵わねェわ」
あんな古臭い学校には、異国文化まで心得てしまったこの最先端学院に勝る点なぞ、一つもない。
「そんなことないわ。音ノ木坂には誇るべき伝統と、受け継がれる歴史の物語が存在するじゃない」
「そンな面なンざ誰も注目したりはしねェよ。どの年にも新入生なンざ似たような奴らばかりだ。校風がなンだ授業風景がなンだと知ッてる風の口を叩く奴はいるが、大抵そいつらも、学校の外面しか見ていない」
意外なほど、言葉はすらすら出ていた。
綺羅ツバサという大きい存在の前でも、普段の口調は崩れることはない。
まぁ、俺が緊張するとかガラじゃねぇけど。
「まぁ、確かにそうね」
綺羅ツバサは頷く。
短い制服スカートから覗く両脚を組んだだけで、その仕草にも美しさがあった。
「何の目的もない進学を選ぶ人達からすれば、中学校も高等学校も、どこだって構わない。重要なのは、専門的分野を学べる大学選びから、ってね」
しかし。
綺羅ツバサは笑った。
「でもね、夜伽ノさん。このUTX学院の、特に芸能学科には、燃える程の情熱と分厚く固い意志意欲――それと目に見える形で現れている才能と、何より、胸を張って宣言できる夢、目標がなければ、絶対に入学できないわ」
綺羅ツバサは、そう言って誇る。
彼女にある、我が母校を。
……俺にはないな、母校愛なんて。
だとすれば、廃校を阻止するために戦っているμ'sの中に俺が存在することも、どこかおかしい気もするが――。
そこまで考えた所で、急いで思考を切り替える。
「……英玲奈と優木あんじゅも、それを持ッてここに?」
「そうでしょうね、確認したことはないけれど。けど、確認するまでもないわよ、普段のあの二人を見ていればね」
確かに、それはそうだろう。
普段から二人を見ていなくても、それは俺でも分かる。
小泉花陽から聞いた話だ。
A-RISEというチームには、UTX学院の芸能学科にいる総勢一〇〇名以上の中から選抜して三人が入れるという。
そこから生き残っている三人という時点で、並ならぬ努力と才能、また覚悟があったのだろう。
「英玲奈とは幼馴染みなのでしょう、夜伽ノさん」
ふと、あらかじめ聞いていたかのように綺羅ツバサは言う。
その記憶は断片的なものでしかないが、俺は頷いた。
「あァ。確か、幼稚園に入る前から一緒だッた」
「本当に長い付き合いね。……英玲奈は凄いわよ。彼女には、そうね――才能の塊って言葉が似合うかしら。私だって入学当時の時点ですでに自分の才能には自信があったけど、彼女を一目見た途端、とんでもないライバルが現れたと思ったわ」
「……そこまでか」
普段、日常的に交流を交わしている俺からすると、意識しなくては英玲奈のことを、そういう風には見れなかった。
現に今も、目の前の綺羅ツバサには何のオーラも感じられず、ただ綺麗で、年の差のない同学年、といったイメージでしかない。
何か、あるのだろうか。
その道を究めている者同士でしか分からない、相手の雰囲気みたいなやつが。
そこでふと、俺はUTX学院にやって来た本来の目的を思い出す。
「なァ綺羅ツバサ、そろそろ本題に――」
「そう急かさなくてもいいじゃない。お互いがこんなゆっくりと話せる機会なんて、そうそうないと思うわよ? それとも、あなたはこの後、何か用事でもあるのかしら?」
そう言われ、少し不機嫌なものが表情に出たかもしれないが、それに大人しく従うことにする。
「夜伽ノさん、あんじゅのことはフルネームで呼んでいたわね。友達関係とか、そういうのじゃないのかしら?」
「……アンタのチームメイトのことを悪く言うようだが、あの女は苦手なタイプ――てか、嫌いだ」
そう返すと、綺羅ツバサは面白そうに、押さえた声を出して笑う。
「男女隔たりもなくモテるあんじゅのことを、そうはっきり嫌いだと言う人は初めて見たわ。あんじゅはあなたのこと、とても仲睦まじい友人だって言ってたけど」
「強引に買い物に付き合わされた挙げ句、人の気に入ッてたパーカーに穴空けるような奴だぞ。誰がそンな性悪女を友達だと言うか」
「あんじゅとお出掛けって言うだけで、大抵のUTX生徒は悦びに身体を悶えさせるわよ、きっと」
「俺にも好みッてもンがあるンだよ」
そこで、ようやく俺は出されたティーカップの取っ手に指を通し、高台から浮かして持つ。
綺羅ツバサも、俺と同じ動作を取った。
口縁に唇をつけ、熱そうに揺れる赤茶の液体を流し込む。
……。
「……コーヒーの味や香りは分かるが、紅茶は詳しくなくてな。ただ、美味いッてことだけしか――」
「平気よ。この学院の生徒にも、紅茶の何たるかも知らずに飲んでは、それについて熱く語りたがる人もいるのだし。そうはっきり言ってくれた方が、全然マシだわ」
もう一つのケーキタルトには手を付けようとしない俺を見たのか、綺羅ツバサもティーカップを戻すと、姿勢を正した。
「あと何曲か出せば、あなた達μ'sもすぐに、Sexy・Charmなんて抜かせるでしょ」
唐突に、その話題は振られた。
「……そういや、優木あんじゅも似たようなことを言ッていたな」
「きっとそうよ。私達は、あなた達μ'sのことを大きく評価しているの」
その言葉に、俺はまた思い出す。
あの日、優木あんじゅが伝えたもの――。
「あぁ、『本物を感じる』……だッけかァ?」
自然と、嘲笑混じりの声となった。
思い出したら、また少しの笑いと、不愉快な気分が沸き起こってきた。
「アンタが言ッていたと、優木あんじゅが伝言係として俺に教えてくれたもンだ。ありゃ、つまりどういうことだ?」
珍しく俺は、相手に期待して尋ねてみる。
久々に何かに興味が沸き、俺は訊く。
美辞麗句を並べた長文ではない。
具体性の表現を多く用いたものでもない。
あの短い意見は、綺羅ツバサのどういった所から出たのか、どんな気持ちから現れた評価だったのか。
スクールアイドルの頂点に立つ彼女の意見を、表情は変えずとも、心に何かを待たせながら今一度、確認してみたい。
「……そうね」
綺羅ツバサは姿勢を崩した。
と言っても、ただ背もたれに寄り掛かるようにしただけだが。
「そのうちに分かるわよ、きっと。μ'sの九人がその内側に秘めている可能性を表に出してくれる、その時になれば」
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一人。
長く薄暗い廊下を歩く。
あの部屋を出て――綺羅ツバサと別れてまだ数分。
俺の中に突っ掛かる蟠りは、どんどん大きくなる一方だった。
「その時になれば分かる、だァ? ……あの女、本当に全国大会の優勝経験者なのか? あンな意見なンざ素人でも、口に出すのは簡単だろうが」
期待を裏切られた気持ちが多く占めていた。
また、綺羅ツバサという絶対王者に疑いすら持ち始めている俺がいた。
「素人なのか、格好つけたいのか……」
ぶつくさ愚痴るように呟きながら、まだ俺は歩いている。
あれから数分後、ようやく本題を切り出せた俺は、統堂英玲奈や優木あんじゅに頼み込む予定だった、ある『依頼』を任せた。
本当に綺羅ツバサに依頼していいのかとやはり疑問に思ったが、仮にも全国制覇を果たしたチームのリーダー――何かが分かるかもしれないと、賭けのような感覚で俺は彼女を頼ることにした。
綺羅ツバサはその依頼を遂行するにあたり、『しばらく一人にしてほしい』と願い、俺を部屋から出した。
無論、お嬢様が客人を部屋の外で待たせるなんてことはせず、英玲奈達がいるというレッスン室までの道のりを俺に教えてくれている。
「ンで、エレベーターで一三階まで来たは良いが、さてこッからどう向かうンだッけなァ」
そして俺は俺で早速、迷子となっていた。
決して方向音痴という訳ではない……と思うのだが、人から訊いた道を脳にインプットするにあたり、どうやら許容量が決まっているらしい。
「薄暗いが、廊下には小さな埃一つもねェ」
掃除が行き届いている。
さらに、さっきは当たり前のように利用していたが、校舎にエレベーターが設けられてあるという時点で、すでに何かおかしい。
「まァ、さすがはビル校舎だな。音ノ木坂も、校舎や敷地面積は十分に広いとは思うが、ここはここでまた……あァ、何て言ッたらいいンだろうな」
もはやこの建築物を、校舎と言っていいのかすら分からない。
屋上にはライブステージはもちろん、ヘリコプターの着陸場なんてのもあるらしい。
「UTX学院の屋上ステージはとても派手だとか、花陽が言ッてたッけなァ」
地区対抗戦となる予選で三位以内に入れれば、全国大会『ラブライブ!』の出場権を手に入れるための戦いに参加できる。
花陽の知恵袋では、その予選決勝となるステージは、各々のグループで自由に決めて構わないらしい。
「A-RISEは当然、自分達の母校の屋上を使用するンだろうが……」
μ'sが予選決勝に出場できたとして、果たして勝ち目はあるか。
A-RISEにも勝るような、μ'sだけの特設ステージを用意する必要が出てくる。
そこで勝利して初めて、『ラブライブ!』出場という夢の扉を開くことができる――。
「……夢の扉? ――ユメノトビラ。あ、何か良いな、これ」
少し閃いてしまった。
迷子になっていることを少しだけ忘れる。
「……ン?」
突き当たりに差しかかった。
行き着いた廊下の奥では、T字路に設計された分かれ道ができている。
「……そういや、綺羅ツバサがT字路を右折とか言ッてたな」
細かい部分を思い出し、俺は歩きながら突き当たりを右に曲がる――。
「――ッッッ!?!?」
一瞬だった。
明かりも点けられない薄闇の中から、風を切る音が聞こえたと思った直後、白銀に光る長身の刃渡りが俺の首元をカッ切るように狙ってきた――自分でも、人間の反射速度の限界を超えたのではないかと思うほど素早く、後方に身体を反らして襲撃を躱した。
「なン……ッ!?」
背後に濃厚な冷気。
振り向けば、薄闇の中で俊敏に動き回る人影は、両手のナイフを逆手に構え、再び俺へと迫ってきた。
「なンだ――ッッ!」
混乱しながらも目を効かせ、反射神経を鋭く働かせながら、一打一打、その刃を躱していく。
――おい、待て。
いきなり何だ。
遅くなりましたがUTXへの歓迎ドッキリですってオチか。
「ッ!?やべェ――ッ!」
余計なことを考えたせいか、反応が遅れた。
相手が左手で逆手に持つ長身のナイフが、俺の鼻先の前を恐ろしく速く切り裂いた。
「なッ……!?」
野郎……ドッキリなんかじゃない。
本物のナイフだ。
切れ味もいいし、使い手の腕も一級品だと分かる。
じゃなきゃ、俺の前髪の一部が綺麗に斬られたことに、説明がいかない!!
――待ってくれ。
そう制止させようとも考えたが、声を出せば腹に力が入りその分、身体の動きが鈍くなる。
逆手構えのナイフは、リーチが短い代わりに、力を込めて肉の奥深くまでねじ込める攻撃力がある。
切れ味抜群のナイフと相手の訓練された腕力じゃ、パーカーごと肉を断たれる――!!
「クソッたれどうしてこうなッてンだァ!?」
いきなりの戦闘。
相手はプロ。
状況が全く呑み込めないが、防戦一方じゃいずれ――。
「ッ――!!」
ナイフが風を切る音。
相手が踏み込んでくるタイミング。
腕を振り上げて何秒後か。
――読めた。
「ぐッ――!!」
身を屈め、相手の右腕の振りを避ける。
屈んだ目線の先の相手の踏み込みに、意外性に捕らわれた躊躇いが見えた。
両手を廊下の冷たい床につき、それだけで身体全身を支えながら浮かし、右足を高く蹴り上げる。
「ふッ――!」
「っ……!?」
相手の左手にあったナイフは俺の靴裏に弾かれ――。
キィ――――ン
刃が天井にぶつかり反射。
俺は床を転がり、落下してきたケーキナイフを掴み取る。
それを見ながら、結局ケーキタルトは食わなかったな、なんてどうでもいいことを思い出した。
多少に乱れた息を整えながら立ち上がり、勢いの止まった相手と対峙する。
「……ッたく、状況は把握できねェが、歓迎の方法は他にやりようがあッたはずだろ。それに悪いが、俺も完全な素人ッて訳でもねェようだし」
奪い取ったケーキナイフを順手に持ちながらも、それは構えない。
戦う意志はないということを、相手に伝えなければならない。
「なぜいきなり襲ッてきた。何の目的で――」
そこで、俺は初めて、相手の姿格好をはっきりと捉えた。
赤と黒の上質素材を使用しているとすぐに分かる、出来映えの上等なメイド服を着ている。
先程、綺羅ツバサと話していた部屋に入ってきたメイドの女を思い出したが、彼女ではない。
ボッサボサの、手入れのなっていない金髪を肩まで、また前髪もだらしなく、目元を越している。
相対的に、薄闇の中でも異彩な存在と感じられる、黒ずんだ紫の瞳。
……女だ。
こいつも、UTXに仕える仕事の――。
「なッ……ァ――ッ!?」
俺はさらに驚愕した。
今、俺が目の前の相手の左手から強奪してやったナイフは、長いケーキナイフだった。
残った、相手の右手。
そこには、見事な湾曲を描いた、ジャンビーヤと呼ばれるナイフがあった。
中東から中近東のアラビア地方で、家畜を解体するために、遊牧民がほぼ日常的に使っている、切れ味最高の小型ナイフ。
なぜそれを手に入れる必要があったのか分からないが、とにかく相手の持っている獲物は――やばい。
そして、また。
相手の――彼女の紫色に濁る瞳には……。
「ははは……おい、マジかよ。もはや、殺意しか映ッてねェぜ、あれ」
ここにきて、UTX学院に訪れたのを、俺は後悔した。
あ、そういえば僕、大学決まりました。
次話もよろしくです!