笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

86 / 138



 サブタイ通り、物語での新たな出会いのシーンです。

 短いです。






76話 ここでも新たな遭逢

 

 

 

 夜伽ノ美雪が、単身でUTX学院に乗り込んだ日の夜。

 

 住宅街は静まり返り、点滅を繰り返す街路灯には羽虫が集まる時間帯だ。

 今日は綺麗な三日月を見れる日らしいが、夜空に浮かぶ分厚い雲のせいで、その輝きは完全に失われている。

 

 ブランコと、背の低い鉄棒に滑り台。

 その程度の遊具と、狭い砂場しか置かれていない小さな公園に、二人の少女の影があった。

 

「やっぱり、気にしてるよね……」

 

 小泉花陽。

 寝巻きの上にピンク色の長袖パーカーを着ている彼女は、キコキコと頼りない音を軋ませるブランコを揺らしながら、そう言う。

 

 そんな彼女の隣のブランコに座っているのが、幼馴染みの星空凛。

 隣の小泉花陽とは違ってブランコは揺らさず、ただ台座に座っているだけの体勢でいた。

 

「美雪ちゃんは、凄いよね」

 

 星空凛は小さく呟く。

 

「凛なんかのために怒ったり、ラーメンに付き合ってくれたり……他のみんなからは怖がられてる感じだけど、やっぱり美雪ちゃんは、優しいんだ」

 

 それを改めて星空凛が感じ取れたのは、あの日のこと。

 矢澤にこと一緒になって、夜伽ノ美雪が自分のために策を練り、どうにか星空凛という女の子に自信を付けさせようとしてくれた、あの日の放課後のことだ。

 

 結局、あの日の星空凛は用意されたカツラを投げ捨て、罵倒するような言葉を吐きながら部室を飛び出してしまったが。

 

 それでも、夜伽ノ美雪が自分のために何かをしてくれる――。

 彼女の優しい部分、またマネージャーとしての責任感に触れられた。

 

「本当は嬉しかったのに……何でなんだろ」

 

 あまりに似合わない……まるで世界の全てに失望でもしたかのように表情を落とす今の星空凛に、普段に振る舞っている輝きや愛嬌なんてものは、一切ない。

 

 幼馴染みとして、小泉花陽も、彼女のそんな顔を見ていることは辛かった。

 

「……ねぇ、凛ちゃん」

 

 だが、見過ごす訳にもいかない。

 

 小泉花陽は今まで、幾度となく星空凛に救われてきた。

 星空凛という存在がいなければ、きっと彼女自身、今も独りぼっちの生活を送り、ましてやスクールアイドルなんてものになってはいなかっただろう。

 

 西木野真姫もそうだったが、あの時――夕焼け色に覆われる屋上で、小泉花陽が決断できたのは、最愛の幼馴染みが背中を押してくれたからだ。

 

 今度は、自分が彼女を助ける番。

 それは、夜伽ノ美雪がファミレスで暴力事件を起こしたあの日から、心に強く決めていたことだ。

 

「凛ちゃん自身、自分はもっと可愛くなりたいって、思ってるはずだよ?」

 

 優しく。

 包み込むかのような暖かさと落ち着きのある声で、彼女は言う。

 

 二メートルとも開かないお互いのブランコの距離から、小泉花陽は幼馴染みの顔を覗き込むように、背中を曲げて話す。

 

「自分の外見は気にしてないんだって美雪ちゃんに言われて、ちょっと傷ついちゃっただけなんだよね」

「…………、」

 

 弱々しく、星空凛は頷く。

 

 それが、夜伽ノ美雪の犯した間違い。

 面倒見が良く周りに気を配れる矢澤にこでさえ気づけなかった、大きな誤植。

 

「まだ付き合いが短いから……、別に勘違いされたことを恨んでる訳じゃないんだよ」

 

 星空凛は言う。

 

「でも、デリケートな部分を遠慮なくガツガツ踏み込んでくる辺り、美雪ちゃんはやっぱり失礼だにゃ」

「ふふっ……そうかもねぇ」

 

 でも、と。

 小泉花陽は微笑みを浮かべた。

 

「嫌いになっちゃったりはしないでしょ?」

「当たり前だよ。美雪ちゃんがそういうのに慣れてないこととか、さすがの凛も分かってるしね」

 

 やはり、星空凛も根本的な所では優しい性格をしている。

 よほどの事態が引き起こされない限り、敵という存在は作らないタイプだ。

 

 それを知っているからこそ。

 小泉花陽も、昔よりは大分、星空凛に対して積極的になれた。

 

「凛ちゃん……もう、素直になっちゃえば良いんじゃないかな?」

 

 そう言われ、顔を上げた星空凛は隣で微笑む幼馴染みを見る。

 そして、小泉花陽の言いたいことだって、全て理解している。

 

 可愛い服が着たいと言えば良いじゃないか。

 お洒落な髪型にしてみたいと言えば良いじゃないか。

 自分は素敵な女の子なんだぞと胸を張って叫んでみれば良いじゃないか。

 

「確かに、昔のことを思い出すのは辛いよ。でもね、凛ちゃん。過去は過去、今は今だよ。花陽は、その今を大切にするべきじゃないかなって、そう思うんだ」

 

 夜空を見上げた。

 相変わらず、雲が月を覆っている。

 

「μ'sは、楽しいよね」

 

 小泉花陽が、噛みしめるように言う。

 

「そう思うでしょ?」

「うん……、もちろん」

「だよね。凛ちゃん、μ'sのみんなとお喋りしてる時は凄く笑顔だし、それにPVの撮影とかでも、積極的に前に出てるもん」

「あ……」

 

 それは、夜伽ノ美雪にも言われたものだ。

 外見に劣等感を抱いているなら、自分からカメラの前に躍り出ようとはしない。

 

「そ、それは……」

「それが凛ちゃんの素で、良い所なんだよ。元気で活発で、笑顔が可愛い女の子。きっと誰もが、凛ちゃんのことを可愛いって、言ってくれるよ」

 

 さらに続けられた。

 

「昔の嫌な思い出なんて、これから作るμ'sのみんなとの思い出で上書きしちゃえばいいって、花陽は思うな。ううん、凛ちゃんには、そうしてほしい」

 

 けれどやはり、星空凛は優しい。

 いや、普段はおちゃらけて先輩に対しても勢い良くかまわれに行くが……実のところ、甘いのではないか。

 

 自分のためと言ってくれる親友に対して、星空凛は何も言えなくなる。

 

「……かよちん?」

 

 不意に、小泉花陽が立ち上がった。

 星空凛へと振り向き、柔らかい笑みを見せる。

 

「なんだか喉、乾いてきちゃった。自販機で飲みもの買ってくるけど、何かいる?」

「あ、……じゃあ、オレンジジュース」

「うん、了解」

 

 そう言うと、小泉花陽はゆっくりとした足取りで、少し離れた――公園の敷地から出た場所にある自販機を目指して歩き出す。

 

「……はぁ」

 

 歩き去っていく小泉花陽の背中を見つめながら、星空凛が溜息を漏らした。

 

 いつもだ。

 いつも、小泉花陽と一緒にいる時の自分は、嬉しそうに笑って、うるさいほどはしゃいで、彼女を引っ張りながら常に先を行動していた。

 

 いつ以来だろうか。

 長年の幼馴染みとこんな、しんみりとした雰囲気で会話をしたのは。

 

「かよちんこそ、どうなんだろうね……」

 

 誰に向けて言った訳でもない。

 そう呟く星空凛は、空を見上げた。

 

 小泉花陽は、昔から消極的で、自分の意見を表に出そうとしない、常に誰かの後を付けていくような性格だった。

 

 そして彼女は……酷く臆病だ。

 

 お化けが怖いとか。

 暗闇の中が苦手だとか――そういうものではない。

 

 失敗を恐れる。

 誰かに嫌われることを恐れる。

 見捨てられることに恐怖を感じる。

 

 加減を知らないネガティブ思考は大分マシになったとは思うが、それでも小泉花陽の中にはまだ、僅かにそれが残っている。

 

 

 

 昔、なわとびをした。

 

 

 

 小学校高学年の頃。

 大縄飛びの大会だった。

 

 クラス対抗戦で、一回三〇秒を三セットに分けて人数を割り振り、より多くの回数を飛べたクラスの優勝を決めるもの。

 

 その練習。

 小泉花陽は、クラス全体の足を引っ張っていた。

 

 その失態を責める同級生も当然いた。

 星空凛が、必死にそれから小泉花陽を庇った。

 

 結局、本番当日に小泉花陽は体調不良を訴え――。

 ……逃げた。

 

 ――彼女は弱い。

 ――自分が守って、引っ張っていってあげなくては。

 

 幼馴染みとしての使命感が心に現れ始めたのが、きっとその時期からなのだろう。

 

「結局、二人とも弱いままだなぁ……」

 

 悲しそうに言う。

 ふと、視線を落とした。

 

「……?」

 

 その時、星空凛の視界の隅に何かが映る。

 すぐさま視線は、その影に向かった。

 

「なんだろ……?」

 

 見た場所は、公園の入り口付近。

 そこに設置されてある、身長の低い水飲み場。

 

 その石段に手をつき、グッタリと疲れ切った様子で立っている、女がいた。

 

 少し、不気味だと思った。

 夜に現れる、髪をダラリと下げながら俯く女の姿を見れば、不気味な何かの存在を連想させるのは容易い。

 

 しかし、事態は変わった。

 

 力尽きるように、その女が急に、膝から崩れ落ちる。

 

「っ……」

 

 ブランコと公園の入り口までは少しの距離があった。

 星空凛はすぐさま立ち上がり、地面に座り込んでしまったその女の元へと駆け寄る。

 

「あの、大丈夫ですか!?」

 

 基本的、星空凛は高坂穂乃果と違い、初対面の誰とでも関わりを持とうとするような性格ではない。

 その明るく活発な性格は、あくまで自分が心を許した人間にしか見せない態度だ。

 

 しかし、この緊急事態では話が違ってくる。

 薄いシャツに袖を通す女の腕を自分の肩にやり、その身体を支えてやる。

 

 酔っぱらいか何かかと思ったが、酒の臭いも煙草の異臭もしない。

 

 薄闇の中で見える、赤みの帯びた紫色の巻き髪や豊満なバストが目に映り、またその顔を見れば、確かに大人びているが、歳は離れていないんじゃないかという印象を受ける。

 

 そこに、星空凛の張り上げられた声を聞いたのか、小泉花陽が駆け寄ってきた。

 

「凛ちゃん、どうしたの!?」

「かよちん! すぐにお水か何か買ってきて! 急いで!」

「あ……う、うん!」

 

 星空凛に肩を借りて力なく座り込んでいる女性の姿に驚きを見せたが、小泉花陽もすぐに反応し、行動に移す。

 

「う……うぅ~ん……?」

 

 そして耳元で大きな声を聞いたせいか、その女性は呻るような声を漏らしながら、薄く目を開けた。

 

(うわ……綺麗な瞳だな~)

 

 それが、星空凛の持った感想。

 透き通るマリンブルーの瞳からは、涼しく、乾きを癒してくれそうな清涼感が感じられた。

 

「あの……体調は、平気ですか?」

 

 緊張した様子で、星空凛は話しかける。

 初対面の人物と話すことを、彼女はあまり得意としないのだ。

 

「……、あなたは?」

 

 その女性と星空凛の視線が交差する。

 掠れた声を聞いたと同時、どこか、その端麗な顔に見覚えがあるように思えた。

 

「あ、……星空、凛です」

「……どこかで会ったことあるかしら?」

 

 驚いた。

 星空凛がなぜかふと思った疑問を、彼女の方からもしてくる。

 

 呂律は回っているので、やはり酒に酔っている訳ではなさそうだ。

 なら、なぜこの女性はここまで酷く衰弱している様子なのか?

 

「いや、多分、ないかと――」

「凛ちゃん、お水買ってきたよ!」

 

 背後から小泉花陽が小走りで来る。

 片手にはペットボトルの天然水が握られていた。

 

「は、早く飲ませてあげ――えぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっっっ!?!?」

「うわっ!? なに! なにっ!?」

 

 突然、二人の元に駆け寄ってきた小泉花陽が雄叫びを上げるもので、星空凛が酷く慌て始める。

 また小泉花陽は――その驚愕に見開かれた視線を、ペタンと座り込んで身体を支えてもらっている、その女性に向けていた。

 

 そして、言う。

 

 

「せ、Sexy・Charmの……く、くく……來栖麗羅さんじゃないですかぁぁぁああああああああ!?!?」

 

 

 ……あぁ、なるほど。

 星空凛は納得し――

 

「って、えぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっっっ!?!?」

 

 

 







 一年生幼馴染み組と來栖麗羅の出会い。
 これは後に、物語をさらに混沌とさせていく――。

 そんな気がしますね僕は(^^

 次話もよろしくお願いします!
 次話はきっとすぐに投稿できます!

 
 ……しかし、この物語は出会いが多いなぁ。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。