笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

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 調子に乗って章分けとかしちゃいましたよ、はい。

 これからも大勢の人達がこれを読んでくれる事を願って、僕も頑張ります!
 応援よろしくおねがいします!

 
 では、美雪ちゃんのμ's加入後からの物語です! 




第二章
7話 出発点


 

 

 男は選択を間違ってしまった。

 

 

 会社帰りのサラリーマンや放課後に外出している学生などが多く行き交う大通りを行けばよかったものを。

 

 何とか逃げ切ってやろうと焦った彼は人気のない裏路地へと入ってしまった。

 

 隠れた名所と言われるような居酒屋の看板の蛍光灯はすでに消灯されており、ジメッとした空気は辺りの暗闇と調和しきっている。

 

「はぁ――はぁ――はぁ――――ははははははははは! どうだ!? 撒いてやったぞ! ざまあみやがれ!! あっはははははは!!」

 

 背後を振り向いた彼はその視界に人影がない事を確認すると、荒い息を吐きながらも喉元を歓喜と達成感に震わせた。

 

 直後。

 

 

「ほぉ……んで、お前はいったい誰から逃げ続けてこんな所に迷い込んだんだ?」

 

 

 相手を嘲笑するかのようなその声に。

 彼は足のつま先が向いている正面を向く。

 

 背の高い、肩幅ががっしりとした体格の人影。

 

 ――回り込まれた!?

 彼はそう考えた直後、即座に身体を反転させてもと来た道を引き返そうと走り出す。

 

 しかし、その抵抗も虚しく打ち破られる。

 

 

 額の真ん中の根本から分けられた長い金髪のその男は一歩踏み出すとその場で高く跳躍し、路地裏の汚れた壁に右足を着地させると、何とそのまま垂直を走り出した。

 

 壁を蹴り宙を舞うと、逃走する彼の首根っこへと断頭台の如く蹴りを入れる。

 

 

「が――っっっ!?!?」

 

 前転を何度も繰り返しながら地面を滑る彼の胸ぐらをキャッチし、男は引き上げ互いの顔を真正面から至近距離まで近づける。

 

「久々に街で美雪を見かけたからデートにでも誘おうかと思ってたのによ……それをどうやら後からこっそりと付け回してる奴がいるじゃねぇか、あ?」

 

 ばれていた!

 彼は焦った。

 

 簡単な仕事のはずだった。

 

 長い銀髪に赤い瞳。

 これに見合う人物に目を付け、写真を一枚、携帯に収めるだけのミッションだった。

 

 ――見事に、邪魔された。

 

 

 この、水浦竜三に――――!!

 

 

「……で、誰の差し金の訳?」

 

 すでに彼は完全にびびりきっていた。

 

 その質問には答える訳にはいかない。

 自分が兄貴に何をされるか分からないからだ。

 

 だがこの質問には答えなくちゃいけない。

 自分が今、目の前の男に何をされるか分かったもんじゃないからだ。

 

 彼が悶えるように身体を震わせ、顎をカクカクと鳴らしていると、ふと水浦竜三が目を細めて言う。

 

「……梶ヶ谷か?」

 

 彼の両肩が跳ねる。

 細っこい両目が見開かれる。

 

 それだけで、答え合わせは完了していた。

 

「……なるほど」

 

 水浦竜三は彼の胸ぐらを離してやる。

 代わりに、三つの煌めく指輪がはめられた右手の指で、彼の鼻の頭を掴んだ。

 

「帰ったら梶ヶ谷に伝えておけ…………俺に歯向かってくんのは構わねぇが、美雪にだけは手ぇ出すんじゃねぇってな。……あいつはこれっぽっちも関係のない奴だ。もしあいつのあの綺麗な身体に傷一つでも付けようもんなら、俺が直々にお前のその目ん玉を抉りにいってやるってな」

 

 ゴッキィッッッ!!

 何かが砕ける音がした。

 

  

 

  ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 けたたましく鳴り続けていたスマホに手を伸ばしながら、俺はベッドの上で薄目を開けた。

 ぼんやりとする視界に直接陽射しが差し込んできて、俺は思わず涙ぐんだ。あぁ、そいうや昨日はカーテン開けっ放しで眠っちまったんだっけなぁ。

 

 スマホのトップページを開いてみると、着信ありのメッセージが七つ程来ていた。

 絢瀬絵里、東條希、矢澤にこの同級生三人からだ。

 

『美雪ー、もう起きたかしら?』

『美雪ちゃ~ん、朝やで~』

『寝坊したなんて許さないからね!』

『もしかしなくても、まだ寝てるんと違う?』

『ちょっと美雪……頼むわよ新マネージャーさん』

『神田明神だかんね! 絶対に来なさいよ!』

『美雪ー! 起きなさーーーい!!』

 

 ………………あぁ。

 そういや昨日、朝練がどうとかこうとか言ってたよな。

 あぁ、そうだ。確かに言っていた。

 

 音楽室での一件の後、俺はアイドル研究部とかなかなか典型的な名前の部室に案内された。

 そこで早速明日、つまり土曜日……つまり休日の朝練習は神田明神に八時集合とか言っていた。園田が高坂に寝坊するんじゃないと怒鳴りつけていたのを覚えている。……やっぱあの二人、どこか仲悪いんじゃねぇの。

 

 んで、今の時間は……。

 

「やッべェ、七時四十五分……」

 

 あいつら、俺が寝坊するのを見越して個人のライン送ってきやがったな。

 

「どうするか……いつもの俺ならサボるンがだな……」

 

 そもそも俺はあいつらに必要な名前を貸してやっただけだ。朝練習にまで付き合ってやる義理はない。

 

 と、そんな時に、またスマホが震える。

 

『もし遅刻したらワシワシの刑やで♪』

 

 ……ワシワシって何だ。

 だが、なぜか東條から送られてきたメッセージには直感的に悪寒を覚えた。野生の勘という奴か。

 

 そもそも向こうのスマホ画面には俺からの既読が記録づけられていて、まだこっちは寝ていますよの言い訳は使えなくなった。

 

 そのせいか。

 

「まァ、行くだけ行くか……」

 

 のそのそと蠢くように俺はベッドを降り、部屋を出た。

 

 階段を降りると親父から、

 

「うおわおんっ!? な、何でお前こんな朝早くから起きて――あっち! コーヒーこぼした!! 美雪タオル! タオル早く!」

 

 と急かされたのはまた別の話だ。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 上は薄手の白と灰色の長袖シャツにフード付きの黒パーカー。下はメンズ用のネズミ色のジーパンを履いていった。

 

 普段の朝飯通りに缶コーヒーで口を湿らせながら住宅街が並ぶ道を歩いていると、突き当たりにやや大きな敷地を構えた和菓子屋が目に入る。

 

「和菓子屋、『穂むら』……? この辺にこンな店、あッたンだな……」

 

 その店の前を俺が通り過ぎようとした瞬間。

 

「わわわわ! 大変大変! もう完璧に遅刻だよぉぉぉぉぉぉ!!」

「あなたが毎度のように寝坊するのがいけないのでしょう! いつもいつも付き合わされている私達の身にもなってもらいたいですよ! ほらことり! あなたも急いでください!」

「あわあわ……待ってよ海未ちゃん、穂乃果ちゃん~!」

 

 店の扉が勢い良く開き、そこから発射されるように飛び出してきた高校生ぐらいの女三人と。

 俺の視線がばったりと合った。

 

 そこからのタイムラグはおよそ一秒にも満たない。

 

 玄関から猛スピードで脚を回転させる、そのオレンジがかった茶髪をしたジャージ姿の女が高坂だという事に気づいた刹那の逡巡。

 俺は彼女に腕を掴まれ、巻き込まれるように疾走していた。

 

「おっはよー美雪ちゃん! 美雪ちゃんもさては寝坊だな!? そんなノロノロ亀さんみたいに走ってたら絵里ちゃんにお説教食らうよーーー!?」

「お、おいこらテメ――ちょ――待――――速い――――!」

 

 急展開に言葉を出せなくしていると、何気にしっかりと俺達の後に続いてきている南に挨拶される。

 

「おはよー美雪ちゃん」

「お、おう……よぉ南、それと――」

 

 腕を引っ張られながら背後を向き、俺は視線を南の後ろに向ける。

 

「えーっと……そ、園田……」

 

 ……で、合ってたよな。

 

 しかし、濡れたように長い青髪を暴れさせながら走る園田は、俺の呼びかけにプイ、と横を向きやがったこの野郎。

 

 昨日もこいつはそうだった。

 部室でメンバーが俺に挨拶をする為に席を立った時、こいつだけは酷く素っ気ない態度を見せていた。

 その表情にはわずかだが、敵意を向けるような雰囲気も感じられた。

 

 俺、こいつに何かしたか?

 いや、そもそも会話した事ねぇな――。

 

 だが、別に対して問題はないだろう。

 

 高坂に腕を引っ張られようが。

 南になぜか走りながら超スマイルを向けられようが。

 園田に原因不明の無視を決め込まれようが。

 

 俺は絶対に、これだけは飲みきる――。

 

 そう決意し、俺はブラックコーヒーをまた一口啜った。

 

 





 威勢の良い啖呵を切った割りにはあまり進みませんでした……ははは(乾笑)。

 でもどうか次話からもよろしくお願いします!

 感想や指摘、ご質問などもばんばんください!
 よろしくお願いします!
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