物語では二学期スタートです!
現実では二学期が終わりそうです!
第八章の幕開けです!
高熱に苦しまされていますが、書き溜めしていたものなので更新しますぜい!
84話 二学期スタート
机に設置される蛍光灯の明かりを真上から受けるだけの場所に、一台のノートパソコンが開かれている。
それは画面が開かれ、液晶の画面にはとあるページが公開されていた。
音声と同時に映像が動いている。
どうやら撮影されたものらしい。
〈タイムライン〉。
『ラブライブ!』の公式サイトページから、各高校のアイドルグループ達が自由に物事を投稿し、それを全国の閲覧者に見せられる、一つのアピール舞台。
画面に映し出されるのは、綺麗なオレンジ髪が短く整えられた、一人の女の子。
東京都内の予選順位が現在三位である、音ノ木坂学院のスクールアイドルグループ、μ'sのメンバー――星空凛であった。
制服姿で映る彼女は椅子に座った状態で、机から上半身を出し、カメラに向かって何かを喋り続けている様子だった。
前回に投稿した、女の子らしくない自分に自信がない、と発言したことについて。
その悩みも、ファンからのメッセージやメンバーの献身的な支えによって、解消されたことの報告。
また、自分のこと……そして自分達のグループのことを、これからも応援してほしい――ということ。
約五分といったその動画が終了すると、画面の真ん中にリピートのマークが表示される。
マウスを操作する手は動かされず、別の片方の手によって、電源も切らぬままノートパソコンの画面は閉ざされた。
「ふぅん……立ち直れたんだ、星空凛ちゃん」
蛍光灯の白い照明のみの薄暗い部屋で、机と向かい椅子に腰掛ける少女は一人、ボソッと呟く。
ダンッ!! と。
ノートパソコンを閉じた左手に拳をつくり、それを机の隅へ力任せに叩き付けた。
「ふざけやがって……」
忌々しく呟く。
その表情は禍々しい程に歪みきっていた。
目を般若のように細く、眉をうねらせ――口内の奥歯では金属が軋む音がしている。
普段、学校で生活している時の彼女は、このような言葉遣いは絶対にしない。
彼女は自分の思い人が隣に立っている時、このような表情は決して浮かべない。
「くそったれがぁ……っっ!」
握り締めた拳から、血が滲んでくるような圧迫でもって、腕から身体全身を震わせる。
彼女――來栖麗羅という少女の中で、ふつふつと煮えたぎる、舞い上がる炎混じりの溶岩が湧き出ているようだった。
「なんでぇ……なんでっ……こんな女が幸せそうにっっ! ――私は……私はぁ…………っ!!」
狙撃された獣が傷口を庇いながら、悶える苦しみに呻っているようにも聞こえる。
時折聞こえてくるこの声から、彼女の両親だって、気軽に娘の部屋の扉をノックすらできないのだ。
また今日も、そうして來栖麗羅の夜は過ぎていき――。
ーーーーーーーーーーーーーー
二学期が迎えられた。
制服姿で鞄を肩にかける同校の生徒達が、友達同士で会話しながら横を追い越していき、我が校の校門を抜けていく。
見知った顔はいないものの、長い夏休み明けであると、毎年この時期のこの光景には、久しぶりだと感じてしまう。
学校指定のジャージ上下。
見た目も機能も充実しない毎度の格好でもって、俺――夜伽ノ美雪は今日も登校していた。
今年は例年とは違い、学校に来るという感覚に久しぶりだとは感じない。
夏休みにの間にも、μ'sの――部活動の練習で顔は出していたのだ。
「コーヒー……買ッてくか」
昇降口の下駄箱でシューズに穿き変えると、教室へと繋がる階段とは真逆の方向を目指す。
夏休みのとある日――俺が一年生のとある二人組に叱咤を浴びせたこの場所。
体育館へと続く渡り廊下の自動販売機で、いつものブラック缶を購入した。
「…………」
この場でプルタブを開けてしまってもいいのだが、廊下で飲み歩きでもしていたら、あの口うるさい金髪生徒会長の怒鳴られるので、やめておこう。
缶コーヒーを片手に、バックをリュックサックのように背中に担ぎながら教室へと向かう。
数は少ないとは言え、誰かと会うかもしれない――という予想は裏切られ、知り合いとは一人も顔を合わせぬまま、教室の前に辿り着いた。
「……はッ、」
何を期待していたんだか。
偶然に知り合いと会えば、「おはよう」「おう、おはよう」なんて当たり前の会話を妄想していたのか。
「くッだらね」
自分に呆れ――妙な恥ずかしさを隠して悪態を吐くと、教室の扉を開けた。
「来たーーーっ!! みんな! 我らがμ'sの救世主、美雪マネージャーのお出ましやでぇぇぇええええっっ!!」
聞き覚えのある癖のある口調と声が教室中に響き渡ったと同時――、
「「「ワーーーーーーーーーーッッッ!!!」」」
なんてうるさい多数の悲鳴……不協和音に、俺はギョッとしながら顔を顰めた。
そして一瞬。
俺が反応を起こす前に、すでに俺の周囲(前方の教室の中)には人集りが出来上がり、全員が全員、両手を拝むように組みながら俺に注目を浴びせてきていた。
「…………は?」
あぁ、冷静に状況判断した所で訳分からないな、これは。
しかしどう見ても、この状況を作り上げる布石を発掘しまくっていたのであろう人物――東條希は、ニシシと白い歯を見せ、人の密集から外れた所で笑みを浮かべている。
「ニャロウ……今度は何を――」
言った途端。
「夜伽ノさん!」
「お、おゥ……」
集団の最前列の中央に立つ女子生徒が代表するように、俺の名を威勢の良い声で呼ぶ。
クラスメイトだろうが、三年間、一度もこの女子生徒とは話したり、何か行動を一緒にしたりといった記憶はない。
他の生徒達も同様。
俺を取り囲む奴ら全員、俺とは会話はおろか、きっとまともに顔も会わせたことがない生徒ばかりだ。
「あ、……あ…………」
「……あ?」
しかし勢いが良かったのは最初だけか。
急に腰を曲げて顔を俯かせ、手元をモジモジとさせると、恥ずかしそうに声を萎ませる。
しかし次の瞬間、彼女は意を決したように顔を上げると、なぜか俺を睨み上げる面でもって――。
「あ、握手! してください!!」
…………。
…………おいおい。
お辞儀と共に、腕をピンと張り、右手を差し出してくるその女子生徒に続き、同じ言動を取るその他大勢を見て、思う。
おいコラ東條、テメェなにした。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「いやいや。ウチはただ、人数が揃わなくて破滅の危機に追いやられているμ'sに、女神の如く手を差し伸べてくれた夜伽ノ美雪マネージャー様について、ちょいとあの子達にお話していただけやで?」
「大袈裟だろ。なァにが破滅の危機に追いやられていた、だ。あと俺は女神なンてキャラじゃねェ」
「まぁ、ほとんどの女の子はみんな、片髪を上げてその眼光を露わにした美雪ちゃんのイケメンっぷりに惚れたみたいやったけど」
「顔か。結局は顔ッてことか」
あれから俺は全員分の要求に応え、緊張からか手汗を滲ませる生徒にも嫌な顔をなんとか堪え、サービスワークを終えた。
今はというと、東條と二人並び、講堂へと続く廊下を歩いている。
今日は二学期の初日――講堂で理事長やら生徒会長のお話を聞き届けなくてはならない、始業式なるものがあるからだ。
「……なァ、希」
「ん? どないしたん?」
呼びかけてから、俺は躊躇った。
ぱっと頭に浮かんだこの疑問、どういった言葉で質問していいのか。
間違えればただのナルシスト野郎のレッテルを貼られるかもしれない訳だが――。
などと考えているうちに、俺の口は動いていた。
「俺ッて、そんなに容姿が優れて見えンの」
やっべぇ言っちまった。
言葉を濁らせるのも詰まらせるのも何かダサいなとかいう考えが刹那に浮かんだと思ったら口に出ちまった。
しかし、意外にも希は発言を茶化そうとはせず、歩きながら俺の顔をジッと見つめてくる。
「ふんふん…………ふ~ん? へぇ~?」
いや、茶化そうとはしないがどうも顔が憎たらしい。
面白そうな玩具を見つけたみたいに、そしてそれをどう弄くり回してやろうかと悪巧みするみたいな、意地の悪いニヤけた表情を描き始めた。
「美雪ちゃ~ん? もしかして君、誰かに告白されたりしたん? ん~?」
「……………………」
「……え」
どう反応しようか迷い、ここで黙ってしまうのがいけなかったか。
言った本人も「まさか」という風に、ニヤけた面に困った汗を浮かべ、表情を苦しい笑いに変えた。
しかし、まさか俺のさっきの質問で、飛躍的にそういった予想に繋げられる希も希だろう。
察しがいいのもスピリチュアルなのか。
「ほ、ほんまにされたん……?」
「……あァ~」
しかしそうこうしているうちに、あっという間に講堂の広い入り口へと辿り着いてしまう。
体育館とは違って渡り廊下を通過する訳でもないので、教室からここまで、距離はそう長くはないのだ。
そして入り口には当然、同じ任務を持った全校生徒達が群れる虫のように集まり、混雑している。
ここで話はできないな、と俺は判断した。
「なァ希。いつか、お前に……お前になら、多分、できるから」
他の友人を信用していない訳ではない。
ただ、希の物腰の柔らかさと人当たりの良さは評判であるし、『人の悩みや相談事』について、彼女が真摯に向き合ってくれることは、俺自身としても、よく知っているから。
「いつか、お前に相談する時がくるかもしれない」
面と向かい、そう言えるようになった俺は、成長できているということなのか。
それとも、そんなことは人間として――弱点ばかりを持ち合わせた人にとって当たり前のことなのか。
いずれにせよ。
そんな俺に、希は目を閉じ、微かに口角を上げて頷く。
「うん」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「美雪ちゃーーーーーんっ!!」
講堂内に波紋となって広がるその甲高い声に、俺はその方向に顔を向けた。
見れば、朝からテンションマックスですと言わんばかりの笑顔でこちらに大きく手を振る、星空凛の姿が見られた。
「あははっ。ほんま、元気が一番の取り柄な子やなぁ」
「本当になァ」
俺の方も小さく手を上げると、凛の隣の席で、小泉花陽が焦った様子で彼女に制止を声をかけているのが目に入った。
またその隣の席では、相手にしていられないと大きく溜息を吐きつつ、赤毛の毛先を指で弄っている、西木野真姫の姿もある。
「真姫ちゃんもすっかり、あの二人にベタ惚れみたいやね」
「…………」
「ちょっと前の真姫ちゃんなら、素直になれずに他人を突き返す傾向があったからなぁ」
「………………」
「……美雪ちゃん?」
呼ばれ、俺もハッとする。
両肩が大袈裟に跳ねてしまい、希に怪訝な視線を送られた。
「いや、何でもねェ……。ンで、俺達のクラスの席ッて――」
『絶対に手に入れるわ…………なんとしても……今までの分は絶対…………必ず……逃がしたら……』
「ッッ……!!」
また、だ。
またあの映像が――。
「美雪ちゃん。ウチらの席、あっちやって」
「……あァ」
どうも、あの時の光景が未だに頭に焼き付いていて、離れてくれない。
いや……それは仕方のないことだろう。
あれだけの非現実世界を味わわされて、忘れろというのが無理な話だ。
「あ、向こうは穂乃果ちゃん達やん」
「ッ……」
穂乃果。
高坂、穂乃果……。
『できないよ…………はは……もう、ほんと……大きすぎるよ……』
何を悩んでいた。
そんな性格じゃないだろう。
目的に向かって、ただがむしゃらに走り続ける。
それがμ'sのリーダーの姿なんだろう。
今だって、視線を向ければ穂乃果は、自分を挟んで席に座る幼馴染み二人と楽しそうに談笑している。
あの映像に流された高坂穂乃果は別人で……嘘偽りの人間性ですと言われれば、すぐに納得できてしまう。
「……美雪ちゃん、平気なん?」
「あ? 何が……」
「顔、なんか怖いよ?」
「…………」
悪い癖だ。
治せるように心掛けよう。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
『こっちは身を削る思いで孤軍奮闘してる最中なのよ! 私に時間がないことはあなたも分かりきっていることでしょうっ!?』
「ッ――」
目を開けると、自分の首筋が少し汗ばんでいるのを感じた。
どうも、始業式の最中――理事長の話を適当に聞き流しているうちに、席の肘掛けに肘を置き、手を枕にして眠っていたらしい。
「ったく。始業式から良いご身分ね、あんたは」
左隣の席の矢澤にこがフンッ、と言うと、右隣の希がクスッとおかしく笑った。
「……つゥか今更だけどよ。お前ら俺とクラス違ェだろうが。何で隣にいンの」
「講堂の席順は体育館と違って、クラスも何も関係ない自由席やで」
「美雪、あんた……この学校に三年間通っていて、そんなことも知らない訳ぇ?」
悪かったな、無知で。
生憎、今までの式や学校行事は全てサボっていたもので。
『続きまして――生徒会長、絢瀬絵里さん。お願いします。壇上へ……』
司会の進行の声に、壇上の袖幕から、背筋をピンと伸ばした優雅な歩き方でもって、金髪を揺らす絢瀬絵里の姿が見られる。
『みなさん、こんにちは。生徒会長の、絢瀬絵里です――』
きっと、毎度こんな感じなのだろう。
誰もが知っている自己紹介を述べ、夏休みはいかがお過ごしでしたか、なんて返答を求めない発言で時間を持たせる。
堅苦しい生徒会長。
そんなイメージがピッタリと当てはまるスピーチのようだった。
俺は、自身がμ'sに加入する前――絵里の表情が、以前より随分とにこやかになった、と感じていた時があった。
だが、今はどうだ。
俺がμ'sのメンバーとなった後。
屋上での練習時や、合宿の時。
楽しそうに、今後の生活に期待しているような笑顔を、絢瀬絵里から見られたか。
一度、俺はこの学院の理事長に打ち明けたことがある。
どうしても、絢瀬絵里だけが信用できない、と――。
今も、その感覚は消えないままだ。
あいつだけは――。
絵里だけは、何か違う。
廃校阻止のため、またはラブライブ優勝のためと奮起するメンバー達とは、全く異なる目的意識。
俺は棄てたぞ。
当時に抱えていた曖昧な考えは破棄できた。
本当の最終目的。
それは、廃校の阻止か。
大会の優勝か。
どっちでも良い。
メンバーが、行きたいと思う所まで――。
「だがなァ……」
今も、生徒会長の立場から、全校生徒へ向けて演説を続ける彼女。
現在の音ノ木坂で最も話題の上がっているはずのスクールアイドルについて、一度たりとも、触れようとはしていない。
「……二学期」
始まった。
体育祭。
文化祭。
ハロウィーン。
クリスマス。
忙しくなる。
西海、ユーチューバーになるってよ。
……冗談です。
次話もよろしくお願します!