笑顔を咲かせた少女は紛れもなく…   作:西部荒野に彷徨う海賊

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 日常系を描くことに関してはとことん不器用な西海です。
 何でもない平和な日常――意外とそれって描写が難しかったりしますよね。

 ……あ、そんなん僕だけか。

 それでは今回もよろしくお願いします!






85話 感謝の贈り物

 

 

 

 始業式の日の学校は授業がなく、一時間のショートHRで放課後を迎えた。

 

 時間にして午前一〇時。

 鞄を背負って教室を出ると、俺は寄り道もせず、部室へ伸びる廊下を真っ直ぐに歩いて行った。

 

 始業式の日だろうと、今日も部活動はある。

 というか、学校が通常より遥かに早く終わる日なので、その分の練習量も稼げる訳だ。

 

「うーッす」

 

 言いながら、部室の扉を開ける。

 見るとほぼ全員が揃っていて、彼女らは俺の姿を確認した途端――。

 

「あ、美雪ちゃん来た!」

「ようやく、今日の主役がお出ましですか」

 

 穂乃果と海未に続いて、次々と、全員が群がるように俺の方に寄って来た。

 どうもこの光景、人数の違いはあろうと、デジャブを感じる。

 

「あ……? どうした、お前ら」

「さぁさ、美雪ちゃん。鞄持つよ。貸して貸して」

「お、おう……」

 

 すると花陽が遠慮なく半ば強引に、俺が両肩に手提げを通して背負う鞄を剥ぐ取ってくる。

 事態が把握できず抵抗の姿勢も見せられない俺から鞄を奪取すると、それを部室の長い机にポンと置いた。

 

 ん……?

 置かれた俺の鞄の隣――どうも見覚えのない、リボンで装飾された四角い箱がある。

 

「ほら美雪、早くこっち来なさいよ」

「うおッ……」

 

 グイッ、と真姫に強く手を引かれ、前のめりに部室に入すと、後ろで扉がひとりでに閉まる音がする。

 

「おい、どうしたンだよ――」

 

 どうも、様子がおかしい。

 この場にいない生徒会組二人を除いたメンバー全員が、俺の顔を見るなりニヤニヤしたり、落ち着きなくソワソワしている。

 

「はい、ここに」

 

 俺が立たされた位置というのは、いつも俺達が椅子に座りながら囲む、縦長の机。

 その手前に置かれた四角い、水色の箱にピンク色のリボンが飾られた箱と、俺は向き合う形になった。

 

「……何だこれ」

「開けてみなさいよ」

 

 机の横の、手前の端に腰掛けるにこが、そう促す。

 

「私達から、あんたへのプレゼントみたいなものよ」

 

 ……プレゼント?

 この、箱の中身が……?

 

 机を挟んだにこの反対側には、ことりが座っていた。

 彼女は俺と目を合わせるなり、「えへへ」と遠慮がちに笑う。

 

「……?」

 

 今の、一瞬気を取られ、焦燥を誤魔化す笑い方に疑問は持ったが、俺の関心はすぐ、目の前の箱に注目した。

 

「……え、じゃァこれ、何? 開けていい訳?」

「早く早く!」

「焦らさないでほしいにゃー!」

 

 俺が次なる行動に迷っていると、後ろで穂乃果と凛がそう急かしてくる。

 

 だが、慣れないものは仕方がない。

 あなたへのプレゼントです、なんてイベント、俺には経験があまりないのだから――。

 

「ン、じゃあ……」

 

 言われて俺は、両手でもって箱を包むリボンを解く。

 すると、今までリボンに隠されていた、狭い幅の部分に『Present For You』と、金色の粉を固めたようなインクで……それもお洒落な筆記体で描かれている。

 

 箱の蓋の両端を持ち、全員が見守る中、俺はそれを――開けた。

 

「……ン?」

 

 中には、よくクリスマスプレゼントなどを包装する、しわくちゃの白い紙袋が、何かを包む形で入っていた。

 

 俺はそれを取り出し、それを開封する。

 中から姿を現した、黒、灰色のそれを、おもむろに持ち上げる。

 

 すると、形が広がった。

 布の感触に、それが何か理解した。

 

「服……」

 

 一枚のシャツだ。

 長袖で、少し胸元が開いた――。

 

 漆黒と平凡な灰色が直線的で交互に走る縞模様の中に、銀色に映える六芒星が、心臓の位置に描かれている。

 肌触りのいい外側の生地といい、下から手を入れれば分かる暖かい感触といい、決して安物ではないと分かるものだ。

 

「これ、どこで……」

「オーダーメイドよ」

 

 ピシャリと。

 にこが堂々と胸を張り、フンと鼻を鳴らしてそう言った。

 

「世界に一つしかない――このスーパーアイドルにこにーが手がけてあげた、最高の仕上がりの一品ってことよ」

「にこちゃ~ん? これは主にことりちゃんが作ってくれたにゃ~」

「んぐ…………ま、まぁそうなんだけどね? 私はあれよ、まぁ、ことりのサポート役だったというか……ねぇことり」

 

 振られたことりに、俺も再び彼女を見る。

 

「うんっ。やっぱりにこちゃんはお姉ちゃんなだけあるよね。今までの衣装制作だって、凄く助けられてるもん」

 

 そう、いつもの甘い笑顔を向けた。

 

 だがやはり、俺は戸惑う一方であり――。

 

「え、何……ンじゃこれ……えッと――?」

「あんたには、夏祭りの時と言い、部員のフォローといい……いろいろ助けてもらったしね」

 

 俺はシャツの両肩部分を掴んでそれを広げ、前に掲げたまま、言ったにこを見る。

 

「それに、私達が練習してる中であんた一人だけジャージ姿ってのも変だったじゃない?」

 

 え、あれ変だと思われてたの。

 予想外の方向から鋭い矢が刺さったが、構わずにこは続ける。

 

 こちらも慣れていないのか、腕を胸の前で組み、プイと顔を背けて。

 

「だからそれは、お礼よ! マネージャーの仕事をよく頑張ってくれてるあんたにお礼と……」

「これからも私達のことをよろしくねっ! っていう意味での、プレゼントだよ」

「……穂乃果、なに最後だけ持っていってるのよ」

「あ、あれ……駄目だった?」

 

「まぁ、つまりそういうことですよ、美雪」

 

 一歩、海未が前に出て、俺の隣に立った。

 

「まったく、加入当時は『名前だけ貸してやる』、なんて無責任なことを言っておきながら――どうしたことか、あなたは私達の予想を遥かに凌駕する程の働きをしてくれました。悪態は吐くものの、それでも仕事は最後まで全うして、ユニットの件では私達に我先へと自分の意見を出してくれて」

 

 随分、懐かしいことを言ってくれた。

 そのことに、懐かしいと思えた俺自身に、驚きだった。

 

「無論、メンバー一人一人が、重要な役割を担い、それを果たしてくれています。その中でも特に、美雪――私達は、あなたに感謝しているのですよ」

 

 にっこりと。

 今までに見たことのない笑顔で、上品に首を傾げながらの仕草は、とても可愛らしいと感じた。

 

「今回のプレゼント企画は、ことりが発案したものだけどね」

 

 部室の棚に寄り掛かり、髪の毛をクルクル弄っている真姫が言う。

 思わず意外だと思ってしまった部分もあり、俺は感嘆する息を漏らした。

 

「そう……なのか、ことり」

「え、えへへ~」

 

 照れるように頬を指でなぞり、フニャッと口元を緩ませて笑うことりの顔色には、先程と同じような、誤魔化しの色が入っているように見えた。

 照れているのとは別の――何だろうか、このプレゼント企画というものに、何か別の意図があったりするのか。

 

「というか、まだプレゼントは途中よ? 箱の中を見てみなさい」

「え……」

 

 そう言われ、俺は再び箱を覗き込む。

 言う通り、白い紙の包みが重なるように、まだ置いてあった。

 

 それを取り出すと、また一つ。

 別の包装紙が底に置かれている。

 

 二つを机に並べ、片方から包装紙を、いつの間にか俺を囲むように全員が並んだ所で、ゆっくりと開け始めた。

 

 一つは、なんとズボンだった。

 というのはジーパンやスラックスなどではなく、継ぎ接ぎ面がやや目立ち、尻の二つのポケットにそれぞれ『M』と『Y』が小さく糸で縫われている。

 動きやすさを意識したのか、伸縮性の良い、紐をぶら下げたサルエルパンツに似たようなものだった。

 

「それにこれは、これから寒くなった時のためにね」

 

 ことりが言い示した二つめには、防寒対策と言っておきながら薄い布生地で作られた、裾の長い上着だった。

 マーブル模様に走る濁った金色と黒色が長く続き、裾の方は控えめに燕尾服式に切られている。

 腕から手首の方にかけて袖口は大きく広がっているようで、そこから解れた糸口が数本、意図するようにプランプラント垂れ下がっている。

 

「……いや」

 

 この三着。

 見た目からしても、どうも――。

 

「材料費とか、けッこうあッたはずだろう。つか、いつの間に作ッてたンだか……。夏休み終盤は練習尽くしで――」

「だから大変だったよね~。みんなで良い材質の素材を集める所から――ヌグッ」

「穂乃果、黙ってましょうね」

 

 穂乃果が何かを言っていたが、闇のある笑顔でその口に手を置く海未。

 するとことりは手振り身振りでまた焦るように、

 

「いや、それは衣装作りの時に余った材料で作っただけなの。せめてもの気持ちをどうしても表したくて……。だ、だから予算を余計に使ったりはしてないよ? うん、ことり平気だよ?」

 

 と、何やら弁解し始めた。

 

「せ、せっかくだし美雪ちゃん。その衣装、今着てみればいいんじゃないかな?」

「おっ、かよちんナイスアイディア!」

 

 花陽と凛がそう言えば、その場の雰囲気が決定してしまう。

 全員がジッと、期待の眼差しを向ける者も、さして興味はないですよと言いたげな目も、俺を逃がすまいと見つめ始めた。

 

「ッ……ちょ、ちょッと待ッてろ」

 

 俺は三着の服を腕にかけ、隣の準備室へと入った。

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 改めて、メンバーがプレゼントとして贈ってくれた衣装を着た自分の姿を、鏡で眺める。

 

 周囲には「おぉっ」をどよめく声を上げるメンバー達の姿もある。

 

 俺の細身の身体にピッタリとフィットしているサイズだった。

 

 意外と着心地も暖かく、部屋の中で着ると蒸し暑くなるレベルだった。

 今の時期ならば、上着はまだ出番はないのかもしれないが――。

 

「何か、派手すぎねェ?」

「なーに言ってんのよ! 私服すら地味なものしか着ないあんたにとって、部活内でのユニフォームくらい、こんくらい派手なのが丁度良いわよ」

「おい、お前あのパーカー俺のお気に入りだぞ」

 

 すると続くように。

 

「凄い! 何かどこかのステージヒーローみたいだよ美雪ちゃん!」

「確かに、ソロならばこの姿でステージに上がるのも、おかしくはないのではないでしょうか」

「あら、意外と良いじゃない」

 

 そう口々に賞讃する。

 見てくれは随分と派手目で、普段の俺なら遠慮したい所なのだが――。

 

『だから大変だったよね~。みんなで良い材質の素材を集める所から――』

 

 やはり。

 これだけの衣服を完成させるのは、衣装制作の際に出た余り物でなんとかなるものではない。

 それにバレバレな嘘だと分かるのは、そんな漆黒に染まる素材を使った衣装など、今までの作品にはなかったはずだ。

 

『私達は、あなたに感謝しているのですよ』

 

 しかし、これが感謝の印ということならば、貰っておこう。

 有効に活用できるかどうかは分からないが、贈り物を受け取らないのは失礼なことでもあるからな。

 

 何より――。

 

 友人達が、俺の為に動いて、完成させてくれたプレゼントだ。

 

「…………」

「あ! 美雪ちゃんが微かに、それも何か珍しく優しい感じで微笑んだにゃ!」

「見間違えだろォ。そンな表情を浮かべられる程、器用じゃなくてな」

 

 だが、まぁ――。

 

「まァ、サンキュなお前ら」

 

 お礼ぐらいは言っておこう。

 

 

 







 むつかしいんだよな~日常系。
 でも日常系アニメは好きなんだよな~。

 さて、そろそろ第七章でボコられていた竜三くんのお話も前線に出していきたいと思っていますが――。

 その前に、夕霧靜霞の件もありますからねぇ。

 夕霧靜霞。
 水浦竜三。
 A・M。

 美雪ちゃん、悩み事多くてストレスやばそうですね汗

 それでは次話もよろしくお願いします!


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