インフィニット・ストラトス ~黒兎の見る世界~   作:フォールティア

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THE startline
#00 ハジマリ


ーーーああ、月が綺麗だ。

 

仰向けに倒れ込んだまま、僕はそう内心で呟いた。

背中に感じる硬いアスファルトの感触がいやに熱い。

全身が軋みを上げるように痛い。なにより、

 

ーーー足が使えないな、これじゃ。

 

両足の膝から下があらぬ方向へ曲がり、所々から骨が見える。素人目に見ても両足切断は免れない事が理解できる。

 

ーーーこれじゃ、夢・・・叶えられないな。

 

死にかけてる、否もうじき死ぬというのに僕はそんな事を考える。人間、死の間際になると冷静になるんだなと妙に落ち着いた思考をする。

鈍い動きで、腕に絡まったスクールバッグを手繰り寄せ胸に抱く。これには色々入ってるし、手放すワケにはいかない。

力の入らない腕でバッグを抱き締めると、不意に瞼が重くなる。

・・・もう、終わりかな。

 

ーーーもし、生まれ変わってまた人として生きられたなら。その時は、もっとマシな生き方をしよう。

 

視界が狭まる中、僕はもう一度夜空を見る。

 

ーーーああ、月が綺麗だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、僕こと扶桑 睦月は高校三年の卒業間際の三月、『この世界』から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーん?何、あれ」

 

 

薄紫の髪を揺らしながら夜の散歩をしていた少女は、街灯の光に照らされたナニカを見つける。

何の気なしに『外』の空気を吸おうと真夜中に散歩に出た彼女はそこにある異常に興味をもった。

基本的に彼女は己と、その親しい人達にしか興味を持たない。要するに、線引きの中と外の差がはっきりしている。

よっぽどの事象でもない限り彼女の心を惹くのは難しいだろう。

 

「人、なのかな?」

 

そう呟いて彼女は街灯の下へと歩き出す。街灯から離れた位置からなのでソレが何なのか特定は難しいが、凡そのシルエットを見て人らしいと判断を下す。

 

(血の匂い・・・)

 

近付いていく程強くなるそれに眉根を寄せる。それと同時に勘のようなものが告げる。

 

(人だったら、まあ救急車くらいは呼んだ方が良いかな)

 

ソレが人なら助けた方がいいと。

そして、街灯の下にある物がはっきりと視認出来る距離に入り、人だと理解した時に彼女は携帯端末を片手に走り出す。

連絡先は警察。今の自分の立ち位置からしたら危険極まりないが、仕方がないと割りきる。

このまま見捨てても何だか寝覚めが悪いような気もすると内心言い聞かせ、街灯に照らされた、血塗れで倒れた『少年』に対して応急処置を行いはじめたーーー。

 

 

 

後に彼女はこう語る。

 

「この時、彼を助けていなかったら。今の私は無かった」と・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ぁ」

 

重い瞼を開けると、そこには真っ白な天井が見えた。

あれ、僕は死んだ筈・・・。

鼻につくような薬品の匂いで、意識が完全に覚醒する。

上手く動かない首を何とか動かし左右を見る。右にはカーテンが。そして左には何やら大量の機器が置かれていた。機器から伸びるケーブルやら管やらは多分、僕の身体へと繋がっている。

 

「っく、はあ」

 

身体を起こそうと試みるものの、余りの重さに敢えなく諦める。

その時チラリと見えた現実に溜め息を溢す。

どうにかこうにか生きている。それは素直に嬉しい。だが、

 

「やっぱり、無いかぁ」

 

無いのだ、『両足』が。あの意識が消える間際に見えたのは夢でも何でもなく、現実だった。

 

 

交通事故、一言で言えばそれだけだ。高校からの帰り道、『不幸』にも横断歩道で転んで赤信号無視のダンプカーに足を引き潰され、吹き飛ばされた。

 

「ぐっ、うぅ・・・」

 

ダメだ思い出しただけで痛い。というか思い切り死にかけたからだろうか妙に冷静だ。

以前の僕なら間違いなく叫び声を上げているというのに。

いや、その前に茫然自失か?

まあ取り敢えず。現状の把握をする為にも看護士を呼ぼう。何とか自由の効く右腕を動かして頭上にあるナースコール用のリモコンに手を伸ばすが、上手く掴めない。というか何故かリモコン手前の空を掴んでしまう。

 

「おや、起きたみたいだねぇ」

 

端から見れば大変シュールな動きをしている僕の耳に、そんな女の人の声が聞こえた。

腕を止め、声の出所に顔を向けると、病室の入り口に立つ一人の女性が立っていた。

薄紫の長髪に、機械的なウサギの耳。水色と白のエプロンドレス。

なんというか、チグハグというか噛み合ってない格好のその人はニコニコと笑顔を浮かべながらベッドに横たわる僕に近寄ってきた。

 

「ハロー、ご機嫌如何かな?扶桑睦月くん」

 

「・・・どう、して僕の、名前?」

 

妙に高いテンションで話しかけてきた女性に掠れた声でそう返す。上手く声が出ないなんて、どれだけ寝ていたんだろうか僕は。

質問を質問で返す僕の声に女性は気にした素振りも見せずに頷く。

 

「真夜中の街灯の下に瀕死の状態で倒れていた君を助けた時、ちょっとバッグの中身を見てね」

 

ああ、成る程。バッグの中には確か生徒手帳が入ってたからそれを見たのか。

それにしてもこの人が僕を助けてくれたのか。

 

「ありがとう、ございます」

 

「いいよ、私は倒れてる君を見て興味本意で助けただけだから」

 

女性はそう言うと、にひひと笑った。興味本意で瀕死の人間を助ける。何というか、変わった人だ。

それから二言三言話した頃、女性が僕の下半身、今はない両足を指差した。

 

「両足、やっぱりダメだったか」

 

「車椅子生活になります、ね」

 

僕のその言葉に女性は自分のこめかみを指で叩いて、何か閃いたのかニヤリと笑う。

何だろう、嫌な予感がする。

 

「ねえ、車椅子じゃなくて、ちゃんと両足で立って生活してみたくない?」

 

「・・・それは、勿論」

 

「ふふふ、じゃあさ」

 

そこで言葉を区切った女性は僕の間近に顔を寄せ、まるで魔女の誘いのように言葉を続けた。

 

「君の両足、私が作ってあげようか」

 

あっさりと、何て事ないようにそう言った。

普通に考えれば、何を言っているんだと疑いの目を向けるべきなんだと思う。

でもこの人の眼は嘘を吐いているようには見えなかった。

長い間見ることの無かった、純粋な眼差しだったんだ。

 

「もう一度、歩けるようになれますか?」

 

「確約できるよ」

 

「走ったりも出来ますか?」

 

「それ位余裕だね」

 

「・・・お金無いです」

 

「要らないよ、お金なんて有り余って邪魔な位あるし」

 

出会ってたった数分だけど、この人なら頼ってもいいかなとそう思ってしまう。

そう思えるだけの何かを目の前の女性は持っている。だから、

 

「改めて、扶桑 睦月、です」

 

よろしくと言う意味も込めて自分から名乗る。僕の言葉を聞いた女性は数回瞬きした後、笑みを浮かべて名乗った。

 

「私は篠ノ之 束だよ、宜しく、扶桑くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

これが僕と天才にして天災と世界で呼ばれる女性との出会い。

そして、全ての始まり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





プロローグはもう少し続きます。
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