インフィニット・ストラトス ~黒兎の見る世界~ 作:フォールティア
一夏はやれば出来る子なんです・・・多分
「疾っ・・・!」
強い踏み込みの後に放たれる一閃。刹那の狭間に軌跡が走る。
構えを解いて、呼吸を整える。
誰もいない夜の剣道場の中、胴着を着た『織斑一夏』は木刀を置いて一人無造作に畳の上にその身を投げ出した。
「ふぅ・・・」
月明かりで辛うじて見える天井に手を伸ばす。その瞳には、かつて自分を救った『漆黒の鎧』、その背中が映っていた。
「まだ・・・届かない、か」
数年前、ドイツのモンドグロッソの会場から拐われた自分を助けた謎のIS。
朦朧とする意識の中に見えた、何人もの銃を持った人間を一人残らず鎮圧せしめた力。
その誰かを『守る』力に憧れ、あの日以来、今日に至るまで自己鍛練を欠いた事は無かった。
自分に出来ることを最大限にやろうと、剣道をやり、自分なりの戦いかたも身につけた。
白式を得ても慢心なんて無く、寧ろ更に鍛練に励むようになった。
全ては、名も知らぬあのISに追い付く為に。
「・・・よしっ」
一頻りの休憩を終えた一夏は再び木刀をその手に構え、素振りを始めた。
『ヴラド、進捗はどう?』
「問題ない、当日には確実に間に合う」
薄暗闇の中、モニター越しに二人の男女が話し合う。
『そう、それは良かった。『彼女』から盗んだデータは上手く使えたようね』
「何、確かに機械だけでは俺には作ることは出来なかっただろうさ」
モニターの向こうにいる女性に向かって男は歪に顔を歪ませ、背後を指さす。
そこには、異様に腕の長いISが沈黙していた。
「だが、『生け贄』が居れば話しは別だ」
『あまり、やり過ぎないで頂戴。あくまで今回は様子見、『素材』だって無限じゃないのだから』
「わかっているさ、ーー『スコール』」
スコールと呼ばれた女性は静かに息を吐いて自らの髪を掻き上げる。万人を魅力するであろうその仕草も、この『狂った男』には通用しない。
『わかっているのなら構わないわ。・・・では、決行日を楽しみにしているわ、『三人目』』
通信を終えたモニターから光が消え、完璧な暗闇が訪れる。
その中で、ヴラドと呼ばれた男は鋭い犬歯を覗かせながら喉を震わせる。
「ククク・・・あぁ、様子見なのだろう・・・?なら、それで死んだらそこまでのヤツだったって事だ・・・」
ーー歪んだ男の笑いは止まらず、涌き出でる悪意は誰にも止められない。ーー
「ギリギリセーフっ!」
「アウトだ馬鹿者」
オペレーションルームに入った僕に出席簿の鋭い一撃が直撃する。うぐぅ・・・痛い。
「まぁまぁ、織斑先生、まだ試合は始まってませんし・・・」
頭を押さえる僕を見て、山田先生が苦笑いを浮かべながら織斑先生を諌める。
今日はクラス代表対抗戦の開催日だ。会場であるアリーナは既に満員御礼状態で、座れるところなんてもう見当たらない。
まあ、それもその筈。第一試合は我が一年一組のクラス代表である一夏対、二組のクラス代表をもぎ取った鳳鈴音さんなのである。
・・・いつぞやの予想が当たるとは思わなかったよホント。
「はあ・・・それで、どうして遅れたんだ。ちゃんとした理由が有るんだろうな?」
「あー・・・アニメを観てたら寝れなくな゛っ・・・!」
途中まで言いかけたところで再び出席簿アタック。ふぉぉ・・・頭蓋骨がぁ・・・
あ、涙出てきた。
いやだって仕方ないじゃない、グレンラガンなんだよ?簪が劇場版含めて全部持ってたからついつい観ちゃったんだよ・・・
「後で反省文を書いてもらうぞ・・・そろそろ始まる。適当に座っておけ」
「はぁい・・・」
頭を押さえながら先に来ていたオルコットさんと箒さんの隣に座る。
二人とも僕の頭頂部を見て苦笑いを浮かべる。うん、鏡見なくてもわかるよ。大きなたんこぶできちゃってるのがね!
「扶桑さん、大丈夫・・・ではなさそうですわね」
「原因は確かに扶桑だが・・・痛ましいな」
「氷嚢をようきゅーするー」
暫くすると痛みも引いたので、アリーナの様子を見る。あと数分で第一試合という事で、観客席の騒がしさは最高潮に達している。
そんな中、ピットから二機のISが飛翔してきた。一夏の白式と、鳳さんの専用機『甲龍(しぇんろん)』だ。決して願いを叶える方のアレではない。
白式の白に対して、甲龍は赤銅色のカラーリングだ。
非固定武装はトゲのついた球体だ。ボルトガンダムよろしく投げるのだろうか。ガイアクラッシャーしそう。
「何か言い合っているようだな」
「気になりますけど、それは後ですわ」
オルコットさんの言葉と同じくして試合開始のカウントダウンが始まる。
さて、一夏の実力、見せてもらおうか。
【battle start】
純白の騎士と赤銅の龍が、激突した。
IS学園から遥かに離れた港に、一台の大型トラックが停車していた。
その運転席で、血のような色合いの赤髪の男が笑みを浮かべていた。
「よう、スコール。こっちは準備万端、何時でもやれるぜ」
『何機行かせる気かしら?ヴラド』
「取り敢えず四機だな。所詮、ブリキの玩具だ。一機じゃテストにもなんねぇだろうさ」
秘匿回線に対応した、改造された携帯電話を片手にヴラドは端末を操作する。
『了解したわ。タイミングは此方で指示する』
「了解(ヤー)。さっさとしてくれよ?早く試したいんだ」
『・・・善処するわ』
そう言葉を残して切られた通信に一層笑みを深くしてヴラドは携帯電話を懐にしまう。
目の前の曇り空の海を見つめてヴラドは呟く。
「さて、天才様の『模造品』、どこまで通用するかねぇ・・・ククク」
次回は大波乱の予感!?(未定)
次回もお楽しみに‼