インフィニット・ストラトス ~黒兎の見る世界~ 作:フォールティア
キングクリムゾンって便利だよね(小並感
『通信状況良好、うんうんバッチリだね』
耳元というより脳内で響く声に僕、扶桑 睦月は溜息を漏らす。
ここはドイツ首都、ベルリン。日本での季節的にはもう春なのだが、この国は寒い。
四月の陽気なんてものとは無縁なんじゃ無かろうか。
そんな事を考えながら、メインストリートを街の外へと向かい歩いて、ある場所へと向かう。
「それで、このまま行けば『第二回モンドグロッソ』の会場に着くんですね?」
『うん、そのまま行けばすぐつくよ』
「不法入国に、不法侵入とか、一般人に何させるんですか本当・・・」
『今は一般人じゃなくて逸般人だから問題なし!』
「強く否定できないのが悔しい・・・!」
通信越しにそんな他愛ない話をしながら郊外へと足を進める。
曇天の空からは雪が今にも降りだしそうだった。
束さんからヘイズルを貰い受けてから、かれこれ一年が経つ。
今日に至るまで、僕はヘイズルを駆り様々なテストを行ってきた。機動試験に始まり各種IS用の武装の性能の確認等々、なかなかに密度の濃い日々を過ごしていた。
女性にしか起動できない筈のISを何故男である僕が動かせたのかというと、束さんがISコアの内部システムを弄ったかららしい。他にもなんか色々言っていた気もするが専門用語が多過ぎて途中からは覚えていない。
「人が増えてきたな・・・」
ベルリン市街中央から北に離れて、モンドグロッソの会場へと近付いていくと段々と通りを歩く人が増えていく。その殆どが恐らくモンドグロッソの観戦が目的なのだろう。皆一様に手にパンフレットなどを持っている。
モンドグロッソ。簡単に言えばISによるオリンピックのようなモノだ。
世界各国から選りすぐりのIS操縦者と最新鋭ISが集い競技を行ってその性能、強さを知らしめる為の大会、それがモンドグロッソ。
今回、僕の目的はその第二回大会に出場する束さんの親友、織斑 千冬さんの弟、織斑 一夏くんの周辺監視である。
束さん曰く、モンドグロッソが近くなってから何だかキナ臭い動きがあったようで、もしもの場合に備えとして僕が此処にいるという事だ。
確かに、第一回モンドグロッソ優勝者の弟とあれば狙われるには十分過ぎる。
身内というか信のおける人にはとことん甘い束さんからしたら心配になるのも頷ける。
『何事もなければ良いんだけど、ね』
「束さん、それフラグって言うんですよ?」
『まあ戦闘になっても君とヘイズルなら大丈夫でしょ、私の無茶に一年耐え続けたんだし』
「あんな『地獄』に較べれば大体の問題が楽に思えますよ、ホント」
ISの防御力を測るために全方位から撃たれる鉛弾をひたすら防いだり、加速力を測るためにブースター限界まで加速して島の周囲を回ったり、挙げ句はシュミレーター難易度maxで仮想IS五機相手にしたりと、自分よく生きてるなと思ったよ。
というか、碌に訓練もしてない人間にいきなり直角機動しながら射撃しろとか束さん絶対Sでしょ。
「ん、束さん」
『アリーナ付近に着いたみたいだね、それじゃ何処か物陰に隠れてステルスを展開して』
「了解です」
アリーナまで後少しの所で一度ビルとビルの隙間に入り、ヘイズルに備え付けられたステルス機能を起動する。
チケットを持っていない僕がどうやってアリーナに入り、監視をするのかというと、あらゆるセンサーの類いを無効化する束さん特製ステルスを使いアリーナ内部に侵入、一般席で全体を見渡せる場所から特別席に居るであろう一夏くんとその周辺を監視する。というのが束さんの作戦である。
こんなスパイじみた事なんてやったことない僕からしてみれば不安しかない。
束さんじゃないけど何事もなく終わって欲しいと切に願う。
「・・・よし、ここからならよく見えるな」
チェックゲートを誰にもバレずに通り抜け、観客席へ。
アリーナ内部はまだ天井が閉じたままのようだ。途中でくすねたパンフレットによると開会式の後に開くらしい。
特別席から遠すぎず、有事の際即座に動ける位置に陣取る。階段上になっている観客席の最上部、ここからならISのハイパーセンサーを使用すれば大半の異常は察知できるだろう。
ハイパーセンサーというのは、ISに搭載された文字通り高性能のセンサーだ。リミッターを解除すれば宇宙空間で自分の位置を星の光から計測したり出来る優れもので、ありとあらゆる物の観測が可能、というのが束さんの談。
「束さん、取り敢えず見晴らしの良いところに着きました」
『オッケーオッケー、此方もアリーナのシステムにハッキングして観測開始したよ~』
「・・・・・・」
何かさらりと犯罪宣言したけど、もはや今更なので気にしない事にする。
腕時計で時間を確認するともうすぐ大会開始時間の十時になろうとしていた。
『むっくん、あんまり気を張りすぎないでね』
「え?・・・緊張してるように感じますか?」
『それくらいは声音でわかるよ。慣れないこと頼んじゃった私が言うのも変だけれどさ、無理はしないでね。いざとなれば私が動くから』
普段の無邪気な声ではなく、落ち着いた、安心させるような口調の束さんの言葉にふと肩の力が抜ける。
どうやら自分でも気付かない内にかなり緊張していたようだ。
「・・・ありがとうございます。程よく肩の力が抜けました」
『そっか、よしよし』
「お言葉に甘えて有事の際は丸投げしますね」
『ちょ!?』
「冗談ですよ」
束さんの優しさに思わず頬が緩む。ホント、身内にはとことん甘い人だなぁ。
開会式開始のアナウンスが流れるのと同時、数人の護衛らしき人で周りを固めた少年が特別席へと座った。
事前に見せてもらった写真と見た目が合致するので彼が件の織斑一夏くんだろう。
さて、心を入れ換えよう。何が起こるか解らないのだからせめて心構え位はしておくべきだ。
『時間だね』
「はい。・・・作戦開始です」
周囲がにわかに騒がしくなる中、僕は静かにアリーナを見渡す。
平穏無事に終われば良いけど・・・。
次回は束意外の原作きゃら登場です
次回もお楽しみに‼