インフィニット・ストラトス ~黒兎の見る世界~ 作:フォールティア
おかしい・・・日常パートの方が字数が増えている・・・。
「おはよう、睦月」
「ん、んー・・・おはよう、簪」
あの決勝戦から一日経ち、日曜日。
朝日が差し込む寮の部屋で二人一緒に目覚ましの携帯アラームの音で目が覚める。
欠伸混じりに身体を伸ばすとポキポキと小気味良く背骨が鳴った。
「ふぁ・・・うぅ、眠い」
「昨日、がんばったから仕方ないよ。・・・何だったらもう少し寝てる?」
「大丈夫・・・簪と朝御飯食べる~」
ああ、視界がまだボヤける・・・昨日の疲れが全然抜けてないなぁ。
そんな事を思いながら、目を擦っていると簪に抱きつかれた。
・・・抱きつかれた!?
「か、かかかかかか簪!?」
「睦月は、本当に可愛いね」
そう言って簪は僕を抱き締めたまま頭を撫で始めた。
いきなりの事にすっかり目が覚めてしまった。全ては背中に当たる柔らかな感触のせいだ、そうに違いない!
「あ、あの簪?背中に当たってるんだけど・・・?」
「・・・こういう場合、『当ててんのよ』って言うのが相場だっけ」
「言わなくていいから!?もう目が覚めたから離して欲しいんだけど」
「却下。もう少しこのまま」
「そんな御無体な・・・」
為す術なく、きっかり十分ぬいぐるみ状態にされました。
日曜日という事もあって、学園内は閑散としている。こういった休日の場合、殆どの生徒が外出してしまうからだ。
朝御飯を食べてから、打鉄弐式の調整を行うと言った簪と別れ、僕は学園内を散歩していた。
入学してからこっち、ゆっくり学園内を見る機会が無かったのを思い出したからだ。
「何だかんだ忙しかったからなぁ」
入学して最初にクラス代表決定戦。さらに翌週には代表対抗戦での乱入者撃破、そして今回のシャルの問題とVTシステム。
改めて考えてみると、本当にまだ四月かと言いたくなるような密度の濃さだなぁ。
今までの出来事を思い出しながら歩いていると、綺麗な花畑を見つけた。
「こんな所あったんだ」
丁度、第二アリーナと学園を囲む柵との日当たりの良い場所に、それはあった。
春というのもあってか、色とりどりの花が咲き誇り、濃密な花の臭いが少し離れた位置からでも感じられる。
足を運んでみるかな。
「綺麗・・・」
敷いてある通路を歩きながら視界に広がる花々を眺める。
この世界に来てから、こんな光景をみたのは多分初めてだと思う。研究所はまるでジャングルみたいだったし。
「はあ・・・落ち着く」
休憩スペースに置いてあるベンチの一つに座り、深呼吸する。花の香りと澄んだ空気が心を落ち着かせてくれる。
空を仰げば見事な青空。本当にここは学園の中なのだろうか?
「あら、先客がいたのね」
「え?」
不意に聞こえた声に顔を下ろすと、一人の女子生徒が居た。
水色の髪に、緑色のリボンタイ。そして『驚嘆』と達筆で書かれた扇子。
この人は・・・
「更識生徒会長、ですか」
「その通り。入学式の挨拶以来ね、扶桑 睦月君?」
IS学園生徒会長、更識 楯無。
・・・そう、簪の姉である。何時かはこうして話す機会があるとは思ってたけど、こんなに早いとはね。
楯無会長は僕の隣に座ると悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「会長は、どうしてここに?今は大会の後処理で忙しいと思うんですけど」
生徒会は、学園の意向もあって今回のような行事の際は会場の整理や来賓への招待状など、本来学園側がやるべき仕事を行っている。
そういうわけで、決定戦のゴタゴタもあったからあんまり暇は無いとは思ってたんだけど。
「実はサボ・・・・・・息抜きよ」
「言い直したのに誤魔化しきれてませんよ、生徒会長~」
冷や汗を一筋流しながら言う楯無会長にツッコミを入れてしまう。
まあ、そんな事だろうと思ったけどね。
「ま、まあそれは置いといて。睦月君に聞きたいことがあるのよ」
「聞きたいこと?」
「ええ、色々・・・ね?」
妖しげに微笑んだ楯無会長を見て逃げられそうに無いのを理解する。
仕方ない、こっちも聞きたいことあったし、お誘いに乗ろう。
「それで、僕に何を聞こうって言うんです?生憎ですが、僕は一夏ほど話題性には富んでないですよ」
「篠ノ之 束博士の関係者、というだけでも十分じゃないかしら」
「・・・それもそうですね」
研究所に居た頃は漠然と凄い人としか思ってなかったけど、学園に来て色々知るとどれだけの影響力を持った人なのか解った。
・・・そんな人を写真数枚で動かした僕も大概だな。
「そうね・・・まず第一に、貴方の専用機『ヘイズル』に関してだけど・・・二年ほど前に同型の機体がドイツで確認されたけれど、何か知ってる?」
「ああ、それは束さんが作った今のヘイズルの前身ですね。僕とは違う、別の人が搭乗してたみたいですよ」
「それは女性?」
「さあ?そこまでは」
似たような質問を何回もされてるから返答にも慣れてしまった。
楯無会長は「そう・・・」と呟いて深く聞いてくることは無かった。
「それじゃ次の質問ね。今までの貴方の戦い方を見たんだけど、本当に初心者?」
「初心者ですよ」
二年間位、経験のある。
続く言葉を伏せてあっさりと答える。
というかその質問は一夏にこそするべきじゃ無いだろうか。
ISに乗って二回目で代表候補生のオルコットさんを倒すとか、初心者の粋じゃないでしょ。
「ふうん・・・ま、そういう事にしておいてあげるわ」
「ありがとうございます」
・・・この人、薄々気付いてるな。僕がある程度の経験者だって事を。
まあ、まだ確証は掴めてないみたいだし、大丈夫かな。
「もう一つ。・・・これが一番重要ね」
そう言って、楯無会長は飄々とした態度から一変して真剣な目付きになった。
重要な話題ばかり抱えてるから何を聞かれるのか解らない・・・一体何を聞くのか。
「簪ちゃんとは、一体どんな関係なのかしら・・・!?」
「・・・・・・・・・はい?」
質問の意図が掴めず素っ頓狂な声が出てしまう。
僕が唖然としている間にも会長の言葉は続く。
「ええ、貴方は中々可愛い顔立ちしてるし、これまでの調査によれば性格も良好、戦績も目覚ましいものがあるし、とても優良と言えるわね。
だ が し か し!
それとこれとは話が別よ?もしも簪ちゃんに下心を持って近付いているのなら生きたまま『ピー』で『ピー』して『ピーピー』をした後に東京湾でスイミングさせるわよ!私の可愛い可愛い簪ちゃんが変な男の毒牙にかからないか本当に心配なのよ!ヘイズルとかの情報なんて今はどうでもいいの、重要な事じゃないわ!それで!!」
「ひっ」
先程からは考えられない剣幕で肩を捕まれ、恐怖心が沸き上がる。
やばい滅茶苦茶恐い!下手な回答すれば間違いなく東京湾でスイミングやらせる気だよこの人!?
「貴方は簪ちゃんとどういう関係なのかしら!?」
「し、親友です!」
「それ絶対カップルになるパターンじゃない!私より先に結婚式を上げるのね~!」
「話が飛躍しすぎだぁ!!」
結局、楯無会長が落ち着かせるのに二十分近くかかってしまった。
「こほん・・・ごめんなさい、少し取り乱したわ」
「あれを少しと言って良いのか・・・?」
半ば狂乱してましたよね?
お互いに深呼吸して落ち着いてから、僕から話を切り出した。
「簪とはルームメイトで、良きパートナーですよ」
「それなら良かったわ」
「というかそう言うのは姉妹の間で話したり・・・すいません、変な事聞きました」
急に涙を浮かべはじめた楯無会長に言葉を切って謝る。
しまった、まさかタブーワードだったとは。
とりあえずと、ポケットに入れていたハンカチを使って目元を軽く拭う。
「あ、ありがとう・・・年下の子にこんなとこ見られるなんて不覚だわ」
「今ので何となく想像はつきましたが、大丈夫ですか?」
「そうね・・・簪ちゃんと仲が良い、貴方には話しても大丈夫かしらね」
そう言って、楯無会長はベンチから立ち上がる。場所を移動する、と言うことだろう。
歩き出した会長を追うべく立ち上がり、その背中を追う。
妹思いのこの人に、何があったのだろう?
楯無さんはギャグキャラ、いいね?
という事で早い段階で我らが生徒会長が登場です!
早速問題に巻き込まれた睦月はどうするのか!
次回もお楽しみに‼