インフィニット・ストラトス ~黒兎の見る世界~ 作:フォールティア
ドムのホバー移動は格好いい。異論は認める。
今回、暴力描写があります。苦手な方はご注意を。
臨海学校一日目、夜。
夕食と入浴も済んで、後少ししたら就寝となった空き時間を、僕は割り当てられた部屋でノートパソコンを使って潰していた。
山田先生は明日の予定の打ち合わせに行って今はいない。
「うーん、ビグウィグとか使ってみたいなぁ」
開いたノートパソコンの画面にはヘイズルの所持武装の一覧が映されている。と言っても、未だ八割近くは『???』で埋め尽くされているが。
ヘイズルの武装は少し、いやかなり特殊だ。
Eパック方式のビームライフルなんて現行機で持っているのなんて存在しない。大抵のレーザー系兵器はIS本体のジェネレーターか、それ専用のエネルギーラインから出力して使用している。
この場合、出力調整等に処理能力を大きく割かれる為、レーザー系武器を使用するISに実弾兵器はあまり搭載されない。出来ても一つか二つが限度だ。
ブルーティアーズが最たる例だろう。
「だからこそ、異端なんだよね・・・」
オルコットさん曰く、ヘイズルの武装、その殆どが『第三世代じゃありえない』そうだ。
それもその筈、第三世代機ですら問題となるレーザー兵器の処理を、実弾兵器と同じカートリッジ式にすることで回避するなんて考え付かないだろう。エネルギーは本体から供給するのが当たり前という考えが定着してしまっているから尚更だ。
サブアームユニットやフルアーマーユニットだってそうだ。
どちらかと言えば第一世代等に分類される武装を堂々と使っているのだから。
「まあ、でもそろそろパッケージ系が欲しいかな・・・」
パッケージというのは、言ってしまえばガンダムSEED系の換装みたいなもので、その機体の戦術をガラリと変える事が出来る。
防御力の高い打鉄にさらにシールドを足してみたり、ラファール・リヴァイヴに機動性を犠牲に大経口ガトリングを積んだりと、種類は多岐に渡る。
ヘイズルの場合、シールドブースターフル装備の強襲形態はあくまで武装を積み込みまくっただけで、パッケージとは呼べないだろう。
ああ、せめてプリムローズとか使えればなぁ。
でもあれって脱出ポッドみたいなものだし、ISの武装としてはどうなるんだろ。
「ウィンチユニットのみっていうのも味気ない感じだし・・・うーん」
「ただいま戻りましたぁ」
武装についてアレコレ考えていると、浴衣姿の山田先生が打ち合わせから戻ってきた。
「お帰りなさい、山田先生」
「・・・・・・」
「・・・?どうかしました?」
きょとんとした表情を浮かべた山田先生は、僕の言葉に慌てたように笑った。
「ああ、いえ。誰かにお帰りなさいって言われるの久しぶりでして・・・何をしてるんですか?」
「ヘイズルの武装確認ですよ。戦術の組み立てに必要ですから」
ノートパソコンの画面を山田先生に向けると、驚いた顔をされた。
「いいんですか?最高機密のデータですよ!?」
「別に構いませんよ」
見られて困るようなデータじゃないし。少々ビームライフルとかの出力が他とはダンチな位だしね。
山田先生は食い入るように武装データを見ていく。記載されているのは総弾数、出力、威力、射程距離程度なので、ここからメカニズムなどを知るのは難しいだろう。
「話には聞いていましたが、凄いですね・・・織斑先生が馬鹿げた機体というのも分かります」
「馬鹿げた機体って・・・」
いやまあ使ってる僕からしても色々とブッ飛んだ性能だとは思うけどさ・・・
「見た目が第一世代のような全身装甲なのに、現行機と同等、或いはそれ以上の機動性を持っていればそうも言われますよ」
「ですよねー」
『全体のアップグレードしたよ!』とか言って渡してきたけどアップグレードし過ぎな感じは否めない。
このまま雑談するのもいいけど、そろそろ消灯時間だ。
「布団そろそろ敷きましょうか?」
「そうですねぇ、もう良い時間ですし」
ノートパソコンの電源を落とし、二人で押入から布団を取り出して適当な間隔で敷く。
流石にぴったり付けるとかしたら後が怖い。主に織斑先生が。
「それじゃあ電気消しますか」
「はい、お願いしますね」
布団を敷き終わると丁度良い時間になったので、そのまま寝ることにした。
明日はISを使った実習だ。早めに休むに越したことはない。
電気を消して、布団に入る。
「おやすみなさい、扶桑君」
「また明日、山田先生」
お互いに言い合って瞼を閉じる。
昼間の疲れからか、意識は直ぐに宵闇に落ちていった。
唐突だが、僕は部分的な記憶喪失だ。
だからだろうか。目の前で起こっている事象に違和感しか覚えないのは。
かつて居た世界。中学校。放課後の赤く染まった空。薄暗い、校舎裏。
『っぐう・・・』
『おいおい、毎日毎日鍛えてやってんのに、相変わらず倒れんの早ぇなオイ!』
何人もの生徒に囲まれて、殴打や蹴りを浴びているのは、僕だった。
でもこれは本当に僕の記憶なのだろうか。
僕は、小学校高学年から高校入学前までの記憶が欠落している。
いや、『結果』だけは覚えていた。ようは虐められていたのだ。
その内容は思い出せないけれど。・・・今見えている光景がそうだとしたら、確かに忘れたくもなる。
『つっまんねぇ、お前よ・・・雑巾以下の価値も無いんじゃねぇか、よっ!』
『ッ・・・!ハッ・・・オェ・・・』
『うお、きったね~。危うく汚れるところだったじゃねぇかよ、この塵が!』
後頭部を足で踏みつけられ、地面にぶちまけられた吐瀉物に顔を押し付けられる。
その様子を俯瞰して、顔をしかめる。頭を踏みつけている、彼は誰なのだろう。顔も何もかもぼやけてはっきりしない。
目を凝らしても見えるのは僕が曖昧な彼らに痛め付けられる景色だけ。
何度も何度も、何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
場所を変え、時間を変え、人数を変え、それでも何かの焼き増しのように振るわれる暴力。モップにバット、パイプ椅子にライター、メリケンサックに鉄板の入った安全靴。
何度も何度も、何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
痛いと言っても、やめてと叫んでも、ごめんなさいと謝っても、暴力は止まらない。罵詈雑言は止まない。
果たして、夢の中の僕の目に光は映らなくなった。
明確な理由も何もない、ただのストレスの捌け口として振るわれる暴力に、夢中の僕は死を選ぼうとした。
でも・・・
『やあやあ、そこな行く根暗な少年!』
唐突に掛けられたその言葉に、その選択を取り止める。
振り替えれば、そこには。
『何か悩みなら聞こうじゃないか。解決は出来ないだろうけどね!』
『ワンッ』
黒い子犬を連れた、ブレザーを着た黒髪の少女が立っていた。
ああ、そうだ。
僕は、彼女に・・・・・・救われたんだ。
『■■■ーーー』
彼女の名前を呼び、手を伸ばす。
しかし。
『お前に居場所なんて無いんだよ』
ーーー世界は、黒く染まった。
というわけで睦月の過去が少しだけ明かされました。
次回は臨海学校二日目となります。
次回もお楽しみに‼