インフィニット・ストラトス ~黒兎の見る世界~ 作:フォールティア
ISにグランゾン出したらどうなるんだろう・・・
天辺から少し傾いた太陽が照らす大海原の最中、赤黒い全身装甲のISと純白のISが佇んでいた。
全身装甲のIS・・・Sガンダムを纏ったヴラドが苛立たしげに肩を揺らす。
「ハンニバル・・・テメェなんで止めた」
『そう怒るな、醜い顔が更に醜くなるぞ?』
「あぁ?」
通信先のハンニバルに対し、ヴラドの殺意が膨張するが、ハンニバルはどこ吹く風とばかりに笑うだけだった。
扶桑睦月はヴラドが撃墜。織斑一夏の白式も福音の全方位攻撃をゼロ距離でくらい、大破した状況でハンニバルが待ったをかけたのだ。
おかげで隙をついてファイバーが二人を回収、撤退させてしまった。
『確かに、あのまま追撃すれば連中は瓦解、IS学園の保有する戦力を大幅に削れただろう。だが・・・イヴァンの奴がな』
「あの拷問魔か・・・余計な口出しをしやがって」
『イヴァン』と言う名前を聞いた途端、ヴラドは顔をしかめ、嫌悪感を露にする。
それを肯定するようにハンニバルも溜め息を吐いた。
『彼女の事だ、どうせもっといたぶりたいだとか言ったのだろう。それに上が応えてしまってな』
「それで?俺はここで待機か」
『・・・いや、三十分後にIS学園側でいう、第二防衛ラインとやらに侵攻して構わないぞ』
「どういう風の吹き回しだ。待てと言ったり行けと言ったり」
『私にも判らんよ。亡国企業とて、一枚岩では無い』
ヴラドの問いにハンニバルは嘆息混じりに答える。
彼女の答えにヴラドも同じように息を吐く。
「まあ良い。面倒だが、従ってやるさ」
降り注ぐ陽光は尚強さを増していた。
「扶桑君、織斑君のバイタル、共に正常値まで回復しました」
「そうか・・・」
旅館、花月荘の大広間に設けられた急ごしらえの作戦司令室で、教師の一人から報告を受けた千冬は安堵の息を吐いた。
突如現れた謎のIS。睦月の唐突な戦意喪失、白式の大破。
「あれは一体なんだ・・・?」
赤黒い全身装甲IS。何処と無くヘイズルと似たような外見の機体、千冬はその存在に疑問を覚えた。
暴走している筈の福音を従えていたのもそうだが、千冬がファイバーの持ち帰った戦闘記録を見て疑問に思ったのは搭乗者の動きだ。
(近接戦でのあの身体捌き、どうみても女のそれでは無かった・・・まさか、男だとでもいうのか?)
だとすれば厄介な事に福音を暴走『させた』敵は三人目の男性操縦者を保有していることになる。
思っていた以上の大事の臭いに千冬は眉をしかめた。
(いや、それを考えるのは後だ。今は目先の事案をどうにかせねば・・・)
第一防衛ラインは瓦解。福音だけならまだしも、専用機持ちの中でもトップクラスの実力を持つ睦月を撃墜した謎のISを同時に相手にして、第二防衛ラインで対応仕切れるのか・・・。
TR-6 ウーンドウォートは最後の切り札だ。あれほどのオーバースペック機が表に立つのはまだ早い。たとえ事態の収拾がついたとしてもその後の世界に影響を及ぼしかねないだろう。
それ故に現状保有する戦力でどうにかするしかない。
「どうしたものか・・・」
「何かお悩みかな、ちーちゃん」
「束か。扶桑のところに居なくていいのか?」
「今はくーちゃんが付いてるから」
突然天井から飛び降りてきた束に驚くこともなく千冬はモニターを睨み付けながら会話する。
状況は刻一刻と変化する。今動いていないあの二機も、いつ動くか解ったものではない。
「・・・束、あの赤黒いISをどう思う」
少しの沈黙の後にポツリと溢した千冬の問いに、束はハッキリと答えた。
「認めたくないけど、あれを開発したのは私に匹敵する人間だよ。あの性能、普通じゃない」
「お前がそういうとはな・・・成程、名実ともにイレギュラーという事か」
厄介だな。言って千冬は呆れの混じった笑みを浮かべる。
あの天災がそう言うのだ、その性能は折り紙つきという事だろう。
「ブルーティアーズ、打鉄弐式の機体状況は?」
「損害は少ないので、後十分程で修復完了だそうです。また、ファイバーの方は・・・」
「ファイバーユニットは撤退の時の被弾で使えないけど、フライルー自体に問題は無いよ」
「搭乗者の方は?」
「負傷も無く、体調も良好です。本人らも出撃したいと」
「そうか・・・」
迎撃する以上、戦力が大いに越したことはない。休息を取らせたいがそうも言っていられないし、本人達もそれを望まないだろう。
なら。
「オルコット、更識ならびにフライルーは機体整備が完了次第出撃、第二防衛ラインのメンバーと合流、共に迎撃に向かうよう指示を」
「了解しました」
命を受け取った山田真耶が急ぎ足で作戦司令室から出ていく音を聞いて、千冬は小さく肩を落とした。
「不甲斐ないものだな・・・こういう時に動けないというのは」
「ちーちゃん・・・」
その辛そうな背中を見て、束も目を伏せる。
重い沈黙が漂いかけたその時だった。
「失礼します!」
まるでそんな空気を払拭するかのように箒が司令室の戸を勢いよく開いた。
「束博士・・・いや、姉さんは居ますか!」
「・・・何のようだ篠ノ之、お前は部屋で待機だと言ったはずだが」
僅な威圧感を滲ませて振り返らずに言う千冬に箒は小さくたじろぐが、それでも足に力を込めて踏み止まった。
「姉さんに話があってきました」
「はぁ・・・だそうだぞ、束」
目元を押さえて何時の間にやら天井に張り付いていた束を呼ぶと、見事な着地をして束は箒を見た。
「やあやあ、箒ちゃん。どしたの?」
努めて普段通りのふざけた口調でそう訊ねると、箒は決意のこもった瞳を真っ直ぐに向け、答えた。
その答えに千冬はついに天を仰ぎ、束はニヤリと笑った。
「紅椿を・・・使わせて下さい」
紅椿。
篠ノ之束が開発した、箒専用にカスタマイズされた制式第四世代型IS一号機。
その性能は間違いなく最高峰と呼べるもので、束自身、対抗できるのは白式、ヘイズル、ウーンドウォートの三機しか居ないと言うほどである。
武器の殆どが複合兵装であり、高出力、高火力の代物だ。
白式の持つ雪片のノウハウを活かした制式型『展開装甲』により、攻撃力、機動力、防御力の三点を高水準に引き上げたこの機体は見る人が見る人なら卒倒する程である。
その名の通り、鮮やかな紅に染め上げられたそれを纏い、箒は砂浜にて瞑想していた。
「全く・・・織斑先生にあんな啖呵を切る人だとは思ってませんでしたわ」
「確かに、あの時の篠ノ之さんは凄かった」
そんな箒を見て、同じく自らのISを纏ったセシリアと簪は呆れ顔で言い合った。その横では同意するようにウンウン頷くフライルーがいた。
真耶から指示を受けた二人が詳細を聞くために作戦司令室に入った時の事だ。自室待機と言われたはずの箒が何故か千冬を相手に食って掛かっていたのだ。
近くに居た教師の話しによれば、何でも束に紅椿とやらを使わせてほしいと言い、束がこれを了承。しかし千冬が出撃を却下したとのこと。
「お願いです、私にも出撃させて下さい!」
「却下だと言っているだろう。量産機しか使ったことがないお前が、専用機を使ったところで奴らに落とされるだけだ」
「そんな事は解っています」
「何・・・?」
「専用機を持ったところで、一夏達を倒した奴らに勝てるとは思いません。・・・ですが、足止めにはなります」
「・・・正気か?」
千冬が箒を睨みながら問う。足止め・・・彼女は一夏達が『起きる』まであのIS二機を相手に最後まで耐えるつもりだと言うことを理解したからだ。
その問いに対し、箒は真っ直ぐに千冬を見返しながら答えた。
「正気です。足手まといにはならないよう動きます。それに何よりも・・・」
「?」
「惚れた男の為に動けずして女は語れませんので」
ハッキリと、自身の胸に手を当てそう言った箒に束以外のその場の全員が驚きに口を開いた。
唯一、束だけがニンマリと笑いながらVサインを箒に送っていた。
「結局、篠ノ之博士も箒さんに味方して織斑先生が折れるとは思いませんでしたわ」
「ああ言われたら、ね・・・」
二人に同調するようにフライルーが肩を竦める。
「何が篠ノ之さんをああ動かしたかは後で訊くとして」
「今は作戦を成功させることに専念しなければなりませんわね・・・箒さん!」
「ああ。大丈夫だ、行ける」
セシリアの呼び掛けに、瞼を開いた箒が拳を握る。フォーマット及びフィッティングは既に終わっている。後は、戦いの中で知るのみだ。
「私達は第二防衛ラインのメンバーと協同して福音と不明ISを迎撃、福音のパイロットの救助に当たりますわ」
「了解」
「わかった」
「ですがあくまで防衛、無闇な突撃や突出した行動は避けるよう、お願いしますわ。もしもそうなってしまった場合、私とフライルーさんで可能な限りフォロー致します」
「「了解」」
作戦確認を終え、ブースターを起動させる。
向かう先は間違いなく激戦となりうる戦場だ。
「鈴さん達にはすでに作戦は伝えてあります。・・・負けられませんわよ」
「ああ、負けられないな」
「睦月の分も、頑張る」
決意と覚悟を持って、三人と一機が空へと昇る。
そして、
「「「行きます!」」」
白い軌跡を残しながら四機のISが飛翔した。
空には、夕暮れが近付いていた・・・
というわけで紅椿が参戦となりました。
箒の参戦理由などは後ほど。
因みに今回のフライルーはシールドバインダー装備です。
次回は睦月の話しになるかと。
次回もお楽しみに‼