インフィニット・ストラトス ~黒兎の見る世界~   作:フォールティア

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最近、暑くなって来ましたね・・・作者は熱中症で倒れてしまいました。
皆様もどうかお気をつけて・・・




#11 記憶、その先

夢を、見ていた。

・・・いや、この場合夢じゃなくて自分の過去か。

思い出したくなかった自分の過去を、まるで古い映画でも見るように色褪せたフィルター越しに見ていた。

 

嘗ての僕、扶桑睦月は今みたいな性格じゃなくて、引っ込み思案で自己主張の無い、クラスでも影の薄い人間だった。

そんな僕が『彼』に出会ったのは小学校6年生の時だ。

『彼』は俗に言う天才だった。それも飛びきりの。

何をしても一位、最優秀を飾り、家柄もとある財閥の御曹司、ルックスも数多の女子が群がるほどという正に完璧な人物だった。

 

表立っては。

 

そんな彼が何故、僕と関わりを持ったかと言えば至極簡単だ。

ストレス発散の道具が欲しかったんだ。

彼に話しかけられて以来、僕の人生は一転した。

朝に殴られ、昼に蹴られ、夕には集団暴行。我ながらよく死ななかったと思う。

 

降り注ぐ暴力に怯え、耐えて。気づけば中学三年。

小中一貫の学校であり、彼から脅されていたこともあって僕は逃げることを諦めて只管に耐えていた。

教師ですら、僕を見放していた。

 

僕の家は母子家庭で、父親が居なかった。女手一つで育ててきてくれた母に迷惑を掛けたくなくてずっと一人で耐えていた、そんな時。

 

母が死んだ。交通事故だった。

 

心が砕けたような感覚が、胸に去来した。

 

僕は施設に預けられることになった。正直、その頃の僕は現実感という物が欠如していた。

だからか、施設に預けられる事になった時も特に何も感じなかったし、感じられなかった。

 

「もう嫌だ」「耐えられない」「辛い」「痛い」

 

そんな感情が渦巻いて、遂には死を選択しかけた。

僕が彼女に出会ったのは、そんな時だった。

 

「やあやあ、そこな行く根暗な少年!」

 

黒いセミロングの髪に黒いフレームのメガネに黒いブレザー。

 

「何か悩みがあるなら聞こうじゃないか!解決できるか分かんないけどね!」

 

「ワン!」

 

真っ黒な仔犬を連れた真っ黒なその子は人懐っこい笑顔を浮かべていた。

同じ施設に住む、一歳上の女子。

柳 雪穂(やなぎ ゆきほ)。それが彼女の名前だ。

そして、彼女のおかげで僕は出会えたんだ。

 

『ガンダム』という存在に。

 

「君は無趣味だねぇ・・・そうだ、私とコレをみようじゃないか!」

 

「ガンダム・・・?」

 

「あれ、まさか知らない?」

 

「初めて聞いた・・・」

 

「名前すら知らんと来たか・・・まあとりあえず見てみようか。男の子はやっぱり格好いいロボットだよね!」

 

そう言った雪穂に初心者向けだと見せられたのは機動武闘伝Gガンダムだった。

それを見終わったら別の作品、また別の作品と、僕は『ガンダム』を知っていった。

途中、エルガイムとかも見たけど。

 

楽しかった、本当に。

雪穂と真っ黒な仔犬・・・ノエルと一緒に居る間は日頃の暴力の痛みを忘れられた。

 

時間は過ぎて、秋。

 

雪穂が僕にある物を渡してきた。

それは、A.O.Zのムック本全巻だった。

 

「・・・これは?」

 

「睦月が好きそうな作品かなと思ってね。それを進呈しよう!」

 

「いいの?」

 

「遠慮せずに受け取ってくれたまえ~」

 

「あ、ありがとう・・・」

 

それからと言うもの、僕はA.O.Zの世界に没入していった。

ヘイズル、キハール、ダンディライアン、フライルー・・・どの機体も僕の琴線に触れ、沸き立たせてくれる。

雪穂とノエルと遊んでいる時や、ムック本を施設で読んでいる時は辛い事を忘れられたし、何よりも楽しかった。

 

『でも、現実は非情だ』。

 

ーーある日、僕の目の前でノエルが殺された。

 

他でもない、彼の手によって。

 

セピアの景色は其処で消えた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーっ」

 

意識が覚醒する。目の前には青空が広がり、草の匂いが鼻を擽る。

夢の内容は・・・ハッキリと覚えている。

 

「何で、忘れてたんだろう・・・」

 

僕が記憶を忘れた切欠、何かがあったような気がする・・・でもその記憶が漠然としていて上手く思い出せない。

片手で少し痛む頭を押さえながら身体を起こすと、そこは穏やかな丘陵地帯だった。

 

「・・・・・・・・・は?」

 

見渡す限りの青空に鮮やかな緑の草や背の低い木々、記憶に無い処か始めてみる風景に思考が追いつかない。

まず間違いなく臨海学校でつかわせて貰っている花月荘ではないだろう。潮の臭いなんてしないし、どこを向いても海なんて見えないし。

 

「ここは、何処なんだろう?」

 

「ウォーターシップダウン、だよ」

 

「え?」

 

誰も答えてくれないと思った問いは、唐突に聞こえた声によって答えを貰った。

聞こえた方に顔を向けると、そこには何時の間にか現れていた真っ白なテーブルに黒いドレスを纏った女の子と・・・

 

「雪、穂・・・?」

 

「睦月、おっひさ~!」

 

さっきまで夢で話していた雪穂が座っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり・・・どうゆうこと?」

 

謎の少女と雪穂の対面に座り、僕が発した第一声がそれだった。

誰だって目を開けたら見知らぬ場所に居て、あまつさえ出会うことが無いと思っていた人と再会すれば混乱するだろう。

 

「ウォーターシップダウンって確か・・・」

 

「そ、ヘイズルの名の由来となった物語、その舞台だよ。まあここはその『再現』なんだけどね」

 

「再現?」

 

「貴方と私とが出会うために用意した、特別な空間。そう解釈して頂ければ」

 

黒いドレスを纏った女の子は静かに瞑目したまま丁寧な口調で答えてくれた。

赤みがかった茶髪に整った顔立ち。身長はラウラに近い。

何故だろうか・・・この子と初めて会った筈なのに、まるで旧知の仲のような妙な安心感がある。

 

「・・・で、何で雪穂はここに?」

 

「おぅ!?このままはぐらかそうと思ったのに先手を打たれた!?」

 

ジト目で雪穂を見るとわざとらしく驚かれた。

『ありえない』のだ。彼女がここに居るのは。

・・・いや、『彼』という存在がいる以上、雪穂も何らかの方法でこの世界に来たということだろうか。

というかそもそもこれは現実なんだろうか。まさかSガンダムに撃ち抜かれてそのまま死んでしまったとか・・・?実はここは黄泉の国とか・・・?

 

「やばい・・・遺書とか書いてないよ僕・・・」

 

一夏にハードディスクのデータを消しておいてって言っておくべきだった・・・!

 

「あ~、たぶん睦月が考えているような状況じゃ無いから安心していいよ」

 

「え?じゃあここは一体・・・」

 

「人の無意識、その最奥。『Es』領域とでも言いましょうか。主には深い夢、とでも解釈しておいて頂ければよいでしょう」

 

Es領域・・・何だかよく分からないけれどこの子が言う通り、夢だと解釈しよう。

僕が頷くと、雪穂がピッと人差し指を立てて「さて」と言った。

 

「さっきの睦月の問いに答えようか。私が何でここに居るのか。それはねーー」

 

 

 

 

 

 

 

ーー君の背中を押すためだよ。

 

 

 

 

そう言って雪穂は柔らかく微笑んだ。

 





次回も睦月の謎領域の話です。

・・・Vガンダムの足ってエロくない?(錯乱)
ちょ、まって光の翼は・・・

次回もお楽しみに‼
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