インフィニット・ストラトス ~黒兎の見る世界~ 作:フォールティア
長らく、長らく御待たせしてしまい、本当に申し訳御座いませんでした。
本作、復活です。
「・・・・・・」
『魔女』との邂逅を果たした翌日。僕は昼休みで賑わう校舎を離れ、一人かつて見つけた花畑へと来ていた。
ベンチに座って涼やかな風に身を晒す。
思い出されるのは昨日の会話だ。
「福音事件の英雄、か・・・どこでそれを知ったのかな」
名乗りと共に告げられた、本来彼女が『知らない筈』の情報に眉を潜める。
福音事件については箝口令が敷かれ、一般の生徒は勿論その詳細を知る由もない。
ましてや彼女はつい先週この学園に来たばかりだ。もとより知っている筈がない。
だが現に知った口で語るという以上は彼女自身、一般の範疇では無いということだ。
隣に立つ一夏も警戒心を露にして『バートリー』を睨む。
「あら、そんなに警戒されるなんてね・・・どうして知ってるかなんて、大体予想は付いてるんでしょう?扶桑くん?」
「・・・亡国企業」
「御名答♪やっぱりあの天才の下に居ただけあって私たちの事も知ってるみたいね」
クスクスと笑ってバートリーは己の胸に手を当てる。
「改めて名乗らせて貰うわ、亡国企業特務部隊、暴虐の輩(Fellow of violence)所属、フィーリス・テンフィールド。《拷問の魔女(エリザベート・バートリー)》とも呼ばれてるわ」
先程までとは打って変わって、濃厚な殺意をばら蒔くバートリーに思わず待機形態のヘイズルに手を翳す。
一夏でさえ、構えをとって睨み付けるほど彼女の纏う殺意は強すぎた。
「睦月、亡国企業ってなんだ、コイツは・・・一体」
「うふふ、端的に言えば貴方達の敵ってところかしら?」
「っ・・・!」
バートリーの挑発的な言葉に一夏の闘気が強まる。
一体、彼女は何を考えてこんなことを言った?自分の事を明確に敵と言うなんて。
「といっても今貴方達と事を構えるつもりはないわ。あくまで今日はご挨拶」
言いつつもバートリーは嘲るような笑みを浮かべて止まない。
「まあ貴方達がやりたい、っていうんなら構わないけど。でもその場合、扶桑くんのガールフレンドが壊れちゃうかもよ?」
「っ!!何をした・・・簪に何をした!?」
「落ち着け睦月!」
バートリーの言葉に詰め寄りそうになる身体を一夏に抑えられるが、それを無理矢理ほどいて彼女の胸ぐらを掴み上げる。
だと言うのに。彼女は嗤っていた。
「何って、ちょっとばかり『お手伝い』しただけよ?そうね、文化祭当日当たりに結果が出るんじゃないかしら」
「・・・す」
ブチリと線が切れる音がした。
何もできなかった、しなかった自分の不甲斐なさと、この女への怒りが限界を超えた。
「お前は、僕が、潰す。何があっても、何をしてでも。絶対に」
「・・・っ!?」
自分でも信じられないような底冷えする声でそう伝えると手を離す。
そのままバートリーを視線を向けず僕はその横を通り過ぎ、その場を後にした。
ーーーということがつい先日の事だ。
「やっちゃったよ・・・何であんなこと言っちゃったんだ・・・」
そもそも自分があんな風に怒る人間だと自分自身驚いている。
いや、それについては後悔は無い。問題はタイミングだ。
どう考えてもあそこであの発言はバートリーを悪戯に刺激するだけだ。いや、実際今のところは何のアクションもないけど何時どんなタイミングで仕掛けてくるかわからない。
「はぁ・・・」
茫然と溜め息を吐く。笹くれ立った内心を宥めるようにそよ風が体を撫でては抜けて行く。
「なぁに白けた顔してるの、少年?」
「ちょっとした自己嫌悪ですよ、会長」
不意に後ろから聞こえた声に驚くでもなくそう返してから振り返る。
茂みの裏から現れたのはまるで悪戯がバレた子供のようにおどけた表情を浮かべた楯無会長だった。
会長はクスリと笑うと僕の隣に座り伸びをした。
「んー・・・っ!それで、何時もなら他の皆と一緒の筈の貴方はなんで此処にいるのかしら」
「ヒットした頭を冷やしてるんですよ」
最近、視界に入るほどに伸びてしまった前髪を掻き上げて、嘆息混じりに答える。
それに対して何か言うでもなく会長は僕の頭をポンポンと軽く叩いた。
「会長?」
「奇遇ね、私も頭冷やしに来たのよ」
「サボりじゃなくて?」
「まあそれもある・・・今のはオフレコでお願い」
慌てて取り繕うように人差し指を口元で立てる会長がなんだか可笑しくって思わず口端がつり上がる。
「うん、やっぱり君は笑顔が似合うわね。こう、にぱーっと笑う感じが」
「へ?え?そんな笑い方してるんですか僕」
何処ぞのひぐらしが煩い村に住む不死幼女が頭に思い浮かんでしまう。そんな笑い方してたのか・・・
「ええ、可愛い笑顔よ。・・・簪が惚れちゃうのも納得ね」
「?」
言葉尻の一言の呟きがあまりに小さく、上手く聞き取れず、首を傾げる。
会長は「なんでもないわ」と言うと僕の頭から手を離し、空を見上げた。
つられて頭を上げればいっそ憎たらしい程の青空が広がっていた。
「・・・・・・『簪』を、暫く隔離することにしたわ」
「隔離、ですか」
暫くの沈黙を破って聞かされた言葉に、僕は視線を会長へと向ける。
「昨日の報告の時点であの子の身に何かあったことは明白。これまでの二人の報告を精査した結果、簪の身に何が起こっているのか一つの結論に行き着いた」
「それは?」
「睦月くん、『精神毒性(サイコトキシシティ)』って解るかしら」
「な・・・」
会長の放った一言が、僕の背筋を凍らせた。
『精神毒性』。その意味するところは・・・・・・薬物による精神異常。
「簪に・・・ドラッグが使われていた、と?」
背筋が凍る。あの時から感じていた違和感の正体はそれだったのか・・・なら、だとしたら。
「っ!」
自分の不甲斐なさに唇を噛む。皮膚が切れて血が滲むがそれでも痛みは感じない。いや、感じたく無いのかもしれない。
あの時点でこの結論に行き着いていたならもっとマシ結果になった筈なのに。
「・・・簪は午前中から家の都合により暫くこれない、ということにしてあるわ。今は本土の病院で検査してる」
「・・・・・・」
「責任は、私にあるわ」
「でも・・・!」
「だから」
振り向いた僕の唇に会長の指が触れる。
「完膚なきまでに叩き潰しましょう」
「へ?」
ニヤリと口端を吊り上げて笑う会長の言葉に間抜けな声が出てしまう。
会長は僕の唇から伝った血を指先で掬い、ペロリと舐めると目を細める。
「今回の件はIS学園の会長としても、一人の姉としても看過出来ないわ。ともすれば学園の権威を地に落としかねない。それになにより・・・・・・私の可愛い可愛い妹に、ドラッグなんて使ってくれちゃったあの小娘が何よりもムカついて仕方ないのよねぇ・・・だから、叩き潰すの」
どこまでもサディスティックな笑みを浮かべて語る会長を見て、僕はさっきとは別の意味で背筋が凍る。
というか何か赤黒いオーラが見えるんだけど。
「舞台は私が用意するわ・・・・・・ええ、徹底的に、完膚なく、ぶっ壊してやるわよ・・・ふふ、ふふふふふふふふふふふ」
訂正。オーラじゃなかった、冥王だった。次元連結システムでも使いそうなレベルだ。
一頻り笑うと会長はベンチから立ち上がる。
「睦月くん」
「は、はい!」
「協力、してくれるかしら?」
「イ、イエスマム・・・」
最早他の生徒に見せられないほど怖い顔の会長の問いに、僕はただ首を縦に振る他無かった。
事実、僕の内心も正直自分でも驚くほどに黒い感情がある。故に会長の言ったことは寧ろ僕がもっとも望んでいた言葉なのだろう。
あのいけ好かない顔に一発ぶち込まないと気が済まないし。
「改めて、宜しくね睦月くん」
「ええ。お互い、全力を尽くしてーー」
願うことはただ一つ。
「「絶対にあの女ぶっ潰す!!」」
この怒りを叩き込むということだけだ。
スランプ明け早々にこんな中途半端なシリアス話・・・最低だ、僕(シンジ並感