インフィニット・ストラトス ~黒兎の見る世界~   作:フォールティア

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長らく、長らくお待たせ致しましたm(__)m


#09 前夜

『もっしもーし、きっこえるかなぁ!』

 

「相変わらず元気ですね束さん……」

 

『私もいますよ、お兄様』

 

文化祭を翌日に控えた日の夕方。

『色々』な下準備を終えて寮に戻ろうとした所で束さんから電話がきた。

文化祭の日にちは夏休み中に伝えておいたけど、その時は来れるかどうかわからないって言ってたから、何か変わった事でもあったのかな?

 

『そういうむっくんは何だか気が滅入ってるみたいだねぇ?』

 

「いや、まあ……何でわかったんですか?」

 

『そりゃ私がむっくん大好きウーマンだからSA!』

 

「あぅ……」

 

電話越しで姿は見えないけど、今絶対ドヤ顔しながら胸張ってるよ……というかそんな臆面も無く言われるとこっちが恥ずかしくなる。

 

『ん~!照れてるむっくん、ベネ!……それで、なにがあったの?束さんに話してみなよ』

 

話してみなよとは言うけど、実際その言葉には有無を言わさない強制力と、心からの心配を感じられた。

……確かに、束さんには話しておいた方が言いかもしれない。

 

「実は―――」

 

寮に帰る道を歩きながら、僕は今日に至る顛末を全て話した。

話し終わる頃には寮の自室に着いてしまっていた。

簪(彼女)の温みを感じられない……寂寥感さえあるのはきっと、僕の心の問題だ。

 

『なぁるほどねぇ……手を出すのはもう少し先かと思ったけど、連中も無駄に頭は回るって事か』

 

「束さん?」

 

『あぁ、いやいや、こっちの話し~。んー……むっくんはそのカンザシ?って子の事が心配なんだね』

 

「……そう、ですね。僕がもう少し早く気付いていれば、こんな事にはならなかった筈ですし……」

 

思い返してみれば予兆はあったのだ。

だが僕はそれを看過してしまった。その結果がこれだ。

自責の念を感じない何て事は出来ない。

 

『むっくん、もう事態は動いてる。"IF "を考えても仕方ないよ』

 

そんな心を見透かすように束さんが諭すようにそう言ってくれた。

 

『過ぎた結果はどうしようも無い。これは残念ながら私だって抗えないものだよ……だから、次の結果をハッピーエンドにする方法を考えるべきだ。そして君はもうそれに向けて動いている』

 

きっと画面越しに微笑んでいるような、穏やかな言葉がゆっくりと浸透する。

 

『大丈夫、"運命は君の味方"だよ。後は君の心次第だ、主人公(ヒーロー)』

 

「―――っ」

 

トン、と背中を押された気がした。

 

「そうですね……そうでした。何時までも、悩んではいられない。ヒーロー目指すなら立ち止まってなんかいられない」

 

先への不安が溶けて、自然と笑顔になる。

うん、もう大丈夫だ。絶対に……簪を取り戻す。

 

「ありがとう――束さん」

 

『あー、改めてそう言われると照れるなぁ!……何々くーちゃん?……おっとそうだったそうだった』

 

「?」

 

ちょっと大袈裟に笑ってから、束さんは何やらクロエと小声で話した後、『重大発表!』と前置きして……

 

『明日の文化祭、"私たち"全員で行くよ!――アスワンで!!』

 

『です』

 

「………………はい?」

 

 

 

とんでもない事を宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで粗方用意は出来たか……」

 

「各種機材の搬入も完了。あとは明日ターゲットが網に掛かるかどうかですね」

 

既に薄暗くなりつつある秋空をアリーナの観客席から眺めて千冬と麻耶は揃って息を吐く。

 

「掛かるさ。二、三話した程度だがあれはそういう女だ。それに掛からなくとも引き摺りだす」

 

「せ、生徒会長も参加しますしね……」

 

獰猛な笑みを見せる千冬に麻耶は苦笑いしながらそう返す。

基本表には見せないが、千冬も今回の件については思う所があるのだろう。

 

「しかし亡国企業か……明日の警備状況は?」

 

「例年の1.5倍程度に人員を増やしてあります。学園(ここ)としては最大限の動員数です」

 

「足りないというのは吝かか……」

 

眉を潜めて呟く。

明日は文化祭だ。チケットによって人数制限がなされるものの、外部の人間が大量に入るのは確実だ。

既にこちらにはバートリーというイレギュラーを抱えてしまっている以上、文化祭を狙って亡国企業が何も仕掛けてこない等という甘い考えは捨てるべきだ。

 

「出来うる下準備は完了した。後は結果を御覧じろ、と言ったところか」

 

「そうですね……」

 

「……歯痒いな」

 

「あら?織斑千冬(世界最強)とあろう人が随分弱気ですね?」

 

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて空を睨むそんな千冬の背に唐突に声が掛かる。

 

「安い挑発だな、更識」

 

からかうような言葉に振り返る事なく千冬は斬って捨てる。

言われた当人である楯無は小さく笑って誤魔化す。

手に持った扇子には『驚嘆』の文字が浮いていた。

 

「いえいえ挑発ではなく、純粋に、貴女のような方でもそうなるのだな、と思いまして」

 

「抜かせよ。私は超人でも無ければ仙人でも無い、ただの人間だ。こうもなる」

 

((絶対嘘だ……))

 

楯無と麻耶の内心がシンクロした。

何を罷り間違えばIS用の刀を生身でぶん回せるような人をただの人間と言えるのか。

もうこの時点で十分超人に片足どころか全身浸かってるようなものだろう。

 

「何か失礼な事でも考えてないか?」

 

「「いいえ滅相もございません」」

 

「……はぁ、まあいい。それで、お前も下見か?」

 

追及を諦めて千冬が問うと、楯無は静かに頷いた。

 

「ええ。こちらも色々と手を回しましたから、最終確認はしておかないと」

 

「殊勝な事だ。で、本音は?」

 

「明日あの毒女を如何様に叩き潰してやろうかと想像しながら歩いてました…………涙腺擦りきれるまで泣かしてあげます」

 

扇子で口元を隠しているものの、あふれ出る怒気が漏れてしまっている。

横目でそれを見て千冬もまた笑う。

 

「ああそうだな。自分たちが"何"に手を出したのか、丁寧にご理解いただこうじゃないか」

 

これは相手からの宣戦布告だ。

ならば丁重に受けた上で完膚なく叩き潰す。

その為の舞台は整った。

『結末』はとうに見えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「束さん、一体何を考えてるんだ……?私たちって事はクロエと一緒って意味じゃないだろうし……」

 

プツリと電話が切れた後。

僕は一人不安に暮れていた。さっきとは別の意味で。

束さんとクロエが来る、これは純粋に嬉しい。確実に織斑先生にダメージが加わるけど。

問題は私たちと言うワードと何より『アスワン』だ。

 

「……まさか」

 

そこで睦月に電流が走る。(閃き)

 

「アスワンって、もしかしてあのアスワン……?だとしたら私たちって……TRシリーズ全機連れてくるって事!?」

 

こんなこと気づきとうなかった!!

この予想が当たってるとしたら確実に波乱が起きる!いくら自衛だとしても過剰戦力にも程がある!

束さんの事だから絶対、武装のアップデートしてるだろうし!

 

「あぁ……ヤバい」

 

思わず頭を抱える。

落ち着け睦月。逆に考えるんだ。

波乱起こされちゃっても良いと考えるんだ………………が、無理ッ!

どうしよう……もういっそ一夏と箒さんに投げてしまおうか。

いや、そうしよう。(確定)

 

「……よし、これで明日は大丈夫だ」

 

深呼吸一つ。

よし、落ち着いた。

そこ、諦めたとか言わない。

 

「織斑先生たちは場所を整えてくれた。後は……僕と楯無会長次第、か」

 

気持ちを切り替え、机に座る。

畳まれたノートパソコンを開いてヘイズルの武装を確認しようと電源を入れる。

そこで唐突にノックの音が聞こえた。

 

「睦月~、いる?」

 

この声は、鈴音さん?

 

「居ますよ~。鍵なら開いてますから、入って大丈夫です」

 

「お邪魔するわ」

 

言うが早いか、ドアが開ききる前に鈴音さんはするりと部屋に入ってきた。

 

「どうしたんですか?また一夏が鈍感発動でも?」

 

「あ~……それは何時ものことよ。今回は別よ」

 

若干一夏の愚痴を言いかけたように見えたけど、鈴音さんは咳払いすると表情を切り替えた。

 

「別……?」

 

 

 

 

 

 

「そ。アンタ明日『簪を取り返す』んでしょ?だからその前に伝えておきたくてね――あの時の、簪の気持ち」

 

 

 

 

 

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