九尾の母のもとに生まれ、とうとう百年が経った。
俺も遂に尻尾が増えて二尾になった。狐の寿命なんてたかが知れてるなんて言った奴出てこいよ、人間の寿命の限界もうちょっとで着くぞ、コラ。
とりあえず今のこの状況を整理しよう。まずは時代だ。最初は現代の山奥かとでも思ったが、ここはそんな生易しいところじゃない。と言うよりも、時代じゃない。世界中を飛び回って、おおよそ人と呼べる、知能を持った生き物がいない。全人類の祖先と思われる者共がウホウホ言いながら木と木の間を飛び移っている時代なので、ここは恐らく…と言うか、間違いなく遥か昔の地球だろう。転生ついでに時間逆行とかほんとファンタジー。
ちなみに俺は既に巣立ちを終えている。只今地球中を旅して回っているのだが、どこもかしこも同じようなもので、大した面白みもない。
さて、こういう人外キャラには得てして不思議な能力があるというものだ。俺も例外ではない。
その能力とは、「自然を操る程度の能力」。ネーミングは生前からの俺の趣味だ。
それはさておき、能力の説明に入ろう。この能力は名前の通り、自然に存在するもの全てを操れるというなんとも反則的パワーを持つ。火、水、風、土、電気、冷気、光等を操ることが出来る。また、能力使用による大きなデメリットとかそういうのも無い。
生まれた時から、何やら自分には不思議な力があるとは勘づいていたが、その時はまだ、頑張るとちょっと暖かくなったり石が少し転がる程度だった。また、能力の副作用的なものとして、自然に存在する物質の特性や融点、沸点等が解る。解ったところでどうしろという話なのだが。
今はまだ、焚き火程度の炎を出したり、水鉄砲程度の勢いで水を発射したり、つむじ風を発生させたりすることしか出来ないが、将来的には隕石を降らせて「天香香背男~www」とか出来るようになるかも知れない。
それとは別に、何か非科学的な力もみなぎっている。
母や他の妖怪達からも感知出来るので、恐らくこれが妖力というものだろう。
この力の応用で妖術をあみ出してみた。自然を操る俺にとっては火をだす術や植物を生やす術とかははっきり言って不要。自然には存在しない「幻術」と「結界術」、この二つを重点的に開発することにした。
幻術とは名前の通り、幻視、幻聴等の幻覚を相手に感じさせる術だ。弱い奴は簡単に引っかかってくれるので正直見ていて面白い。少々強い奴でも、精神的、肉体的に傷ついていると引っかかる。俺が修行を積めばどんな奴も術に引っかかるようになるだろう。
結界術も、名前の通り障壁を作り物理的な攻撃などを防ぐ術式だ。
俺とそれなりに相性がいいのか、割とすんなりと扱える。
また、妖力を圧縮やらして弾幕も放てる。これを実現している妖怪は、発案者の俺とそれを見て真似た母以外俺は確認していない。俺を襲おうとした妖怪も弾幕を見るか弾幕に当たるかするとびっくりしてどこかへ去っていくので、戦うのが面倒なときとかの威嚇にかなり役立っている。
その内俺と同じように撃てるのに気づいてこれを使うものが現れ、妖怪が皆弾幕を放てるようになる時代も近いのかもしれない。
しかし妖怪、妖怪ねえ……俺が死んだのは西暦2012年、科学が常識を支配する平成の世。あの時の俺が「妖怪はいる!」とか叫んだら正気を疑われるか冗談と思われる様な時代だ。
だが、今の俺はれっきとした妖怪である。尻尾だって二本あるし、今年で100歳の誕生日を迎える。人間だったら結構な長生きの中に入り、元気に走り回る体力や筋力はとうの昔に失われているだろう。しかし、未だ俺の力は衰えるどころか、まだ成長している。
俺の中の妖怪の定義としては、300とか400とかの年を普通に生きる。1000歳とかもザラにある。今の俺は100歳なので、妖怪としてはまだまだ未熟というか、幼いと言うべきなのだろう。
妖怪といえば、人に化けることもままある。妖狐に限定するならば、かの有名な玉藻前や、昔の中国の王を誘惑して国を滅亡させた妲己(だっき)に古代西インド域の王子の妃になった華陽夫人等の絶世の美女に化けていることが多い。
が、一人称で解る通り俺は男だ。今この狐の状態でも性別はオスである。
人化の術は長年開発しており、昨日、やっと完成した。しかし、無理して5徹もしていたので完成した瞬間に気が抜けて寝てしまった。なので、これから使うところである。幻術で相手に人の姿を見せることは一応可能だが、一度に大量の相手に見られるとその分だけ幻術を掛けないといけないし、相手に触れようとした時なども体をすり抜けるというどうしようもない欠点がある。なので、自分自身を人形に変える必要があるのだ。
既に100年を狐の姿で生きているが、これでも一応元人間だ。どうせなら人間の姿で行動したい。
――さあ、今こそ人化の術行使の時!
背の高い二足歩行!物を掴める手!ああ、素晴らしきかな人間の姿!
いざ!
ぼわんっと、なんともありふれた効果音と煙が出る。時間が経つにつれ、その煙もだんだんと晴れていき……
俺の体は狐ではなく、人型だった。
久々の人間の姿に心の中で歓喜しつつも、懐かしい二本の足で立つ。ものすごく久しぶりなので、足がガクガク震える。百年ぶりの人間の体のため、扱い方をほとんど忘れてしまっているようだ。
随分と、狐の体に慣れてしまったものだと感じる。
それでもなんとか立ち上がり、自分の体を確認する。背は170cm程での中肉中背。うん、体は前世の俺の姿だ。頭に狐耳、腰には尻尾が二本生えているが、まあその程度どうってことない。もうちょっと術を開発すれば隠せるようになる……はず。顔はまだ解らないが、垂れてきている前髪から察するに今の俺は金髪だ。狐状態でも体毛は金色で、尻尾の先端部分だけ白色だ。その影響か、人形態の時の腰にある二本の尻尾も、黄色九割白一割である。
と、先程までスルーしていたが、今の俺は何故か服を着ている。白と黄色を基調とした羽織袴だ。。ついでに足には草履も履いている。
人型になったと同時に服が出てきたので、試しに狐に戻る。すると、服は跡形もなく消えた。もう一度人型になると、また服が現れる。なんとも便利な機能が付いてきたものだ。
晴れて人型に戻れた俺は、 歩いて旅をすることにした。ちょっとした出っ張りに足をぶつけただけで転んでしまい、立ち上がるのに一分かかったり、立ち上がっている途中でまた転んでしまったりと、動かし方をほとんど忘れてしまっているが、慣れておくに越したことはない。
ところで、先程から感じるこの違和感は何なのだろうか。まあ、久しぶりすぎて違和感があるだけなんだろうな、多分。
さて、その違和感の正体とは?