白華や、その他様々な人達に名前を授けてから、凡そ二年が経過した。
最早、洞窟住まいは最早時代遅れとなっていた。平原のそこかしこに木造の家屋が連なり、村単位を木製のやけに攻撃的な柵で囲っている。ついでに、俺仕込みの結界も貼ってあるので、獰猛な動物や妖怪もこの村には入ってこれない。
米や野菜(の様な植物)を栽培したり、家畜を飼い始める家も出てきた。俺は、持ち前の能力を使って作物をよく育つようにし、毎年毎年豊作という状態にしている。一応、自然を操る程度の能力の修行にもなるので、俺も村人もハッピー。誰も困らないという素晴らしい修行だ。
この頃になってくると、銀髪の一家でなくても平仮名や片仮名、簡単な漢字まで習得してきた。会話も、ほとんど滞りなく行うことができる。
そして、同時に驚くべき事実が浮かび上がってきた。この人間たちの中に、能力持ちが結構いるのだ。白華もその能力持ちの一人で、言い表すならば“毒と薬を見分ける程度の能力”といったところか。人がその物質を食べる、或いは飲んだ時に、人体にとって毒となるか、薬となるかが分かるらしい。
更に、この村の奴らは、俺が自分たちに益をもたらす者だということを理解してきていた。ヤケに力が強く、自分たちに言語を教え、村に結界を貼り、作物を実らせている俺を、村のトップの座に置くような空気になっている。実際、村人たちが俺に差し上げるという名目で建てた家は、他の家屋よりかなり大きなものだった。
ついでに、こいつらは色々な物を発明してくれる。投石器やら、新しい感じの服やら。この前なんて、製鉄技術を身につけた。
文明の発展するスピードが、早いような気がする。
さて、そんなある日だ。村人たちが建てた家の中で暇している俺に、白華が訪ねてきた。余談だが、この二年で白華も結構成長していた。わずか二年の間だが、中々いい感じに育ってくれている。口調もだいぶ違う。二年も経てば、そんなものなのだろうか。
「おー、白華じゃないか。どうした?」
「いやね、聞きたいことがあるのよ」
と、こんな感じの口調に変化している。
二年前のたどたどしい口調は可愛かった。単語単語で区切って、それらを引っ付けて無理やり文章にしたような喋り方。割と聞き取りづらいが、少女がそんな話し方だというだけで、聴きにくさが可愛さに押し負ける。
今は普通の口調になっているが、可愛いといえば可愛い。
「ほう。何だ?言ってみろ」
「あなたの名前、まだ聞いてないなって」
「俺の名前?」
「うん」
どうやら、白華は俺の名前が気になるらしい。
この前言った通り、俺は前世の名前を忘れている。現世でも、特に聞かれはしなかったから考えてもいなかった。
しかし、俺の名前か……あれから二年経ったが、依然俺のネーミングセンスは壊滅的なままだ。……まあいい、適当に何かつけておこう。
「そうだな……
尻尾の色が狐の自毛九割、先っぽの方に何故か白が一割あるからという、異様なまでに安直な名づけ方。色は狐色より黄色に近いが、それに合わせて九金や九黄よりはマシだと思う。時には、ちょっと見方を変えてみるのも手の内だ。
……しかしあれだ。俺のネーミングセンスは、あの吸血鬼に匹敵する。そう確信した。
「白一?」
「そ、白一。九狐ってのは苗字だな。この前、お前らの家族にも授けたろう?」
「うん、八意。数ヶ月前、白一さまに貰ったんだっけ」
そう、こいつは数ヶ月前から「白華」ではなく「八意 白華」になっていた。何故八意とつけたかというと、理由は簡単。俺の趣味だ。銀髪で頭がいいという条件から、ピンときた。まあ、この銀髪の一家があのキャラの祖先になるとかまず考えられん。そうだったら奇跡だ。奇跡としか言い様がない。
こんな所にまで趣味を影響させる俺も大概と言えば大概だ。前世だと、好きなキャラクターの名前を自分の子供につけるようなもの。ぶっちゃけ言ってドン引きレベルである。
そして、この日を境に村中へと俺の名前が広まった。この村の情報伝達力は凄まじく、有り得んとも思える速度で広まっていった。
……しかしこいつら、いつの間に様付けを覚えたのか、度々「白一様!」とか「白一さまー!」なんて呼んでくる。ちょっとむずがゆいぞ。
―それから数週間後―
あれから数週間。最早、ここにいる奴らに俺の名前を知らん奴は居なくなっていた。
丁度昼過ぎ。俺はというと、自宅の中でごろごろと寝っ転がっていた。
気持ち良く寝ていたのだが、それを妨げるが如く、一人の男が俺の家の中に入ってきて、大声で俺を呼んだ。
「白一様!大変です!」
「……んあ~?どうした、何かあったか?」
寝ぼけ眼を擦りつつ、適当な返事を返す。正直言って眠いんだが、こいつの慌て用は尋常じゃない。眠気を吹き飛ばしてくれるほどの事件でも起きたのだろうか。
そんな事件、起こって欲しくもないのだが。
「妖怪がっ……!妖怪が白一様の結界を破って、ここへ入ってきましたっ!」
「……何?」
うむ、眠気は完全に吹き飛んだ。完膚無きまでに吹き飛んだ。
先ほどより何倍も真剣な顔で返す。あの結界が破られるなど、並大抵の妖怪じゃないと思う。
ならば、並以上の妖怪ということになるのだが、こんな所に何の用があるのだ。人か?人を食いに来たのか?
「どういうことだ?あの結界は、そこらの妖怪じゃ破れんはずだが」
「それが、狐の妖怪でして……空を飛びながら、触れただけで結界を破ったそうです!」
待て、本当にどういうことだ。
そんな強力な妖怪、ここの近くに居たか?……ん、待てよ?狐、妖怪、強力……何か、心当たりがあるような気が……
その時だ。俺の家の中に、一匹のドでかい狐が入ってきた。
日の光を反射して光る金毛は見とれるほど美しく、その後方には、立派な九本の尻尾が生えていた。
そして、俺に話しかけてきた。とても、とても懐かしい声色で。
「なんじゃ、こんなところにおったか。馬鹿息子め」
「……母、上?」
九“狐” 白一
東方妖“狐”伝
東方のお約束ですね、ラスボス(又は5ボス)の名前と東方の後ろ三文字が被るっての。
こいつがラスボスになるかどうかはさておき。