かつては栄華を誇っていただろう街。今は荒れ果て、ビルの幾つかには大きな穴すら空いている。
そんな静寂な街に重い足音が響く。ビルの影から現れたのは赤いマントを着けたトラの様な生き物。その歩みはこの場に己を害せるものなどいないと言わんばかりの堂々としたものである。
その様を2キロ離れたビルの屋上から見下ろし、横に置いていた狙撃銃を構えた。スコープを覗き、悠々と歩いているデカブツ――アラガミ、ヴァジュラ――に照準を定める。
まず狙うのは目、陸上の生物が周囲を把握するのに最も使用される視覚でありその構造上柔らかい部位である。
スコープの中心に目標を定めたら、自分の動きを止める。心臓の鼓動や筋肉の微弱な振動――そんな数ミリのブレさえも2キロ先では数メートルのズレになる。故に狙撃主は自分の思考を平静に保ち、心臓の鼓動を最小限に抑え、その上でブレのないタイミングを見逃さず弾丸を撃つ。
だが、それは一般論であり自分達、人でありながら人を止めたゴッドイーターには通用しない。心臓の鼓動なら自分の意思で止められる、微弱な筋肉の振動も制御できる。
ならば外す理由がなく、放たれた弾丸は銃声と共にヴァジュラの右目を撃ち抜いた。
「――――――!?」
突如として片方の視界を奪われたヴァジュラは混乱して一瞬動きが止まる。そこを逃さずもう一度銃声が響き、残った左目も撃ち抜かれた。自らの劣勢を悟ったヴァジュラは狙いをつけにくくするために電撃を身に纏いながら逃げようとするが、時は既に遅かった。
撃ち込まれた弾丸が体内で爆発し、ヴァジュラのコアにダメージを与える。
アラガミにとってコアは脳のようなものである。そこにダメージを受けたヴァジュラはコアを修復を最優先させ、一時的にその動きを完全に静止させる。そこに向かって再度弾丸が撃ち込まれた。そして、その弾丸も先程と同じくコアにダメージを与えその動きを封じる。
ここまで来てしまえば後はコアの再生能力が限界を迎えるまで撃ち続ければいい。弾丸を撃つのに必要なオラクルは事前に大量に用意したOアンプルで回復すればいい。
数分後、ヴァジュラは完璧に沈黙した。すぐさま接近しコアを回収する。
『ミッションの完了を確認しました。回収班を向かわせるので回収ポイントに向かってください』
「了解、これより帰投する」
狙撃中は集中を乱さないよう沈黙していた通信機から聞こえるオペレーターの声に答え、回収ポイントに向かって歩き始めた。
ふと後ろを振り向くとヴァジュラが横たわっている。コアを抜いたがゆえに後数分と経たずに分解するそれを見て、思うことはただ一つ。
「今日も生き残れた……」
――これは絶望に満ちた世界で、死に怯えながらも戦う一人のスナイパーの物語