東方観察録   作:野良犬

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基本的に上海(中の人)は人の名前を呼びません。
全て彼女の独断と偏見による名称になります。


シロクロガキタヨー

――バアアアァァァンンッッ!!

 

 ご主人様と来客の準備を済ませていると、入り口の扉が勢いよく開かれた。

 誰かがズカズカと無遠慮に入って来る。

 ちなみにニャリスはバレた。

 現在ネコ耳は魔法で小さくして私に装備させられてる。

 

「邪魔するぜー」

 

 入って来たのは魔女っ娘姿で竹箒を肩に担いだ白黒。

 ご主人様と同じく魔法の森に居を構え、『霧雨魔法店』を営んでいる家出娘。

 幻想郷の各地に出没し魔法関連の品を無断で持ち出す窃盗犯。

 本人曰く「死ぬまで借りてるだけだぜ」らしい。

 バカジャネーノ。

 「弾幕は火力(パワー)だぜ!!」が信条な自称・普通の魔法使い。

 

 その名も『霧雨 魔理沙』

 

 腹ペコ姫とみょんに春度が奪われた事によって長く続いた冬の異変で初めて出会った。

 それ以来、時々ここに来訪(襲撃)するようになった招かれざる客ナリ。

 

 まあ、ご主人様が来訪を許可している時は持て成すが。

 ちなみに「弾幕は頭脳(ブレイン)。常識よ」がご主人様の信条。

 

「はぁ……せめてノックぐらいしなさいよ」

「固い事言うなよ。私とお前の仲だろ?」

「どんな仲よ」

「『同じ森の中に住んでる』仲だぜ」

「ホントどうでもいい仲じゃない」

 

 そんな割といつも通りの掛け合いをする二人。

 私はご主人様を椅子へ促す。

 ついでに白黒も妹達を動かして座らせてやる。

 

「で? 何で上海はネコ耳着けてんだ?」

「お仕置きよ」

「どんなお仕置きだよ」

 

 茶菓子を用意しつつ、妹達に茶の準備を指示する。

 私は白黒の半径1m以内には近づいたりせぬが。

 

「相変わらずこっち来ないなぁ」

「自業自得でしょうに。あんな事すれば警戒されても仕方が無いわ」

「ちょっと魔が指しただけなんだけどなー」

「その出来心の所為で今もこうだけどね?」

「ぬぐっ……シャンハ~イ、そろそろ許してくれよ~」

「フシャー!(私は貴女を警戒しています。の意)」

 

 両手を振り上げて威嚇。

 

「まだ駄目みたいね」

「うぅ……先は長いぜ……」

 

 テーブルに突っ伏す白黒を無視して妹達が持ってきた茶を淹れる。

 出涸らしじゃないだけありがたいと思うがいいわさ。

 

 ぬ?

 何で私が白黒を警戒してるか知りたい、とな?

 よろしい。

 ならば諸君に語って聞かせようではないか。

 

 あれは長い冬が終わったある日の事。

 「慰労や親睦を兼ねた宴会を開催する」という知らせが来た。

 それを聞いたご主人様がその宴会に参加すると言いだした。

 珍しい、と思ったね。

 ご主人様って基本的に他人に無関心で物事に拘らないさっぱりとした性格してるし。

 人見知りという訳じゃないんだけども。

 で、まあ当然私もついて行った。

 本気じゃなかったとはいえ、ご主人様を倒した紅白・白黒・ミニスカメイドもいるみたいだし。

 

 ご主人様は私が護る キリッ

 

 みたいに気合いいれてた。

 コラそこっ!

 異変で既に負けてる m9(^Д^)プゲラ とか言うなし!

 

 で、紅白の神社に着いて宴会開始。

 参加者は結構いた。

 

 紅白・白黒・ミニスカメイド・紅い家のおぜう

 金髪七色リ・紫もやし・中国・赤髪コウモリ

 腹ペコ姫・みょん・⑨・保護者の緑・白いの

 オレンジな黒猫・尻尾もっさり・胡散臭いの

 乳ましい雪女・五月蝿ん姉妹・ご主人様・私

 

 ごった煮状態である。

 まさにカオス。

 

 まあ、そんな状態でも改めてご主人様と一緒に挨拶回りしたわけだ。

 初めて見る顔も多かったし。

 私はご主人様の僕らしくカーテシーでご挨拶。

 優雅さアピールである。

 ご主人様が「教えてないのに…」とか「どこで覚えたのかしら…」とか呟いてたが知らぬ。

 

 ミニスカメイドと金髪七色リが同じくカーテシーで返してくれた。

 みょんも座礼で返してくれた。

 結構嬉しかった。

 他の奴等は割りとユルかった。

 

 ミニスカメイドはやり慣れてるのか完璧で上品だった。

 実に瀟洒なメイドである。

 金髪七色リは少しぎこちなかったけど一生懸命なところが可愛かった。

 実にほっこり和んだ。

 みょんはきっちり正座して双手礼による敬愛礼。

 何であの子、座礼の作法とか知ってんの?

 武士だから?

 

 おぜう?

 紅白口説いてたけど?

 腹ペコ姫?

 みょんに持って来させてた大量の差し入れ1人で食べてたけど?

 この二人、酔った勢いでセクハラする幼女(おっさん)と桃色の悪魔にしか見えん。

 まさにカリスマブレイクとノーカリスマ 。

 ダメ主sめ。

 ご主人様を見習うがいい。

 

 まあ、そんなこんなで白黒の番になったんだ。

 白黒は紫もやしに絡んでたけど。

 改めて自己紹介したあとも魔法使い同士な事もあってか三人で割りと話は続いてた。

 次第にお互いの魔法の話題になったんだけど、白黒が興味深そうに私を見だしたんだ。

 ご主人様の作品たる私に興味を持つのも理解出来るからとりあえず愛想良くしてのだよ。

 

 そしたらこの女何してきたと思う?

 いきなり私を鷲掴んでひっくり返したあげく、スカートの中覗きやがったDeath。

 乙女のスカートを無断で覗くなんざとんだ破廉恥女ですぜ。

 お返しに、そのまま渾身のサマーソルトで顎カチ上げてやったがなっ!

 天井ブチ抜いて首から下がプラーンってなってる白黒を見て少しは気が済んだ。

 ちなみに周りはこの惨状を白黒の宴会芸だと思ったらしい。

 結構受けてた。

 

 そんな経緯があって私はコヤツを警戒し続けてる訳なのだよ。

 分かったかね、諸君?

 諸君って誰だ。

 

「な~、上海ってばよ~」

「プイッ」

「せめてこっち向いてくれよ~」

「ツーン」

「よしわかった。私のスカート捲れ! それでお相子だ!」

「バカジャネーノ」

「orz」

 

 私を構おうとする白黒とあしらう私。

 あの宴会以来ずっとこんな感じ。

 意外に粘りおるわコヤツ。

 あとご主人様?

 微笑ましく見るの止めてくれない?

 「なんだかんだ言って仲良いわよね貴女達」とか言わないでよ。

 あーほらぁ、白黒が復活したじゃん、もー。

 

 その後は復活した白黒がご主人様と魔法談義したり。

 めげずにアタックしてくる白黒をいなしたり。

 色々やってたらいつの間にか白黒が泊まってく事になってた。

 急な話だから当然着替えとか持ってない白黒。

 風呂上りの着替えは私が用意してやった。

 

 フリフリすけすけのネグリジェをな!!

 

 もちろん穿いてない。

 むしろ穿かせない。

 裾を気にしながら顔真っ赤にしてもじもじしてる白黒。

 フヒヒ♪

 

 ご主人様にバレて怒られた。

 ちぇっ。

 仕方ないので穿かせてやった。

 

 その後、寝静まった二人の寝顔を観察しながら思う。

 ご主人様は女神。

 これはハッキリ分かんだね。

 

 そしてもう一人。

 さっきまでブーたれてた白黒。

 コヤツもご主人様ほどじゃないとはいえ腐っても美少女だな。

 

 白黒の癖に生意気な。

 とりあえず脱がしておこう。

 ブルマ的リアクションを期待。

 朝が楽しみである。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

――『上海観察日記』より抜粋――

 

 

 あの怪生物との邂逅から、週1回の頻度で上海に休暇を与えていた。

 今のところ上海はアレとは3回ほど遭遇している。

 

 東風谷 早苗っぽいモノ。

 十六夜 咲夜っぽいモノ。

 そして……私っぽいモノ。

 

 ええ、いたわ。

 いたわよ、私っぽいモノ。

 できれば見たくなかったけど。

 しばらく魔法の森の中は歩きたくない。

 バッタリ遭遇したら嫌だし。

 

 今日も上海は外へ出かけた。

 映像から判断するに霧の湖に向かっているらしい。

 が、少し周りの様子がおかしい。

 いつもは沢山の妖精が飛び回っているのに、今日に限って全く見かけない。

 何か嫌な予感がした。

 

 辿り着いた湖の畔に水色の人影が見えた。

 服の色と体格の小ささから氷妖精だと思ったわ。

 

 ―――ソイツが振り返るまでは。

 

 似ているのは姿形だけ。

 ソイツは普段の氷妖精とはかけ離れた雰囲気を身に纏っていた。

 

 両腕を左右に真っ直ぐ伸ばし、今にも走り出しそうなポーズでこちらを凝視してくるソレ。

 その瞳はあらゆる光を際限なく飲み込む様に黒く、暗く、澱んでいた。

 私が直接見られている訳でもないのに、身体中を這い回る悍ましいナニカを感じた。

 

 しばらく上海と対峙していたソレは、おもむろに彼女の周囲を回り始めた。

 決して上海から目を逸らさず、次第に数を増やしながら走り回るソレ。

 気付けば総数は既に20体以上。

 

 上海は完全に包囲された。

 

 走りながら首を上下左右に小刻みに振動させるソレ。

 脳が浮くような感覚に襲われる。

 

 持ち上げるように首を外し、ゴロゴロと転がして他のソレ等に渡していく。

 首は無限に湧いて出てきた。

 自分の口から出た悲鳴が何処か遠くに聞こえる。

 

 巨大で真っ黒な眼孔のソレ等の生首が映像一杯に、埋メ尽クサレタ。

 

 気持チガ悪イ

 

 吐キ気ガ止マラナイ

 

 頭蓋ノ内側デ

 

 何カガ…………

 

 私は意識を失った。

 

 

 

 目覚めたら上海が帰ってきていた。

 特に変わった様子も無く、他の上海人形達と夕食の仕込をしている。

 いつもと変わらない光景である事に、何故か寒気を感じた。

 

 アレについてはとにかく忘れる事にしよう。

 

 幻想郷に実在する数多くの怪異達。

 ソレ等が霞むほどの言い知れない不安感と根源的恐怖を感じさせるアレ。

 

 深く関わってはいけない気がする。

 理解してはいけない気がする。

 

 だから、忘れよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たとえ、視界の端に―――

 

 ―――水色のナニカが、映っているとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――“ノい‡――

 

 だ

   レ

  か

   が

 ワ

    た

  シ

   を

 ず

  ッ

    と

 ミ

   テ

  い

    ル




フィギュアに触れた事のある人なら一度は魔理沙と同じ事をした事があるはず。
野良犬もした事がある。
あのなんとも言えない衝動に抗える人っているんでしょうか?

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