艦隊これくしょん 艦これ~蒼き鋼の航海記~ 作:トッシー・マツナガ
西暦2089年7月25日午後19:00
横須賀港にてイ401とそのメンタルモデル『イオナ』と接触。
同時に『千早群像』をイ401の艦長に任命。
その後、日本海軍と横須賀基地にて戦闘
横須賀港を脱出。
以降の詳細は不明。
記録終了
朝、群像は目を覚ますと何か考え込んでいた。
「なんだ、蒼き鋼の航海記って。」
夢の中で横須賀港に現れた蒼い少女と、蒼い潜水艦伊401の存在が何を意味するのか、これから何が起きるのか、彼の中で不安だけが膨らんでいった。
「考えても仕方ない」
群像は考えるのがバカらしくなってきて、夢のことは忘れて学校の準備をし始めた。それは彼が夢から目を背けるような行動だった。
校内に入ると、昇降口を入ってすぐ右に行くと学生の休憩場でもある『セントラルホール』がある。そこに変わった生徒が三人集団で退屈そうに座っていた。群像は彼等のところに向かった。
「よお、群像」
褐色の肌にゴーグルを掛けた男子生徒が群像に話しかけてきた。彼は『加藤杏兵』という生徒で、『海上武装学科火器管制学部』に所属している。陽気な性格で群像の親友である。
「どうでしたか。視察の方は。」
「新型防衛艦『マサムネ』『ユキムラ』の艦内の見学だけだった。機密事項と言われたけど、不用心過ぎる。」
視察の件で聞いてきたのは『織村僧』。群像と同じ『海上戦術学科戦術学部』の生徒であり、幼なじみでもある。頭部全体フルマスクをしている。本人いわくアレルギー避けらしいのだがそこは不明である。
「ところで杏兵。貸してたゲームいい加減に返してよ。」
「ちょっと待ってくれよ、あと二面で全クリできるから、あと一週間貸してくれ。」
「なんであと二面で一週間も掛かるわけ。」
杏兵に文句を言っている彼女は『君塚いおり』。『海上武装学科機関・技術学部』の生徒で、群像と同級生である。
「そう言えばまた出たらしいよ。」
「何がだ。」
「海の女の子の幽霊。」
いおりが、ある噂話を持ちかけると三人とも彼女の話を聞き始めた。
いおりの話によると、最近学校付近の港で真夜中に少女が海の上に立っている姿が目撃されてる。さまざまな仮説が飛び交っているが、有力なのは「学校で自殺した女子生徒の幽霊」か「大海戦時の艦娘の幽霊」の二つが取り上げられている。そして、また目撃証言があったらしいのだ。
「で、それがどうかしたのか。」
「よくわからないけど、その幽霊群像の名前を呼んでたみたいなの」
いおりの話では、その生徒が見た幽霊の少女は群像の名前を呼んでいたらしく、それ以上はわからなかった。群像自身にも心当たりがなく、あるとすれば父親の件だけだ。
「下らない。」
「え?興味ないの。」
「どうせ誰かの嫌がらせだろ。」
いつもの嫌がらせだと思い、群像はいおりの話に興味をもたなかった。ただいつも通りの時間を過ごした。
その日の夜、群像は横須賀港の海辺に来ていた。しかも夢に見た『蒼き鋼の航海記』で伊401と接触した場所である。さらに、いおりが話していた幽霊の少女が目撃されている場所でもあった。
「もうすぐ時間か」
時刻は午後19:00を回った。群像は、夢に出てきた伊401と一人の少女の事が気になり、確かめに来たのだ。特に異状はなく、少女が現れるどころか潜水艦が出現する気配すらなかった。
「やっぱり夢だったか」
群像が辺りを見渡してみると、コンクリートブロックに少女らしき人物が打ち上げられているのが確認された。群像は急いで彼女の元に駆け寄り、彼女の状態を確認した。同時に彼女の正体に気づいた。
「艦娘・・・なのか。」
艤装を装着してたためすぐにわかった。しかも駆逐艦型の艤装だった。
「おい、しっかりしろ。」
群像が声を掛けると、答えるように頷いた。同時に腹部から音が聞こえた。それを聞いた群像は彼女に異状はなかったことを確認し、いおりに連絡して彼女の食事を頼み、駆逐艦の艦娘を担いでいおりのアパートまで運んでいった。
群像たち海洋技術総合学院の学生は、寮かアパートに住んでいる。ちなみに群像はいおりと同じアパートである。
「なんでこんなことになってるのよ。」
いおりのアパートに着いた群像は彼女に食事をとらせていた。なぜか杏兵と僧も一緒だった。
「群像・・・お前等々女子中学生拉致したのか。」
「正確には彼女を保護した方が正しいですが。」
杏兵と僧が冗談で話していると、いおりは群像に彼女のことについて聞いてみた。
「で、この子はなに。」
「彼女は艦娘だよ。それも駆逐艦。」
いおりたちは驚いていた。艦娘を生で見るのは初めて見たからである。
「マジか、人間と全くいっしょじゃん。」
「よく駆逐艦だとわかりましたね。」
「俺が小さい頃、親父の仕事場へ見学に行ったことがある。駆逐艦や空母もその時見たんだ。そして俺が初めて会ったのが、連合艦隊総旗艦の『長門』だった。」
「『長門』って『大和』の次に有名な戦艦だよね。よく面会出来たよね」
すると少女が丁度食事を済ませていた。そして群像たちの方を向き挨拶をした。
「ありがとうございます。助かりました。」
群像は彼女にいくつか質問をした。
「君は艦娘だね。」
「はい。特型駆逐艦『吹雪』です。」
「あんなところで何をしていたんだ。海軍に見つかるかもしれなかったんだぞ。」
「すいません。私、この横須賀鎮守府に所属することになったんです。でも鎮守府らしきところが見当たらなくて、それで司令官を探していたら・・・力尽きて倒れていました。」
群像たちは吹雪の話に驚いていた。横須賀鎮守府は大戦後、海原翔像の消息が不明になった翌年に取り壊され、群像たちが通う『海洋技術総合学院』に建て替えられ今に至る。それを聞かされた吹雪は慌てて司令書を取り出した。
「そんな。司令書には確かに『横須賀鎮守府』って記載されてますよ。」
「いや。だからその鎮守府今俺らの学校になっちまってるんだよ。」
「吹雪。君が所属する鎮守府の提督の名前はわかるか。」
「はい。海原群像司令官です。」
群像たちはますますわからなくなってきた。無くなったはずの鎮守府に、群像の提督指名、司令書の誤りにしてはおかしなことばかりだからだ。群像は取り敢えずこの場を解散にした。吹雪はしばらくいおりに預けてもらうことにした。僧からは軍に報告した方がいいという提案がでたが、群像はそれを拒否した。吹雪が軍で何らかの処分を受けるとわかっていたからだ。
あれから群像は考え続けた。吹雪が現れたのは『蒼き鋼の航海記』と何か関係があるのではないか、これからどうするべきなのか、答えはすでに出ていた。そして決意した。自分が今何をすべきなのかを。
翌日、群像は吹雪を連れて横須賀港に来ていた。二人が出会ったあの海岸だった。そこで自分の決意を話した。
「不思議な夢を見たんだ。」
「夢・・・ですか。」
「吹雪と初めて会ったこの場所で、俺は蒼い潜水艦と蒼い少女に出会った。」
「なんかすいません。私・・・邪魔だったみたいですね。」
「俺は、そうは思わない。お前と出会えたから俺は自分の気持ちに正直になれそうな気がしたんだ。日本を・・・いや世界を変えられるんじゃないかって。」
「群像さん。」
「こんな俺に何ができるのかはわからない。でもやれることは全てやりたい。けど俺だけの力じゃそれは不可能だ。だからお前の力を貸してほしい。」
「私の力をですか。でも駆逐艦の私に世界を変える力なんてあるのでしょうか。」
「少なくとも俺よりかはな。」
「群像さん・・・わかりました。」
「そうか。では特型駆逐艦『吹雪』。現時刻を以て君は俺の指揮下に入ってもらう。異論はないな。」
「はい。司令官。よろしくお願いします。」
それから数週間後、群像たちは横須賀を離れ二度と戻ってくることはなかった。
それから二年後、群像たちは『白き鋼』と名乗り、活動を続けている。
今後『蒼き鋼の航海記』が何をもたらすのか、そしてどこへ導くのか、誰にもわからない。
群像提督率いる『白き鋼』の行く末を見守るしかない。