湧昇を駆ける   作:目黒六十

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 少し思い立った話を書いてみました。全く関係ありませんが「いずも」配備おめでとうございます。



第一話 「波の始まり」

 

 「提督、どうしたのかしら?」

 

 「ん?いや、綺麗な夕日だと思ってね。」

 

 こじんまりとした司令部から外洋を眺めて、男はぼんやりと語った。珍しいこともあるものね、と龍田は資料の整理を止めた。真面目なようで少し頼りない、そんな普段の彼から感じることのない雰囲気であった。

 

 「あらあら、いつから提督はそんなロマンチストみたいになったんですか~。」

 

 「ここのところ忙しくてまともに休暇も取れていなかったから…かな。ちょっと感傷的になってしまっているんだよ。うん。」

 

 提督は龍田の茶化すような発言に、くすりと笑い執務机の席に着いた。執務机の上には今日の細やかな戦果と提督の予定表がきっちりと整理されている。

 

 「遠征の方はどうだ?」

 

 今度は龍田が笑う番であった。遠征先の変更があった第三艦隊を気にしているのだろうか。優しい提督さん。龍田が新しくこの鎮守府に来た艦にどんな提督なのかと聞かれた時答えるある種の定型文であった。それは艦娘に対して偽りなく接してくれる文字通りの優しさでもあったし、艦娘を兵器として運用できない甘さを指摘するものでもあるのかもしれない。

 

 「心配症ね~。えっと、そろそろ睦月ちゃんたちが帰ってくる頃合いかしら。」

 

 龍田は手元の資料を捲りつつ答えた。鎮守府の仕事全体を把握することも秘書官たる彼女の仕事である。今の提督が着任した当初から必要性に駆られ、半ば押し付けられたかのように続けてきた仕事だ。そろそろ一年が経つだろうか。もう手慣れたものである。

 

 「そうか。では今晩は彼女たちが帰ってから皆で夕飯にしようか。初遠征の祝だ。多少の贅沢は許される、だろう?」

 

 「あはっ。もちろん提督の奢りよね~?」

 

 そして提督が調子に乗らぬようにセーブすることも彼女の大事な大事な仕事である。この提督は容貌からは想像しにくいが唐突な無駄遣いが多いのだ。必ず、貸してやることはないと釘を刺さなければ。

 

 「うぐっ。まぁ、いいだろう。言い出したのは他でもない私だからな。」

 

 懐から古めかしいがま口財布を取り出すと、パカリと開き龍田に見せつけた。

 

 「消耗も一ヶ月ほど殆どなかったからな。見ろ、龍田。嘗て私の懐がここまで温まったことはないぞ。」

 

 「なにそれ。自慢になってないでしょ~。それに嵐の前の静けさって言うじゃない。きっとまた直ぐ私に貸してくれなんて言ってくることになるかも?」

 

 「は、はっはっは。いや、本当にそうなりそうだから勘弁してくれ給へ龍田くん…。」

 

 和やかな日々が続いていた。提督がこの鎮守府に着任して1年が経つ。当初は資源消費に頭を抱え、艦娘達との信頼関係に振り回されたものだ。沖ノ鳥では煮え湯を飲まされ、キス島では一向に辿りつけない羅針盤の法則に眠れない日々が続いたこともある。それでも提督は努力を続け、龍田達艦娘はそんな提督をしっかりと支えた。そうして手に入れたのが今日の平穏である。鎮守府の艦娘達は自信を持って言う。この鎮守府が好きだと。その言葉が提督の自信にも繋がっていた。だからこそ、忍び寄る変化に気付かなかったのかもしれない。

 

 執務机には「南西諸島沖付近ニテ新タナ深海凄艦ノ反応アリ。又西方海域ニテ複数ノ深海艦隊報告アリ。特ニ西方海域ハ多数ノ敵深海凄艦ガ部隊編成ヲ行ワレテイル可能性ガ高イ。西方海域ニ対シテノ調査ノ任ヲ此処ニ命ズル。」と書された報告書が残されていた。

 

 

 

 

 

 穏やかな海に静かな海風、水面を彩る夕陽。南西諸島沖にて多く点在する無人島の一つ。そんな赤く染まる砂浜に一人の少女が倒れていた。

 

 「アレ…ワタシ、イツノ間ニ寝テタンダッケ…。」

 

  ゆっくりと少女は目を覚ます。どうやら意識がはっきりとしていないようだった。漂流者だろうか。この海域は商船も通る。彼女が商船の乗員であった可能性はあるだろう。彼女は顔を伏せながらブツブツと二言三言つぶやくと上半身だけを起こし、ぼんやりと辺りを見渡した。

 

 「ドコ…ココ。」

 

 この無人島はどうやら少女には見覚えのない場所らしい。緩慢な動きで彼女は立ち上がると、小波に反射される夕陽の眩しさに顰めつつ、島をぎこちなく歩いて周った。足が悪いのか、どこか引きずるような辿々しい歩き方だった。

 

 「誰カー…。誰カイマセンカー。アノー。」

 

 どれだけ少女が声を荒らげても聞こえるのは波の音ばかり。島はものの数分もすれば、元いた場所に戻ってしまう程度の大きさでしかなかった。樹木などは数えられる程度しか自生していない。当然人など住んでいるはずもなかった。

 

 「ハァ…オ腹スイタ。」

 

 少女は膝を抱えて落ちていく日を眺め、唐突に訪れた難題に頭を抱えた。どうすればここから脱出出来るだろうか。これからどうやって過ごそう。食料となるものはあるだろうか。そもそもなんでこんな場所にいるのだろう。と、そんな彼女の視界に不可解なものが飛び込んできた。

 

 「アレ…海ノ上ニ誰カイル…。」

 

 海上を滑るように動く人影。夕陽に被さるようにそんなシルエットがぼんやりと走っていたのだ。少女は目を疑った。一体どういう原理で海に人が浮いているのかと。いや、そもそもあれは本当に人間なのだろうか。

 

 「ハハ…ソンナコトアルワケ…。」

 

 思わず、目をごしごしと腕で擦る。恐らくカモメか何かの影が人のように見えただけなのだ。両手で頬を叩き、目を覚ませる。人影が海を走るだなんてそんなオカルトめいた事が昨今の科学文明において起こり得るわけがない。そうしっかりと考えなおし、水平線を再び見なおした。

 

 「ッオーーーーイ!!!」

 

 初めて見る人の存在への安堵感に少女は喜び声を上げた。果たしてそこにはやはり数人の少女が楽しそうに走行していたのである。

 

 

 

 「嬉しそうだね卯月ちゃん。」

 

 遠征に出ていた鎮守府の駆逐隊。その旗艦である睦月は横でくるくると回りながら軽快に走行する卯月に微笑みながら声をかけた。

 

 「当然だぴょん!今日は帰ったらしれいかんがうーちゃん達に奢ってくれるぴょん!嬉しくないわけなぁ~い!」

 

 「龍田さんに感謝だね。きっと司令官を上手く言いくるめてくれたんだよ。」

 

 皐月は龍田に丸め込まれる提督の様子を頭に浮かべ、くすくすと笑った。ここの司令官はほんとうに優しい。戦果は正直本土の司令官よりかは贔屓目に言っても少ないけど、それでも我が子のようにボク達を扱ってくれる。勿論それを嫌う子もいるけど、僕たちの殆どが提督を慕っている。ふふ、今日は遠征も大成功だったし喜んでくれるかな?皐月も卯月に負けず劣らず、スキップでも始めそうな喜びようだった。

 

 「待て。皆、何か聞こえないか?」

 

 と、ここで卯月と皐月の視界が睦月の腕に塞がれた。警戒を発したのは最後尾で哨戒にあたっていた菊月だ。油断なく連装砲を握りしめて注意を促す。波風にまじってドコからか助けを求める声が聞こえたのだ。

 

 「誰かうーちゃん達を呼んでる?」

 

 「漂流者かもしれない!」

 

 睦月は思わず声を荒らげて慌てふためいた。全くこの姉は、と菊月はそんな長女の姿を嬉しく思った。大概にして睦月は誰かのためならば自身を顧みずに行動する。ましてや帰港の時間が遅くなる程度では彼女に迷いなどある筈もない。菊月と皐月は目を合わせ、互いの意を察して大きく頷いた。

 

 「よし、一端救出作業に入る。ご馳走は暫くお預け、だ。」

 

 「えー、うーちゃん早くごちそう食べたいぴょいたたた!?」

 

 「こらっ、馬鹿言ってないでいくよ。」

 

 軽く頬を抓られた卯月は両手拳を握りしめ、ぷんぷんと可愛らしく腹を立て、四人は哨戒を忘れず声の主を探した。

 

 

 

 「ウワ…ホントニ、海ノ上ヲ走ッテル。」

 

 片や砂浜の少女は一人非常に困惑していた。予想だにしない形の出会いに思わず助けを叫んでしまったわけだが、彼女にとって海を走行する人間など覚えない存在だったのだ。果たして本当に人間なのだろうかという疑念が振り払えない。すわエイリアンでもおいでなすったか。少女がうんうんと頭を唸らせている間に、海を走行する人影は既にはっきりと姿の見えるところまで近づいていた。現実と向き合わなければ。

 

 「…こ…らトラック泊地所属、第三艦隊睦月です!今そちらに…。」

 

 人影は四人。全員が垢抜けない十代の少女であった。誰もが妙に小型化された砲塔のようなものを身につけた妙な集団、というものが砂浜の少女の素直な感想だった。しかも誰もがポカンと口を半開きにしているではないか。一体どうしたというのだ。もしや自分の格好が驚愕に値するほどに珍妙だったのだろうか。彼女達が普段からこのような表情の奇怪な部族という線、は流石にないか。と、ここで初めて彼女は今現在の自身の容姿を、全く把握できていないことに気づいた。

 

 「…深海棲艦。それも戦艦クラス………だと。」

 

 どれほど時間が経ったのか。四人組の少女の一人が、震える声を吐き出した。深海棲艦?聞き覚えのないものだった。何の話なのだろうか。砂浜の少女は初対面にも関わらずそう口にしたい気分だった。大体人の顔を見て怯えるというのは失礼だろう。

 

 「ど、どうして…。こんなところに…っ!?」

 

 「エッ、待ッテヨ!」

 

 「皆、撤退だ!撤退っ!!」

 

 

 

 

 

 金髪の少女の叫びを皮切りに、四人組は転倒混乱大慌てで反転し島から離れていった。困惑の極致だった。助けてもらえると安心しきっていたところでいきなりの逃走…。急に少女を寒気が襲った。何かが可怪しい。何かが起きてしまっている。

 

 既に陽は落ちていた。淡い月明かりに照らされ、水面に少女の姿が浮かび上がる。恐る恐る、少女はその姿を覗き見た。

 

 「…コレガ、ワタシ?」

 

 正確に言うならば、人ではなかった。少女の姿をしたそれは、肌が青白く、真っ白な髪、両足は足首から切断されたかのよう、そして臀部から機械とも生物ともとれる奇怪な蛇の姿をしたもう一つの顔を持つ尾を有していた。彼女を表す名は深海棲艦。数十年前に突如として現れ、全ての人類を母なる海から放逐した正体不明の存在。更に言及すれば、数ある深海棲艦の中でも特別視される凶悪な存在。

 

 深海棲艦レ級、それが彼女を表すものであった。

 





 この話の主人公はレ級です。ゲームでは非常に強大な敵として立ちはだかる彼女ですが、今作ではちょっとポンコツ気味スタート。主砲の打ち方も、そもそも戦い方も今のところわかりません。暫くはそんな彼女に訪れる受難の旅が続きます。

 ところで作者はアンソロネタ等少しコアな艦これネタには不得手です。もしネタ被り、又は異常な乖離等ありましても暖かい目でご指摘頂ければ幸いです。

3/26 1:14 幾つか重大な修正を行いました。何故気づかなかったんでしょう・・・。
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