本編投下です。そろそろサブタイ付けたいと思います。
目の前の二人組にレ級は困惑した。どちらも身に覚えのない姿だ。艦娘でも、まして人間でもない。それでもに今まで会った深海棲艦とも思えなかった。
「エット、状況ガヨクワカラナインダケド…。」
端的にレ級が疑問を投げかけると胡座をかけていた何処か男らしい女、タ級は「ソウダナァ。」と腕を組み、頭を捻り出した。彼女にはまるで緊張感がなかった。
「アンタハ私達ニ負ケタノ。ソンデモッテ殺サズニワザワザ助ケテモラッタワケ。」
刺のある声色で割り込んできたのは体育座りをしつつコチラを睨んでいた女、ヲ級だ。どうにも敵意を持たれているらしい。向けられた経験のあまりない明確な敵意にレ級は萎縮した。助けた、と言っているがそんな目で語りかけるような対象を助けたりするものだろうかと疑問が浮かぶ。そもそもレ級には「負けた。」ということが何を指しているのかわからなかった。
「エ…ソウナノ?」
「アアヤッパ無意識ダッタノカ。ナーンカ変ダト思ッタワ。」
レ級と戦った時、妙なうわ言をつぶやいていたし、おそらく本能だけで戦っていたのだろう。損傷も尋常ならざる状態であったのだからそういうこともあるかと、レ級のこの反応にタ級は納得した。
「ソンナコトハドウデモ良イワ。兎ニ角、アンタハ私達ニ恩ガアルノヨ。」
またもブツブツとヲ級が口を挟む。レ級の中で、面倒くさそうな人と彼女の第一印象が確定した瞬間でもあった。容姿はどちらかと言えばおっとりしているというのになんともネチッこい雰囲気である。それにしても恩とは何の話なのだろうか。
「ダカラサッサト鋼材ト燃料ヲ取ッテキテ。私達ダッテアンタノタメニ何時間モ探シテ取ッテキテ、ソレ用意シタンダカラ。」
ヲ級はずばずばととものを言うと、ドラム缶を指さし、次いで当然とばかりに海を指さした。成る程どうやらこのドラム缶風呂のような何かは彼女たちが用意してくれたらしい。いつの間にか身体が健康そのものへと奇跡でも起こったかのように戻っていたのはおそらくその御蔭なのだ。ソレならば感謝して然るべきだろうとレ級はヲ級の意を組んで、おぼつかない足取りで海へと向かって…肝心な事に気がついた。
「燃料ト鋼材ッテ…何?」
「ンジャ何カ?ソンナ最近生マレタバッカリダッタノカ?」
「ウーン。多分一週間クライダト思ウ。」
辺りはすっかりと暗くなり、彼女たちは島中に点在する炭を使った焚き火を取り囲んでいた。レ級が燃料と鋼材についてのレクチャーを教わり、ようやっと取り終わり、全員が順に「サナガラ、ドラム缶入渠ダナ。」とタ級が呼称したそれを終えて二時間ほどがたった。タ級は一先ずレ級が今までどのように過ごしてきたかを問いかけた。情報は貴重なものだ。特にタ級は長年の経験でそれを強く意識していた。何よりも先にレ級が何者なのか、この地で何が起きていたのかを知らなければならない。
「シカシ自然発生ッテノハ聞イタコトナイナ。」
タ級はヲ級をちらと見やり、記憶を辿る。「ソウナノ?」と聞き返しつつレ級はタ級の言葉を待った。レ級が語った内容は、まず突然この姿で生まれ落ちたこと。それが正午付近の砂浜だったこと。突如爆撃を受けたこと。深海棲艦と思わしき存在と戦ったこと。有無を言わさず攻撃してきたこと。主砲を使ったこと。艦娘と遭遇したこと…しかし彼女達と戦ったことはぼかし、深海棲艦と戦い続けるうちに意識がなくなったと嘘をついた。それは思いつきで咄嗟についた嘘だった。初めて自分の話をしっかりと聞いてくれる相手…自分から仲間だと言ってくれた人、にも関わらず後ろ髪を引かれながらもレ級は喋らなかった。あのことを口にすることはなんとなくタブーであるように感じられた。何よりレ級自身思い出したくない出来事だった。
「イヤ、勿論イナイワケジャナイ。近クデ商船ガ沈ンダリシテ海域ノ「イ級」ガ増エルコトハアル。シッカシオ前ヤアタシトソイツラニハ決定的ナ違イガアル。ワカルカ?」
レ級は以前遭遇した深海棲艦を思い出した。鯨のようなイ級と亡霊のように生気を感じなかった人型のチ級。イ級とは姿形という明確な違いがある。しかしながらチ級は姿形こそ人間にかなり近い。それこそレ級自身も異形の姿をしている。この質問にレ級は苦しめられた。確かに違和感を覚えてはいたが、言葉に表せなかった。
「…喋レル、トカ?」
無難に事実をレ級は述べた。もしかしたらチ級も喋るかもしれないが、確かにあの時チ級は味方であるイ級を殺されても喋らなかった筈だ。
「アンタ…馬鹿ッポイワネ。警戒シテ損シタ。」
「ナ、ナンデスト…。」
思わぬヲ級の横槍にショックを受けた。馬鹿っぽい…これはむしろ依然としてレ級を監視するように見つめ続けていた警戒を解くことに成功したことを喜ぶべきだろうかとレ級は苦笑いしつつ、それでもやっぱり純粋な言葉の暴力に涙し、タ級は豪快にがははと笑った。
「ツマリハ理性ガアルッテコトダナ。アタシラ深海棲艦ハ基本的ニ生物本能デ生キテルモンダ。デモタマニ、極メテタマーニ理性ガアル奴ガ生マレル…。ソノ中デモ自然発生シタ奴ナンテノハ見タコトモ聞イタコトモナイ。ソレガオ前ダ。」
深海棲艦は通常喋らないし、そもそも思考しない。これは大本営が公式発表している深海棲艦に対する知見と同じくするものだ。鬼、姫と称される存在が言葉らしきものを発することはあっても、明確に喋ることはない。事実、トラックの面々は提督も、あの雪風も含め深海棲艦が喋れるということを知らなかった。それでも、確かに今此処に喋る深海棲艦が少なくとも三隻存在していた。それにしても自然発生するのが珍しいのならば、彼女たちは何なのだろうか。
「私達ハ他トハ違ウ。得テシテ異物ハ排他サレルモノヨ。他ノ深海棲艦ハ私達ヲ嫌ウ。深海棲艦側ニモ…艦娘側ニモ相容レナイ。」
ヲ級がタ級の言葉を続ける。段々と彼女たちが二人組で行動している理由が見えてきた。これにはレ級も合点がいった。そして、何故自分が彼女たちに生かされているかも理解した。
「マ、アタシガオ前ヲ助ケタノハソウイウコトダ。勿論アタシハマダオ前がドンナ奴カ知ランシ、最終的ニオ前ヲ仲間トシテ認メルカハコチラデ判断スル。」
「アッ、ソレ返シテ!」
立ち上がったタ級のその手には、天龍の刀が握られていた。咄嗟に飛びつき取り返そうとするも、片手で頭を押さえつけられ、いつの間にか動いていたヲ級に取り押さえられる。素人であるレ級にはさっぱり分からない程ヲ級の動きは速かった。
「ヘッ、大事ナ物ミタイダナ。一体コイツハオ前ニトッテ何ダイ?」
ワタシにとって、この言葉をレ級は反芻した。天龍の刀、それは天龍の置き土産…ただそれだけだ。友達だったわけでもないし、知人ですらなかった。それに、もう彼女はいない。でも確かに大切なモノだ。何故…。
「ソイツガイ言エルヨウニナッタラ返シテヤルヨ。」
タ級が刀を腰にさす。不服ではあった。何の権利があって奪うのかと口にしたいが、レ級も状況が読めないほど愚かではない。つまりはレ級が裏切らないための交渉材料だ。仕方なしにしぶしぶ了承すると、ふんと鼻を鳴らしヲ級は元の位置に戻っていった。
「サテト、ンジャ次はアタシラノ話ダナ。手短ニ話スゼ。」
砂浜に仁王立ち、ドンと右手の親指で豊満な胸を指しタ級は仁王立ちした。ちらちらどころではなくバッチリ見えるへそと曲線美の美しい身体にレ級は気恥ずかしくなった。何がとは言わないが、羨ましい。
「アンタガ戦艦レ級ト呼バレルヨウニ、アタシモ戦艦タ級ッテ呼バレル存在サ。生マレハモットモット西。コウ見エテモ結構長生キシテルンダ。言ワバ熟練、単騎ジャ敵ナシサ。敬ッテクレヨ。」
田舎の番長、この説明を聞いてレ級はそんな古典的番長像を浮かべた。もしくは親分である。豪快で怖そうな人ではあるが、厳格というより少し甘い、そんな雰囲気が感じ取れた。顎を上げてポーズを取りながらチラチラとレ級の反応を伺う姿はどうも悪い人には見えない。
続いてヲ級が並び立つ…かと思われたが、彼女はレ級を半眼で流し見るばかりで、一向にその姿勢を変えなかった。ヤハリ、気難しそうな性格である。
「私ハ空母ヲ級。生マレハダイブ西方。コイツトハ腐レ縁、多分三年前クライニ会ッタンダト思ウ。」
それだけで十分とばかりにヲ級は口を閉じた。歓迎されてないのかなと不安になるも、敵意が無くなっただけでもよしとしようレ級は明るく考える。そうだ。余りにも突然な状況についていくのがやっとだったが、これは正しく自分が待ち望んだものではないか!仲間だ!仲間!レ級はその事実に気がつくと、彼女自身驚くほど高揚した。又、天龍の二の舞いになるかもしれない。でも彼女たちは少なくとも自分よりも強い、らしい。つまり頼れる相手だ。頼れる相手がいる、レ級の彼女たちを見る目が変わった。端的に言えば、馴れ馴れしくなった。
「ネェ、気ニナッタンダケド。」
レ級は意気込んだ。仲良しはじめは呼び名からである。お互いを呼び認め合うことが仲間なのだ。
「名前ッテナイノ?ダッテレ級トカタ級トカッテ、アクマデモ…ソノナントイウカ、マグロ・サバ・アジトカト一緒ナンデショ?」
しかしここで当然の疑問が湧いて出た。自分は名前を覚えていないし、彼女たちの名前も識別番号のようなものだ。人間感覚で言う名前とは違う。ネコにネコと呼びかけるようなものだ。それではいくらなんでも味わいがないし、ぼんやりとした冷たさがつきまとう。
「アー、今マデハ二人キリダッタカラ呼ビ名ナンテ必要無カッタンダヨ。カレコレ十数年ハ名無シダ!」
笑いながらタ級は答えた。確かに二人だけならば、お前アンタで事足りる。片方が誰かに話しかけることイコール片方が話しかけられることなのだ。タ級は今までヲ級に呼びかけるばかりで、名前など意識したこともなかったし、ヲ級をとある理由で名呼びすることは躊躇われるものだった。しかしそれはなんとも寂しいではないか。ナラバ!レ級はずいっとタ級に迫り、もじもじと腰と尾をくねらせながら
「エトエト、ソレジャア…姉御ッテ呼ンデイイ?」
と、のたもうた。
「アッ、姉御ォオ!?」
予想外の呼び名に、というか名前じゃないじゃないかとタ級は憤慨し、反論の意を込めて大声を上げた。しかし思わぬ支援艦隊がレ級を救う。ヲ級だ。
「イイジャナイ姉御、カッコイイワ。ア、ネ、ゴ。」
ぷすぷすと笑いを隠す気概すら見せること無く、ヲ級は両手を口に添え大袈裟にその名を繰り返す。どうやらヲ級のお気に召したようであった。
「テメェ!ソレジャオ前ハ、ヲッキュンダ!ヲッキュンヲッキュン!」
しかし黙っているタ級こと姉御ではない。一瞬タ級の中でちらと別の名が過ったが、それを振り払うとひたすらに音の良さだけで即興で思いついたとしか考えられないネーミングセンスでヲ級を連呼した。
「ハァ!?ナニヨソンナノオ断リヨ!」
これにはヲ級ことヲッキュンも立ち上がる。お互いに力を込め歩み寄り、稲妻が両者の間に走った。タ級改フラグシップとヲ級改フラグシップのぶつかり合い。その場にどこぞの提督でもいようものならその余りの気迫に言葉をなくし、あれあれと動かない足腰に大慌てになること間違いないだろう。しかし、ここにはそんな強者も恐れぬ、いや高揚の余り恐怖を忘れたものがいた。レ級は姉御とヲッキュンの間に立ちふさがり、尻尾をぶんぶんと振り、頬を桃色に染めながら二人を交互に見た。
「ネェネェワタシワ?ネェネェ!」
「ェ、アンタ…?」
「アー、…犬。イヤ、………ワンコロ?」
ここに姉御、ヲッキュン、ワンコロという緊張感の欠片もない艦隊が編成されたのであった。
明るい話になってきましたがレ級が彼女たちと会うことで更なる困難にぶつかることとなります。彼女が暴走したことによる弊害も含め、彼女たちとどのようにレ級が歩んでいくか、しっかりと書きたいと思います。
名前が非常に適当ですがこれでいいのです。自分で言っといて何ですがフラグっぽい。