今回かなり急いで書き上げたので誤字脱字や意味の不透明な文章がありましたら感想・個別メッセージ等なんでも構いませんのでご報告してくださると大変ありがたいです。
「テ、天龍!明カリ!明カリガ見エタヨ!」
レ級は天龍を背負い、大海原を電探頼りに進んでいた。持ち運ぶことが困難だった天龍の刀と、そしてレ級の心が裂けんばかりに煩悩したドラム缶を島に残し、深海棲艦をひたすら避け、ただ艦娘を探して全速力で海域を駆け抜けた。
前は何故か逃げられてしまったが今回は天龍がいる。今のところ目が覚める気配のない天龍だが、もし艦娘と相対した場合、必ずや言質を取ってくれる筈だとレ級は期待した。しかし天龍からしてみればレ級との出逢いは僅か数分の出来事であり、記憶に保持しているかも怪しい。果たして上手くいくとは到底思えない話だった。レ級もそれは薄々理解しているのかもしれない。だが天龍との出逢い、燃料確保と幸運が相次ぎ、どこか都合の良いよう考えたのだろう。
夜も更け、潮も荒れ始めた時頃。ついにレ級は艦娘の気配を捉えた。輪形陣を組んで移動する艦娘達、そしてその先には人工の光に照らされた鎮守府が見えたのである。始めて見つけた人間の気配にレ級は嬉々とした。嬉しくて嬉しくて、レ級は頬を濡らし笑った。ああ、これで理不尽な暴力を振るわれることも、自分自身の力に当惑することもない。きっと助けてくれる。きっと力になってくれる…。
レ級は倒れ込まんばかりに速度を上げ鎮守府へ、人間世界のとば口へと駆ける。段々と鎮守府の全体像が見える。随分立派なクレーンだ。いったい何のために使うんだろう。なんだかアスレチックみたい、なんて呑気に考えていた彼女の目の前を、巨大な水柱が塞いだ。
「レ級、進行を停止!ですが提督っ!」
「わかってる!一旦攻撃中断だっ!」
提督は声を荒げた。通信機越しの予想だにしない大声に、状況を伝えた飛龍を含む多くの艦娘はびくりと震え、数人は冷ややかな視線を鎮守府に送った。
「………天龍ちゃん。」
龍田は通信室から海を見つめる。その視線の先には、レ級に背負われる格好で気を失った天龍がいた。どのような経緯で天龍がレ級に捕まっているのだろうか。
「あれは、そうか伝令にあった佐世保の天龍か。」
レ級の件でほとんど意識していなかったが、確かにそのような指令が降りていたことを提督は思い出した。なるほど見つからない筈だ。恐らく睦月隊と同じように遠征中に奴と出会ったのだろう。レ級と単艦で太刀打ちできる艦娘など呉で建造中の超弩級戦艦くらいだろう。軽巡洋艦であり、尚且つ旧世代艦とも言える天龍では逃げることすら不可能だ。
「イク、不意の雷撃でレ級だけを攻撃することは…。」
「提督、焦っちゃダメなの。いくらイクでもあんなに密着した対象を避けて迎撃なんて無理なの。」
「駄目か…。」
なけなしの知識を絞って考えるもまともな解決策の一つも出ない。イクこと伊19はこのトラック鎮守府を影から支える主戦力の一人だ。窮すればイクといった具合に提督は助けを求めるものの、彼女も万能ではない。対して状況は悪化していく一方だ。つい先程気合を入れなおしたと言うに。だが、まさか深海棲艦が艦娘を人質に取るなどどう予想しろと言うんだ。
「提督!どうするっ!?」
戦場では素早い判断が何よりも必要とされる。迫るレ級、下されない判断に現場は混乱する。提督自身もよく知っているつもりだった。軍事訓練で念頭に置くよう再三注意されたことでもあるし、日常的に心がけているつもりだ。
「うっ、ぐ。」
艦娘の命の重さ、その葛藤に苛まれる。佐世保の天龍を見殺しにしろというのか。確かに、艦娘は換えが利く。建造費用は莫大この上なく、時間も掛かる。だがそれでも替えが利く兵器だ。加えてあの天龍はこの鎮守府で預かる艦娘でもなければ見知った艦娘ですらない。しかも生きているのか死んでいるのかということすら分からないのだ。しかし、龍田が横にいる状況で、提督にそのような判断はとても出来なかった。
「提督っ!御決断を!」
飛龍は通信越しに提督に迫る。嫌な予感が当たってしまった。飛龍は予てより提督の甘さに危機感を持つ艦娘の一人だった。深海棲艦が狡猾でないが故に、今まで起こり得なかった艦娘の命を天秤に掛けるという行為。それが現実になってしまった。血気盛んな艦娘達は今にも命令を無視して攻撃を始めてしまいそうだ。非常にまずい状況だ。ここで誰かが動いてしまえば規律が乱れ、提督の権威の低下に繋がる。それは集団として、とても認められたものではない。
「もうやっちゃおう!間に合わなくなるわ!」
「お姉は黙ってて!開幕航空雷撃戦したいのはよくわかるけど!」
その血気盛んな艦娘とやらの例が飛龍の前で暴れる千歳甲である。攻撃出来る機会が減るからと軽空母への改修を拒み続ける剛の物。妹の千代田甲もこれ命運とばかりに改修を行っていない。現状千代田がいるからこそ抑えられてはいるが、もし千代田が轟沈でもした場合を考えるとゾッとする。
「飛龍。もしもの時は、わかっていますね。」
「加賀さん。それ以上はいけません。」
並ぶ加賀の一言に飛龍は頑として拒絶した。加賀もその受け答えはわかっていたのか、素知らぬ顔でレ級がいる外洋方面へと視線を向ける。
「私たちは兵器だというのに、ね…。馬鹿な人。」
「おかしいです…。レ級は強力な艦載機を持ってます。だからこその輪形陣です。でもまだ航空戦を仕掛けてくる気配がありません。」
ここでふと雪風が言葉を漏らした。雪風は最も経験高く、そして誰からも信頼厚い艦娘であった。雪風はこの鎮守府でも異色の経歴を持つ艦娘である。出身は本土の横須賀鎮守府であり、有に十五年もの歳月を最前線で過ごした武勲艦。そんな彼女は周囲から惜しまれつつも此処トラック周辺海域征伐を境に前線を退き、そのまま新設されたトラック鎮守府にて就役することとなった。レ級との戦闘を含め、彼女に経験で肩を並べるものは此処にいない。故に彼女は異変に気づいた。固まったように動きを止めたレ級を双眼鏡越しに眺め、確信に近い疑念を抱いた。
「カタパルトが故障でもしとるんじゃないか?」
妙な返しを入れたのは雪風に追随する利根だ。雪風はにべもなく利根を無視し、自らの考えを吐露する。彼女の囁きは通信機を通じて全艦娘へと伝えられる。誰もが喧騒を止め、通信機に耳を傾けた。それほど彼女にこの鎮守府は助けられてきたのだ。言わば絶対の信頼であり、提督が微妙な立場にある原因でもあった。
「それに未だ無防備なのも妙です。レ級は確かに敬礼といった奇妙で不可解な行動を起こしますけど、これは絶対に変です!レ級の行動には裏がある筈です!」
雪風はすっぱりと言い切った。あわや独断に移ろうかと行き急いだ艦娘達もぴたと止まり、雪風の言葉を吟味する。
「…なるほど。確かに雪風の言うことも最もだ。奴に気を取られている間に別の部隊が近くまで迫っている可能性もある。なにより奴が人質を用意したのも何か理由がある筈だ。」
雪風の意見に賛同を示したのは長門だ。長門はこの鎮守府に着任して日はそれほど長くない。だが択一されたカリスマとでも言うべき統率力と努力に裏付けされた実力の持ち主である。この二人が同じ意見を取った。この時点でトラック全艦娘の意向は決定したも同然と言えた。雪風と長門の、様子を見るという提案に提督は乗った。乗らざるを得なかった。
「な、長門の言う通りだ。まずはこのまま様子を見るぞ。」
深く、深く提督は深呼吸をした。危ないところだった。雪風が音頭を取り、長門が神輿を担いでくれなければどうなっていたか。ひとまずはこれで現状を打つとしよう。
「何か有る。天龍を救い、レ級を退ける方法が必ず何処かに存在する…。」
提督はまるで自身に言い聞かせるように語った。
「アレ?攻撃シテコナイ…?」
レ級は頭を捻りつつ、周囲を警戒しながら前進を開始した。突如立ち上った水柱に脳内を無人島での爆撃が掠めたが杞憂だったらしい。たった一発。何が一発飛んできたのかレ級にはてんでわからないが、兎に角これまでの無情な攻撃とはわけが違った。しかし一発だけとはいえ何故…。そこでレ級は閃いた。そういえば自分は今、人外の姿をしていたのだと。鏡も無ければ自分を見つめる時間もなかったレ級はそのことを今になってやっと思い出した。
レ級の疑問はこれで氷解した。つまりは恐るべき敵が来襲したのかと彼らは勘違いをしているのだ、と。だから態度を示す警戒射撃として一発打ち込んできたのだ。そして驚くべきことに彼女のこの考えは実に的を得ていなかったが、続く行動は彼女にしてはかなり有効なものだった。
「敵ジャナイデス―!安全デス―!大丈夫デスー!」
ならばとレ級は天龍を巨大な尻尾一つで上手いこと支えると、両手を広げ大声で叫んだ。無害宣告である。彼女も必死だった。取り敢えず当り障りのない台詞を足りない頭で捻り出す。ぶんぶんと両手を広げ、ゆっくりと鎮守府へ近づいた。
「これは…一体どういうこと…!?」
「罠だ!奴の言葉に耳を傾けるな!」
「馬鹿な!?あやつ尾だけで天龍を支えとるぞっ!?」
「あり得ないわ…。深海棲艦が味方するなんて…。」
「索敵機を鎮守府後方へ!これは囮です!」
「もう…収集がつかないわね。」
一方鎮守府はどよめいた。誰しもがレ級が会話できることも初耳であればまさか敵ではないと宣告するとは夢にも思わなかったのである。通信は敵だ味方だ罠だ懐柔だと各艦娘の主張に溢れ、全くと言っていいほど機能していなかった。さしもの雪風と長門もこれにはただ体裁を整えるのが精一杯だった。
「て、提督…。」
龍田も提督も言葉が出なかった。この時、鎮守府は完全に鎮守府としての集団規律を失い、誰もがレ級の発言に思考を奪われていた。その時を、彼女は動いた。
声が止んだ。レ級の身体が、同じく天龍が吹き飛ぶ。濃厚な硝煙の匂いが広がる。誰もが動けずに眺める中、主砲を右手に構え、神通はレ級に突撃した。
「深海棲艦レ級…もう騙されない。私が必ず…、殺します!」
薄々気づいていた人もいるかもしれませんが、レ級がポンコツであるのと同時に提督もポンコツです。遠征部隊や心根の優しい艦娘からはとても慕われていますが、主戦力の一部からはあまり評価を得ていません。
話は変わりますが各話にちゃんとサブタイトルをつけるべきか悩み中です。