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番外編 覗き兄弟 其の壱
「……こっちは異常なし」
「了解」
日は既に落ち、辺りは漆黒の闇と化している。そんな夜に、虫の騒がしい鳴き声以外の声が聞こえてくる。
「…よし、行くぞコウタロウ」
「了解」
その声の主達は言わずもがな。
フードを深く被った相棒・ラバがゆっくりと、俺達以外に聞こえそうもない音で、その扉を開ける。
既に赤いのれんは潜った。だから俺達の現在位置は脱衣所だ。脱衣所には小さな灯りが灯してあり、その小さな灯りでも、この脱衣所を見渡すことは十分できた。
その奥には大きめの扉があり、中からはナイトレイド女子メンバーの騒ぎ声が聞こえてくる。
そんな声を余所に、俺はカゴに畳んで入れてある下着を丁寧に取り出す。
「…見てよラバッ‼︎シェーレさんの下着って、意外に大人っぽくてエロいぞ‼︎」
俺は声を潜め、手に持ったパンツを被りながらラバの肩を叩く。
「おおっ‼︎……って、何やってんだよ⁉︎そうじゃないだろ!」
ラバは一瞬鼻血を垂らしたが、気迫迫る勢いで鼻血を吸い込む。
「そうだったね…今回の目的は……」
「「正面からの覗きっ‼︎」」
今まで俺達は数え切れない程の覗きを繰り返してきた。岩陰から覗いたり、動物の真似をしたり、ジャンケンで負けた奴を囮にしたこともあった。だが、いつもどんな作戦で挑んでも、やはりどうしても失敗してしまう。
何故だろうか?
俺達は、自らの煩悩をフル回転させ考えた。そして、ある一つの結論が生まれた。
『最初から警戒されてる上、姐さんの野生の勘があるんじゃバレて当然』と。
だが、こんなことで諦めるような俺達ではない。色んな場所から覗きが行われる。しかし、裏を突いて、正々堂々と覗けば、チャンスはある……と思う。
思いついたら即実行。
それが俺達、覗き組の信条だ。
「まぁ、このパンツは貰っとくか……」
俺は風呂へと続く扉を開けるラバに続く。もちろん、頭に被ったままで。
「あぁ、今日こそは皆の生乳拝んでやるぜぇ〜」
「俺達のコンビは、完全調和《パーフェクト
ハーモニー》だね」
俺達は密かに抱負を言い合い、ゆっくりと扉の中へ入って行く。
この風呂は露天風呂だ。普通ならば、側面から攻めた方がチャンスがあるが、最初から警戒されてるなら意味がない。
だが、今日こそは……
まずは岩陰に隠れる。
辺りは濃い湯けむりに覆われており、視界は絶不調だ。が、見えないと言う訳でもない。現に、岩に大穴を開けた浴槽が確認できる。中に入ってる人を選別することはできないが、シルエットで大体の人数は把握できる。
「……一、二、……あれ?少ないよ?」
ナイトレイド女子メンバーは、アカメ、姐さん、マイン、シェーレ、チェルシー。ボスは今、革命軍本部に出張だから……。にしても浴槽に二人って少な過ぎではないか?
「……しまった!フェイクだ‼︎」
ラバは覗きを行っているということさえ忘れ大声で叫ぶ。
「やっぱりお前らか」
「…そ、その声は……」
俺はゆっくりと、自分が隠れている岩を見上げる。
そこには、いつものセーラー服を着込んだアカメと、指を鳴らしている姐さんの姿があった。
「おーい、掛かったぞぉ〜‼︎」
姐さんが浴槽にそう呼びかけると、二人が風呂から立ち上がる音がする。
「やーい、残念でしたー」
その囮役の二人は、チェルシーとシェーレだった。二人はタオルできっちりとガードを固めている。
「すみません。騙す様な真似して……あれ、それ、私のパンツ……」
シェーレさん?なんでそんなにメガネが曇っていても分かるんですかね?
「……おい、コウタロウ」
「……ねぇ、コウタロウ」
「ひっ⁉︎」
背後からドスの利いた声が俺に降りかかる。
「なんでシェーレの下着を被ってるの?」
阿修羅のオーラを纏いながら、チェルシーが問いただしてきた。
そのオーラに呑まれ、俺は尻餅をつき後ずさる。
「すまねぇコウタロウ‼︎」
「…あっ!待ってラバ‼︎」
ラバが俺を見捨てて脱出しようとする。
「……アカメ。肋骨三本」
「分かった」
姐さんの冷静な指示により、アカメが動き出す。その速さを活かし、ラバの前へ出ると、村雨の鞘でラバの胸を三度突く。
「ギヤアアアアアァアァアアア⁉︎」
骨が砕ける音って、意外に爽快なんですね。
「……ねぇって、聞いてるよ?」
その冷めた声で、俺は現実という名の地獄に引きずり戻される。
「……いや、あの、こ、これは偶然でして」
「へぇ、偶然でシェーレのパンツを被るんだぁ」
「痛い痛い痛い‼︎す、すみませんでしたああああぁぁああ‼︎」
姐さんにアイアンクローのまま持ち上げられる。脳を締めつけられるようで、正気を保っていられそうにない。
……あぁ、どうせ締めつけられるのなら、別の場所が良かったな。
なんておかしなことを思考してしまう。
「コウタロウ。お仕置きだ。しっかり反省しろよ?」
「……へっ?ちょ、まって‼︎」
「ふんっ‼︎」
「いしだたみッ‼︎」
アイアンクローのまま、俺は石畳みの地面へと、頭から叩きつけられた。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「……ここは?」
「よかった!起きたか‼︎」
コウタロウの周りに一斉にナイトレイドのメンバーが集まる。
あの覗き事件から3日。その3日間ずっと彼は眠っていたのだ。
「……しい」
「ん?なんて言ったんだ?」
タツミはコウタロウが放った言葉を聞きそびれのか、もう一度聞いてくる。
「ここは…眩し過ぎる」
そう答えたコウタロウの目はやさぐれており、何もかもに絶望したかのような表情をしていた。
続く
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