「キャアアアアアアァアアアァアッ⁉︎」
今日のゴミ出し(ナイトレイドでは出たゴミを纏めて埋める)当番のマインの悲鳴で、一日が始まった。
「どうしたマイン‼︎敵襲かっ⁉︎」
その悲鳴を聞きつけ、武装したナイトレイドメンバーが続々と集まって来る。マインは、一番最初に駆けつけたタツミにタックルのように抱きつき、タツミは苦悶の表情を漏らす。
「あ、アレよ……。ゴミ捨て場で誰か寝てる…」
「……は?」
マインが恐る恐る指差した先には、袋に包んであるゴミをクッションにして横になっている人の姿があった。
その人物の服装は、右肩が袖なしのブラックコートを羽織っており、あちらこちらが汚れている。要するに、一見浮浪者だ。
「…侵入者か?」
「いや、糸に反応はなかったけど…」
「……おーい、生きてますか?」
とりあえず、レオーネが落ちていた枝を拾ってその人物を突く。
「…騒がしいな……。お前ら揃いも揃って、俺を嗤いにでも来たのか?」
深いため息と共に、その人物はゆっくりと起き上がった。
「な、コウタロウッ⁉︎何してんだよこんなところで‼︎」
振り向いた人物がコウタロウだと分かると、皆も緊張が解けたのか、帝具を解除し始める。そして、レオーネ以外のメンバーもコウタロウに近づいて来た。
「ちょ、何その服。ダサすぎだよ?」
チェルシーが笑いを堪えながらそう言った。他のメンバーもそう思っていたのか、各自頷いたり笑ったりしている。
「……お前」
「ん?」
「…今、俺を嗤ったな?」
「……え?」
いつものコウタロウは自分に向かってお前だなんて言わないのに、初めて言われたチェルシーは、何が起こったのか分からないといった顔だ。
「いいよなぁ…お前らは。暗殺者だと言えども、光を浴びれて……」
コウタロウを除くこの場にいる全員が“こいつ、オカシくなりやがった…”と、息を呑んだ。
「どうせ俺なんか…」
「マジでイっちまいやがった……。これ、姐さんのあのお仕置きがヤバかったせいじゃねーの?」
「なっ、私のせいにすんな!だいたい、覗く奴が悪いに決まってるだろ⁉︎」
レオーネとラバックが言い争っているのをよそに、コウタロウはそそくさとその場を去った。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
ラバックside
時は過ぎて夜。
コウタロウがあの覗き以来どこかおかしくなっちまったが、今日もあいつを誘って覗きに行く。もう、失敗したらコウタロウと同じ目に遭うってことは分かりきってるから、いつもより慎重に行わなければならない。
しかし、肝心のコウタロウが見つからない。
「どこ行ったんだアイツ…」
「なんだ、また懲りずに覗きに行くのか?」
背後からの声に俺は尻餅をつく。び、びっくりした…。にしても、この格好…俺もこんな時期があったかと思うと、コウタロウへの同情心が湧き上がる。
「びっくりさせんなよ〜。なあ、今日はお前が怪我したお陰で警備がぬるくなってる筈だぜ。流石に姐さん達も、お前がオカシくなった日に覗かれるなんて考えてねぇだろ」
そう、他のメンバーは知らんが、コウタロウ大好きな姐さんとチェルシーちゃんらのことだ。きっとコウタロウがオカシくなってショックを受けていることだろう。そのショックを受けている隙を突く。姐さんとチェルシーちゃん二人の警備がなくなるだけでも大分違う筈だ!
「……はぁ。お前はまだ覗きに希望をもってんのか。……悪い事は言わん、希望なんてとっとと捨てろ」
な、何言ってんだコイツ…本当にコウタロウか?俺が知ってるコウタロウは、チャンスと知ったら全裸で飛び込みに行く奴だぞ…。
「…けっ…頭打ってオカシくなったと思ったら、根性までもオカシくなってたとはな。じゃあな、手前みたいな腑抜けなんか知らねえよ」
俺達が命を懸けて来た覗きを捨てろだと?ふざけやがって。コウタロウじゃねえコイツを覗きに誘った俺が馬鹿だった。もう、コイツの顔さえ見るのも不愉快だ。
俺は地面に唾を吐き捨て、女子風呂へと歩いて行った。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
湯けむりが濃くなってきた。
前回は真っ正面から行って失敗した。普通なら、やり方を改めて臨むべきだが、その裏をかいてあえてそのままで行く。つまり、今俺が潜んでいる場所は女子風呂の入ってすぐの場所だ。奥からは女子メンバーの愉快な声が聞こえてくる。
「……っし、行くか!」
湯けむりが濃ゆいせいか、ぼんやりとしか前が見えないため、シルエットを頼りに進んで行く。
もう皆との距離はすぐそこ。この調子で行けば、念願の女子の生乳を拝めるぜ!
「やっぱり来やがったな」
聞き慣れた姐さんの声とともに、頭を凄まじい勢いで掴まれる。
「ぐああああああぁぁあああ⁉︎つ、爪がめり込んでるぅぅっ‼︎」
な、何で姐さんがここに居んだ⁉︎コウタロウがオカシくなってショックで寝込んでる筈じゃなかったのか⁉︎
ギブを示そうにも、姐さんは知らないといった顔で更に力を入れてくる。
「ラバ…お前が考えつきそうなことくらい分かるさ……。大方、私達がコウタロウのことでショックを受けてる隙を狙ってのことだろうけど…別に死んだわけじゃないし、そもそもお前達が悪い」
な、なんだよそりゃ…。
それじゃ、俺がやってきたことは最初から無意味じゃねえか……。というか、ぐうの音も出ねえ正論だ。
アイアンクローが収まったかと思うと、今度は顔面にパンチが飛んでくる。
「……ぐっ‼︎」
もはや悲鳴をあげる気にもならない。
二発、三発と次々に拳や蹴りが体に入る。血の臭いが心地よく感じるくらいだ。体の感覚は既に鈍くなっているため、痛みもないし力も入らない。
10分程それが続き、ゴミ捨て場になげ捨てられる。力が入らないため、立ち上がろうにもそのままゴミに寄りかかることしかできない。
これが、コウタロウの言ってた地獄か……。“覗きなんかに希望を持つな”よくわかんねえけど、少しだけわかった気がする。
溢れる涙を垂れ流しに、俺は夜空を見上げる。もう…光なんて……。
その時、誰かの足音がした。
その人物は、夕方俺に忠告してきた奴だった。
「…お前の言う通りだったよ。ありゃぁ地獄だ。希望の場所で自分の全てを否定される…。仕事よりキツいぜ」
「……そうか、お前も見たのか」
ここに来たコウタロウは、夜空を眺める俺を慰めるなんてことはなく、ただじっと、俺と共に空を眺めるだけだった。
「…なあ、ラバ」
「…んだよ?」
その静寂を破ったのは、コウタロウだった。
「……俺の弟になれ」
普通ならば、その言葉に疑問と嫌悪感を抱くのだろうが、今の俺にとっては、不思議と心地よく感じた。
続く
改めまして、皆様本当にありがとうございます!
「アギトが蹴る!」春からやってきて、とうとう300かぁ…とあまり実感できておりません。
本編の方も更新しますので、是非ご覧下さい。
これからも頑張って参りますので、よろしくお願いします!!