MUV-LUV ALTERNATIVE 救世主になれる男   作:フリスタ

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 ―――12月5日。

 

『防衛基準態勢2発令。全戦闘部隊は完全武装にて待機せよ。繰り返す、防衛基準態勢2発令。全戦闘部隊は……』

 

 基地全体に鳴り響くアナウンスと警報。ここ、横浜基地に所属する全衛士に緊張が走った。訓練兵といえども同じだ。

 

 

 

【格納庫】

 

 直属の上官とも呼べる海堂マサキと篁唯依は帝国軍へと足を運んでいた。そんな中、落ち着いて行動していられるのは彼女達の軍人としての心構えというモノが出来ているからである。そして、何よりも海堂マサキと同じ階級の者がいるからでもある。

 

「全員揃っているな? 海堂中佐と篁中尉が不在のため、この場の指揮は私が取ることになる。指示があるまで待機。各自、戦術機の機体、システムチェックを怠るな。いつでも出られるようにしておけ」

「「「「「「了解!」」」」」」

 

 フィカーツィア・ラトロワ中佐は簡潔に指示をして自分の愛機、チェルミナートルに向かった。他の者も同様だ。全員強化装備に身を包み各々の機体に足を向ける。

 

「一体なんだ? BETAじゃなさそうだけど」

「そうね、情報が全く降りて来ないわ」

「マサキがいないのと関係……ないわよね?」

「それは流石に無いんじゃないですか? でもBETAじゃないとしたら……」

 

 彼女達の疑問は晴れない。先ほどの警報がBETA侵攻の警報ではない事はほぼ間違いがない。BETAであれば情報が降りてくるのが当たり前だからである。では一体何のための防衛基準態勢2なのか? BETAじゃないのであれば導かれる答えもある。

 

「ったく、どこの馬鹿だよ……」

「……人同士で戦うなんてね」

 

 

 

 

【中央作戦司令室】

 

「ラダビノッド司令……それは、どういうことですかな?」

「これは日本帝国の内部の問題です。我々国連が帝国政府の要請も無しに干渉する事では……」

 

「最早一刻の猶予もすでに許されないはずです。この機を逃しては、後悔する事になりますぞ」

「まるで米国みたいなやり方ですのね……国連はそんなにアジア圏での米国の発言力を回復させたいのかしら?」

 

 そこには横浜基地の司令であるパウル・ラダビノッド、副司令である香月 夕呼、そして、国連事務次官の珠瀬 玄丞斎が熱を込めて話していた。

 

 この事態を早急に収束させようと、米国軍に手を貸してもらおうと進言する珠瀬事務次官。日本帝国内部の問題ですぐに収束すると話すラダビノッド司令と香月副司令。米国の手を借りるとするならば確かに早急に自体は収まるだろう。しかし、その後に米国が発言力を高めて混乱させられては困る。話は平行線を辿る。

 

「では事務次官、展開中の第7艦隊にお引き取り願って頂けないかしら……大変目障りですので」

「私にそのような権限などありません。それは、承知のはずだと思ってましたが?」

 

「あら……失礼」

 

 手を貸してください。そう言う前に、既に貸せるように近くに展開している米国軍の艦隊。脅しも含むように話は進んでいるようにみえるが、実際には進んでいない。自国を汚さんとする米国のやり方に香月夕呼は常々怒りを覚えていた。もちろん顔に出さないところは流石、極東の魔女といったところである。

 

 

 

 話が終わり、事務次官は司令室を後にする。ラダビノッド司令も発令室に戻っていく。その場に残ったのは……。

 

「い、いや俺、すっかりオルタネイティヴ5だと思って……慌ててここに」

「安心しなさい。日本国内で、ちょっとした面倒が起きてるだけよ」

「……流石ですな。帝国軍が必死に情報操作を行っている最中だというのに……どこまでご存じなんです?」

 

 記憶にない警報に驚き、オルタネイティヴ5だと思った白銀武と、鎧衣美琴の父親である帝国情報省外務二課 課長というに職に就く鎧衣左近であった。

 

 鎧衣課長の話しによると、クーデター部隊は帝都守備連隊を中核とし、首相官邸、帝国議事堂などの政府主要機関を制圧をし、新聞社や放送局などの占拠もしているようで、帝都機能のほとんどを掌握されている。

 

「主要な浄水施設と発電所も幾つか確保しているようで……しかし、制圧といっても完全ではないようで、政府側も抵抗を見せているようですが……いやはや、それでも大した手際だ」

「そのようね。で、将軍は無事なの?」

 

「帝都城は斯衛軍の精鋭が固めていますが、帝都守備部隊のほとんどを向こうに回しては……戦闘が始まったら、それこそ時間の問題でしょう。この脚本を用意したのは恐らく、国連上層部のオルタネイティヴ5推進派と米国諜報機関でしょう」

 

 そう、白銀武が初めてこの世界を体験した時に、オルタネイティヴ5と、G弾によるBETA殲滅作戦が一対になって発動したのはこの所為である。

 

「先ほど、珠瀬事務次官に随分と勇ましい事を言っておられましたね……ここに来て順調、というわけですか? オルタネイティヴ計画は……この白銀武……それと今、帝都に行っている海堂マサキのおかげ……といったところですか?」

「……便利な駒が他人の都合で無くなるのは困るけど、自分の都合で無くなるのは……割と納得できるモノよ?」

 

「おお怖い……つれないですなあ、私は博士のために粉骨砕身しているというのに」

 

 鎧衣課長は大袈裟にハンドリアクションを取り、おどけて見せた。

 

 

 

 

 

Side 煌武院 悠陽

 

マサキと別れ、帝都城に戻った途端にそれは起きた。

 

「何事ですか?」

「殿下クーデターです。御召し物をこちらに着替え、万が一の時は地下よりお逃げください」

 

 クーデター。以前マサキが沙霧の事を話してくれましたが……。これはつまり、沙霧大尉が抜けても躍起した者たちがいるということ。沙霧大尉と話をした限り、クーデターの参加者は今の政府のやり方に異議を唱えんと立ち上がろうとしていた。沙霧大尉がいなくなったぐらいで止まらないという事? いえ、それだけではなく恐らくは米国の……。

 

 私は服を着替え、状況を見守ることにした。

 

 状況は悪くなる一方だ。紅蓮大将や神野中将がいると言っても数が違う、撃墜の報告は聞いていないが、恐らくそれぞれ一人で数機を同時に相手にしている事でしょう。

 

 

 

「殿下……」

「……行きます」

 

 結局、私は数時間後に帝都城を後にすることになった。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

Side 篁 唯依

 

 あの時、私は中佐の手を引いてトレーラーから一歩でも離れようとした。しかし、逃げる暇もほとんどなくトレーラーは爆発。爆風による飛来物がコース的に中佐の頭だったようで中佐は倒れてしまった。

 

 最初、中佐から流れる血は止まらなかったのだが、静かな呼吸が聞こえてきたので、前田は中佐を私とシロちゃんとクロちゃんに任せて、急ぎ水などを探しに離れていた。救急キットなどは飛来物の中に含まれていたようで、茂みの中で見つける事が出来た。幸運としか言いようがない。だが……

 

「中佐……」

 

 私は中佐のいる場所に戻ると、体を起こしている中佐がシロちゃんとクロちゃんと話しているのを見た。私は駆けだした。

 

「中佐! 目が覚めたんですね!」

「唯依姫は無事だった?」

 

 血だらけの中佐から出た第一声は私を心配する声だった。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

「「マサキ……マサキ……」」

 

 何だ? 明るい……というか赤い? 確か紅蓮大将とかに呼び出されて、演習して、勝って……それから……帰りにトレーラーがロックオンされて……。

 

 ガバッ!

 

「シロ、クロ! あっ…っつ~…」

「「目が覚めたニャ!」」

 

「……ここは? つーか見えるモノが全て赤いな……シロが赤に……」

「血だらけニャ!」

「篁さんがもうじき戻ってくるニャ」

 

 俺はズキズキする頭を触らぬように状況を確認した。トレーラーは燃えている。不知火も鉄屑になってしまっている。シロとクロが言うには横浜基地までもう少しといえばもう少しなのだが、移動手段が潰れたため歩いて行くのも大変な距離らしい。

 

「中佐! 目が覚めたんですね!」

「唯依姫は無事だった?」

 

「わ、私の事なんかより中佐の事です!」

「ぉ、ぉぅ。あ~いてぇ。とにかく急いで基地に戻るか」

「お嬢様お眼覚めですか。こちら水質も確認した川から汲んで来た前田汁でございます」

 

 それはただの水だツッコむだけ無駄だ。俺は前田から水を受け取り頭から流し掛けていく。傷口には染みたが、視界もクリアになる。俺は唯依姫に消毒液染み込ませたガーゼとその上から包帯を巻いてもらい立ち上がり基地に向けて歩き出した。

 

「中佐!」

「お嬢様……」

「何だよ? 怪我ならとりあえず心配ないから急ぐぞ」

 

「「基地はこっちです」」

「……あ、そう」

「「にゃー」」

 

 俺は基地だと思っていた方向から踵を返した。

 

「だ、大丈夫なのですか?」

「大丈夫大丈夫、急いで戻ってクーデター止めなきゃね。誰だよ全く忙しいってのに」

 

 いやぁしかし、まずったな……沙霧大尉を抑えたからクーデターは起こらないものだとばかり考えていた。納得がいかない衛士とそれを助長する米国が動いたのかもしれない。

 

 

 数時間後、俺は横浜基地の医務室にいた。麻酔を打たれ、7針だか頭を縫われたようだ。俺の頭には包帯が巻かれている。傷口が開かぬように絶対安静だそうだ。

 

「さてと……治った!」

「治ってません!」

「まさかクーデターに巻き込まれてるとはね……しかも生きてるし」

 

「夕呼先生状況は?」

「207小隊、A-01部隊、それからラトロワ中佐に指揮を任せたテストパイロット部隊が出撃しているわ。聞いたわよ。不知火の改修機が鉄屑になったってね。アンタみたいな化け物でも流石に戦術機に乗ってないと勝てないのね―――」

 

 そりゃあ当たり前だろ。どうやって人が戦術機に勝てるって言うんだ。しかし、不知火は勿体なかったな……まぁいい。昼間の演習で帝国軍のバックアップが確立されたしな。

 

「―――冗談よ。分かってると思うけど、サイバスターは駄目よ」

「副司令!? 中佐を出撃させる気ですか!?」

 

「別に私は出撃してくれなくても構わないわよ。ただコイツはどうなのかしらね?」

「……中佐?」

「もう一機、造ってあるからな(俺のじゃないけど)……行ってくるよ」

 

 俺は立ち上がって医務室を出ようとするが、唯依姫が立ちはだかる。

 

「世界有数のトップクラスの衛士が出撃してます。中佐がいかなくても大丈夫です。先ほど聞いた限りですと首相官邸などを抑えられてはいますが死者は出ていないそうですし……怪我してるじゃないですか! 行く必要なんてないじゃないですか!」

「唯依姫……怪我って言っても、もう傷は縫ってあるし、何より……仲間が死なないとも限らない。別に全員救いたいとか綺麗事をいうわけじゃない。俺の知り合いが俺の知らないところで死ぬのが寝覚め悪いだけだ。アメリカの介入もさせたくなかった……」

「海堂、あの機体なら90番格納庫から出してあるわ、いつでも出られるわよ」

 

「ありがとうございます夕呼先生」

「7針縫っているんですよ!? 絶対安静なんですよ!?」

 

「大丈夫、戦術機に乗った俺は死なないよ」

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

Side 唯依

 

 結局、私は中佐の背中を見送ることしかできなかった。

 

「大丈夫、戦術機に乗った俺は死なないよ」

 

 知ってますよそんな事……あれほどの腕をもった衛士を私は見た事がない。初めてこの基地に来た時に模擬戦で手合わせをして、新型OSのテストの時も手を合わせた。新潟での時も大半のBETAを相手にしたのは中佐だ。今日だってこの国の大将と中将を軽くあしらって……。

 

「信じて待つだけってのも辛いんじゃない?」

「……副司令」

 

「信じていても不安なんでしょう? アイツって、どこから来たかわからない奴だから、またどこかに行ってしまうかもしれないものね。まぁ怪我して帰ってくるなんて私も思ってみなかったけど……鈍感な奴を相手にするとしたら大変よ?」

「…… ……」

 

「鈍感な奴を好きになった時、一番楽な解決方法を教えてあげるわ―――」

「今は、そんな事……」

 

「篁中尉の武御雷もいつでも出られるようにスタンバイさせてあるわ」

「は?」

 

「―――行ってきなさい。不安なんて振り払えばいいのよ。それぐらい強気でいけば鈍感でも気付くわ。とにかく押して押して、引かれるぐらい押してから不安になりなさい」

「こ、香月副司令……ですが、私は……」

 

「アイツに中佐って階級あげたけどまだまだガキなのよ。戦術機に関しては天才かもしれないけど……アイツの補佐官でしょ?」

 

 補佐官だから何とかしろと?

 私は……。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

Side マサキ

 

「さて、毎回テストが初出撃になっている気がするが……大丈夫だよな?」

「いつものマサキらしくニャいニャ」

「まぁ、確かに怪物マシンではあるけどニャ」

 

 恐らくまだ改良の余地はあるこの機体こそタケルの専用機として開発をしたモノ。武装は間に合わないものが多かったが、今回のように急ぐ電撃作戦(ブリッツクリーク)ではそれなりの武装とは言えよう。

 

「じゃあ急ぐとするか」

 

キィィィィィィィン……ドッォォォォォォォンッ!!

 

 爆撃されたかのようなその轟音とともに第2の所属不明機は夜空へと同化していった。常時飛べはしない機体だが、オーバーブーストの超高出力で操縦桿を少し引くと機体は軽々と空へと上がる。戦術機で言うところの通常のブーストジャンプと変わりはない。ただ、出力が違い、使用エネルギーも異なるため、周囲には飛んでいると錯覚させるのかもしれない。飛べるように改良してしまった方が早いか……うん帰ったらそうしよう。

 

「大丈夫かシロ、クロ」

「Gキャンセラーも上手く働いてるニャ」

「問題ニャいニャ」

 

 機体の名前はまだ無い。まぁこの世界に倣うなら武御雷や不知火を超える【第4世代】の戦術機ということになるのだろう。機体には一応国連軍のマーキングだけは施してある。

 

 

 

 - 首相官邸 -

 

 戦術機に囲まれている官邸。俺は官邸に被害が出ないように短刀で機能停止にさせる。

 

『何者だ!!』

「あ、このやろー動くんじゃねーよ!」

『早いっ!!』

 

 相手が一歩動けば俺は既に懐にいる。相手が撃とうとすれば俺は既に倒している。その繰り返しだ。沙霧大尉ほどではないけど良い腕をしたのが乗っている。今のタケルより少し上ぐらいの腕かな。

 

「マサキ、首相と見られる人がセンサーに反応したニャ!」

「無事……というより、官邸ニャい部で侵入した部隊の人間は取り押さえられたみたいだニャ」

「へぇ、やるじゃねーか……沙霧がいないと士気にも関わるのかね」

 

『所属不明機に問う。貴殿は国連軍か?』

「あぁ、特務みたいなもんだ。榊首相は無事か?」

 

『首相は無事だ。感謝する』

「首相と話してもいいか?」

 

『何? ……お会いになるそうだ』

 

 会う? 殊勝な心がけの首相……うん。心の中に秘めておこう。

 俺は近くで戦術機を降りた。

 

「君は何者なんだ?」

「横浜基地の戦術機とかの開発担当者です。首相って榊千鶴の親父さんでしょ?」

 

「娘を知っているのか、千鶴は……いや、いい」

「いや聞けばいいじゃん。親でしょ? 心配でしょ? 肩書でも邪魔するんですか?」

 

「千鶴の選んだ道だ。心配ではあるが訃報は聞いていない……」

「娘さんに似て頭の固い親父様だこと……まぁいい。クーデターを止めてくるんで、その後の処理を頼みます。それと煌武院悠陽殿下に政権を戻して欲しいっす。それで混乱も収まるだろうし、政府が殿下を支えるようにしてくださいな」

 

「ふ、簡単に言う。しかし、そういった話も受けている。近いうちに何とかしよう……ところで君は」

「海堂マサキだ」

 

「あなたが!? 殿下よりの全幅の信頼を得ているというあの……」

「知らんがな。じゃあ俺は急ぐんで、娘に手紙ぐらい書いてあげましょうね? ところで……そこのアンタはボディーガード?」

「そうだが?」

 

「名前は?」

朝霧雅樹(あさぎりまさき)

 

 なるほど……この世界にもいるんだなこういう人。この人がいたから首相は無事だったのかもしれないな。

 

「彼だよ。侵入してきたクーデター部隊を一人残らず捕えたのは」

「でしょうね……では、お邪魔しました」

 

 まぁ今後の関わりはないだろう。

 

 さて、誰も死ぬなよ?

 おっと、少しフラフラするな……。

 血が足りねえな。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

Side クーデター部隊

 

 通信が飛び交う。どこの部隊がやられた。あの場所は制圧したと目まぐるしく回線はパンク寸前だ。

 

「増援はそちらに送った! 何をしている!」

『こちら小田原西インターチェンジ跡に展開している国連軍と接敵。第一陣は全滅……全滅です!』

 

「ちっ! 時間がかかりすぎている」

「沙霧大尉が抜けたんだ……仕方ない」

「だからと言って止めるわけにもいかないぞ?」

「分かっています駒木大尉」

 

「私は厚木基地に向かう。後のことは任せる」

「「「「「了解!」」」」」

 

 そして、クーデター部隊は、計画の最終段階まで進もうとしていた。

 アメリカからも支援をもらっているのだ。失敗は許されない。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

Side A-01部隊

 

『上出来だ……全員生きているな』

『新型OSが無かったら何回死んでいる事か……』

『でも初の実戦が人間相手になるなんて……』

『今は任務に集中しろ少尉……第2陣が来たぞ』

 

 モニターに現れるのは10個に満たない赤い点。識別は帝国軍守備連隊―――敵だ。BETAではなく人を敵と識別するモニター。新任少尉以外は冷静さを持っているようだが、ほとんどが敵が『人』という事に戸惑いを感じている。

 

『全員聞け。ヴァルキリーズ(われわれ)は人類を守護する剣の切っ先……いかなる任務であれそれを完遂する。―――その妨げとなるならBETAであれ人であれ排除するのみだ』

 

 部隊長である伊隅の声に頷く衛士達。殺したいわけでもない。殺されるわけにもいかない。彼女達は第4計画の直属部隊。相手は帝都守備連隊の精鋭……日本を守護する最強の楯。しかし、この場を制してこそ……いや、制さなければ存在意義など無いも同然。人類の未来を切り開く駒。それが彼女達―――『伊隅戦早乙女中隊(イスミ・ヴァルキリーズ)』―――なのだから。

 

 目視で確認される戦術機……黒い不知火だ。

 

『ヴァルキリー1よりHQ(ヘッドクォーター)! 帝国軍を下がらせろ! ここで消耗させる必要はない! 奴等の相手は我々がする!』

 

 電子音と共にモニターに更に奥より青い点が現れる。識別は味方……機体情報が統一化されていない。混成部隊にしてはアメリカ軍機に、ソ連軍の機体、日本の機体と混ぜこぜである。

 

『これは……!』

 

『逃がすな! サイドから潰していけ!』

『了解ッ!!』

 

 黒い不知火が火を吹いて潰れていく。

 

『加勢しに来た。こちらはフィカーツィア・ラトロワ中佐だ』

『助かります中佐。こちらはA-01部隊【伊隅ヴァルキリーズ】です』

 

『イーフェイ! これでアタシは4機目だ!』

『うるさいわね! どうせヘボしか撃ってないんでしょ! 階級はアタシが上よ!』

『まったく騒がしい連中だ……』

 

『ヴァルキリーマムよりヴァルキリー1、並びにラトロワ中佐、聞こえますか?』

『こちらヴァルキリー1』

『ラトロワだ』

 

 回線は秘匿回線へと切り替わる。

 

『海堂中佐が本日、横浜基地に帰還する際にクーデターに巻き込まれ負傷した模様。命に別状はありませんが……え、嘘』

『どうした涼宮!』

『マサキがどうした!』

 

『あ、すみません。続けます! 頭部に7針を縫う怪我を負っていますが、出撃し、首相官邸に向かったそうです。……え、もうですか!?』

『7針!?』

『今度はどうした!?』

 

『首相官邸は解放された模様。すごい速さでそちらに向かっています』

『……本当に怪我をしているのか?』

『全く、馬鹿モノが』

 

 秘匿回線は解除され、伊隅はA-01部隊に、ラトロワ中佐は混成部隊に指定回線で説明をした。

 

『7針って無事なんですか!?』

『しかも出撃してるって!?』

『私のために……』

『いや待てよ! どういう思考回路してんだよ!』

 

 ピッ!

 青い点がモニターの端に現れる。その点は流星のように一瞬にして真ん中に到達する。

 

『無事か!?』

『『『『『マサキ!?』』』』』

『『『『『中佐!?』』』』』

 

『良かった……全員無事だな』

『マサキ! 頭大丈夫!?』

『その聞き方はまずいぞシェスチナ少尉』

『その包帯は……7針縫ったって……』

 

『何だ詳しいな。まぁ急ぐからまた横浜基地でな』

 

 キィィィィィィ……ドォォォォンッ!!

 その機体はまた低空とはいえ、空を飛んで行った。その速さはその場にいたどの戦術機にも出せる速さではなかった。

 

『ラトロワ中佐。海堂中佐はクーデターに巻き込まれたんですよね?』

『あぁ』

 

 その場に残った者たちは冷静になっていった。そこには人類と戦うという戸惑いから吹っ切れた、歴戦の勇士のような鬼が誕生していた。

 

 ピ、ピピピピピ!

 

『来たぞ……全機、兵装自由! 一匹も逃すな! 生きている事を後悔させろ!』

『『『『『了解!!』』』』』

 

Side out

 

 

 

 






朝霧雅樹:知ってる人は知ってるであろう人物。年齢的な事も考えて息子ではなく親父を使ってみた。薬物使っても、刃物で複数回刺されても生きてるような化け物の父親。当然、この親も親で強い。あるキャラがハゲなのに髪掴まれる描写があるゲームですねw 今後出番なし。


ラトロワ部隊:基本的にTEキャラのオールスターチーム。テストパイロットとして着任しているので部隊名がなく、連携も上手くは無いが、経験などから遅れを取る事は無い。タリサとイーフェイの所為か支援が薄く、突撃制圧が主だった簡易作戦。


前田:そろそろ出番ないと思われる。執事の前田復活させるかな。

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