―――18時、俺がバイトしている喫茶店。
田舎とまでは行かないが都会でもないこの町のカフェというものはピークを過ぎるとめっきり人が来なくなる。
今だってまだ閉店まで一時間もあるのに店内には客として訪れた「俺達」と店長しかいない。
厨房も多分一人しかいないだろう。
俺はしかめっ面で痛む鼻を押さえながら紅茶を一口すする。
クソ、口の中の傷が染みて痛い。
そんな俺をスマートフォン越しではなく、隣りで申し訳程度の一般人変装をしている雪華綺晶が痛みに共感するように眺めている・・・・・・パフェを食べながら。
ちなみに雪華綺晶はスマフォ経由でnのフィールドからこちらに来た。
そして対面して座っている謎の美少女・・・・・・あのカランビット使いの襲撃者は俺とは対照的におしとやかに紅茶を嗜んでいらっしゃる・・・・・・話しかけて差し上げろ。
「・・・・・・あんたが翠星石のマスターだってことは分かった。それで?」
機嫌悪そうに尋ねる。
すると少女は、ゆっくりと焦らすようにティーカップを皿に置いてナプキンで口を拭いた。
ナプキンって言ってもそっちのナプキンじゃない。
「それで、というのは?」
「なんで襲って来たの?ってこと」
ガタッとカウンターからこけるような音がした。
店長が何か勘違いしたらしい、慌てて新聞で顔を隠している・・・・・・俺だってそっちの意味の襲われるだったら良かったんだけどなぁ・・・・・・お前どう?
少女は、あ、それかぁ!(納得)といったような顔をした。
どうやら紅茶を楽しんでいて先ほどまでの出来事をすっかり忘れていたらしい。
隣りで雪華綺晶が、なんなんですのこの小娘・・・・・・とか言っているが、構ってたらキリがないのでスルーする。ちなみに手は出すなと言ってある。
「私の妹の魂を奪って翠星石を壊しかけた雪華綺晶のマスターとやらを確かめに来ただけですわ」
その回答を受けて俺は雪華綺晶の顔を即座に見る。
流れ作業のように雪華綺晶は顔をそらした。
俺は思わずため息をついてしまう。雪華綺晶が現れてからここ数日で命の危機に会い過ぎている気がする。雪華綺晶は確かにもうファミリーみたいなもんやし、とは言ったかもしれないが、こうも立て続けに巻き込まれるもんなのか。
俺は一気に気まずくなった空気の中、話を続ける。いや元々重苦しいが。
「それで?何かわかりましたかお嬢様?」
「えぇ。これなら翠星石が負けた理由も分かります。最も、あの娘は元々人見知りで穏健派な上にマスターである私もあの場に居ませんでしたから、なんとも言い難いというのが本音ですわ」
この子は戦闘狂か何かなんだろうか。
「それで、河原さん」
「郁葉でいい。あるいは先輩、お兄様、お兄ちゃん」
「郁葉さん」
「はい」
ちょっと下心が出過ぎたか。
この子もまだ幼いからセンサー(意味深)が反応してしまったようだ。
「翠星石を倒したのは確かですが、同時に貴方は私の妹を解放した。そんな貴方に提案があります」
「提案?」
えぇ、と彼女は頷いた。
その表情が硬くなる。きっと硬くなってんぜ?とか言ったらまたグーパンされるに違いない。
彼女はふぅっと息を吐き出すと、言った。
「河原 郁葉、そして雪華綺晶。私たちと共同戦線を組みましょう」
「え、なにそれは」
そもそもアリスゲームなんて俺はする気もない。
ただこの生活が続けばいい、それだけだ。雪華綺晶がどう思ってるか知らないが、彼女のここ数日の態度を見ていれば俺の考えに賛同してくれているようだし、自分から戦火に入ってくのか・・・・・・(困惑)なんて事にはなりたくない。
俺は適度にサバゲーをして生きてればそれで満足なんだよ。
「なにそれはって・・・・・・アリスゲームで一緒に戦いましょうと言っているのです」
「なんで戦う必要があるんですか(正論)」
「え・・・・・・アリスを目指すなら当然でしょう?」
なぜか困惑した顔で少女は首を傾げる。
完璧な少女とか、それローゼンメイデンしか得しないやん。
勘弁してくれ、と思いながらも雪華綺晶と顔を合わせる。
契約した者同士だからか、不思議と顔を合わせるだけで考えがなんとなく分かる。
どうやら俺次第だそうだ。
そういうのが現代の草食系男子(大嘘)にとって一番困るんだが。
「・・・・・・何をどう捉えて当然か分からないんだが。植物の心のように静かに平穏に暮らしたいだけだ」
と、その発言に少女はサッと手を隠す。
いや冗談だからね、ちょっと言ってみただけだから。
「ってのはまぁ誇張したが、俺は何も殺し合いをするために生きようだなんて考えてないし、雪華綺晶をそんな危険な目に合わせたくもない」
「何を言っているのですか、雪華綺晶もドールであるなら、本能的にアリスになってローゼンと会うことを望むはずです」
「じゃあ聞いてみるか?」
俺は雪華綺晶を抱きかかえて膝の上に乗せる。
突然の行動にちょっと驚いた雪華綺晶ではあったが、嬉しそうなので問題ないだろう。
雪華綺晶は俺の胸に抱きつくような形で頭だけ少女の方を向く。
そしてちょっと困ったように微笑むと言った。
「私は・・・・・・確かにアリスになりたくないと言えば嘘になります。でも、それよりもマスターと一緒に居たい。それが本心です」
よう言うた!それでこそドールや!
俺は心の中でそう彼女を褒め称える。やっぱきらきーがナンバーワン!
雪華綺晶の返答に少女はあからさまに困惑したような表情になる。
無理もない・・・・・・のか?他のローゼンメイデンたちの事はほとんど知らないから分からん。
と、そんな考え事をする俺の首に雪華綺晶は手を伸ばした。
「だって私は・・・・・・マスターといるだけで幸せを感じられるんですから(狂気)」
「いかん、いかん危ない危ない危ない・・・・・・(警告)」
なぜかしら、雪華綺晶の目がヤバい。
白い頬は赤く染まり、ただでさえ少ない目の光沢がいつもより少ない気がする。
おっと、なぜ顔を近づけてくるのかな?
さすがに外でハレンチは、やめようね!
「雪華綺晶、ちょっとほんとに・・・・・・」
「なんですかマスター、嬉しそうではありませんか」
「いえそんなこと・・・・・・」
と、いつも通りのイチャイチャというかなにかを勝手に俺たちはやりだす(意味深)
そんな中一人仲間外れにされた少女はその光景を顔を真っ赤にして眺めている。
どうやら意外と初心なようだ(ブーメラン)
流石に甘い空気に耐え切れなくなったのか、少女は立ち上がり、懐から財布を取り出して千円札を机に叩きつけると、怒ったように言った。
「ひ、人前で破廉恥な事をしないでください!貴方たち、いつか後悔しますよ!マスター!勘定を!」
「公開?公開オナ」
「マスター、いけませんわ。その口を塞いでしまいましょう」
「え、そんなん関係、う、羽毛!」
下ネタを言ったがためにペナルティとして無理やり口を口で塞がれてしまう。
ねっとりした暖かさがもう気が狂う程気持ちえぇんじゃ(本音)
「きききききき、キス!?なんて人たちなの!?いい加減にして!帰らせて貰います!」
「ぷは、あ、ちょっと名前は」
「林本 琉希(りゅうき)です!もう会うことはないでしょう!」
まるで元コマンドーのような台詞を最後に彼女は店から出て行った。
俺は雪華綺晶を引き剥がすと、深呼吸して怒る。
「お前何やってんだよ!外でそういうはするなって言っただろ!帰っちまったじゃねぇか!」
「あら、マスターに他の女は必要ありませんわ。私だけを見ていればそれだけでいいんですの」
「そういうのいいから・・・・・・」
俺はがっくりとうな垂れる。
ふと店長を見るとなにやら羨ましそうな目でこちらを見ていたが、あんた結婚してるだろ。
何はともあれ、チカレタ・・・・・・(小声)
今日はもう帰ってビール飲んで寝よう。
礼が家で腹を空かして待ってるに違いない。