下の階から礼の絶叫が響いてくる。
俺は即座に雪華綺晶を抱きしめつつも起き上がり、低反発枕の下に隠してあったコンバットアックスを掴む。
連日の襲撃などで、俺にはある程度の危機に対する意識が出来ていた。
なんだか妙な表情を浮かべている雪華綺晶をベッドにそっと降ろすと、俺は急いで部屋を出て階段を降りる。
普通なら、家族の誰かが絶叫していたらどう思うのだろうか。
虫が出たか、料理していて手でも切ったか、タンスの角に小指でもぶつけたか、ホラーゲームで驚いたか。
それとも、家族に危機が迫っているとか。
なぜだか、俺は一番最後の選択肢を考えずにはいられない。
リビングの扉を開け、さっきまで礼がいた場所を向き斧を構える。
不意に、羽のような何かが目の前を舞っていた。
真っ黒な、カラスよりも闇に近く、それでいて美しい羽。
よく見れば、部屋中に舞っている。
肝心の礼はどこにもいない。
直前まで宿題をしていたのか、テーブルには勉強道具がほったらかしてあった。
「おぉ~お前どこ行ったんだよお前よぉ~!」
呼びかけにも応答しない。
あいつはこんなイタズラをするようなやつじゃない。あいつはされる方だ。
と、そこに雪華綺晶が現れる。
彼女はやけに落ち着いた様子で部屋に散らばった羽を手にする。
その羽を彼女はぐしゃっと握りしめ、瞳の奥に鈍い炎を宿して言った。
「黒薔薇のお姉様・・・・・・」
「・・・・・・またローゼンメイデンかよ」
ギリっと歯ぎしりの音が響く・・・・・・今度は俺ではなく身内を狙ってきたのか。
「マスター、追いかけましょう」
「出来るのか?」
「お姉様の本来の狙いは
そう言うと、彼女はリビングにある大きな鏡に手をかざす。
どうやらnのフィールドにアクセスしようとしているらしい。
数秒して、鏡から光が発せられる。
雪華綺晶はこちらを振り返る。
「では、行って参ります」
「あ、おい待てぃ!(江戸っ子)何言ってんだ、俺も行くゾ」
「黒薔薇のお姉様は危険です、こちらを見つければ殺す気でかかって来ます」
翠星石も同じだった気がするんですがそれは・・・・・・とは言わずに、俺は雪華綺晶を抱きかかえる。
今更何言ってるんだこの子は。
身内が捕まって黙っていられるような人間じゃないって、それ一番言われてるから(勇敢)
雪華綺晶はちょっと驚いたような顔をする。
「お前ばっかりに頼ってるようじゃいかんでしょ。男には、どない辛くても背負わにゃいかん時は背負わにゃいかん時があるって、それ」
「一番言われてるんですか?」
「君絶対見てるよね?」
「マスターについていくためですわ」
「そんな事しなくていいから(良心)」
可愛い女の子があんな汚いもの見てるなんてやめたくなりますよ~マスターぅ。
と、こんなくだらない会話してる暇があったら礼を助けに行かなくては。
気を取り直して行くぞ、と雪華綺晶に声をかける。
すると彼女はオェッ!と言って見せたので無視して鏡へと突撃した。
今度からパソコンに鍵かけたほうがいいかな。
―――――――――
nのフィールド、水銀燈の本拠地。
nのフィールドというのは人によって様々な形を持っている。
例えばアニメ好きの、いわゆるオタクという人種の人ならばアニメグッズで溢れていたり、自称食通ならば珍料理(意味深)がドバーッと置いてあったり。
ローゼンメイデンが所有するフィールドも似たようなもので、それぞれが抱く感情であったり、象徴するものでいっぱいになっている。
兄によれば雪華綺晶は水晶だったらしい。
さて、それでは誘拐犯である黒薔薇の人形はどうであろうか。
ざっと見てみよう。
まず、空。彼女のイメージカラーである黒にふさわしい夜である。
月が綺麗ですね、と告白できるくらいの満月が暗闇を照らしている。
次に、フィールド全体。
なぜか、ヨーロッパの街中のようになっている。レンガ造りの家が立ち並び、協会や時計台がちらほらと存在を主張している。
モデルは近代のドイツなのだろうか、あちらこちらにドイツ語と思わしき看板が見える。
なんて書いてあるのか不明だが、バーっぽいなあれは。
だが、不思議な事に人影はない。
そりゃあ夜の街なんてそうそう出歩かないかもしれないが、一人も姿が見えないのは異常だ。
それもそのはず、街の建物はほとんどが損害を受けており、酷いところだと倒壊している。
まるでこれは第二次世界大戦末期のドイツのようだ。
さんざん兄貴がゲーム内で戦ってたな。
さて、そんな中、囚われの身である俺・・・・・・礼は街一番の協会に拘束されていた。
手足は縄で縛られて椅子に括り付けられており、身動きが取れない。
抵抗しようにも、nのフィールドは居るだけで体力が失われていくためにもがくのは得策ではない。
そう雪華綺晶と兄に教えられた。
そして最大の問題が、誘拐犯である黒薔薇人形が目の前にいるという事だ。
彼女は質素な椅子に腰かけ、礼と対面している。
「来ないわねぇ・・・・・・」
特徴的で綺麗な声で困ったように髪先をくるくるといじる。
その不自然なまでに自然な銀髪は、ランプの光を反射するほどに輝いていた。
割と落ち着いている俺はそんな彼女をじっくりと観察する。
月のように輝く銀髪は腰までのセミロング。黒いヘッドドレスがその美しさを際立たせる。
胸元が少し見えそうなドレスは黒で、所々に白いレースがあり、コントラストを強調していた。スカートはロングで、割とレースが多め。ブーツは黒の網ブーツで踏まれたら痛そうだ。・・・・・・兄は喜びそうだが。
身長は雪華綺晶と同じか少し低いくらいだ。
だが、一番特徴的なのは、なんと言っても背中に生えている漆黒の羽だろう。
あぁいうのが中二病というものなんだろうか、と俺は同情しちょっと悲しくなる。
羽が出ている部分の布は少なめで、綺麗で白い背中が露わになっているのがちょっとエロイ。
「なにチラチラ見てるのよぉ。惚れちゃった?」
「なんで惚れる必要なんかあるんですか(正論)」
「可愛げないわね・・・・・・」
そこで会話が途切れる。
兄貴の汚い話し方が移っているとは思わなかったが、まぁいい。
どうやら彼女の目的は雪華綺晶のようだ。
確か、前にアリスゲームがどうとか言っていたな。
姉妹同士で戦って父親に会うとかってのが最終目標だっけ。
しかし、どうしてこんな事になったんだ。
こういうの兄の役割だろうに。
「貴方、名前は?」
ふと、髪をいじるのに飽きた黒薔薇の人形が訪ねてきた。
「礼」
「ゲイ?」
「レイです(激怒)」
「あら、ごめんなさい。私は・・・・・・教えてほしい?」
おちょくってるんだろうか。
黒薔薇の人形はふわりと飛んで目の前まで近づき、片手をそっと俺の頬に添えた。
本物の女の子みたいな手してんな、お前な。とは言わずに俺はただ彼女を睨む。
・・・・・・人形がちょっと前屈みになってるせいで胸の谷間が見えている。
「・・・・・・」
まだまだ若い俺は質問そっちのけで谷間を見てしまう。
人形相手に欲情するのは人間としてどうかと思うが、おっぱいは人間の真理だと兄貴が言っていたから仕方ない。そういう事にしておいてほしい。
「だんまり?ほんとつまらないわね、貴方・・・・・・ってどこ見てるのよ!」
俺の不自然な視線に気付いた水銀燈は急いで離れて胸元を手で隠す。
格好がエロイわりには随分と乙女じゃないか、この人形は。
「案外
「だ、誰が
「え、そんなん関係ないっしょ(正論)」
この間別れたからその話題はNG。