「――そう、わかったわ、見つからないのね。痕跡は見つかってるんでしょう、いいから貴方は持ち場に戻っていいわ」
黒薔薇が人形にそう告げると、人形はぎこちない敬礼をしてとことこと部屋から出て行く。
人形はサイズこそデカいが、見てくれはどこにでもあるような普通のブリキ人形だ。
いや、最近はブリキの人形なんて見ないか・・・・・・
だが、その人形がなぜかライフルを持っているとなると話は変わってくるわけで。
俺、河原 礼はすっかり逃げる気を無くしていた。
この性悪人形ならどうにか出し抜けたかもしれないが、外にあんなのがうようよ居るとなっては溜まったもんじゃない。
「はぁ~」
俺がクソデカ溜息を吐き出すと、黒薔薇は何か思ったのかまた俺の目の前にある椅子に座る。
「貴方のお兄さんが来てるみたいよぉ?」
「そう・・・・・・(無関心)」
「あら、貴方のお兄さんが助けに来てくれているのに随分関心が低いみたいじゃない。まぁ、いいわぁ。末妹が来るまで貴方で楽しませてもらうから」
ファサッと長い髪を手ですく。
すると黒薔薇は髪をいじった反対側の手に竹刀を召喚した。
なんだか非常に嫌な予感がする。
黒薔薇は立ち上がりニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべながらにじり寄る。
「うふふ・・・・・・私はねぇ、貴方みたいな可愛い系の子の悶絶した顔が大ッ好きなのよぉ・・・・・・」
唐突に自分語りする痛いゴスロリ人形。
その笑みからは残虐性が滲み出ていて、俺の額に冷汗が浮き出てくるほどだ。
黒薔薇は笑みを漏らしながら、市内の先端を俺の首にそっとあてる。
「それがどうないしたんじゃい(強がり)」
「私の言うこと聞いてくれる?死んじゃうわよぉ、オラオラ」
最後のオラオラが酷く不自然だ。
ていうかどうしたんだ唐突に、話が見えないぞ。
そもそも誘拐犯の言うことなんて聞きたくもない。
それに、雪華綺晶に対しての人質なら俺を殺したら意味ないだろうに。
「やだ」
「オラァッ!」
バッチーンッ!!!!!!
なんと拒否した瞬間急に竹刀で腕をぶん殴ってきたのだ。
あまりの痛さに俺はおじぎするように悶えてしまう。
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!! と、汚い悲鳴が部屋に響く。
どうやら黒薔薇にはそれがたまらなく愉快であるらしく、より一層凶悪な笑顔になる。
「誰が拒否っていいって言ったのよッ!」
笑顔とは裏腹に口調はなぜか怒っている。
クソが、誰が言いなりになるか。
「おばさんやめちくり~」
よく兄貴が使う煽り文を流用してみる。
するとおばさんというワードが相当彼女のプライドを傷つけたらしく、笑顔から一転、般若のような恐ろしい顔に変化した。
「なにぃ~!?なんて言ったのよ、もう一回言ってみなさいッ!」
「おばさん・・・・・・」
バッチーンッ!!!!!!
そして二発目。先ほどのより格段に痛い。
「あー痛い痛い痛いッ!!!!!!」
「おばさんだとッ!?ふざけんじゃないわよ、お姉さんでしょ!!?」
そして三発目がヒットする。
今まで味わった事のない痛みが絶叫を誘発させる。
「痛いんだよぉッ!!!!!!(ブチ切れ)」
「竹刀が痛いのは分かってんのよオラァッ!!!!!!!!YO!!!!!!(攻撃)」
―――――――――――
「・・・・・・なんだかまずい事になってる気がする」
路地裏で匍匐し人形をやり過ごしながら、そんな事を思う。
礼が酷い目にあっている気がする。ただちょっとだけ羨ましいと思うのは何故だろうか。
と、いつの間にか人形が去っている。
これは進むチャンスだ。俺はなるべく街灯に当たらないように道を進む。
夜だけあって光源以外はほとんど何も見えない。
流石にゼロ距離だと気が付かれるが、近づかなけりゃいい話だ。
主に中腰で屈みつつ歩く。
と、数メートル前に十字路が見えた。
そこだけでも街灯が数本立っていて、おまけに人形共が数体陣取っていて見つからずに中央突破は無理があるだろう。
ならば迂回するしかない。
時間は掛るが、見つかるよりはマシだ。
そう考え、俺はすぐ横の角を曲がろうとした。
「あっ」
「ファッ!?」
ライフルを持ったブリキの人形が目の前にいた。
まさかの鉢合わせだった。ちなみに、俺の名誉の為に言っておくと、汚い方の驚きの声が人形の方だ。
俺は同性の後輩を家に誘って睡眠薬入りのアイスティー(麦茶)なんて飲ませない。
「クソッ!」
「クソですか」
普通に言葉を返してくる人形だったが、行動は俺の方が早かった。
即座に膝蹴りを人形の鳩尾に入れる。
ブリキの人形を蹴ったせいか、膝が痛む。
しかし相手にもダメージが入ったようで、大きくおじぎする様に腹を抱えた。
そのまま俺は左手でライフルを払う。
人形はライフルを落としはしなかったものの、こちらに撃てる状態では無くなった。
「ふっ!」
流れるように左手で斧を取り出し、頭めがけて振るう。
バァン!(大破)という擬音がこれほどまでに合うとは思わなかった。
激しい音を立てて人形の頭に斧がめり込んだのだ。
続けて俺は斧を手放し、上半身を相手の左腕とわき腹の間を潜らせる。
そして最後に左肘のエルボーと左足での足払いを組み合わせ、人形を前のめりに転ばせた。
左っていう言葉が出過ぎて頭が痛い。
「あぁん!ひどぅい!」
「申レN」
そう言い放つと俺はブリキ人形の首を踏んで圧し折る。
それ以降、人形はクッソ汚い語録を言うことは無くなった。
やっぱりローゼンメイデンの中でああいう動画が流行っているんだろうか・・・・・・
怖いな~とづまりすとこっ。
「お、お前何やってんだお前人の領土で」
「ファッ!?」
今度の汚い驚愕の声は俺だ。
しかもいつの間にか他の人形に発見されている。
人形はあたふたしながら包丁を構えている。
(ステルスは)ダメみたいですね・・・・・・
仕方なく俺は拳銃のセーフティを外して人形の胸を狙い、発砲する。
距離は3メートル、一発だけなら当てられるはずだ。
「アッー!!!」
汚い断末魔と共に人形の胸に穴が開き、倒れる。
反動は強くない。むしろマイルドだ。
しかしそんな感想を抱く間もなく、
「いたピネ発見ピネ発見(ゲーマー)」
十字路にいた人形にも発見されてしまったようだ。