ローゼンメイデン プロジェクト・アリス   作:Ciels

32 / 96
sequence 30 友達

 

 

 

 

 

昼休み、とある街の中学校。

礼の通う中学校はごく一般の中学校で、何かに秀たものもなければ劣っているものもない。いわゆる普通の中学校である。

野球部はたまに県大会まで行くし、行かない時もある。サッカー部も同様で、ちょっとモテたい中学生や、元からモテてる調子に乗った中学生がそれなりにやりながら日々鍛錬している。

ちなみに礼はサッカーをしているが、部活でしているのではなく、クラブチームに所属してやっているため少しばかりレベルが高い。

 

 

「……ふん」

 

 

自分の席に座り、機嫌が悪そうに窓の外を眺める礼。

時折、最近誰も座っていない座席を見てはそうやって不機嫌そうに鼻を鳴らしていた。

 

座席の後ろには桜田と書かれたシール。

そう、例のドールのマスターである。

 

 

「なんか今日機嫌悪そうだな河原」

 

 

いつもつるんでいる友達にそう言われるのも無理はない。

 

 

「別に。ただイライラしてるだけだ」

 

「それを機嫌が悪いって言うんですがそれは……」

 

「うるせぇなぁ、お前にもあんだろそういうの。フラれたりジュースじゃんけんで負けたりした時。あぁ?」

 

「え、フラれたの?」

 

「フラれてねぇよこの野郎。いいからあっちいってろ、殺すぞ」

 

「口悪っ」

 

 

いつもなら乗り気な会話も全然続かない。

ただ眉を逆ハの字にして校庭を見つめる。

 

ーーえー、桜田ってそういう趣味だったの?

ーー気持ち悪いなあいつ、女子のことそういう風に見てたんかよ。

 

 

不意に、あの時の事を思い出す。

桜田ジュンが不登校になったあの日。

全校集会で晒されたあのスケッチ。

堂々と無思慮に堂々と発表する梅岡とは正反対に、周りの陰口に耐えきれなくて吐き出す桜田。

 

 

「……ふん」

 

 

そしてまた鼻を鳴らす。

 

 

 

 

放課後。

クラスメイトのほとんどが帰るか部活へ行こうとしている中で、礼は一人席に座っていた。

ため息まじりにリュックを机の上に放り出し、教科書を詰め込む。

 

正直なところ、礼と桜田ジュンとの間にほとんど接点はない。

ただのクラスメイトとしか言えない間柄だし、話したことも数度だけ。

調査しようにも家に上り込む口実もなければ、ましてや不登校の奴の家になんて行けるはずがない。

 

ふと、教卓を見る。

そこにはクソ教師の梅岡と、その梅岡からプリントを貰っているクラス委員長の柏葉巴。

 

……そういや柏葉は桜田の家にわざわざプリントだのなんだのを届けてるんだったか。

使えるかもしれないな。

 

 

礼は立ち上がると、教室の前で柏葉を待つ。

数分してようやく出てきた柏葉。

 

 

「柏葉」

 

 

声をかける。

黒髪ショートの剣道部員で委員長な彼女は、振り返ると無機質な表情でこちらを見た。

 

 

「河原くん?」

 

 

ポケットに手を突っ込みながら、何と切り出そうか迷う礼。

 

 

「お前、今日部活は?」

 

「ないわ。どうして?」

 

 

どうしてって言われてもなぁ、と悩む。

 

 

「いや……お前、今日も桜田の家に行くのか?」

 

 

そう尋ねると彼女は頷く。

 

 

「そうだけど……」

 

「俺も行くわ、それ」

 

 

会話が成り立っていないにもほどがあるが、強引に進めることにした。

 

 

「え、いいけど……仲よかったっけ、桜田くんと」

 

「……いいんだよ、多分」

 

「なにそれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人で夕暮れ時の道を二人の男女が歩く。

会話はほとんどないが、遠目に見たらカップルに見えないこともない。

が、柏葉と礼はそんな事考えることもせず、ただ桜田家を目指す。

 

 

「お前、なんで桜田にそんなに親切にするんだ?」

 

 

不意に、礼は尋ねる。

 

 

「委員長だから」

 

「それだけ?」

 

「……なんでそんな事聞くの?」

 

「聞いちゃダメ?」

 

「いいけど。……桜田くん、変わろうとしてるから」

 

 

今度は柏葉の方から話を続ける。

 

 

「変わるって?学校来ようとしてんのか?」

 

 

頷く柏葉。

それを見て礼はふーん、と興味なさげに言った。

 

しばらくして桜田家に到着する。

インターホンを鳴らすと、元気な声が響いて玄関から一人の女性が姿を表す。

きっと高校生くらいだろう、その女性は桜田に似ていて、メガネまでかけている。姉なんだろう。

 

 

「あら、巴ちゃん!と、君は?」

 

「河原です。クラスメイトの」

 

 

頭を下げてそう言うと、女性も一礼して、

 

 

「ジュンくんの姉ののりです!あら〜、ジュンくんにもちゃんと友達がいたのね!」

 

「えぇ、まぁ」

 

 

姉としてその発言はどうなんだろうか。

ていうか友達とは言ってない。

 

 

「これ、桜田くんに」

 

 

柏葉はそう言うと、カバンからプリントの束を取り出す。

いかん、これではここで話が終わってしまう。

来た意味がない。

 

礼が少しばかり眉間にしわを寄せる。すると、

 

 

「まぁまぁ、ちょっと上がってって!久しぶりの男の子のお客さんだもん!」

 

 

やったぜ。内心そう思う礼。

 

 

 

 

 

 

 

家に上がると、二人はリビングへと通される。

出された紅茶を飲みながら、二人はのりの止まらない話に付き合わされていた。

 

 

「それでそれで、河原くんはジュンくんとどういう仲なの?」

 

「えぇと、まぁ、話したり……えぇ」

 

 

正直なところ接点がないので仲を聞かれても困る。

ローゼンメイデンのマスター繋がりですなんて言えないし。

 

 

「あの、トイレお借りしても?」

 

 

質問責めに耐えきれなくなった礼はそう尋ねる。

のりがトイレの場所を示すと彼は立ち上がった。

 

 

「……」

 

 

その瞬間を、柏葉は見逃さない。

礼の左手の薬指。そこにはまっている銀色の指輪。

 

 

 

 

 

「何なんだあの姉ちゃん」

 

 

一人ぼやいて家の廊下を歩く礼。

これでは調査も何もない、ただ世間話をしているだけだ。

自分の無計画さを恨む。

 

トイレの前まで行くと、ドアノブに手をかける。

今日はさっさと帰った方が良さそうだ。

調査なんて引き受けるんじゃなかった。

 

 

と、その時。

 

まだ手をかけていないドアノブが回り、ドアが開く。

 

 

「ふぅ〜……」

 

 

そう言ってトイレの中から出てくるのは、メガネをかけた少年。

桜田ジュンだった。

 

 

「……桜田」

 

 

声をかけられて止まる桜田ジュン。

ありえないものを見るような目で礼を見つめる。

対して礼は無表情で、桜田を見る。

 

 

「……どうして河原が?」

 

「……どうしてだと思う?」

 

「ぼ、僕を笑いに?」

 

「いや。会いに来た」

 

「僕に……」

 

「真紅に」

 

「っ!?」

 

 

驚いたような顔をする桜田。

礼は桜田の左腕を掴む。そして、左手の薬指を確認した。

 

ある。

指輪が、ある。

 

 

「……まさかお前がローゼンメイデンのマスターになってるなんてな」

 

「は、離せよ!やめろ!」

 

 

礼の手を振りほどこうとする桜田ジュン。

しかし、サッカーチームのレギュラーをしている健康な男子の手はなかなか解けない。

 

礼は彼の腕をひねる。

 

 

「いた、いたたたた!何すんだ!」

 

「うるせぇ、黙れ」

 

 

らしくなかった。

社交的な礼に似つかわしくないやり方だった。

別にこれからどうこうするなんて事は考えてない。

ただ、何となく桜田にムカついた。それだけ。

 

と、その時だった。

 

 

ヒュンッ、と風を切る音。

礼は即座に手を離し、頭を守る。

 

ばんっという音と共に腕に痛みが走った。

 

 

「……河原くん、やっぱりあなたは……」

 

 

柏葉だった。

いつも登下校に持ち歩いている竹刀で礼に襲いかかったのだ。

 

礼は片手で竹刀を掴み、空いている右手の手刀で柏葉の持ち手を打ちにかかる。

 

 

「っ!」

 

 

スナップがかかった手刀は柏葉の手から竹刀を奪う。

礼は竹刀を奪い取ると片手で保持し、柏葉の脇に竹刀を通した。

そして彼女の脇からすり抜けた竹刀の先端を左手で掴み、上へと捻りあげる。

 

 

「っ!?」

 

 

要は、脇に棒を通されて、そのまま彼女の肩を用いてテコの原理で腕を後ろへ捻られているのだ。

礼は彼女の背後に周り、先端を持った左腕を柏葉の首へと回す。

そして締める。

今現在、柏葉は身体をロックされた状態だ。

 

この技は頭のおかしい兄が動画で見ていたものだ。

ちらっと見ただけだが、礼はそつなくこなしてみせた。

 

 

「か、河原お前!離せよ!」

 

 

それを見ていた桜田は突然の襲撃者に震えながら口を挟む。

柏葉が攻撃して来た理由ははっきりとはしないが、別にいい。

 

礼は桜田の言う通り、柏葉を離して背中を押す。

 

 

「きゃ!」

 

 

女の子らしい声を出して桜田めがけて突っ込む柏葉。

それを受け止める桜田だが、受け止め方が悪いのか二人してもつれて転ぶ。

 

 

「いてて……ん?」

 

 

ふびょんと、桜田の手に柔らかい感触。

たまたま、彼の手は柏葉の胸を掴んでいた。

 

 

「さ、桜田くん……」

 

「うおぉあああ!?ご、ごめん!」

 

 

急いで柏葉から離れる桜田。

礼はそれをただ見ていた。

 

 

「お楽しみだな桜田」

 

「お前……」

 

 

桜田が礼を睨む。

 

 

「悪かったな。別にお前をどうこうしようとして来たわけじゃないんだ」

 

 

大嘘をついてそう言うと、礼は自分の左手を見せた。

厳密には、薬指に嵌められた指輪を。

 

 

「お前……ミーディアムに?」

 

 

頷く礼。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「入れよ」

 

 

ジュンが自室に入りそう言うと、続けて柏葉と礼が部屋へと入る。

入ると同時に、目にあるものが入り込む。

 

ローゼンメイデンが眠る時に使う、あの鞄だった。

しかも二つ。

予想外だったが、比較的冷静に礼は考える。

琉希の言っていた事にも間違いはあるだろう。

 

 

「今日は客人が多いわね」

 

 

続けて声がする。

ベッドの上を見て見ると、そこには赤いドレスを着た金髪ツインテールのドールがいた。

姿から察するに、あれが真紅だろう。

 

そして、

 

 

「ともえ〜!!!!!!」

 

 

礼の横を駆け巡り、後ろにいた柏葉に突っ込むピンクのドール。

それを受け止める柏葉は、普段見せない可愛らしい笑顔で、

 

 

「雛苺!」

 

 

と言う。

ミーディアムになったばかりの礼にはローゼンメイデンに対する知識は少ない。

新しいドールであると言う事以外は何も分からなかった。

 

 

「……これが、真紅?」

 

 

ベッドの上で本を読んでいるドールを指差す。

 

 

「これとは失礼ね。お前は初対面のドールに指を指してこれと言うのが常識なの?」

 

「あぁ。特にお前みたいに強気なドールには」

 

 

自分の真っ黒アホドールを思い出しながら言う。

すると赤いドールは本を閉じてベッドから降り、礼の元へと歩く。

何をするのだろう、と思って桜田を見たらニヤニヤしている。

 

すると突然、赤いドールがジャンプと回転を駆使して長いツインテールを駆使して攻撃してきた。

礼は上半身をうまく利用してそれを避ける。

 

 

「どいつもこいつも攻撃的だな、ドールってのは」

 

「ちょっと!避けるな人間!」

 

 

まさか避けられるとは思っていなかったのだろう、怒った様子で彼女は指をさして言った。

 

 

「お、おい真紅、あんまり怒るなよ」

 

 

なだめようとする桜田。

しかしこの強気のドール、真紅がそれで収まるはずもない。

 

 

「ジュン、この無礼な人間は何かしら?はやくつまみ出してちょうだい」

 

「いや、真紅……」

 

 

困ったように言うジュン。

仕方ない、助け舟を出そう。

 

 

「ローゼンメイデンのマスター。そう言ったらここにいる理由がわかるな?」

 

「……そう、お前もなのね、人間」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。