ローゼンメイデン プロジェクト・アリス   作:Ciels

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Sequence 32

 

 

 

 

どうしてこうなった、と考えずにはいられない。

無言で進むお茶会。俺と雪華綺晶ペア、礼と水銀燈ペア、琉希ちゃんと翠星石ペア、そして桜田くんと真紅ペア。

それらが一堂に会し、この桜田家でお茶会をする。

 

とんでもなく気まずい。

俺や琉希ちゃんのように同盟を結んだ仲ならともかく、桜田くんは今日初めて会った訳だし、引きこもりらしいから話しかけづらい。

かといって礼に助けを求めようにも、膝に水銀燈を載せて、喋るわけでもなく甘い雰囲気を出している。

昨日、突然桜田くんの家に行ったと思ったらこれだ。

帰ってきて早々、水銀燈と自室に篭りなにかしていた。

やべぇよやべぇよ、お兄ちゃんより先に大人の階段登っちゃう。

 

「……ジュン、紅茶のおかわりをお願い」

 

殺伐とした空気の中、真紅が空になったカップをソーサーに置いた。

 

「自分で」

 

「やって」

 

「はい」

 

尻に敷かれているらしい桜田くんは渋々立ち上がり、ポッドを手にして紅茶を淹れる。

淹れ終えて、真紅が飲む。

 

「ぬるいわ」

 

一言ぴしゃりと言い遂げる。

また沈黙がリビングを支配する。

いやだわ〜クレーマーよ〜。

 

「……さて。紅茶も楽しんだことですし、そろそろ本題に入りましょうか」

 

琉希ちゃんがここで爆弾投下。

緊張感のあった場が、ピリピリとした空気に支配される。

もうちょっと何かないですかね、たわいもない会話とか。

 

「揃いも揃ってコミュ障の集まりかよ」

 

ぼそっと呟くと、

 

「マスターも同じですわ」

 

と雪華綺晶から痛恨の一撃。

この子容赦ないわ。

 

「昨日、礼くんから報告を受けました。桜田くんと接触し、アリスゲームへの参加意欲があるか否かを」

 

「……そうですか」

 

聞き取れる許容範囲の声で桜田くんが呟く。

俺は触れられないように紅茶を飲む。

 

「私が来たからには曖昧にはさせません。ここではっきりさせていただきます。桜田ジュン、あなたはアリスゲームに参加するのか、しないのか。ここで宣言してもらいます」

 

一番のコミュ障がここにいた。

しかもパワー系だ。一番手に負えないタイプだった。

すると桜田くんは戸惑うような表情を見せる。

いや当たり前だろあんな威圧的な言い方されたら。

 

しかし答えたのは真紅。

彼女は瞳を閉じたまま、ただ言う。

 

「時期尚早ね人間。まだ全てのドールが目覚めたとは限らないわ。始めるならそれからでも構わない」

 

「ええ。でも、気がついているのでしょう?今回は全員が目覚めるということを。ローゼンメイデンの感が、そう告げていると翠星石が」

 

そうなの?と雪華綺晶と顔を見合わせる。

彼女は首を傾げている。どうやら制作過程が大分違う雪華綺晶には分からないらしい。

それにしても首を傾げてるきらきーも可愛いね。う◯ちして?

 

真紅はまぶたを上げ、琉希ちゃんを見据える。

 

「せっかちな人間は長生きできないわよ」

 

「ええ。でも、遅すぎるよりはマシです」

 

バチバチと二人の間に火花が散る。

会話から察するに、真紅はあまり乗り気じゃないみたいだな。

俺と雪華綺晶からすれば万々歳だが。

 

「ちょ、ちょっと待てよ。勝手に話進めて、アリスゲームだのなんだのって……」

 

桜田くんが話を遮る。

まぁ、急にやって来たと思えば平日の昼間からいきなりこんな話をされるのだ。誰だって嫌だろう。

ていうか俺講義サボって来てるんだぞ。どうつなが、償ってくれんだよ、なぁ!?

 

「マスター、あなたは定期的に講義をサボってるでしょう?」

 

「あ、そうでした!てへぺろ!」

 

「兄貴、黙れ」

 

俺と雪華綺晶の会話に水を差す礼。

最近どんどん弟が反抗期に突っ込んでいてお兄ちゃん寂しい。

 

「桜田くん。今はまだ平和が続いていますが、そのうち嫌でもこの争いに巻き込まれるでしょう。少なくともその覚悟だけはしておいた方がいい」

 

混乱する桜田くんにそう告げる琉希ちゃん。

確かに、俺ももう3回ほど巻き込まれてる。1回目は翠星石、二回目は琉希ちゃん、三回目は水銀燈。

下手すれば、ここで四回目も起こるかも。

 

「河原さんはそれでいいんですか!?」

 

唐突に話題をふっかけられて慌てる。

 

「え?あ俺?ああはい。いや、俺は雪華綺晶がいればそれでいいから。戦わないで済むならそうするし、必要があればぶっ殺しちゃいますけどね」

 

コミュ障発動。

しかもこの中で一番汚い言葉を発する最年長。

育ちの悪さが露呈しちゃう。だってうちの家族みんなこんな喋り方だったんだもん、礼を除いて。

 

桜田くんは言葉に詰まる。

これ以上何も引き出せないと悟ったのか、琉希ちゃんは席を立つ。

 

「……私も熱くなりすぎました。ですが覚えておいてください。ローゼンメイデンは戦う運命にあります。いずれ、あなたを殺すことになるかもしれません。……紅茶、ご馳走さまでした」

 

「りゅ、琉希!待つです!置いてくなです!」

 

言いたいだけ言って、琉希ちゃんは家を出る。

俺たちはそれを追いかけようとはせず、深いため息をついて紅茶を啜った。

 

「紅茶おいしいね」

 

「はい。でも、マスターの淹れた紅茶はもっと美味しいですわ」

 

「えーもう、褒めても何も出ないよ〜?」

 

「冗談です、ふふ」

 

「んにゃぴ」

 

あくまで俺たちペアはマイペース。

まるでその様子はアリスゲームに対するスタンスを見ているようだった。

 

「ねぇ、あんた紅茶のおかわり」

 

「自分でやれ。あと俺のも注げ」

 

「ち、しょうがないわね」

 

謎のツンデレスタイルを見せる礼と水銀燈。

桜田くんはそれをどういう感情で見ているんだろうか。

 

「……はぁ。興醒めね。ジュン、くんくん探偵が始まる五分前になったら知らせて。少し寝るわ」

 

半分ほど紅茶を残し、部屋から立ち去る真紅。

そういやくんくん探偵って今日だったか。

雪華綺晶も好きなもんだから、いつも録画して一緒に見てる。

 

さて、そろそろ帰るか。

帰りがてら今日の夕飯も買っておこう。

 

「じゃ帰るわ。悪いね、お邪魔しちゃって」

 

「あ、いや別に」

 

軽い感じで接する。

 

「おい礼、帰ろうぜ」

 

「紅茶飲んでから帰るから先行ってて」

 

「わかった。あんま邪魔になることするなよ」

 

もう遅いかもしれないが。

それだけ言うと、俺と雪華綺晶は仲良く手を繋いで帰路に着く。

雪華綺晶は若干他のドールより背が高いためか、ギリギリ人間の幼女に見られるラインらしい。

まぁこんな色白美人がいたら振り返らない人はいないんだけども。あと視線が辛い。

 

 

 

 

 

 

中学生組を残したリビング。

相変わらず水銀燈は礼の膝の上で紅茶を飲み、同じように礼も紅茶をすする。

一方で桜田くんは疲れたように椅子に座っていた。

 

「なんなんだよ、いきなり言いたいこと言って……殺し合いだなんて」

 

文句にも似た呟きを言う。

中学生が許容し得る話の内容を大幅に超えていた。

大学生だからって簡単に受け入れられるものでもないのだが、とにかく色々なストレスが彼に降りかかっていた。

 

最近すっかりクール系に落ち着いた礼は、そんなクラスメイトをじっと見据える。

 

「……なんだよ」

 

少し戸惑いながらも言葉を返すと、礼は首を横に振った。

 

「いや。ただ、一つ訂正しておこうかと」

 

「なに?」

 

礼は呆れたように笑う。

 

「話の流れ的に、あのポニテ女子を警戒してるのかもしれないけど。うちの兄貴が一番やばいぞ」

 

「え……」

 

人がいないところでやばい発言される兄貴。

信じられないと言わんばかりの桜田くんをよそに、礼は相変わらず紅茶を飲むだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして。

遠くから桜田家を眺める人形が一人。

紫を基調としたドレス、青みがかった白のロングヘアーをツインテールに束ね、左目には紫の薔薇の眼帯。

一見すると雪華綺晶によく似たその人形は、彼女よりも無表情でただ家を見ているだけだ。

 

電柱のてっぺんに立つその人形は、家から出てきた男と人形を見る。

手を繋いで歩くその姿は、まるで恋人のようにも見えた。

 

「……きら、きらしょう」

 

どこか幼げなその口の動かし方で、名前を呼ぶ。

しかし、それに気がつかずに二人は街に消えてしまう。

 

後に残ったのは、ただの電柱。

先ほどまでいたはずの紫のドールは、姿を消していた。

 

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