ローゼンメイデン プロジェクト・アリス   作:Ciels

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シリアス多め。頭おかしいのも多め。性格というか、モデルにしたのは某ゲームの主人公トレバーさん。


sequence 33 友達

 

 

休日の昼過ぎ。俺はやや不機嫌そうな顔をしながらスマートフォンをいじっていた。暇潰しにみているネット掲示板では、いつものようにくだらないけど笑える言い争いが展開されている。だが、今日だけはどうにも笑うことができない。簡単に言えば、イライラしていた。

 

「マスター、どうなさいました?」

 

ふと、雪華綺晶が心配そうな顔でこちらとスマホの間に割り込んでくる。そんな彼女のほっぺにちゅっと口をつけると、無理にでも笑ってみせた。

 

「なんでもなーい」

 

雪華綺晶は最初こそ頬を染めて嬉しそうにしていたが、俺が本音を言わないのが嫌らしく、ムスッとした顔をしてみせた。

 

「嘘つき。マスター、何か怒ってます」

 

やはり、自分のドールに嘘はつけないか。俺は観念したように笑みを作り、彼女の頭を撫でて言った。

 

「今に分かる。あのクソメガネが来ればな」

 

俺が怒っている理由。それは、腐れ縁とも言えるくらいに長い付き合いの友人、坂口 隆弘がローゼンメイデンと契約したことだった。

なんでここまで怒るのか。礼が契約した時もここまで怒っていなかったのに。それは単に、あいつに可愛いローゼンメイデンがいるという事が腹立たしいからである。つまりは、一方的な怒りだ。だが嫉妬ではない。なんかあいつに彼女とかがいると腹たつんだよな。

 

「マスターのお友達?」

 

「あー、そうだね。雪華綺晶は会ったことないもんね」

 

ていうか会わせたくない。あいつが可愛い可愛い雪華綺晶と会ってしまったら、何をしでかすか分かったもんじゃないからだ。最悪あいつを殺ってしまうかもしれない。

 

今日、隆弘が来る。ローゼンメイデンを連れて。この前のメール以降、やれ忙しいだのいちゃついてるから無理だの、頑なに電話に出なかったため、それならもうこっち来いと俺から言い出したのだ。ちなみに礼はサッカー、水銀燈は外出(真紅をからかいに行った)でいない。

 

「はぁ……」

 

深いため息。あの野郎、ローゼンメイデンと一線を超えてないだろうな。いや、まぁ……あんま人の事言えないけども。

 

そうしているうちに、予定の時間がやって来る。13時に俺の家に集合……そして、携帯の時計が13時に切り替わる。

 

ピンポーン。

チャイムが鳴る。

 

「……」

 

俺はインターホンに向かうこともしない。その様子を、雪華綺晶は不思議そうに見ている。

 

「マスター?出ないのですか?」

 

「無視しろ」

 

なんか自分から集合って言っといて面倒になってきた。きっとあいつが家に来たらまともなことにならないんだろうな。

 

ピンポピンポピンポーン。

チャイム三連打。うぜぇ。

 

「無視だ無視」

 

礼儀を分かっていないやつを相手にする必要はない。

 

が、

 

「おーいおいおい、ひでぇじゃねえか、せっかく友達が来てるってのに、インターカムにも出ねぇなんて、ん?」

 

いつの間にかリビング横の網戸を開け、靴を脱いでそいつは勝手に入ってきた。

俺の友達、坂口 隆弘だ。

 

「住居侵入でぶっ殺すぞ」

 

「おいおい、ここアメリカじゃねーぞ。過剰防衛でお前がムショ行きだ、なぁ青い子?」

 

常時ぶっ飛んでいる性格の隆弘が、手にした鞄に話しかける。どうやらあの中にローゼンメイデンがいるらしい。

しかし隆弘の声に何も答えないローゼンメイデン。隆弘は呆れたように鞄をフローリングに置いて鍵を開けた。

 

「おーい蒼星石ぃ!!!!!!」

 

叫びながら鞄を開ける隆弘。その動作はかなりオーバーだ。

 

「うわ!僕!?」

 

中にいる、青いドレスに茶髪のドールが驚いた。そりゃそうだ、真っ暗闇から急に見えた光景が隆弘だったら俺だって驚く。

 

「青い子って言ったらそれしかねぇだろ!それともなんだ?ハサミの子か?双子の妹か?シルクハットの王子様風女子か?ああ!?」

 

いつも以上に感情が高ぶっている隆弘。ここまでうるさいのは俺がちょっかい出して怒らせた時以来だ。

隆弘の理不尽な怒りに触れて半分泣きそうになっているドール。その間にもあーだこーだ言っている隆弘。さすがにもう助け舟を出してやろう。

 

「おいもういい、困ってるだろ」

 

「困ってる?俺にか?それともお前の家がインターホンすらまともに機能してないからか?いいか郁葉、お前は困ってるように見えてるかもしれないけどな、この子はそうじゃないかもしれねぇぞ!」

 

怒りの矛先が急に俺へと向く。

 

「わかったわかったわかったよもう!インターホン出なくて悪かったな!」

 

すると隆弘はオーバーすぎる動きを止め、急に狂ったような笑顔になる。

 

「おお、そいつはどうも。窓から入って悪かったな」

 

と、そう言って隆弘はドールに向き直る。ちょうど背中をこちらに向けているのでバレないように中指を立ててやるが、イライラが収まらない。

 

「じゃあ早速紹介するぜ」

 

今度は嬉しそうに興奮しながら、隆弘は青いドールの脇に手を通してから抱き上げる。まるで赤ん坊を扱うようなその仕草は、彼にはまったく似合っていない。

そして隆弘は、青いドールに頬を寄せて良い笑顔で言った。

 

「ローゼンメイデン第四ドール、蒼星石だ」

 

「ど、どうも」

 

愛想笑いしながらも、軽く会釈する蒼星石。あれは……女の子だよな?ぱっと見男の子に見えなくもないが……いや、男の娘?うーむ、それはそれで良いかもしれない。女装ショタって興奮するよね。

ヤバイ、雪華綺晶がこっちに冷ややかな笑みを向けてる。

 

「それで?」

 

と、隆弘は首を傾げて言い出す。

抱っこしながら首をかしげるもんだから、蒼星石の胸元に頭が当たっている。

 

「何がだ?」

 

「そっちの真っ白お嬢さんの事は紹介してくれないのか?」

 

「あー、ああ」

 

こいつのクセが強すぎて色々忘れてしまう。

 

「この子は第七ドール、雪華綺晶。こいつは隆弘」

 

「はじめまして。庭師のお姉様のマスター」

 

礼儀作法は意外としっかりしている雪華綺晶は、スカートの両端をつまんで一礼する。まるでお嬢様のようなその仕草に、やはり隆弘は驚いたような笑みを浮かべた。

 

「おお、見ろ蒼星石。あれがレディのお手本だ」

 

「ああ、うん。いいんじゃないかな」

 

どこか遠い目をしながらそんな風に言う蒼星石。いったい彼女に何したんだこいつは。

 

 

立ち話もなんだから、お互いテーブルを挟んで向かい合う形で座る。当たり前のように俺の膝の上にちょこんと座る雪華綺晶。ふんわりと髪からいい香りが鼻を刺激する。

対して、隆弘の隣に姿勢良く座る蒼星石。隆弘は彼女の肩に腕をかけ、頭を撫でている……なんだあのアメリカ人カップルみてぇな動きは。

 

「まさかお前にもローゼンメイデンが届くなんてな」

 

皮肉を混ぜたようにそう言うと、

 

「ああ、それなんだが郁葉。俺とお前が出会ってから何年だったっけか?」

 

そういう質問をしてくる。

 

「小2の時からの付き合いだから……12年か?」

 

「そうだ、12年だ。赤ん坊なら小6になってるぐらい長い時間だ」

 

謎のジェスチャーを組み合わせてそんなことを言ってくる。こいつが何を言いたいのか、未だに分かりかねる。

 

「小学校、中学校、高校。大学こそ理系と文系とかいうクソカテゴリーのせいで別れちまってるが、それでも月一でサバゲーには行くし、飯だって頻繁に行く。まぁここ二ヶ月は事故の後処理だの忙しいの一点張りで誘っても来なかったけどな」

 

「色々あんだよ」

 

「ああ、色々あるよな。だがな、そんなのはどうでもいいんだ。なぁ蒼星石?」

 

急に話を振られてビクッと驚く蒼星石。

 

「え、そうだね?」

 

「俺が言いたいのはな、郁葉。なんで何も言ってくれなかったんだってことだ」

 

やっぱり。

こいつは、ぱっと見狂っているように見える。だが、いつでも狂っているわけではない。大学では普通に生活しているらしいし、飲食店のバイトだってそれなりにこなしている。こいつがおかしくなるのは、決まって俺といるときだけだ。

なぜか。なぜそうまでして面倒な友人でいたがるのか。

それは、こいつが単にさみしがり屋だからである。気を引きたいのだ。

 

「あぁ」

 

そうだ、こいつがローゼンメイデンと契約したと聞いた時にはもう、こう言ってくる事は分かっていたはずなのに。

12年も友達をやってきて、気づかないはずがないのに。

どうして気がつかなかったのか。そんなの決まってるさ。雪華綺晶という大きな存在が、できたからだ。

 

「まぁそれはいい。理由は分かってるしな。俺は所詮そこらにぶん投げられてる石ころに過ぎない」

 

「ずいぶん自分を下げるじゃねぇか」

 

「まぁな。俺はこの二ヶ月、お前と同じ土俵にいなかったんだからしょうがないね」

 

でもな、と。ケラケラ笑う隆弘の表情が変わる。とてつもない意志を秘めた……そうだ。あれは、俺が雪華綺晶と会って、彼女を助けると決めた時と同じ。

 

ギュッと、隆弘は愛おしそうに隣の蒼星石を抱きしめる。蒼星石は何かを察したのか、隆弘の行動に身を委ねていた。

 

「もう、俺とお前は同じだ。平等なんだ。分かるよな?」

 

「……その通りだよ、隆弘。やっとこっちまで来てくれたか」

 

ニヤリと、俺は笑う。

一方で、雪華綺晶はこの状況を芳しく思っていなかった。まるで宣戦布告にも聞こえるその言葉と、自分の主人が新たな動乱に巻き込まれる可能性が頭から離れないのだ。

 

同じ土俵。つまり、アリスゲーム。ただ、主人の言葉が気になるのだ。だって、彼は雪華綺晶と一緒に居られればそれでいいと言っていたし、それはつまり積極的な戦いは望まないという事だ。

 

「はっはははは、はははっはァ」

 

「んふ。ふっふふふふぅ」

 

2人のマスターが気持ち悪く笑う。

だが、どうにも2人の表情は健やかだ。

 

「はぁ……お前は降りるつもりはねぇんだろ?」

 

不意に、隆弘が尋ねた。

それは、アリスゲーム……それだけじゃない。ローゼンメイデンのマスターを降りるか、ということだ。

 

「ああ。俺は雪華綺晶といられればそれでいい」

 

「だよな。こんな奇跡みたいなこと、手放せないよな」

 

「お前もだろ?」

 

「分かってんだろ」

 

そう。彼の目的。それは、俺の意思を聞いて、それに乗っかることだった。

こいつはさみしがり屋だ。わざわざ一番長い付き合いの俺と敵対することなんてしないのさ。もし俺がアリスゲームを意欲的にするのであれば、おそらくこいつはそれに乗っかって俺と敵対しただろう。でも、それは互いが望んでのことだ。

俺が望まないことを、恥ずかしいが相棒であるこいつは望まない。この相棒が望まないことを、俺は望まない。

人は言うだろう。それは表面だけの存在だと。馴れ合いだと。ぶつかり合ってこそ友だちだと。

うるせぇんだよ、と俺たちは言うだろう。そんなライン、とうに越しているのだから。

それらを超えて、俺と隆弘は友人なのだ。

 

「ま、俺が言いたかったのはそれだけだ。たまにはいいだろ?こういうアニメチックな会話も」

 

「だな。改めて、ようこそ。ローゼンメイデンの世界へ」

 

握手することもない。

こうして、第四ドールが新たに目覚め、契約者を手に入れた。残るはあと一体、第2ドールの目覚めのみ。

やる気のないアリスゲーム。でも、それは着々と開始に向けて歩みを進めていたのだった。




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