ローゼンメイデン プロジェクト・アリス   作:Ciels

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sequence 40 暗殺者の信条

 

 

主途蘭は、生まれてまだ日が浅い。いくら喋り方は狐系ロリババァと言えども、それは事前に彼女のしょうもない父親からプログラムされているだけのものであり、戦闘技術も同様だ。

父親曰く、彼女の戦闘技術は某アサシンゲームの主人公達らしいが、それが通用するのはあくまでそのゲームの中だけである。その点で言えば、長年姉妹と三次元的な戦いを繰り広げて生き残ってきた水銀燈は、今は単なる変態ドールかもしれないが、確実に上回るところがあった。

 

「あらぁ、登場の仕方は良いのに意外と弱いのねぇ」

 

主途蘭は、剣技において水銀燈に圧倒されていた。いかに最強のアサシンと同じ剣の振り方を持ってしても、パターンが読みやすいのだ。だから、数発斬撃を防がれた後は打撃か翼によるカウンターをもらってしまう。そもそも、あのゲームの最大の攻撃はカウンターだ。相手のわかりやすい攻撃に合わせてカウンターする事により、バッサバッサと斬りふせる……詰まる所、主途蘭は持ち味を潰されていた。

 

「ほらほらぁ!ジャンクにしてあげる!(十八番)」

 

カウンターされて怯む主途蘭に、飛び上がった水銀燈が翼で攻撃する。襲いかかる漆黒の羽に、主途蘭は両手をクロスしてガード。

 

「セイッ!」

 

翼攻撃が止んだと思いきや、横から礼が剣を振るってきた。主途蘭はそれをなんとか剣で受け止めるが、どこで習ったのかそれを華麗に受け流され、がら空きになった主途蘭の横っ腹に礼の回し蹴りが突き刺さった。いや、お前サッカー部だからって回し蹴りはしないだろ。

 

「ぐおぅぁっ!?」

 

吹っ飛ぶ主途蘭。側から見てみれば単なるイジメ。ボロボロになっていく金髪のじゃろり幼女とか興奮する……しない?

剣を構える礼と、その傍に降りてくる水銀燈。

 

「おい、こいつ弱いぞ」

 

「弱すぎて逆に罠を疑うわ」

 

散々な言われようだが、二人は本当に罠を警戒している。主途蘭が囮で、他に潜んでいるドールやマスターがいるんじゃないだろうか、と。

だが、心底真面目に正面から挑んできた主途蘭は、その発言は単なる挑発にしか聞こえない。

 

「くっ……流石はローゼンメイデンじゃのぅ……本当に強いわ」

 

正直、契約していた事で浮かれていたのかもしれない。相手は人間の中学生にいいように扱われている変態ドールという情報があったから、油断していた。

 

「しっかしまぁ、よくもまぁ堂々と挑めたものねぇ。頭の中までジャンクなんじゃないの?」

 

「それはお前も同じだ」

 

「ねぇ、それ酷くない?」

 

いつも通りの会話をする二人。とても戦闘中とは思えない。

主途蘭は立ち上がり、蹴られた部位の損傷を確認する。どうやら防具が大分防いでくれたようだ。こればかりは、作り手の父親に感謝しなければならないだろう。

彼女は剣を持ち直し、構える。

 

「まだやるのぉ?ま、たまには人形をバラすのもストレス発散でいいけどぉ?」

 

邪悪に微笑む水銀燈。礼は相変わらず警戒しつつも構えていて隙がない。ああ、これは襲う相手を間違えたな、と今更ながらに思うが、それでも主途蘭は諦めなかった。

ここで負けたら、自分はただの動く人形なのだ。世界に名を轟かせたローゼンメイデンを倒すことによって、ようやく自分達のアイデンティティができるのだ。

ローゼンメイデンにも劣らない、人形。

 

「ッ!」

 

主途蘭が二人に向けて走り出す。また来たのか、と水銀燈はうんざりもしていたが、礼だけは主途蘭の異変を感じ取っていた。動きが、少し変わったのだ。無駄が減った。

主途蘭が横に回転しながら剣を振るう。一対多数を意識していることは簡単に分かった。

礼はそれを剣で防ぎ、水銀燈も同じようにする。また水銀燈はカウンターでもいれようかとするも、ちょっとだけ速くなった主途蘭の二撃目のせいで防御に移った。対照的に、礼は後ろへ飛び退く。

 

「うざったいわね!」

 

連撃を防ぎつつ、水銀燈は叫ぶ。なんだか勢いが先ほどと違う。

主途蘭が兜割のように縦に剣を振り下ろす。水銀燈はそれを剣で受け止める……

 

「左手だッ!」

 

礼が叫んだ。なにかと思えば、主途蘭の左手の暗器が伸びている。次の瞬間、水銀燈の右脇腹へ暗器が迫っていた。

 

「ちょっ!」

 

驚く水銀燈だが、そこは長女。膝蹴りするように主途蘭の左腕をブロックした。そして、次の攻撃に移られないように膝下を伸ばして彼女の脇を蹴り上げる。

黒いスカートがめくれ上がってパンツが見えた事は内緒。それに少し興奮している礼だけど、指摘したらやられるから内緒。

しかし主途蘭は横へと転がり、蹴りをギリギリで避ける。それどころか、いつの間にやっていたのかしらないが、水銀燈のふくらはぎを浅く切り裂いていた。

 

「いったぁああ!?」

 

本気で痛いようで、足を押さえて痛がる水銀燈。主途蘭は追撃せず、距離を取った。

 

「油断するからだ」

 

言いつつも水銀燈の足を確認する礼。どうやら重傷ではないらしい。

 

「あいつ慣れて来たな」

 

冷静に、礼は分析した。いや、それよりもお前の戦いっぷりにびっくりだよ俺は。

 

「……指輪が熱い」

 

主途蘭は、熱を帯びた自身の指輪を見る。光っていた。これは、つまりめぐから力が送られているという事だった。今までこんな事はなかった。だが、指輪が熱くなった途端に、水銀燈に一撃を食わらせることができたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「う、うぅう」

 

病室のめぐ。彼女は指輪が熱くなるや否や、胸の苦しみに悶えていた。傍らには、ゲームのコントローラー。プレイしていたゲームは、あの暗殺者のゲーム。

今はゲームどころではないが、めぐのこの胸の苦しみは、おおよその原因はついている。

主途蘭が、命を使ってくれている。それが、苦しくも嬉しい。だから、苦しむ彼女の顔には笑みが浮かぶ。

きっと、主途蘭が戦っているのだろうと、直感的に分かった。そして苦戦してるのであることも。だから、使って欲しい。自分の命の薪を燃やして、あの純白のドレスに恥じない戦いをして欲しい。自分ができるのはそれだけだと、めぐは思う。

 

ーー主途蘭。私はジャンクだけど、きっと助けになるわ。だから、使って。会ってまだ数分だけど、あなたとは長い付き合いでいたいの。命の灯火が消える、その時まで。真実は無く、許されぬことなどない(?)ーー

 

棚に密かに並んでいるパッケージを見る。そこには、あの暗殺者ゲームの全タイトルが並べられていた。

 

 

 

 

 

「……めぐ」

 

彼女の命を吸っているのが分かる。自分という炎が、彼女という薪を糧にして燃えている。

見える、戦い方が。分かる、殺し方が。今まで知識でしかないものが、どういうわけか生々しく感じられる。おかしい。なぜ海賊の船長のやり方まで分かっているのだろうか。日本から出たことがないのに、イタリアやコンスタンティノープル、それにエジプトに生きた記憶が断片的にある。しかし、どうでもいい。今は、目の前の敵を暗殺するのだ。

 

「なんだ……?」

 

しばらく硬直する主途蘭。水銀燈は足がやられたので後ろで控えさせている。何か主途蘭の様子がおかしいのだ。胸に手を置いたかと思えば目を閉じて動かないのだ。一体何を企んでいるのだろうか、あの人形は。

 

「あれ、なにあれ」

 

水銀燈が何かに気がつく。礼もその洞察力ですぐに気がついた。

主途蘭の、左手の籠手に装着された暗器の形が変わっている。少し、厚みを増しているのだ。それに、いつのまにか右腰にもう一つ剣が備わっている。

 

「ちょっと、あのドールの右手……もう一つ籠手があるわよ」

 

水銀燈が指をさす。見てみれば、先程まで何もなかった主途蘭の右手に、新たな籠手と暗器が備わっている。

 

「進化している……?」

 

礼の推測は正しい。槐は興奮のあまり言うのを忘れていたが、主途蘭の特性の中に、ミーディアムとの強固な連携というものがあるのだ。要は、ミーディアムによって姿を変えていくのだ。

 

「闇に生き、光に奉仕する。そは我らなり」

 

「なんか言い出したわよあの子」

 

「中学生の時の兄貴と同じ匂いがする」

 

おいやめろぉ!(迫真)

 

「真実はなく、許されぬことなどない」

 

「あ、これ兄貴がやってたゲームのセリフだわ」

 

「あー、あの人すぐ影響されるわよね」

 

だから人がいないところでディスるのはやめろって言ってんじゃねぇかよ(棒読み)なんでこうバカにされるんですかね〜不思議〜ですね〜(大物ミーディアム)

主途蘭は左手で、もう一つの剣を抜いた。

 

「めぐ……わしはアサシンじゃ(?)」

 

何言ってんだこいつ……どうやら、少しばかり力が流れすぎてバグったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅いなぁあいつ」

 

夕暮れ。いつもなら帰ってくる時間に、弟が帰ってこない。もう夕食はできていて、意識高い系弟であるあいつなら冷める前には帰ってくるのに連絡すらよこさない。俺と雪華綺晶は、弟とその愛すべき人形を待つ。

 

「……何かあったのかしら?」

 

ふと、俺の膝枕に頭を乗せて撫でている(意味深)雪華綺晶が憂いた。確かに、ローゼンメイデンのマスターであるという事は、その危険とも隣り合わせだったりする。琉希ちゃんとか水銀燈とか。

うーん、と俺は唸りながらも雪華綺晶の無防備なお腹を撫でる。お腹がはだける雪華綺晶の球体関節かわいい(無関係)

 

「ちょっと見てくるわ」

 

俺がそう言うと、雪華綺晶は飛び起きて俺の唇に人差し指を添えた。お、しゃぶっていいのかな?

 

「たまには私が行きますわ。将来の義理の弟ですもの、少しは面倒を見ませんと」

 

「雪華綺晶、やっぱアリス目指さない?俺雪華綺晶と結婚したいわ、合法的に」

 

「うふ、今後も気が変わらないのであれば、ね?」

 

ウィンクする雪華綺晶。ワイ、もう人形でもいいかもしれんなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

進化した主途蘭は、まさに脅威だった。両手で振るう剣は、的確に急所を素早く攻めてくる。防ぐので精一杯だ。二対一だというのに、反撃すら許されない状況に礼は焦りを感じていた。

 

「ほっはっ、よっ」

 

水銀燈はもうキャラを崩して本気で防いでいる。対して主途蘭は無言で、最適な振り方で剣を振るう。時折打撃を交えながら。

 

「このっ!」

 

剣を防ぎながら蹴りを入れる。だが主途蘭はそれを予期していたかのように回転ステップで避けてみせた。お礼と言わんばかりに、回転しながら剣を振るってくるからタチが悪い。僕はネコです。

 

「ぐっ!?」

 

主途蘭は人形である。そのため、その攻撃は礼にとってかなり低い位置から来るもので、対処がしづらい。加えて、この回転斬りは主途蘭がかなり姿勢を低くして行った攻撃だ。あまりの低さに礼は剣での防御ができなかった。

足を斬られる。浅いが、動きが鈍って引きずる程度には痛い。

 

「礼ッ!」

 

水銀燈の呼び声。

 

「よそ見は危険じゃぞ」

 

気を取られた水銀燈に、主途蘭は前蹴りを食らわせる。後ろへ弾き飛ばされる水銀燈。礼は膝をつきながらも剣を振るうが、鈍った剣は容易に弾かれてしまう。

 

「もらった」

 

主途蘭が呟くと、剣を持つ右手を斬りつける。

 

「ぐぁっ!」

 

血が飛び出し、剣を落とす。続け様に、主途蘭は後ろ回し蹴りを礼の顔面に叩き込んでみせた。

めり込むブーツ。礼はなす術なく仰向けに倒れこむ。ガシャリと、携帯が懐から落ちた。

 

「一人目ッ!」

 

意気込んだ主途蘭が剣をしまい、左手を挙げて礼に飛びかかる。その光景を、礼は知っている。あれは、ゲームで暗殺する時にやる動作だ。

 

「クソッ!」

 

馬乗りになる主途蘭が右手を振り下ろそうとするも、礼は抵抗した。彼女の右手を掴んで押さえたのだ。シャキンと、彼女の腕から短剣が伸びる。その長さは、人を殺すには十分すぎるものだ。

 

「眠れ、安らかに」

 

「こんの……」

 

人形とは思えないほど力が強い。段々と、刃が迫ってくる。

 

「離れなさいよっ!」

 

援護しようと水銀燈が翼を展開する。

 

「黙っておれ」

 

主途蘭は振り向きもせず、ただ背後の水銀燈に左腕を向けた。何かがくる、そう思って翼を自分の前で交差させ防御する水銀燈。刹那、発砲音が響いた。翼に痛みが走る。なんと、左手の暗器には銃も内蔵されていたのだ。

 

「今度こそ死ぬのじゃ」

 

冷酷な死刑宣告。刃の先端が、礼の喉元を小突く。死ぬのか、と、礼は焦りに焦る。焦って、段々と主途蘭の刃が身体から離れていくのを感じた。

主途蘭の顔を見てみれば、彼女は今までにないほど顔を歪めていた。何が起きたのか。

 

 

 

 

「あらあら。誰かと思えば、可愛らしい暗殺者ではありませんか」

 

聞き慣れた声がする。ようやく余裕ができた礼は、主途蘭の右腕を観察した。どういうわけか、棘のついた蔦が絡み付いている。

にゅっと、主途蘭の背後から両手が伸びる。その両手は彼女の顔を優しく包み込んで、きめ細かな頬と透き通るような髪を撫でた。

 

「でも、だぁめ。だって、礼くんは私の将来の弟だもの。あなたにあげないわ」

 

雪華綺晶。あの、普段は兄といちゃらぶしているちょっと病んだドールの顔が、主途蘭の背後から湧いて出てきた。主途蘭の顔が強張る。彼女の全身には、いつのまにか蔦が絡み付いていて完全に動きを封じていたのだ。

 

「ぐっ……!貴様っ……!」

 

「あらだめね、そんな口の利き方では。曲がりなりにも乙女なんですもの。もっとそれらしい言葉遣いで接しませんと。ね?黒薔薇のお姉様」

 

「え?あ、そうね、そうわよ(便乗)」

 

末妹の行動が恐ろしいらしい。どうにも水銀燈は雪華綺晶に苦手意識があるようだ。

主途蘭は振り解こうとなんとかもがくも、雪華綺晶が頬にキスをした瞬間に身体の動きを止めた。

 

「がっ……!あが……!」

 

耳で聞き取れるくらい、蔦が彼女を締め付けている。手は力が入らずに開いてしまっているし、目は見開いて開いた口からは唾液が溢れる。どうやら呼吸ができないようだ。

 

「素晴らしい剣技ですわ。身体使いもしなやかで、主途蘭の名前に恥じない……でもね、けれどもね、主途蘭。貴女、真正面から戦い過ぎよ。だから私の存在に気が付かないの。私の愛すべきマスターなら、絶対にこうしろっておっしゃられるわ」

 

ぶらんと、白目をむいた主途蘭が崩れ落ちる。彼女の背後には、同じく白いドレスを纏った雪華綺晶が、主途蘭を見下ろしていた。あぁ、やっぱりこのドールは強い。

 




きらきーが最強で最かわなのです。
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