「クソが」
礼は包帯で巻かれた自分の足を見て、思わず汚い言葉を吐き捨てた。あぁ、と俺は何とも言えない同情の声をかける。
礼が襲われた次の日、病院。傷は浅かったとは言え、礼は一時的に入院することとなった。サッカーをしている者としては、やはり足の怪我は相当精神的に来るらしく、襲われた事よりも足をずっと気にしている。
「でも、ほとんど後遺症も跡も残らないんでしょ?良かったじゃない」
礼のとなりに座り、りんごの皮を剣で剥く水銀燈が言う。
「当たり前だ。もし使い物にならなくなってたら、兄貴を殺してた」
「ヒエッ……」
礼の殺意MAXの眼光が俺に突き刺さる。まぁ、主途蘭の事を秘匿してたから恨まれるのは当たり前だろう。そもそも、まさか主途蘭が槐の下から脱走して野良ドールになるなんて想像できなかったのだ。なんて浅はかなのだろう。
俺はバツが悪そうにしながらも謝る。
「悪かったよ、ごめんって」
「私からも、ごめんなさい礼くん。私が黒薔薇のお姉様に御教えしていれば……」
雪華綺晶も、シュンとした表情で謝る。ていうかもうすっかり礼くん呼びが板についてるのねこの子。俺も君付けとかで呼ばれてみたい。
謝罪を受けて、礼はため息を吐いて水銀燈が手にするリンゴを口に含む。彼女の手ごと口に含むもんだから水銀燈が驚いているが、噛み付かれた自分の手を舐め出した。碌でもねぇなうちのドール(特大ブーメラン)
「まぁいい。起きてしまったことは仕方ないって割り切るしかないだろうさ。幸い水銀燈の切られた箇所ももう治ってるし、あとは俺だけなんだからな」
「お、そうだな」
少しばかり他人事のように言うと雪華綺晶の無言の圧力が痛かったのでそっぽ向く。まぁ何はともあれ、ここに長居しても延々と愚痴を吐かれ続けるのでそろそろ帰るとするか。なんでこんなことになるのかなぁもう。
病院を出て、やや奇怪な目を向けられながら帰路を二人で歩く。もう雪華綺晶と街中を歩くのは慣れっこなので特に何も感じない。側から見れば、仲のいい年の離れた義理の兄妹くらいに思うだろ(適当)雪華綺晶の髪めっちゃ金髪だけど。
「主途蘭、どうしましょう」
不意に雪華綺晶がそんな事を言った。頭にあののじゃろりアサシンドールを思い浮かべる。
礼たちを襲い雪華綺晶が倒したあのドールは、現在槐の所で調整中である。意思を持ったドールというのは、いかにローゼンの弟子であろうと難しいらしく、長期入院(メンテナンス)が必要だと言うが……あんまり信用はできない。一応数発喝を入れてやったが。
「今はとりあえず、動向を見よう。やれる事は無いさ」
「えぇ……そうですね」
ちょっと元気が無い雪華綺晶。どうやら礼の負傷が精神的負担になっているらしい。彼女にはもう言ったが、礼に知らせなかったのは俺の責任だし、何も気負いする事はない。それでもやっぱり雪華綺晶は心優しい乙女で(時折サイコ)、家族が傷付けばそれを見て見ぬ振りなんてできないのだろう。
俺は彼女をひょいっとお姫様抱っこしてみせる。ひゃっ、という驚く声が可愛い。
「マスター?」
「面倒な事は俺に預けろ。それでいいのさ。礼の事だって、もう終わった事だ」
頬を彼女の小さな顔に優しく擦り付ける。雪華綺晶はそれを暫し堪能すると、ぷくっと頬を膨らませて言った。
「髭、痛いです」
「すいません(小声)」
入院生活というのは本当に暇だ。病気ではないから医者の診察なんてほとんど無いし、やる事と言えば水銀燈を弄るかスマホで動画を見るくらいだ。そのスマホも、動画の見過ぎで通信制限を食らってまともに読み込まないから困る。眠ろうにも昼間に散々寝たから眠くもない。だから、こうして日付が変わろうとしている時間にも礼はただベッドの上に横たわって目を開いている。
傍らにはアンティークな鞄。水銀燈は早々に寝てしまっていた。何ともまぁローゼンメイデンというのは規則正しい生活を送っている。
「……ちっ」
軽く舌打ちをすると、礼は起き上がる。足は痛むが、歩けないほどではない。
夜風にでも当たれば眠くなるだろうか、なんて考えて、部屋を出る。暗くなった病院の廊下はそれなりにホラーを感じるが、礼としてはどうでもいい。動く人形以上にホラーなものなど早々無いだろうから。
非常階段に向けて歩く。コツコツと、スリッパを履く礼の足音がだけが響く。ナースの巡回はさっきあったばかりだからしばらくは来ないだろうと、そんな時。しばらく歩いていると、不意に歌が聞こえてきた。
歌声以外のメロディは聞こえてこないあたり、ラジオや携帯ではなく本当に誰かが歌っているんだろう。
暇を潰す事を目的に、礼はふらふらと歌が聞こえる方へと向かう。どうやら近くの個室から聞こえてくるようだった。柿崎めぐ。表札にはそう書いてある……
そっと、バレないように扉を開ける。チラチラと、空手部員の後輩のように中を覗けば、一人の少女が月明かりの下で、歌を口ずさんでいた。聞いたことがある。からたちの花だ。
か細い、それでいて中々に綺麗な歌声が礼の耳にすーっと入っていく。しばらく礼は取り憑かれたように聞いていた。
少女が歌いきった頃合い。ようやく礼も自分の意識に帰還する。他人の病室に入って歌を盗み聞きするなんて、変態の兄ですらやらないのだから、それをやってしまっていたという事実に礼は少しばかり恥じらいがあった。そして、バレないようにそっと退出しようとした時だった。
「誰?」
背中に、少女のか細い声が投げかけられる。どきりと礼の心臓は一際強く波打ったが、諦めて彼女を振り返り、諦観の目で病床に伏せる少女を見た。
「いや、歌が聞こえたもんで……すぐ出てくよ」
「……そう」
それだけの会話。特に責められもしない。しかしどうしてか、礼にはその会話が不自然に思えて仕方がなかった。普通なら、いつのまにか部屋に侵入している男に不信感の一つも抱くものだろう。
彼女にはそれがない。それどころか、何の感情も無い。虚ろなわけでも無い。ただ、彼女はここにはいない。
礼には、そんな風にこの少女が映った。
「……変な奴だな」
ふと、礼は意識もせずにそんなことを呟いていた。深夜の病室、静まり返ったこの中では、いかに小声であろうともその声を聞き逃すようなことはない。
少女、めぐは少しだけ目を細めると聞き返す。
「……何よ」
礼という人間は、最近安定していない。その原因は、第二次性徴期特有の心の不安定さもあるが、それに加えてローゼンメイデンという存在が現れたことも大きいだろう。水銀燈や他のドールと触れ合う中で、少しずつではあるが彼にも変化が訪れていた。そう、まるで戦闘のスイッチが入る時のような。
礼はそのスイッチが入ってしまったことに気がつかず、無機質な目でもって答える。
「あんたのその目、一見すると死人みたいだが……ハッ、なんだ。ただの構ってちゃんか」
目の前の少年から急に罵倒が飛ぶ。めぐの頭は瞬間湯沸かし器の如く、湧き立つ。それは、単に罵倒されたから、というだけではないようだった。
「なによ、なによ急に!いきなり現れて、見透かしたような事言ってんじゃないわよ!」
少女の外見からは想像もつかないほど、乱暴な言葉だった。礼は笑う。笑って、もっと火に油を注ぐように煽った。
「あんた、死にたいって思ってるだろ。自分は籠の中の鳥で、自由すら与えられずに生きるくらいなら死んでしまいたいって、そう思ってるだろ。でも違うね。それは表面上だけだ」
ケタケタと笑いながら礼は言う。めぐはその言葉に驚愕した。唖然として、口を開けたままその言葉を聞いている。
「本当は生きたい。生きて、自分を表現したい。もっと刺激が欲しい。欲求をそのままぶつけて本当の意味で自分勝手に生きたいんだ。色んな人間に見てもらって、ほら私はこんなに輝いてる、もっと見てよって、言いたいんだ。でも、それができないから死にたがってるふりをする」
めぐは言葉を失った。今初めて会った人間に、しかも見るからに年下の少年に、見透かされたのだ。
「周りに当たって憂さ晴らしして、それでも晴れないから今度は死にたいって言う。死ねば解放されるって、羽を広げられるって。でも自分から死のうとはしない。そのうち死ぬからその時を待ってるって?違うね。死ぬ気がないんだ。人間その気になれば誰でも殺せるし死ねる。お前はただ今の現実から逃げてるだけだ。残念だったな、お前は自分から鳥籠に閉じこもってる引きこもりだ。負け犬だよ」
邪悪な笑みがめぐに牙を向いた。それでもめぐは、言葉を反射的に返した。
「じゃあ、じゃあどうすればいいのよ!私はジャンクなの!生まれた時から普通じゃない!そんな、自分で作った鳥籠からも出られない私は、どうすればいいのよ!?」
悲痛な叫びだった。彼女は鳥籠を出ないのではない、出られないのだと、語っていた。礼はそれを鼻で笑い、
「諦観は死と変わらない!たとえジャンクでも、手足が使えなくても鳥籠を壊す!俺なら、俺たちならそうする!あのバカ兄貴もだ!」
脳裏に浮かぶのは、歪んだ愛情と絆で繋がっている黒くて純粋なドールと、どこまでも不器用だが本当は一番恐ろしい自分の兄。
特にあの兄は、自覚はないだろうが、雪華綺晶のためならば礼すらも殺すだろう。純粋な漆黒を持って、あの変態ロリコンホモ野郎は使命を果たす。
「無理よ、私には」
めぐは、目の前の少年が語ったことを否定した。乗り越えられない壁というものが、誰にでもあることくらい籠の中の鳥にも分かる。分かっているからこそ、礼は言う。
「自分だけで何かを成そうとすれば、それは困難ではない。ただの邪魔な段ボール製の障害にすぎん」
めぐはまたしても唖然とする。最初こそ、意図がわからずにいたが、数秒して彼が語るその意味が分かった。
一人で諦めるのではなく、誰かを頼れと。彼はこう言っているのだろうか。
「俺にはいるぞ!大事な奴が!命をかけてでもそいつのために使命を果たしたいと、思える奴が!」
まるで変態蛇土方の兄弟のように拳を上に突き上げ、礼は語る。そして、拳を上まで突き上げて、礼は止まった。止まったと言うより、固まった。めぐは、そんな輝かしい少年を、首を傾げながら不思議そうに眺める。
「……俺なに言ってるんだろう」
不意に、礼が正気に戻った。そして恥ずかしさで沸騰しかけながら、なんとか体裁だけは保ちつつ、めぐに言う。
「言いたい事言ったから帰るわ。じゃ」
そう言って、回れ右をしてぎこちない動きで戻る礼。急いで部屋から出ようとする礼を、めぐは引き止める。
「ねぇ、名前は?」
ピタリと礼は止まり、振り返らずに言う。
「礼です」
「ゲイ?」
「礼です(半ギレ)」
「あ、礼くん」
いつかやったやり取りを、めぐとする。一刻も早く部屋から立ち去りたい礼とは対照的に、めぐは目を輝かせて彼の名前を復唱する。
生きることに対して諦めていためぐが、どういうわけかこの少年に興味を抱いてしまった瞬間。
名前を告げると礼は部屋から去っていく。めぐは追いかけない。代わりに、自分を見透かした少年を思い出す。
「礼くん……礼くん……ふふ、ふふふ」
どくんどくんと、めぐの心が何かに湧いていく。それは、彼女が16年生きていた中で初めて抱いた感情だった。
朝、水銀燈は規則正しく眼が覚める。いつものように鞄を開けて大きなあくびを一つすると、自分の契約者におはようと一言告げた。だが、その契約者はただうん、というだけで何か元気が無い。
どうしたものかと思い見てみれば、布団に包まって、まるでダンゴムシみたいになっている。
「どうしたのよ?」
そう水銀燈が聞けば、
「死にたい」
とだけ言う。昨日めぐに言ったこととは真逆な礼。それだけ、スイッチが入った礼は、輝かしくも恥ずかしい。
雛苺は子供である。それは見た目が、とかそういう風に作られた、とかそう言うことではない。ただ純粋無垢で、心が晴れた空以上に澄み渡っているのだ。
それがどうしたと聞かれれば、いつも通りであるとしか言いようがない。だが、ローゼンメイデンとは悠久の時を生きる人形。それだけに、様々な人間や文化と出会い、眠り、目覚めた頃には新たな出会いが待っているものだ。
文化は進み、前には最新であったものは古くなり。街並みは一気に変わっている。空を見上げれば、前の時代ではありえなかった、飛行機があたりまえのように飛び交う。
人にしても同じこと。少女達は眼が覚める頃には心身共に成長し、人形遊びはやめている。
雛苺は、いつも取り残される。成長はしない。できない。ただ時代に取り残され、孤独を味わう。
今、彼女が身を寄せている桜田家でも、きっと同じなのだろうと、幼いながらに思う。いつか自分たちは、次の時代に備えて眠る。あるいはアリスゲームで誰かが勝ち残り、次のステップへと進んでいく。
雛苺には、アリスゲームへの欲というものがない。ただ、ローゼンの愛情は欲しいが、かといってそれはローゼンのものでなくてもいい。彼女は、誰かの愛情が欲しいのだ。
でも、それだけではいけないと言うのは、幼い彼女にも分かってしまっていた。
人間は、いつまでもそのままではいられない。なら、自分たちが一緒に居られる方法はないのではないか。
ある種の焦燥感が、くんくん探偵の録画をリビングで眺める雛苺を襲っていた。
「ああくんくん!そいつは汚い泥棒猫なの!早く気づいて!ジュン!ちょっと!紅茶が温いわよ!」
「あぁ!?僕勉強してんだよ!自分で淹れろ自分でぇ!」
横では仲のいい真紅とジュンが、いつものように夫婦漫才を繰り広げている。
ジュンも、変わりつつある。数週間前から、学校に通おうと、そして勉強の遅れを取り戻そうともがいているのだから。
「……ヒナ、お部屋に戻るの」
その中から一人外れた雛苺は、部屋を出て大きな階段を登り、ジュンの部屋へと閉じこもった。ベッドの上に腰掛け、定まらない目でもって考える。
自分は成長できないのだろうか。人間と同じ時間を生きることはできないのか。
ジュンが使っている枕を抱きしめる。そして、思い切り匂いを嗅いだ。
身体中が震え、雛苺の顔が紅潮する。ブルブルと震え、意思とは関係なく身悶えする。
「は、あぁ……ジュン……」
不器用で、会話が苦手ながらも本当は優しい少年の顔を思い出す。
なんで自分は人形なんだろう。なんで、自分は子供のままなんだろう。なんで、こんなにも好きなジュンのドールが自分でないのだろう。どうして、自分たち人形は、人間と恋して、最期の時までいられないのだろう。
その考えは、もはや子供ではなかったが、それでも雛苺は子供なのだ。だから、悔しい。やりきれない。自分は真紅のように、ドールとしての生き様はできない。
「nのフィールドから失礼するゾ〜」
唐突に、ジュンのパソコンの液晶が光り出し、うさぎ頭の紳士が登場した。その光景に、人見知りな雛苺は驚いて離れる。
「あ、ちょっと待ってくださいよ(気さくなうさぎ)君が雛苺だね?」
デカくて汚いうさぎが尋ねると、雛苺は恐れながらも頷いた。
「雛苺さん、大人になるって、怖いですよね〜。でもな、誰でもそうなってんねん」
「うゆ……言ってる意味がわからないの。それに、誰なの?」
語録を多用すればそうなるのはあたりまえだよなぁ?
「雛苺くん、こんにちは。僕は、雛苺くんのお父さんのお友達の、ラプラスの魔」
「う、うゆ……こんにちは、なの」
某キモオタ店長のように挨拶するラプラスの魔とかいうキモオタうさぎ。
「あそうだ(唐突)、先輩にさ、もらった大人になる魔法が、あんのよ」
「え!?」
今さっきまで大人になりたがっていた雛苺は、言葉に食いつく。
「これなんだけどさ。大人になりたいでしょ?あげるよ〜(寛大な神)」
そう言って三章メンバーにやたらこだわるラプラスの魔が懐から取り出したのは、一本の青い薔薇。しかし、なぜか光っている。雛苺はそれを手にしようとするが、躊躇する。
「やめんな!何のためにここまで(自分が)きたと思ってんのや!ベストを尽くせば結果は出せる(至言)」
「う、うゆ、でも、知らない人から物をもらっちゃダメって、コリンヌが……」
思い出すのは、かなり前の契約者であるコリンヌ。
「大丈夫だって安心しろよ〜!もうさ、パパパっと貰って、終わり!って感じで……」
怪しい。めちゃくちゃ怪しい。でも、大人になれるという誘惑は、想像以上に大きかった。雛苺は、そっと、薔薇を受け取る。
「なんだ雛苺、やればできんじゃねぇかよ〜。じゃけん大人になりましょうね〜」
雛苺の手の中で光る薔薇。それは、何かとてつもない力を秘めていることくらい彼女でも分かった。それも、かなり危険な類だろう。それでも雛苺は、大人になりたい。人形ではなく、生きて、あの少年と寄り添いたい。いちゃラブしたい。噂に聞いた雪華綺晶や、水銀燈のように。
「あのさ、俺、そろそろバイトなんだよね」
「ばいとぉ?」
首を傾げる雛苺。うん、と肯定し、ラプラスの魔はまた液晶へと窮屈そうに戻っていく。
「じゃあ俺、ギャラもらって帰るから(棒読み)」
頭だけ画面から出し、そう告げるとラプラスの魔は消える。残された雛苺。彼女は不安そうに薔薇を見つめる。
「大人に……なれる……」
誰も、誘惑には敵わない。薔薇の輝きがより一層増す。
「あーもう、真紅のやつ……」
人形に散々こき使われた少年、ジュンは悪態を吐きつつ自室に向かう。リビングでは勉強に適さないどころか、働かされる。
せめてもう少し静かな場所で勉強しようと、扉を開けた……その時だった。
ジュンは、自分のベッドに腰掛けている少女を見て固まった。
ピンクのフリルがついたドレスに身を包み、髪はくるりとウェーブがかかった綺麗な金髪。瞳の色は緑で、まるで宝石のよう。年齢は、正確には分からないが、おそらくジュンよりも上だろう。
何より、ドレスを着ているのにも関わらず、ハッキリと目立つ胸……
そんな美少女が、ジュンの枕を抱えてニコニコしている。
「あの……」
声をかける。すると少女はハッと驚いた様子でジュンを見た。そして、花のような笑顔を彼に向けた。
「ジュン!」
「え、あの、誰」
「ジュン〜!」
枕を投げ捨てて駆け寄ってくる少女。ジュンは慌てふためいたが、それもつかの間、少女に抱きしめられた。ふんわりと香る少女特有の甘い匂い。そして、押し付けられる胸。まるでモナリザを初めて見た時の殺人犯並みにいきり立つ(意味深)
「ちょ!?」
「えへへ〜ジュン〜!ヒナ、大人になったの〜!これで結婚できるの!」
「はぁ!?ちょ、ヒナって……」
狂いそう……!(静かなる嫉妬)
「ない、ない!どこにもない!」
夜、人形店。槐が慌てふためきながら工房で何かを探している。それを薔薇水晶は心配そうな表情で眺めていた。どうやら槐が何かを無くしたらしい。
「騒がしいのぅ」
檻に入れられ手錠を掛けられた主途蘭が、自らの父の慌てようを見て苛立つが、槐はそんなもの無視して探し回る。
工房内はまるで泥棒にでも荒らされたかのごとく、散らかっている。
「クソ、クソ!あれは僕と薔薇水晶がいちゃつくために作ったんだぞ!クソ、どこだ!どこだ!」
探すのは光る青い薔薇。こうして槐は、間接的に新たな動乱を巻き起こしてしまうのであった。
あのさ、その薔薇俺にも一本くれませんかね?