「どうなってんだよ兄弟」
礼の見舞いに来た隆博が、困惑しながら俺に尋ねる。俺もその問答に答えられずにいた。いや、そんなこと言われても、俺もお前と同じ状況なんだよね……
隆博と蒼星石、そして俺と雪華綺晶を困惑させていた理由……それは、目の前で繰り広げられている甘々な光景だった。
礼が、水銀燈はもちろん、知らない病人服の少女にベタつかれている。
人形はともかく、人間ともイチャついてるってどういうことだよ、ちゃんと説明してくれよ(憤怒)
「ちょっと!なに礼の変なとこ触ってるのよ!」
「なーに水銀燈、嫉妬?うふふ、かわいい」
「はぁー!?なにそれ!嫉妬とか、全っ然してないんですけどぉー!」
ベッドに横たわる礼に添い寝しながら、黒髪の少女と水銀燈が絡み付いている。水銀燈はプンスカしながら、少女は余裕そうな表情を見せながら……なんだこれは(困惑)
礼は今にもブチギレ寸前で、必死に何かを耐えている。そんな礼が、こちらをギロリと睨む。やだこわい……やめてください……
「兄貴、助けろ」
「アイアンマン!(肯定)」
少女と人形を落ち着かせ、礼から引き剥がして数分。ベッドに横たわる礼を他所に、少女と俺たちは椅子に座り、お互い向かい合ってさながら面接のように自己紹介していた。
「柿崎めぐです」
「あ、河原 郁葉です」
「妻の雪華綺晶です」
さらっと膝の上に座る雪華綺晶がとんでもない事言っているが、間違ってないので何も触れない。めぐちゃんも笑ってるし、タカキも頑張ってるし!
「友人の、坂口 隆博です。こっちは、彼女の蒼星石です」
「もう、マスターったら……」
相変わらずアホなこと言う隆博に、まんざらでもなさそうな蒼星石。こいつらって何だかんだ仲良いんだよな。いつの間に仲を深めた(意味深)んですかね……?
めぐちゃんはくすりと笑い、
「うふふ、仲がいいんですね。私も、礼くんの彼女としてもっと彼のこと知らなくちゃ」
雪華綺晶以上にさらっとヤバいこと言い出すめぐちゃん。え、なにそれ聞いてないんですけど。いつの間に付き合う流れになったの?JKっぽい少女と付き合うとか羨ましいんですけど(激怒)
ピギュッ、と、雪華綺晶が胸倉を掴んでくる。
「(浮気は)ダメですわ、マスター」
「勘弁してくれよ……」
うちのかみさんは他の女にうつつを抜かすのを許してくれません。助けて。
だが、俺たち以上に困惑している奴がいる。それは、水銀燈だった。
「はぁーっ!?あんた何よ彼女って!聞いてないんですけど!?聞いてないんですけどぉー!?」
同じように礼の胸倉を掴んで揺さぶる水銀燈。さながら捨てられた哀れな女のようだ。
礼はそんな水銀燈を無理やり抱きかかえつつ、なんとか彼女を鎮める。意外にも、水銀燈はチョロい。怒っていても、礼が抱きしめてやれば落ち着く。赤ちゃんかな?
「めぐ、変なこと言うのはやめろ。誰もお前を彼女なんて言ってないぞ」
あからさまに不機嫌そうに言う礼。あれ本気で怒ってるやつだ、兄ちゃん分かるぞ。だがめぐちゃんはそんな礼相手にもマイペースに、
「うふふ、照れちゃって。昨日はあんなに熱い言葉をくれたのに」
「へぇっ!?」
なんだよ熱い言葉って(哲学)最近の中学生怖いな〜とづまりしとこ。
礼はもう怒る気力もないようだ。きっと、先程絡みつかれてたのも、あいつなりに抵抗したんだろう。だが、めぐちゃんのマイペースの前には敵わなかった、と……まぁ美少女二人に絡みつかれたらそらそうよ。俺も絡みつかれたいけどな〜。
「あら、なら私が絡み付いてあげますわ」
「雪華綺晶さん!?まずいですよ!」
唐突に蔦を召喚し、俺の体に絡みつく雪華綺晶。吐息が頬に当たり、淫夢之一太刀がイキリ立つ。いやぁ、スイマセーン(レ)兄貴生き返れ生き返れ……
隆博が横で羨ましそうに見ているが、公衆の面前ではそう言った欲望は抑えているようだ。
「蒼星石、帰ったらいい?」
「ちょっと……マスターのえっち」
「ヌッ!(萌え死に)」
もう蒼星石最高かわいい(ババババ)
真紅は、これまでにない危機に直面していた。目の前には、大人となった雛苺が自らのマスターである桜田ジュンを抱きしめて離さない。
くんんくん探偵の放送が終わり、ジュンの部屋へと来てみれば、慌てふためくジュンを見知らぬ女が抱きしめていた。愕然とした真紅だが、よく見てみれば、それは大人と化した雛苺のようで……なぜこんなことになっているのかと問えば、金髪ロリ巨乳の妹曰く、大人になってジュンと結婚して幸せになりたいと言いだしたのだ。当然、雛苺を下僕としていた真紅は拒否する。
「私の下僕が随分と大きく出たものね。どういう理屈でそうなってしまったかは知らないけれど、今すぐジュンを離しなさい」
色っぽくジュンに抱きつく雛苺は、首を横に振った。
「non! もうヒナは真紅の下僕じゃないわ。一人の大人、ジュンの恋人なのよ」
どこか口調すらも変わった雛苺。真紅は今にも怒りが噴き出て彼女らをまとめて襲ってしまいたい衝動に駆られた。なぜ自分でもそう考えてしまうのか分からない。でも、ジュンを取られるということが、ただ雛苺に謀反を起こされるよりも腹が立つ。
真紅はピンクの杖を召喚し、その先端を雛苺に向けた。
「言うことが聞けないのいうのね。ジュン、ジュン!ちょっとジュン!貴方も何か言ったらどうかしら?」
女性の色気の前になす術もなく惚けているジュンを叱咤する。その言葉にジュンは我に返り、
「ひ、雛苺!落ち着けって!こんなことして……うむっ!?」
ジュンの暴れる口を、雛苺の柔らかな桜色の唇が包む。数秒ジュンはジタバタと暴れたが、それもすぐに収まった。雛苺が唇を離した時には、ジュンは放心状態で心ここに在らずといった様子だった。
怒りを通り越して無になりかけた真紅だったが、聡明な彼女はその異変を見過ごさなかった。
何かがおかしい。まるで、あれは催眠のようだ。ただジュンが、童貞で女性に対する耐性が無いというだけではない。
「雛苺……そうまでしてジュンをものにしたいの?」
そうして力なく雛苺の胸に倒れこむジュンを、優しくカーペットに寝かせて雛苺は答える。
「恋はね、真紅。戦争なのよ。それも、血生臭い、醜い、それでも勝ちたいものなの。貴女にはわかる?結論を先延ばしにして、現状維持に努める貴女が……私を否定する権利があるの?」
どきりと、真紅の心が見透かされる。目の前の妹は、本気だ。本気でジュンを奪おうとしている。杖を握る拳に、より一層力が篭った。
「いいの、いいのよ真紅。貴女はそういう人形だものね。意地っ張りで強情で、自分を強く見せて、でも本当は寂しがり屋のお人形さん。そうやって事実から目をそらせばいいの。ヒナは、ちゃんと現実に向き合うの」
真紅は否定した。
「いいえ。私たちは結局、人形でしかないのだわ雛苺。いつか、人はお人形遊びをやめる。そうなれば、私たちは眠りにつく。アリスになるまで。大人になった貴女も、本質は変わらない。ジュンはいつか、本当の大人になる。その時に私達がいてしまっては、ジュンは本物になれないの。だから、雛苺。今なら無かったことにしてあげる。今すぐジュンを、離しなさい」
優しく、諭すように。先程までの怒りは、哀れみの同情として現れた。
雛苺は震えた。怒りに。そんなことは分かっている。だからこそ、自分はあの怪しいうさぎを利用してまで大人になったのだ。それに、それに。
それじゃあ、自分たちは永遠に報われないじゃないか。
「……もういい」
「雛苺……」
「真紅は敵だね。死んで、死んでよ!」
ヒステリックな少女の叫びが木霊する。それが決裂だということは、誰が見ても分かることだろう。だから真紅は構える。これはアリスゲームの基本から離れてしまっているが、それでも姉妹と戦うというルールからは逸れていない。
どうにかして、彼女を負かして正常にさせ、ジュンを取り戻す……それが今、自分に課せられた試練なのだと、思うほかなかった。
だが、二人の戦いは始まる前に水を差される。突如として、二人の間に水晶の剣が飛来し、突き刺さった。
驚いて窓の外を見てみれば、電柱の上に一人のドール……薔薇水晶が立ち、こちらを無機質な瞳が睨みつけていた。