sequence51 Guns of the Roses
「武装を増やそう」
主途蘭が強奪されて1日も経たずに、コンビニの喫煙所にて二人してタバコを吸っていたところ隆博が言ってきた。うーん、と若干渋るようなそぶりを見せつつも、その言葉の真意は理解していた。最近のアリスゲームは物騒なのだ。
指は飛ぶは槐はぶっちゃけアリスゲームと関係ないところでぶん殴られるでいつ俺たちも襲撃を受けるか分からない。
問題は、ここが日本であるという事。日本である以上刃物すら持ち歩けないのに、恐らく隆博が提案しているのは銃を調達しようというものだ。職質されようものなら銃刀法違反でしょっぴかれちまう。
「ルートはどうするんだよ。自衛隊にでも忍び込んでパクってくるか?」
「いや、お前もそうだが俺は89式が嫌いだ。使うならアメリカ製がいい」
なら尚更手に入らないだろう。飛行機代だってバカにならないし、どうやって持って帰って来ればいいんだ。だが隆博には名案があるようだった。
「俺たちにはローゼンメイデンがいるじゃないか」
あぁ、と俺は笑った。なるほど、nのフィールドを経由すれば飛行機代もいらないし、密輸だって楽々できる。盗みも、深夜に潜り込めば楽勝だろう。
二人で煙を吐き出しながら悪い笑みを浮かべる。もう、倫理やら常識は俺たちから離れてしまっているのだ。
河原家のテーブルに、無造作にドサリ。俺と礼、そして隆博は大きめのダッフルバックやガンケースを山のようにいくつも並べていく。中身はもちろん武器や装具。思い立ったが吉日という言葉があるように、考えはすぐに実行に移すべきだとの礼の助言のもと、俺たちはさっそくnのフィールドを経由してアメリカへと飛び立ったのだ。
行き先はバージニア州ダムネック……かの有名な特殊部隊であるDEVGRUの本部がある場所だ。俺たちは全身黒づくめのバラクラバというテロリストみたいな格好でドール達と武器庫や弾薬庫へと侵入し、数回に分けて見事武器弾薬や装備品一式をかっさらってきたのだ。
「Mk18にガイズリーハンドガードのHK416……おお、これOBRだ。ずっと欲しかったんだ」
目の前の銃器にミリオタ心が擽られる。いやぁ、素晴らしいな。やってることは犯罪どころか準テロだけど。
「見ろ、ハニーバジャーだぜ。やっぱりDEVGRUはMP7に代わる新型のPDWを採用してたんだ」
そう言って隆博が掲げるのは、AAC社製のライフル、ハニーバジャー。元々AAC社はサプレッサーの製造で有名なメーカーで、このハニーバジャーは射撃時の静音製が優れているというセールスポイントがある。また、使用する弾は従来の5.56mm弾ではなく.300ブラックアウトという強力でサプレッサーと相性の良い弾薬だ。
「おおすげぇ、ガスブロよりリアルだ」
そう言って俺はMk18のチャージングハンドルを引く。そりゃそうだ、だって実銃なんだから。
そんな、おもちゃを目の前にはしゃぐ少年のようになっているマスター二人をドール達と礼は眺める。
「あんたらも大変ね。そこそこ良い歳なのにあんなはしゃいでて」
ソファーの上に座る礼の上で寛ぐ水銀燈が言う。だが雪華綺晶はにっこりと笑い、
「それもマスターの可愛いところですわ」
「……あんたも大概だわ」
そんなやり取りを見て蒼星石は苦笑い。一方で礼はそんなやり取りを気にも留めずに手に入れた拳銃をただぼんやりと眺めていた。
拳銃のスライドには錨のマーク。そしてMk25と書かれたシールにQRコードが貼られている……刻印はP226。銃のフレーム先端付近にはX300Uと書かれたライトが取り付けられており、銃口には謎のネジ山とそれを保護するキャップ。彼の兄曰く、スレテッドマズルと言ってサプレッサーを取り付けられるらしい。ちなみにサプレッサーも奪取してきた。
「まぁ、いいか」
さほど興味は無い礼が拳銃をソファーの横に置く。何はともあれ、これで物資の調達は済んだ。あとは襲撃に備えるのみ。今の俺たちはそんじょそこらの警察よりも良いもん持ってる。
夜も完全に自己主張する頃合い。俺は自室にて、手に入れた装備の機能点検を実施していた。ミリオタなだけあって通常分解や使用法は分かるのだが、細かい分解法やその他整備に関する事についてはネットを見ながらやる。
Mk18と呼ばれるカービンのチャージングハンドルを引き、薬室を確認。異状なし。テイクダウンピンやら何やらを外したりして、銃にも対応している機械油を馴染ませていく。
「たのしそうですわね〜」
と、不意にベッドの上でうつ伏せになり頬杖をついた体勢の雪華綺晶が言った。声色で分かる。遊んでもらえなくて機嫌が悪い。
「銃にマスターを取られてヤキモチ妬いてるのかな?」
「あら、分かっていらっしゃるのなら結構ですわ。うふふ、あとでどんな事をして下さるのでしょうね〜」
ニコニコと悪い笑みを見せる雪華綺晶。この〜悪い子はお仕置きだど〜!
整備が終わり集めてきた銃器の数々を眺める。Mk18 mod1、HK416D、Larue OBR、Mk48 mod1、Tac-300、MP7A1……分配した後のライフルと機関銃類だけでこの数。ショットガンもM870のブリーチャーと呼ばれる短銃身モデルにフルサイズのM1014。ハンドガンはHk45にP226、それにグロックの17と19と22と23……それにSFAベースのM1911。
ありすぎて草生える。あとはM67破片手榴弾とM320グレネードランチャー。戦争でもすんのか?
「装備関係は元からサバゲーで使ってるのも併用できるな……あぁ、すげぇ置き場所ねぇよ」
弾もクレートや箱で複数持ってきている。5.56mmと7.62mmがそれぞれ3000発に.300WinMagが200発、拳銃弾が.45ACPが300発に9mmのFMJが500発、.40S&Wが500発、4.6mmが600発。もし日本の警察に完全に包囲されても、数時間は困らないだろう。
とにかく、俺は武器弾薬を棚やら何やらをふんだんに使って隠す。ほとんどあり得ないだろうが、事情を知らない奴らがこれを見れば通報待った無しだからだ。
こうして、大幅な無料アップデートは終了した。なお、盗まれた当人たちは大慌てだったらしいのことは俺達には知る由も無い。
それからというもの、大学が終わりバイトが無ければやる事は一つだった。隆博とnのフィールドへ行ってひたすら射撃訓練をする……まるでマジで軍人になったような気分だった。弾が足りなくなったら前のようにnのフィールドを経由して忍び込み盗む……そんな生活が、一週間ほど続く。
弾というのは意外にも早く使ってしまうもので、前に強奪した分は5日で消えてしまった。きっと、ていうか普通の軍人の何倍も撃っているわけだから上達しないわけがない。耳栓越しに鳴り響くけたたましい銃声を無視しながら、俺と隆博はひたすらに銃の腕を磨き、連携動作も練習したのだ。
「Moving!!!!!!」
「Covering!」
隆博が射撃してその間に移動。そして物陰に向かって射撃体勢を取り隆博を動かす。そんな訓練が続く。
「飽きないね、マスター達も」
「そろそろまた一緒にデートでもしたいのだけれど……」
「うーん、そうだねぇ……最近のマスターは取り憑かれたように銃を磨いてるし。僕もちょっと、銃に嫉妬しちゃうかな」
隆博が何かに取り憑かれているのは今に始まった事じゃないってそれ一番言われてるから。
ローゼンメイデンに会わなければ絶対に成し得なかった体験。毎日が充実していると言っても過言ではなかった。だが俺たちの遅れた青春は、さらに輝くことになる。
それから3日も経たない、平日の事だった。
大学の帰り道。電車を降り、駅から自宅までの道を徒歩で行く。右腰にはズボンの内側に隠すようにコンパクトサイズのグロック19を携帯している。左利きではあるが銃器の扱いに関しては右手に矯正してあるので問題ない。腰の右側には同じように予備弾倉が一つ。襲撃されても対処できるくらいの武装はしていた。
「もう〜そんなに怒らないでよ。今は少しでも戦闘力を増したい時期なんだからさ」
携帯の液晶越しに頬を膨らませてそっぽ向く雪華綺晶を宥める。
「そうやってご機嫌取りばっかり。最近のマスターは随分と鉄砲のお勉強に熱心ですわね」
「少しでも戦力になりたいんだよ」
「十分戦力になってますわ。というか、今までのアリスゲームでここまでマスターが戦力を蓄えた事があったと思います?ちょっとオーバーなくらいです」
まぁ普通のアリスゲームは俺たちみたいにマスターも一緒にどんぱちしねぇからなぁ。もう半分くらいスタンドバトルくらいにマスターも戦ってるよな。
そんな話をしながら数分、いつも通り森林公園のそばを通る。少子化の影響なのか娯楽が溢れ過ぎた影響なのか、午後3時も過ぎるというのに人っ子一人いない。森林公園はもはやただの雑木林と化していた。
「……雪華綺晶、スタンバイ。俺の部屋からMk18と予備弾薬持ってきてくれ。刻印が入ってるから分かると思う」
俺はそれだけ言うと了承も確認せずに携帯をポケットにしまう。
一気に身体に緊張が走る。理由は簡単、いつの間にか数人が後方から俺をツケているのだ。銃器は完全に秘匿しているから警察ではないだろう。ていうか、道路のミラー越しに確認してみたがどいつもこいつもガラが悪そうだ。
銃声は大きい。必要以上の注目を集めてしまうから使いたくはないが、相手の出方次第では使わざるをえないだろう。銃を持つと人は強くなった気分になる奴が多いらしいが、俺はあまりそうは思えなかった。むしろこちらの戦力の露呈等のデメリットの方が大きい。
「ちっ」
舌打ちしながらタバコに火を付ける。そのまま歩きつつ、俺は森林公園へと入って行く。それに奴らも付いてくる。始末するなら森の中でやろう。死体の処理はnのフィールドにでも投げ捨ててしまえばいい。
奴らとの距離は30メートルほど。俺が森に入ると少しだけ歩調を早めたようだった。それに合わせて、俺は一気に駆け出す。
「追え!」
追跡者の一人が叫んだ。一斉に男達が追ってくる。一体何なんだろうか。
いくら帰宅部とはいえ、ここ最近はトレーニングばかりで体力は衰えていない。薄っぺらの教科書が入ったリュックを背負っていても、奴らに追いつかれる心配はなかった。走りながら、俺は耳栓をして腰に隠していたグロックを抜く。
グロック19第四世代。有名なオーストリア製の自動拳銃であるグロック17のコンパクトモデルであり、銃身長と全高が若干短い。そのせいで装弾数が15発+1発と少なくなっているが、コンパクトなので隠しやすい。使用する弾薬は9mmパラベラム弾であり、特殊部隊が使っていたせいなのか弾頭はホローポイント。ホローポイントとは弾頭の先端に穴が空いており、弾頭が人体に命中するとマッシュルーミングという現象が起きて広がり、人体組織に大きなダメージを与える。
何かで読んだが、FBIによればボディーアーマーを着ていないソフトターゲットに対しては強力だが装弾数の少ない.45口径よりも、ホローポイントによって安定したダメージと多い装弾数を兼ね備えた9mm弾の方が効果的らしい。
「Chamber clear」
スライドをフルで引き装填、そしてもう一度半分ほど引いて薬室を確かめる。完全装填、いつでも撃てる状態だ。グロックには手動の安全装置が無いため、後は引き金を引けばそのまま撃てる。
俺は適度に森の中へと進むと、後方を確認した。まだついてきてる。
ちょうどすぐそばに小屋があるので、一度その裏に隠れて拳銃を構えつつ、奴らの動向をうかがった。
「隠れたぞ!」
数は5人。まずは散らばらせる。俺は最小限身体と銃を出し、先頭の一人を狙う。体格の良い、ガッチリした男だった。ホモビ男優になれそう。
慎重に引き金を二回連続で引く。ドンドンッと重い音とキレのある反動が響く。音速を超えた弾丸は1発は外れ、もう1発は先頭の男の右大腿部に直撃した。おそらく当たったのは初弾だろう。
「アッ!」
転がるように先頭の男が倒れる。これでアイツは動けないだろう。
「うわ!銃持ってやがる!」
「散らばれ!こっちも反撃だ!」
そう言うと奴らは散らばりつつも懐から拳銃を取り出す。え、マジで?アドバンテージ速攻消えたんだけど。俺のチート主人公への道のりは泥臭い銃撃戦に消えそうですね……
「マジかよ」
俺はまた小屋に隠れると、小屋を背にして一気に走る。この公園は広い上に高低差があるから身を隠すにはいいだろう。
しかし参ったぞ。いくら最近やたらと訓練しているとはいえ拳銃一挺で相手にする羽目になるとは。しかも、こうなると初めて人を殺すことになるかもしれない。
まぁ、今更殺すことに抵抗はないが。
嫌な予感というものは、人によって様々な感じ方があると思う。虫の知らせとも言えるこの感覚は、僕にとっては爪がうずく、という奇妙な現象によって表れる。
授業を早々に終わらせて僕は自宅にてコーヒーを飲んでいた。今度はちゃんとコーヒーだ、カフェオレではない。居候である真紅はくんくん探偵とかいう人形劇にご執心で、僕がいようがいまいが関係無く興奮している。
「違うわくんくん、そいつじゃないの!騙されないで!」
卓袱台から身を乗り出して応援する真紅。僕はそんな淑女の嗜みを微笑みながら眺めつつ、左手の薬指を掲げた。
紅い、薔薇の装飾が施された指輪。契約の証。僕は、真紅と契約した。ローゼンメイデンというのは人間と契約しないとエネルギーを補給できないらしい。前の契約者とは……解消したようだった。深くは聞けなかったが。
「今日は、良い味だ」
コーヒーを一口含む。良い味。そう、良い味なんだろう。死んでから味覚までも失った僕にとっては最早分からないが。
そんな、少しだけ色が付いたありふれた日常。それを楽しむ。その時だった。
「むっ……」
爪が疼いた。ぐぐぐっと、むず痒いような、そんな感覚。大抵は良く無いことが起きる。死んでから得た、ある種野生の勘に近いものだ。爪がポイントなのは、猫だからだろうか。
怪異としての自分の感が、出掛けろと言っている。僕は椅子から立ち上がり、玄関へと向かう。
「少し出てくる。ついでに夕飯も買ってくるけど、何が良い?」
真紅に尋ねる。
「そこよ!くんくん!やっつけて!」
聞いていない。まぁ何か適当なものを買ってくれば良いだろう。
「クソ!撃ち返せ!」
パンパン、と複数の銃声が森に響く。どれも俺が撃ったものではない。相手が無造作にこちらに撃っている発砲音だ。
俺は全力でダッシュして大きめの木に隠れる。そしてやつらに向かって2発発砲した。
「ああ!撃たれた!あああああ」
20メートルはあったが、男の下腹部に命中した。激動後にあれだけ離れた敵に命中させられたのは、訓練の成果だろう。近くにいた奴の仲間が手当てしようとしているが、ろくな治療器具を持っていない奴らには意味がないだろう。精々止血ができるか否か。
「多いんだよクソ」
悪態をつきながら俺は向かってくるもう一人を狙う。そしてまた引き金を引く。
「うおっ!?ヤバイ隠れろ!」
そう言って高低差を利用して敵が隠れる。同時に、グロックのスライドが後退したままで止まった。薬室を見てみれば弾は見えない。弾切れだ。
すぐに身を隠し、左腰のポーチから弾倉を取り出す。古い弾倉と交換すると、スライドストップを押し下げた。カチャン!と、スライドが前進して新しい弾が装填された。
「このクソガキ!」
不意に真横から罵声が響いた。条件反射的に真後ろに跳びつつ銃を構える。倒れこみながら着地し、こちらを狙う男に銃を向けた。
刹那、相手が発砲。俺の左太腿を銃弾が掠めた。
「ッ!」
アドレナリンがドバーッ!と放出されているせいで痛みは感じない。それにこの程度なら数分で治る。それよりも、反撃だ。俺はダブルタップで応戦した。
パンパンッ!と2発撃ち込むと両方とも胸に直撃。男は苦しそうにしゃがみこみ、頭へと撃ち込むと動かなくなった。
初めての殺しだった。でも、なんとも思わなかった。ただの敵。知らない人間で、こっちを襲ってきたから殺り返したのだ。だから死んだ。ざまあない、自業自得だ。
「捕まえたぞ!」
と、いつのまにか男が倒れている俺の目の前にいた。すぐに狙うが、銃を持った手が蹴られてグロックが転がる。
「この野郎!」
男にマウントを取られる。手には拳銃。意外にも俺は極めて冷静に対処しようとしていた。男は拳銃を頭に押し付けてきたので、すぐさまディスアーム、つまりは拳銃を奪う。こういう時、下手に銃を突きつけられた方が奪いやすいのだ。
「あっ!この!」
すぐさま奪った拳銃の先端で男の顔を殴る。怯んだ隙にスライドを引いて確実に手動で装填、装填されている弾丸を全て撃ち込んだ。
「おっ、おガッ」
胸と腹を撃たれた男は吐血する。俺は男を押し倒して離れると、落としたグロックを拾い上げようとした。
「させるかよ!」
刹那、発砲音。手に衝撃が走る。撃たれたのだ。
「ぐあっ!」
思わず倒れる。それでも手を伸ばしてグロックを掴もうとするが、やって来た二人に銃を蹴られて阻まれた。
「おらぁ!」
視界が揺れる。頭を蹴られたようだった。踏んだり蹴ったりとはこのことだろう、二人の男が寄ってたかって俺を蹴り続けた。必死に防御するが痛いもんは痛い。
「あた!あたたた!痛いって!痛いんだよぉ!」
思わずひでと化すが、蹴りは止まない。そのうち男たちは疲れて来たのか、蹴りを止めた。
「クソ、こいつタフだな」
「手こずらせやがって……まあいい。我らの恋路を邪魔する者には死んでもらうまでだ」
指揮官であろう男がそう言うと、拳銃をこちらに向けた。トカレフだ、あれで撃たれればさすがに死ぬ。
バレないように俺は腰のナイフを取り出そうとする……こいつらは銃に関しては素人みたいだから、撃つ寸前に必ず隙が生まれる。それを狙う。
「死ねよ!」
男の指に力が篭る。今だ!
にゃああああああああああああお。
猫の声が、不気味なほどに響いた。その不気味さに、男達も俺も動きが止まる。
辺りを見渡しても猫などいない。そのうち興味が失せたのか、男達は再度俺を殺そうとする……が。
俺には見えていた。男達の後ろに潜む、大きな、それはそれは大きな猫が。
一閃。まさしくその言葉が合う。猫が振るった腕が、俺を殺そうとしていた男の頭部を両断した。ゴロンと横に転がってくる頭部。相方の男は混乱し絶叫した。
「うわ!うわあああなんだこの猫ぉおお!!!!!!」
完全に猫に気を取られた男。俺はナイフを抜き、一気に立ち上がると脇腹を突き刺した。
「てめぇも死ねクソ野郎!」
脇には血管が通っている。刺された上に抉られた脇から血が吹き出る。俺はそのままナイフを抜き、首に突き刺して掻き切った。
倒れる男を見もせず、俺は飛び込むようにグロックを回収する。もちろん突然現れた化け猫に対処するためだ。
「動くな猫野郎!」
言葉が通じるか分からないが、怒鳴るように命じる。猫はフリーズしたようにじっとこちらを見ている。一体なんなのだろうか。
「……」
奇妙な沈黙が場を支配する。すると、最初に行動に出たのは猫の方だった。
「……人ながらに、君はもう人の道から外れてしまったようだね」
猫が喋った。いくらローゼンメイデンという不可思議を見慣れているとはいえ、さすがに驚く。俺が猫相手にどうしていいか分からず困惑していると、猫に変化が起きる。
影が、猫を覆ったのだ。それも全身に。影は形を持っているかのように蠢き、気がつけば人の形へと変貌した。
「やべえよやべえよ……」
思わず語録が飛び出る。俺逃げた方がいいのかなこれ。ていうか雪華綺晶、ま〜だ時間かかりそうですかね?
次第に影が消えていく。そうして現れたのは。
「なんだお前(素)」
金髪の美人が、そこにいた。いや、美少年?んにゃぴ、ちょっとよく分からなかったです。
「私が誰かなんて、必要な事かな?」
「は?(威圧)」
まるで継続高校のえっちなリーダーみたいな事をいう美人に、思わず本音が出る。
「それよりも、そろそろ銃を降ろしてくれないかな」
「猫に変身するような奴を前に安心はできねぇからな」
「助けたのにかい?まぁいいさ……ふふ、いいね。その警戒心。変わらない」
「なに?」
俺を知っているのだろうか。そう聞こうとした時。
「マスター!無事ですか!?」
上空から雪華綺晶が飛んできた。それもライフルと、弾が入った小さいポシェットをぶら下げて。俺はその、わずかな一瞬に気を取られる。奴にはそれで十分だった。
ふわり。風に乗るように。美人は寄ってきて。
「ファッ!?」
俺に抱き着いた。
「なぁああああにやってんだぁああああああァアアアア!!!!!!」
その、どこぞの馬の骨か分からない奴が抱き着いたのを見た雪華綺晶は叫ぶ。まるで団長が遊撃隊長に喝を入れるように。ていうかその声はヤバイ、マジで出しちゃいけないと思う。
びっくりしつつも俺は美人を引き離そうとする。が、ビクともしない。すげえ力だ……異形の身なら仕方ないかもしれないが。
「……少しだけ、少しだけなら。良いよね」
奴が俺の胸に顔を埋める。うーむ、やっぱり怪異っぽいとはいえ美人に抱きつかれるのは良いもんだ。雪 華 綺 晶 の 前 で なければだが。
ああヤバイ、すげえ顔してるよ。俺被害者だから。
「死ねィ!」
まるで吸血鬼が宿命の相手に目潰しした挙句蹴りを入れるみたいな言い方で雪華綺晶は攻撃を放つ。しかも俺のライフルで。
「おおおおお危ねぇえ!やめてくれぇ!!!!!!」
俺達の周りを銃弾が掠める。死なば諸共ってレベルじゃない。っと、ここでようやく美人が離れた。そして血相を変えて自らを殺そうとしている雪華綺晶を、羨ましそうな目で見つめる。
「君の隣にはもう、いるんだね」
それだけ言うと、美人はまた猫に変貌してとんでもない速度で逃げていく。いったい何だったのだろうか。あいつは俺を知っているようだった。
「ねぇ、マスター」
「ヒェッ」
不意に、耳元に囁かれる。
「私、頑張ったのよ。重い鉄砲と弾を持って、必死に運んできたの。そしたらね。大切なマスターは、化け猫男女と抱きしめ合ってたの。ねぇマスター、どう思います?」
「雪華綺晶さんは健気で可愛いと思います」
「うふふ。でしょう?なら、ね?わかってるわよね。自分がどうなるのか」
「あああああああもうやだあああああああ!!!!!!」
銃撃戦よりももっと過酷な雪華綺晶のお仕置きが、俺を待っていた。
今年初めて見たものは雪華綺晶でした