俺が襲われたという事で、急遽槐の店において作戦会議が行われる事となった。メンバーは友好的なドールズ達とそのマスター諸君。俺、隆博、礼、琉希ちゃん、ジュンくん、そしてローゼンメイデンではないが槐だ。
槐が店の扉に掛けられたOPENの札を裏返す。役者が全て揃ったところで俺は持ってきたダッフルバッグを机の上に置いた。
「さて、マスター諸君。話はもう聞いてると思うが……一昨日襲撃に遭った」
ちなみにこの話はもう既にドール達を通じてマスター達に知られている。ふと隆博は手を挙げた。
「敵の規模と練度は?」
「大人が5人。統率は取れていなかった。銃の訓練もしてないだろうな、寄せ集めのヤクザ連中だ」
ふーん、と納得する隆博とは対照的に琉希ちゃんは訝しむような目線をこちらに向けた。
「彼らをどうしたのです?」
「全員処刑した。尋問もしたが、洗脳されてたみたいだから有用な情報は引き出せなかったよ」
さも当然と俺が言うと、琉希ちゃんとジュンくん、槐、そして彼らのドールズの顔が青褪める。俺もそうだが、一応全員一般人だ。人を殺すだとかそういう事に慣れていないのは当たり前の話だ。
「死体はどう処理した?」
「nのフィールドを経由して海外に。足はつかないだろう」
礼の質問に答える。こいつの質問はかなり現実的なものばかりだ。まぁそこが兄としては助かるのだが。いちいち殺しを非難されては困る。
しばらく沈黙が流れる。そして口を開いたのは、礼の傍で毛先を弄る水銀燈だった。彼女は特有の猫撫で声でもって質問した。
「ねぇ。その襲ってきた人間たち……何か言ってなかったかしら?」
いきなりそんな事を尋ねられたので少しばかり考えてから答えた。
「なんだっけな。我らの恋路だとかなんとか言ってたな。恐らく洗脳した奴の意思が反映されたんだろう。なんかわかるか?」
水銀燈は何かを感じ取ったのか遊ぶ手を止める。しかしどういうわけか目を閉じて答えない。ただ、なんでもないわ、とだけ言ってまた毛先を弄り出した。俺も深くは追求しない。それが本題ではないからな。
その時だった。琉希ちゃんが口を開いた。何か理解しがたいものを見ているような、そんな顔だった。
「あなたは、何も感じないのですか?」
それが殺しに対する葛藤だとかそういうことに対してであることは容易に想像できた。俺は少しだけ深く呼吸し、自信を持って答える。
「ああ。敵は敵だ、だから殺した」
「それが、洗脳された者たちであっても?」
「敵になれば誰でも殺す。君も、元々アリスゲームに対して意欲的だっただろう、今更そんなことを言うのか?」
そう言うと琉希ちゃんは黙る。その顔は納得できないと言った表情だった。
「やっぱりお前はイかれてるです、人間」
「ああ。そうだな、イかれてんな」
翠星石の言葉に同意した。きゅっと、不意に雪華綺晶が俺の指を握る。優しく、俺は握り返すことによって彼女に意思を示した。
俺は、後悔なんてしていない。自らの意思で彼女をアリスにしたいと思ったし、そのためならいかなる犠牲をも厭わない。そう決めたのだ。
だからこそ、同志になる素質があるあの子に聴きたい。
「ジュンくん、君は自分の家族や雛苺が危険な目にあったらどうする?」
「え、それは」
狼狽えるジュンくん。
「君の手には銃がある。相手にも銃がある。相手は雛苺を、のりちゃんを殺そうとしている。助けられるのは君だけ。そうなったらどうする?」
しばらく彼は黙った。その傍らには雛苺が、彼を心配そうな目で見上げている。ジュンくんは微笑んで雛苺の頭を撫でた。
「殺すと思う。僕は、雛苺を守るためならもう躊躇わない」
嬉しそうに、礼の口角が一瞬上がった。俺も同じ気持ちだよ兄弟。そうか、とだけ言って俺は頷く。それでいい。それでこそミーディアムだ。
俺はテーブルに置いたボストンバッグを開けると中身を取り出す。無造作に置いた中身、それはもちろん小型の銃器の数々だった。
「よく聞いてくれ。未知の敵が俺たちを目の敵にしてる。今回の襲撃はほんの序章だろうな。だからこそ備えなくてはならない。ここにある銃は本物だ、上手く使えば自分と大切な者達を守る剣になるんだ。俺と礼、そして隆博はもう使え切れないくらいに所持してる。俺がもってきたのはジュンくん、琉希ちゃん、そして……まぁ必要なら槐も持っていけ。君達のためのものだ」
息を飲む3人に、だが、と俺は付け加える。
「忘れるな。今回の件が終われば敵になるかもしれない。その時こそ、しっかりとしたアリスゲームが始まるんだ。そうなればもう容赦はしない。今回の襲撃以上の事を俺はやるぞ」
睨みつけるように言う。隆博はニヤニヤと笑い、礼は今更何を、と言った表情で俺の話を聞いていた。対照的に三人は困惑した表情でそれを聞く。
真っ先に動いたのはなんとジュンくんだった。彼は拳銃を拾い上げるとそれをマジマジと見る。なるほど、センスがいい。聞けば彼は服のデザインなんかも得意らしい……最近では槐に弟子入りもして、雛苺の腕を直すのに専念しているらしいし。
「ああ……キンバーか。素晴らしい」
隆博は感嘆を漏らす。キンバー。それ自体はメーカーの名前だ。ジュンくんが手にした銃は、古き良きM1911のカスタムモデル。それもかなり手の込んだカスタムが施されており、アメリカで買おうとすれば一挺3000ドルはくだらないだろう。
前後にチェッカーの入ったフルサイズのスライドにダグラスカットのレールドフレーム、サイトは実戦向けの10−8サイト、ハンマーはエッグホールタイプで指がかけやすく、ビーバーテイルは美しくもハンマーバイトされない形状と大きさ、トリガーはロングタイプのステンレス製で引きしろを調整できる。更にバレルはBARSTOのステンレスタイプで、一番実戦向きだろう。リコイルスプリングガイドはロッドタイプのフルレングスではなく、旧来のものだ。銃口下を机などの角に押し当てることによりスライドを動かして装填できるようになっている……ブローニングの考えだ。また弾倉が入れやすいようにハウジング一体型のマグウェル……ああ、素晴らしい、ヴィッカーズタイプの側面が削られているタイプだ。グリップパネルもキンバーの刻印入りの木製、しかも黒塗り。スネークマッチなんかよりもよっぽど戦闘向きだ。
「なんだかよく分からないけど……すごいってことはよく分かるよ。使い方、教えてくれませんか?」
「後でおしえてあげるよ」
ジュンくんにも素晴らしさが伝わったようだ。中学生の身体に.45口径はキツイだろうが、頑張るしかないよ。
「……これ、もらいます」
少し元気が無さげな琉希ちゃんが手にしたのはグロック19とSIG MPX。小柄な彼女には9mm口径は扱いやすいだろう。
「僕ぶっちゃけいらないけど……せっかくだし、このリボルバーを選ぶぜ!」
まるで伝説のクソゲーの主人公のように言って槐はリボルバー、キングコブラを手にする。元々隆博に見せびらかすために持ってきたが、まあいいや。ていうかリボルバーってまた渋いの選ぶなぁ。実用的じゃないから絶対に使わないわ。弾の問題以外でほとんどジャムらないけど。
「なら……いいな。各人、弾も持って行ってくれ。これから一人になる時はなるべく銃は携帯してくれ。もし警察に厄介になりそうだったらドールに助けてもらえ」
会議と武器の密輸は幕を閉じる。さて、敵はどう動くか。きっと今日の行動も見られているはずだ。