ローゼンメイデン プロジェクト・アリス   作:Ciels

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ホモルート


sequence56 乙女心マイノリティ

 

 

 決意する、という事自体は言うが易し。しかし行うとなればそれ相応に心を充実させなければならない。今年は5キロ痩せよう!と言っていても、その決意の質が良くなければ無為になることは目に見えているからだ。それはスマートフォンやパソコンという便利な技術が進歩した今でも変わらない。人間は根本的な所で努力を強いられる。

 賢太はどうだろう。同性愛という日本ではマイノリティである性を自覚し、それでもなお告白するという行動には、どれほどの決意がいるのだろうか。それも親友相手に。きっと想像もつかないような、とてつもない決意がいるのだろう。失敗すればその友情が消え去る可能性は高い。

 すべてを出し切った。出し切って、失敗した。それ以上に彼は自分の帰属すべき社会にいられなくなった。陰口はもちろんのこと、行動にも移された。だから彼は死んでしまったのだろう。もうこの世界に意味は無いと確信し、決意して。

 決意にはネガティブな意思も含まれるに違いない。死ぬという動物的にも人間的にも行動原理からも反している行動を実行に移すというのは、容易ではないことは想像に難くない。

 死は始まり?否、終わりである。すべてを捨て死んだ者には何も残らない。他人が勝手に何かを言えば訂正するのもまた他人。そこに真実は無い。自己は捻じ曲げられ、残るは偽物のIFである自分。本来の自分は消し去られてしまい、そのうち数年もすれば偽物の自分ですら忘れ去られる。所謂、二度目の死である。

 自ら死を選ぶ者は、二度も死ぬ事を選ぶことになる。もちろんその名の通り聡明な賢太はそのことについても了承した上で死んだ。まるでキリストの如く復活し、理想の自分と化け物じみた力を手に入れたが。

 そんな人生において十分すぎるほど決意してきた彼が、今回新たな決意という壁にぶち当たっていた。河原 郁葉という名の性癖が拗れに拗れた壁である。

 

「……」

 

 リビングで椅子に座り、冷め切ったコーヒーを目の前に彼は黙り込む。ずっと、かれこれ数時間はこうしている。その表情は暗い。真紅はソファに座って自前の本を読みながら、そんな仮の契約者をチラチラと見る。何かウジウジと考えている彼を見て自分と重なったのだろう。段々と時間が経つにつれてイライラが増すのだ。

 

「……何か悩んでいるようね、賢太」

 

 とうとう真紅が声をかけた。賢太はうん、と曖昧に答える。真紅はため息混じりに本を閉じ、賢太の対面の椅子に移動した。座高が足りないので自前の本とクッションを尻に敷いて。

 

「また恋の病かしら?」

 

「……そうだね」

 

「この真紅に話してみなさいな。少しは悩みも晴れるかもしれないわ」

 

 賢太はまた黙り込んで俯く。

 

「……あのね、さっきからウジウジウジウジと、一緒にいるこっちの身にもなったらどう?堪ったものではないのだわ」

 

「それは……すまないね」

 

 またため息をつく。そうではない。謝って欲しいのでは無いのだ。

 

「言い方を変えましょう。賢太、私も貴方と同じように恋に悩んだ身よ。そんな私なら、少しは貴方の助けになるのではなくて?」

 

 極めて親切に言った。賢太はそんな真紅相手に少しばかりの微笑みを見せる。

 

「君もそんな風に言えるんだね」

 

「大きなお世話なのだわ。さぁ、言ってごらんなさい」

 

 賢太は悩む。悩んで、今の真紅になら話してもいいかと小さく決意した。

 

「僕が好きな人を、この前見たんだ」

 

「ふむふむ。そう言えばちょっと前にも同じようなことを言っていたわね」

 

 賢太は頷く。

 

「その彼が……恋人と一緒にいたんだ」

 

「それは……気の毒に」

 

 真紅にも賢太の気持ちが痛いほど分かる。自分の愛する契約者が、気がつけば雛苺に盗られていたのだから。

 

「それで……まぁ、すごく仲がよさそうでね。見た目もすごく綺麗で、きっと外国人なんだろうけど……キス、してて」

 

「ほぉ、キス」

 

 真紅も乙女だ。乙女で恋話を嫌いな者はいないように、真紅もこの手の話にはノリノリだ。

 

「それを見て……その……あの子じゃなくて僕がその立場だったらなんて考えて……そんな考え事してたら、すごくいたたまれなくなって」

 

「自己嫌悪ね。分かるわその気持ち」

 

 うんうん、と頷く真紅。だが、ここで彼女は疑問を抱く。

 

「ちょっといいかしら。貴方、好きな人を彼、と言っていたと思うのだけれど……私の聞き間違いかしら」

 

 そんな質問に賢太は呆けたような表情になる。

 

「言ってなかったかな。僕は同性愛者だ……彼以外好きになったことはないがね」

 

「ああ、マイノリティってそう言う……まぁいいのだわ。恋は恋よ」

 

 真紅はあっさりと彼を受け入れる。思わず賢太は驚いたが、今更真紅がそんな事に嫌悪を示すような人形でも無いと理解する。

 

「僕はどうすればいいんだろう。彼には恋人がいて、僕は男で……」

 

「あら、簡単な事じゃない」

 

「え?」

 

 思わず声が出た。

 

「貴方のその姿、少なくとも私から見ても綺麗よ。それこそテレビに映る女優なんて目じゃないくらいにね」

 

「まぁ、自信はあるけど……」

 

「恋とは略奪よ賢太。最後に選ばれた者こそ愛を受け取れるのよ!そう、まるでくんくん第3期のラビラビ王女のように!」

 

 なにかのスイッチが入った真紅。

 

「それ、君が言えた事かい?」

 

 賢太の火の玉ストレートを受けて固まる真紅。冷静になり、話を戻す。

 

「まぁとにかく。今の貴方は姿も性格も元とは違うのでしょう?ならチャンスはあるのだわ。少しずつでもいいからアピールするの。そうすれば、相手も意識せざるを得なくなる」

 

「でも僕は男だ」

 

「それが何?西壁なんてちょっとしたキッカケがあれば変わるものよ」

 

「そうかなぁ?」

 

 訝しむ賢太。真紅はなおも力説する。

 

「そうなのだわ!こうなったらやるわよ賢太。この真紅が恋のキューピットになってあげるから感謝なさい」

 

「え、もうやる事前提なの?」

 

 なんとも雑な展開。だが真紅はやる気満々だ。賢太も成功するなんて思ってはいないが、やるだけやってみようという気概でその話に乗る事にした。

 決意とは、時に誰かを頼る事で和らぐ事を青年は知らなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 賢太と真紅は猫と人形というよくわからない組み合わせで夜の街を偵察する。屋根伝いで目的の彼の家付近まで来れば、例の家から明かりが漏れているのが見えた。

 

「あそこが彼の家だ」

 

 通常の黒猫に擬態した賢太が言う。真紅は双眼鏡を取り出して、明かりの灯った窓を観察する。丁度夕飯も終わり、彼は自室に戻ったようだった。二階の部屋の電気がつく。

 

「彼の……部屋だ」

 

 懐かしむような声色で言う賢太。幸いにもカーテンは閉められておらず、中が丸見えだ。それどころか網戸だから声まで聞こえる。

 

「も〜お腹いっぱいだ……」

 

 白い半袖のパーカーに茶髪……そして切れ長の目。真紅はあの人間をどこかで見たことがあった。と、その青年の後ろから追従するように見知った人物が入ってくる。

 

「もう、いくら好物だからって食べ過ぎですわ」

 

「だってお肉好きなんだもん〜」

 

 雪華綺晶だった。真紅は絶句する。まさか知り合いだったとは。賢太を見れば、仲が良さそうな二人を見て悲しそうな顔をしている。だが、真紅には気になることがあった。雪華綺晶、デカくね?という疑問だ。

 

「じゃあマスター……食後の運動、します?」

 

 色っぽく言う雪華綺晶。対して青年は野獣のような眼光で彼女の身体を舐めるように見回す。

 

「スケベェ……(レ)」

 

「うふふ、そういう素直な所、好きですよ」

 

 服を脱ぎ出す二人。賢太はいてもたってもいられなくなってその場を後にした。真紅も彼を追う。

 しばらく走って、二人は家へと帰還する。人間に戻った賢太はまた椅子に座って最終回間際のシンジくんみたいに塞ぎ込む。

 

「あれじゃあ敵わない」

 

 透き通る肌にゆるふわウェーブのツインテール。そしてあのパーフェクトボディ。あれに落ちないノンケはいない。しかし真紅はそんなに悲観はしていなかった。なぜなら、愛しの彼の恋人の正体を知っていたからだ。

 

「賢太、安心しなさい。あの女は貴方が思っているような女ではないわ」

 

 くすくすと笑いながら賢太の対面に座る。

 

「どういうことだい?」

 

 涙目で疑問を浮かべる賢太にネタバラシする。

 

「あの子はローゼンメイデン第7ドール、雪華綺晶。私の妹よ」

 

 えっ、と声を上げる賢太。

 

「で、でも、それにしては大きかった!君のように人形には見えなかったぞ!」

 

「あぁ、それはね……そういう、人形を大きくする魔法のような道具があるのよ」

 

 雛苺の姿を思い出す。確か河原 郁葉とその仲間たちはあの薔薇を回収するために雛苺と戦っていたはずだ。ならば河原 郁葉があの薔薇を持っていてもおかしくはない。もしかしたら量産されたのかも。

 

「あの子は人形。でも貴方は?人間ではないかもしれないけれど、少なくとも作り物じゃないはずだわ。それならチャンスはある。まぁ、あのマスターとドールは相当ラブラブだから苦労はするかもしれないけれど」

 

 それを聞いて賢太の心に一筋の光が差す。まだ、チャンスはあるのだと。

 

「僕……僕、やってみるよ。男で化け物だけど、郁葉を落としてみせるよ!」

 

 最初のミステリアスさはどこへやら。今の賢太は少し幼い少年くらいにしか思えない。そんな姿に真紅は自身の愛する人を重ねる。重ねて、無意味だと悟ってやめた。

 

「それがいいのだわ。大丈夫、バックアップはしてみせる。このローゼンメイデン第5ドール真紅が、貴方の恋路を導いてみせるのだわ」

 

 賢太の恋は終わらない。むしろ、ここから始まったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏休みも終わり、大学が始まる。雪華綺晶に起こしてもらって朝飯を食べ、愛妻弁当を貰ってウキウキしながら満員電車に揺られて弁当もシェイクされ後ろから押してきたおっさんにブチギレて声をあげながら大学へと通い、眠気と戦いながら講義を受けて昼飯を仲のいい奴らと食い、また眠気に苛まれながら講義を受ける。それが終わればまた満員電車に揺られてキレそうになりながら耐える……いつもと変わらない毎日。

 だが、今日は少し変わったことがあった。毎回俺は乗る車両と位置が一緒なのだが、今日は目の前に美人がいた。帽子のせいで顔ははっきり見えない。

 染めてるのだろうが金髪にショートカットで、きめ細やかな肌はローゼンメイデンに負けておらず、スレンダー。まぁ俺は貧乳だろうが巨乳だろうが好きだから差別はしないので役得だった。スニーカーにデニム生地のホットパンツ、黒いタンクトップにオリーブドラブのジャケット、そして黒い野球帽……と思いきや、GLOCKと書いてある。おまけに時計はG-shockときた。リュックはTANカラーのミステリーランチのスーパースリック。この子ミリオタじゃないか。こんだけ美人でミリオタとか、サバゲー来たらオタサーの姫と化すんだろうなぁ。

 まぁ俺には雪華綺晶がいるから関係ない。きっとこの子も初めて見たからたまたま乗っただけだろう。そう考えて俺は携帯でも見ながら時間を潰す。しばらくそうしていると、なんだか目の前の少女がチラチラと俺の方を見てきた。

 

「……?」

 

 なんだ?俺痴漢か何かと間違われてるのか?こんな面白い顔してる人が悪いことできるわけないじゃないですか!(自虐)仮に痴漢と間違われたら困るから携帯をいじるついでに両手を上げておく。

 

「……、」

 

 突然だった。電車が傾いて目の前の女の子がこちら側に寄りかかる。それまではまぁ電車あるあるだ。だが問題は電車が地面と平行になっても俺から離れないという事だ。な、なんや!?具合悪いのか春が来たのかどっちや!?

 

「あ、あの」

 

 慌てて小声で声をかける。コミュ障みたいになってるのは仕方ないね。すると少女は一瞬身体をびくっと震わせた。それから帽子のツバで隠れた瞳でこちらを覗いてくる……なんだ?どっかで見覚えが……

 思い出して拳銃を抜こうとしたのと彼女が抱きついてきたのは同時だった。人間にしては強い力でぎっちりと俺の身体を抱きしめてくるのだ。

 

「ぐっ……!?」

 

 声を上げるのはマズイ。拳銃を抜こうとしたのもマズイが、変に目立つ。と、そんな俺に少女はこっそり告げた。

 

「待って。僕は味方だよ」

 

 そう言ったのだ。しかし俺としては信用ならない。だってこいつ助けてくれたとはいえ猫に変身した挙句抱きついてきてその後雪華綺晶にこってり搾られたんだぞ。負傷してんのにさぁ。

 

「とりあえず、次で降りるよね?なら駅の近くにある喫茶店で話そうよ」

 

「……危害を加えるつもりはないんだな?」

 

「無い。今証拠を見せてあげる」

 

 そう言って彼女は顔ごとこちらを向く。その表情はどこか不安そうな、それでいてひどく興奮しているような……

 顔がどんどん近づいてくる。すぼめた口、閉じる目、え、これは……

 

「んっ!?」

 

 むちゅ。少女にいきなりキスされた。慣れていないのか、なんだか初々しいが柔らかい。ちょっとくらいこっちから手ェ出しても、雪華綺晶にバレへんか……(悪魔のささやき)

 頬を紅潮させる彼女の唇を、舌でこじ開ける。そしてそのまま口の中を蹂躙した。電車の音にかき消されているが、淫靡な音が直接聞こえてくる。彼女は驚いたようで、一瞬目を見開いたがそのまま俺に身を任せるように目を閉じた。

 

「んっ、んぅ……」

 

 あぁ^〜たまらねぇぜ。大丈夫大丈夫、向こうからやってきたから浮気には入らないから(棒読み)

 数秒して、俺は口を彼女から離した。ぷはっと息継ぎしながら糸を引く彼女はどう見てもエロいが、角度的に他の乗客からは見えないはずだ。見えていても関係ない。

 

「はぁ……すごい、慣れてるんだね」

 

「えぇ、まぁ……」

 

 毎晩のように雪華綺晶とイチャついてるからね、しょうがないね。

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