ローゼンメイデン プロジェクト・アリス   作:Ciels

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sequence59 燃える

 

 駅前のファミレスで賢太と二人、隆博を待つ。土日といえども昼を二時間も過ぎれば混み具合も減ってくるわけで、俺と賢太はたわいもない話とタバコを消費しつつ、少し遅めの昼飯を平らげてメガネを待っていた。どうやらあいつは寝坊したらしく、待ち合わせ約束の時間になって今起きたとメールしてきやがった。

 

「いやぁ、すいませーん(レ)」

 

 いつものようにふざけながらやってくる隆博。俺は眉毛をハの字にしながら文句を垂れる。

 

「おーお前どこ行ってたんだよお前よ〜協会に言うぞ」

 

 こちらも語録で返す。隆博が一週間だけ待ってくれと返答すると、俺と賢太の対面に座った。座ってから、賢太の存在に気がついて困惑している。誰?と、謎のエルフや東芝を倒した男を見た視聴者のように疑問を浮かべていた。

 

「賢太、覚えてるよね?」

 

 賢太が懐かしい友人に、改めて自己紹介した。簡潔に事の経緯を話すと、納得はしていないようだったがメガネは賢太の事を認めたようだった。まま、ええわという寛容というかガバガバな隆博はそのまま新たな疑問を呈す。

 

「え、それは……つまり賢太くんを愛人にでもしたんですかね……?」

 

「ん、そうですね」

 

 隆博の疑問はもっともだった。それを隠さずに肯定してみせると、隆博はたまげたなぁ、と言ってフリーズする。まぁ小学校からの付き合いの友人(男)二人が付き合って(突き合って)たら驚愕も多少はね?

 隆博は頼んだピザを食べながら言う。

 

「お前ホモか」

 

「(ホモでは)ないです。ただ可愛い男の娘がいたらしょうがないさ(ネズミ)今はジェンダーフリーの世界、性差別は禁止だよ」

 

「それジェンダーフリーの意味違うんじゃ……」

 

 困ったように笑いながらツッコミを入れる賢太。そもそも俺にRIくんを進めてきたのは隆博だ。あのおうたをサバゲーに向かう道中の車の中で散々聞かされて俺までパパになっちゃったんだぞ、KEN、どうにかしろ(投げやり)

 早くRIくん復活してくれよな〜頼むよ〜(届かぬ思い)

 

 さて、隆博も飯を食べ終わり、俺たちの会話はしょうもないホモビの内容からアリスゲームへと移る。ちなみにさらっと隆博には食いながら真紅が今賢太のところにいるということも伝えてある。

 

「んで?なんで俺を呼んだんだ?」

 

「あぁ。それなんだけどね」

 

 言いつつ、俺はミリタリー色の強いバックパックから写真が入った封筒を取り出す。そして中身を広げて隆博に見せた。

 それらを手に取りタバコを吸いながらそれを眺める隆博。しばらく眺めると、鼻で笑って写真をテーブルの上に放った。その写真には、先日琉希ちゃんと一緒にいたリリィとかいう金髪ツインテール帰国子女女子高生が映っていた。もちろん隠し撮りだ。

 

「こんなとこに居やがったか」

 

 スパーッと煙を天井のファンに向けて吹く隆博。表情には余裕のある笑みが。

 

「間違いない、主途蘭だ」

 

 主途蘭。あの槐が作った第二のドールであり、脱獄囚のじゃろり系人形だ。俺と雪華綺晶は彼女を見た瞬間から確信していた。琉希ちゃんは主途蘭を見たことはあっても会話したことがない。檻の中に閉じ込められてるくらいにしか思っていなかったのだろう。だから気がつかない。

 

「自称リリィ・オヴェリィ・スティフノロビウム。日本語に訳せば槐のすずらん。オヴェリィは多分、of valleyの事だろう。英語で、しかもわかりやすくて助かった」

 

「よかったね、英語学部で」

 

 ニコッと褒めてくる賢太の太ももをテーブルの下でさする。それだけでちらっと見える賢太の股間が膨らんでいく……えぇ……(ドン引き)とにかく、彼女の正体は鈴蘭であることは間違いないだろう。

 

「脚を隠すようなタイツに両腕のリストバンド、まだ暑いのにブレザーねぇ。関節を隠してるな」

 

「それだけじゃない。左腕に不自然な膨らみがある。きっとアサシンブレードで武装もしてる」

 

「体育には持病を理由に参加してないみたいだよ」

 

 ちなみにこの調査は俺と雪華綺晶、そして新戦力である賢太によって一週間かけて行われた。家は市内で有数の金持ち、結菱家。だが家主は70代の爺さんで妻には先立たれている。相当な資産家らしく、この街を見渡すような高台にある薔薇園のような豪邸に住んでいた。

 

「それで、こいつをどうする。素性を隠して高校生ライフを漫喫するドールをバラすのか?」

 

「いや。それはこいつが完全に敵であると判断してからだ」

 

「その言い振りだと何か掴んでるのか?」

 

 俺は頷く。

 

「結菱家のご令嬢ってのは嘘だ。それはどうでもいいが、問題はこの家の爺さんも洗脳されてる疑いがある」

 

「洗脳はローゼンメイデンにとっちゃ当たり前の能力なんじゃないのか?」

 

「いや、雪華綺晶や水銀燈に聞いたらそうでもないらしい。現状把握してるだけじゃ、洗脳ができるのはうちにいる二人だけだ」

 

 雪華綺晶はその性質上洗脳が物凄く得意らしい。水銀燈も昔はやっていたらしいが、思うように動かない人間に苛立ちを隠せなくてやめたとか。

 

「槐にも確認した。主途蘭は元々アサクリを参考に制作されたドールらしい。だからそういう、暗殺や諜報に長けた能力も与えたってな」

 

「あいつはどこ目指してそんなもん作ったんだ?」

 

 隆博の言い分はもっともだ。なんだって暗殺者向けのドールなんて作ったんだと問いただしたら、かっこいいから(小並感)なんて言い出したからな。子どもかって。

 隆博はふーん、と言ってタバコを吸う。俺も釣られてタバコに火をつけると、賢太はそっと俺から距離を離した。こいつはどうもタバコの臭いがダメらしい。

 

「まぁいいや。調査はこれからも続けんでしょ?ならなんか分かったらまた教えてや。どうせ俺ら以外には情報伏せてるんだろうし」

 

 呑気にそう言う隆博に頷く。確かにこの件はまだ公にするには早い。もっと情報を集めてこの件に関する仲間を増やしてから襲撃をかけた方がいいだろう。

 

「槐は諦めるって言ってた」

 

「主途蘭をか?それは……また。娘思いのあいつらしくないな」

 

「人様の命狙うような娘を放って置けないんだと」

 

 そういやこいつ薔薇水晶に操られてたな。最終的にやりたい放題やってドン引きさせてたけど。

 この日の会合はこれにて終了。結局、隆博側の成果としては賢太の生存報告と主途蘭の所在のみとなった。俺たちはお互い帰路につく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に帰れば夕飯を準備している雪華綺晶が、当たり前のように薔薇を使って大人化して出迎えてくれた。賢太は自宅に帰ったので、雪華綺晶の機嫌を損ねることにはならないだろう。

 

「おかえりなさいマスター。もうすぐご飯ができますわ」

 

「ただいま〜。うーんこの匂いはカレー?」

 

「ビーフシチューです」

 

「あ、そっかぁ……」

 

 靴を脱いで手洗いうがいをしてリビングに入れば、部活で疲れたのか礼がソファーの上でぐったりしながらプロサッカーの試合の録画を眺めていた。膝の上にはもちろん水銀燈がいて、心ここに在らずな礼とは対照的にサッカーの試合を見て白熱している。

 

「そこよ!シュート!ああもう!なんで盗られるのよ!」

 

 意外にも水銀燈はスポーツに明るい。この間もアメフトォ……の試合をパソコンで観戦していたし、夏休み期間は甲子園であーでもないこーでもないと騒いでいた。

 

「おかえり」

 

「ただいま。疲れてんな」

 

「うん」

 

 あっさりとした会話を礼と交わすと、雪華綺晶の元へと向かう。彼女はいつものドレスではなく、タイツの上からミニスカートにセーターを、そしてエプロンを装着した若妻スタイルだった。煮込まれたビーフシチューの匂いを嗅ぎながら、おたまで鍋をかき混ぜる雪華綺晶の背中に優しく抱きつく。うーん、いい匂い。二重の意味で。

 

「美味しそうだね」

 

「ふふ、いいでしょうこういうのも。夫の帰りを待つ妻みたいで」

 

「だね。新婚生活みたいだよ」

 

 胸元よりも少し低めの位置にある彼女の肩から顔を出し、ビーフシチューを覗く。俺の好きな牛筋たっぷりタイプだ。

 ふと、ふわりと鼻をくすぐる雪華綺晶の髪が気になり、スンスンと匂いを嗅ぐ。いつもとは違った甘い香り。

 

「シャンプー変えた?」

 

「ええ。ちょっとだけ良いのにしましたわ」

 

 些細な変化を見抜かれて嬉しいのか、振り返りながら微笑む雪華綺晶。すぐ目の前にある可愛らしい小顔のほっぺに口をつける。

 

「すごく良い」

 

 そう笑顔で言って俺は離れ、テーブルを整頓する。とても充実している。帰れば美人の妻がいて、テレビの前では弟と妹のような人形が仲良くスポーツを観ている。そしてたまに訪れる戦い。対照的な命をかけた、惨たらしい戦いだ。

 これ以上俺は何を望む?すべてが満たされている。そう思っていた。だが違う。真に目指すは。アリス。その至高。

 お父様の愛?そんなものは犬にでも食わせてしまえ。俺と雪華綺晶が築く未来に比べれば、旧世代の愛などゴミに等しい。

 そのためにはすべてを犠牲にしなければならない。まだ社会を知らない女子高生も、ようやく現実へと復帰した中学生も、まだ見ぬマスターも。そして友も。賢太には、残念だが消えてもらわなければならないだろう。

 その中にはあの弟も含まれている。それは悲しいことだ。きっとあいつは猛烈に抵抗するだろう。俺が一番恐れているのは賢太でも隆博でもない。隆博には多分、かなり苦戦するが。それでも礼には及ばないだろう。

 礼は、天才だ。一を知り、百を知るを実行してしまう。数分銃を撃てばそれなりに、数時間撃てばかなり上達する。きっと俺は無傷では済まない。

 

 だが。最後に立っているのは俺と雪華綺晶だ。ローゼンが立ち塞がろうが何だろうが、全部殺す。根絶やしにして、消えてもらう。

 

「マスター、料理を運んでくださる?」

 

「はぁーい」

 

 それまでは。これで妥協しよう。今はただその時を待てば良いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕飯時の河原家。その(歪んだ)幸せそうな家庭を遠くで覗く者がいる。めぐちゃんだ。

 彼女は無表情で、冷徹で、残酷で、人を殺してもなんとも思わないような顔でただ眺める。雨も降っていないのにレインコートを着て佇む彼女は変質者と言っても過言ではない。

 臥薪嘗胆。今の心理はこれ以上ないほどにこの言葉が合う。その時を待つ俺のように、彼女もまた待つのだ。

 あの人形に復讐を。愛しの彼に想いを。その歪んだ心で、ただ待つ。長く苦しい時が続く。だが最後には、必ずあの少年を手に入れる。自分を生かしてくれた愛する少年を。

 そのためならば、彼の家族がどうなろうと知ったことではない。容易く手に入らない事は分かっているのだ、ならばこちらから手に入れるまで。

 

「礼くん、待っててね。もうすぐ、もうすぐ……へへ」

 

 だが病室が長かった彼女は知らない。欲望を満たすために相手にする青年が、どれほどえげつないのかを。

 彼は。俺は、たとえ無実で無垢な人間でも、必要とあらば手にかける。

 

 

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