ローゼンメイデン プロジェクト・アリス   作:Ciels

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今日は短め


第六章
sequence69 そうして日常は過ぎて行く


 

 

 

 鈍い意識の中で目が醒める。口の中は血だらけで、鉄の味が舌を占めているのが嫌でも分かった。おまけに自分がいるのはいつものベッドの上ではなく、横転した車の中ときたからシャレにならない。

 助手席を見れば、シートベルトに守られながらも流血していて意識の無い息子がいた。いつも着ているダサい白のパーカーは血で染まっていて、薄暗い車内からでもその怪我の重さが分かってしまう。

 後部座席を見てみれば、妻がもう一人の息子を庇うようにして血を流していた。そのおかげか、もう一人の息子は軽症のようだ。意識はどちらも無いが。

 

 痛む身体を引きずって、なんとか車内から這い出る。片足がうまく動かないが、自分が一番軽症らしいから救助しなければならない。

 助手席の息子を助け出すのは難しかった。衝突の衝撃で、座席がボンネットに挟まれていたからだ。でもこいつはタフだから大丈夫だろうと楽観視しつつ、後部座席の二人を助け出すことにする。

 

 妻を引きずり出すと、辛うじて息があるようだった。揺さぶれば、目を開けて朧げな様子だが状況を把握し出す。

 

「おい大丈夫かよ」

 

「いや見てわかるでしょどこが大丈夫なのさ」

 

 どうやら大丈夫のようだ。出血の割に怪我は浅い。

 妻に携帯で助けを呼ばせ、その間に後部座席の息子を救出しようとする。だがシートベルトがどうにも外れない。

 

「なんかカッター持ってない?」

 

「ない」

 

「あ、ない」

 

 どうしたものかと悩むと、足音がした。妻は気がつかず、繋がらない電話に集中している。

 誰がいるのかと、いるならば助けを求めようとしてそちらを眺める。

 

 彼は見た。小さな、人間とは思えない、美しい少女が佇んでいるのを。それを見て、懐かしさがこみ上げてきた。彼は、遠い昔にその美しい人形を見た事があったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっと、今日は休講の日なんだよ!頭の中の金髪の子が棒読みで言う。じゃあ、明日は?大学閉店の日!と一連の会話が自動で再生された。

 久しぶりにその日まるごと休講になったので、俺はその知らせのメールを見てにっこり笑った。今日はダラダラしていようと心に決め、俺に寄り添うように寝ている雪華綺晶の頭を撫でる。

 

「きらきーくん可愛いね。うんちして?」

 

「うぅん、嫌です……」

 

 どうやら起こしてしまったが、それでも寝起きの頭で語録を返してくる。そこまでしなくていいから(良心)

 雪華綺晶は上体を起こして大きく背伸びすると、盛り上がった胸を見せつけてみせた。ちなみに今は例の薔薇を使用中で、雪華綺晶は人型サイズになっている。服も市販のパジャマだ。

 

「ふわぁ〜……マスター、今日は何限からですか?」

 

「今日は休講の日なんだよ」

 

「ふふ、じゃあ明日は?」

 

「大学倒壊の日!」

 

 さっき頭で流れていたやりとりを実際にやってみる。こんな事ずっとやってるからホモビから離れられないんだよ。

 雪華綺晶とベッドから降りてリビングへと向かえば、飯当番の水銀燈が忙しなく働いていた。ちなみに彼女も薔薇を使用しているから側から見ればクッソ美人の外国人奥様がゴスロリ姿で朝ごはんを作っているようにしか見えない。

 ちょっと待って!薔薇の数が合わんやん!と思う人もいるかもしれないが、主途蘭が薔薇を持っていたおかげでそれを取り込んだ雪華綺晶はいつでも大人化できるのだ。水銀燈に関しては、力を行使しなければ礼の負担にならないのでセーフらしい。

 

「礼俺今日休講だわ」

 

「こっちは学校だってのにおめぇほんと休んでばっかだな」

 

 着替える礼が棘を飛ばす。単位は取っているから何の問題ですか?

 あくびしながらソファに座り、朝のニュースを眺める。もちろん脳には入ってこない。雪華綺晶も俺の横で頭を肩に乗せながら、同様にしていた。

 

「ちょっとぉ!あんたらも手伝いなさいよ!」

 

 卵焼きを作っている水銀燈が喚けば、雪華綺晶がいつもの様子でとてとて手伝いに走った。今日も平和だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう11月か。早いなぁ」

 

 時の流れの速さを痛感し、朝飯を食いながらそんなことを呟く。今のところ、生き残ったらしい琉希ちゃんからの報復は無い。偵察もしたが、ツインテールになっているだけで他に変化も無いようだった。ローザミスティカはこっちにあるけどちゃっかり翠星石まで復活してるし。

 

「早いものですわね。もう半年近くもマスターといるんですもの」

 

「そだね〜」

 

 たわいもない会話を雪華綺晶とする。その対面で、礼と水銀燈もお互いの世界を満喫していた。

 

「卵焼きに塩入れ過ぎじゃないか?味濃いんだけど」

 

「え?そうかしら……あらぁ、ほんと。まぁ味濃い方が美味しいし、いいんじゃないの?」

 

 兄弟それぞれがお互いのドールと会話して食事する。まるで分けられたようなその不自然な光景は、河原家では当たり前の事だった。

 あの一件以来、礼と水銀燈の仲はますます深まったようで、昔のようにブチギレの応酬はほとんど起こらなくなっていた。ちょっと物足りない感もあるが、本人が良いなら口出すことでもない。

 

「はいマスター、あ〜ん」

 

 雪華綺晶が手にしたプチトマトをこちらに差し出してくる。俺は満面の笑みで口を大きく開け、雪華綺晶の指ごと口に頬張った。

 プチトマトを早々に飲み込み、貪るように彼女の指を舐め回す。

 

「まぁマスターったら」

 

 あらあらと、俺の奇行を笑顔で許してくれる雪華綺晶。ようやく手が解放されると、彼女はその唾液で染まった指先を色っぽく口に含んだ。間接キスの出来上がりだ、エロい!(歪んだ性癖)

 

「キチゲェが」

 

 礼がボソッと呟く。しかしその横ではプチトマトを手にしてなにかのタイミングを伺う水銀燈が。

 

「やらないぞ俺は」

 

「え!?あ、馬鹿じゃないのぉ!?私がそんなこと望むわけないじゃない、おバカさん!」

 

「わかった、落ち着け」

 

 あんた達ほんと仲良いわね(棒読み)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で、真紅と再度二重契約を結んだジュンくんもそのドールライフを堪能していた。

 真紅と雛苺を左右に侍らせ、いつものテーブルに座ってのりちゃんお手製のはなまる卵焼きを食す。ジュンくんはいつも通りに、真紅はお淑やかに、雛苺は相変わらず騒がしく。

 

「のりの卵焼き美味しいの〜!」

 

「あらあら、雛苺ちゃん口にケチャップ付いてるわよ」

 

 のりちゃんがタオルで雛苺の口を拭う。大人になった雛苺さんは食事の時は子供に還るようだ。

 

「騒がしいわねまったく……ジュン、今日も学校でしょう?」

 

「そうだけど……どうしたんだ?」

 

 ふふ、と真紅は笑って言葉を返す。

 

「いいえ、なんでも。勉強頑張りなさいね」

 

 無駄なプライドを捨て去り、可憐な乙女となった真紅がそこにいた。ジュンくんは照れながらも笑って頷く。きっと、いや確実に、一番成長したのは彼かもしれない。

 

 いってらっしゃいという人形達の声が響けば、のりちゃんとジュンくんは玄関を出る。いつも彼らが出るタイミングは一緒だった。そしていつも通り、門の外には彼女がいる。

 

「おはようございます、のりさん」

 

 柏葉巴ちゃん。かつての雛苺のマスター。屋上での一件以来、ジュンくんには分からないがこうして部活の無い日には登下校を共にしている。とぼけちゃってぇ……(マジキチスマイル)

 

「あらおはよう巴ちゃん。今日も来てくれたのね!」

 

「はい。今日は部活がないですから。おはよう、ジュンくん」

 

「お、おう、おはよう柏葉」

 

 変化があったのは登下校だけではない。呼び名も桜田くんからジュンくんへとランクアップした。これだけ見ればどこからどう見ても付き合ってる若いカップルな訳で、ジュンくんが否定するまでのりちゃんはてっきり二人が付き合ってるものだとばかり思っていたらしい。

 

 のりちゃんと別れ、二人で歩む通学路。冬が近づき寒くなってくる季節、ネックウォーマーをしていても寒さが身に染みる。

 

「寒いね、ジュンくん」

 

「11月だしな、そりゃ寒いだろ」

 

 素っ気ないというか元よりその気がないジュンくんは何も考えず言葉を返す。しかし巴ちゃんは不服なようで、クールな美顔を少しばかり膨らませると言った。

 

「朴念仁」

 

「カミーユ?」

 

「なに、それ」

 

「いや、なんでもないよ。なんでも」

 

 何事もなく二人は教室へと辿り着く。巴ちゃんは地味だが文武両道な美人として男子の中で人気があったらしく、嫉妬と羨望の眼差しを浴びているがジュンくんは気がつかない。

 

「寒みぃ」

 

 と、先に教室に来ていた礼が呟いた。

 

「風邪引いたんじゃないの?」

 

「馬鹿じゃあるまいし引くかボケ」

 

「お前最近口悪くね?」

 

 クラスメイトといつも通りのやり取りを交わしている礼は前のように思いつめてはいないように見える。ジュンくんは若干の警戒をしながらも、授業の準備を始める。

 

 礼はジュンくんの視線が外れたことに気がつくと、前の方の席にいる巴ちゃんを観察した。ジュンくんは鋭いわけではないが、表立ってマジマジと彼女を観察するわけにはいかない礼はこうしてこっそりと行動していた。

 

 別に前に自分の独白を聞かれたからではない。単純に、ジュンくんに向けるあの少女の好意が気になったのだ。

 その性質は自分が殺した少女のものによく似ていて、不愉快極まりなかった。同時に、このまま傍観していてもジュンくんはその事に気がつかないだろう。

 

 最悪、自分と同じ末路を辿る。そうなってはあの普通の感性を持った少年は潰れてしまう。それだけは避けたかった。

 

「……ふぅ」

 

 ため息を零す。その間にも、巴ちゃんはジュンくんを定期的に見つめていた。もちろん朴念仁であるジュンくんは気がつかない。それも問題あるが。

 だが今のところはただの中学生同士の恋愛事情で、そこに闇は感じられない。だから傍観するしかないのが現状。

 礼はスマホを取り出し、待ち受け画面の水銀燈の写真を眺めると心を休めた。

 

 

 

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