マスターである青年が大学に通い、その弟も中学校へと足を進めれば、彼らのドールズはそれぞれの自由を謳歌する。
本来人と隣り合わせでその存在理由を見出す彼女らであったとしても、一人の時間というものは必要だ。そしてそれは、マスターLOVE勢筆頭の雪華綺晶とて例外ではない。
今彼女は例の薔薇を用いて人間化することにより、一人近所の公園を散歩しているところだ。
これは彼女の日課でもある。何も家でやることがない時はこうして外に出て自然や街の風景を楽しむ。ちょっとだけおしゃれな彼女の楽しみだった。
秋が近くなり肌寒くなってきた最近では、彼女の服装も変わってくる。上質な首元まで覆う白いセーターに、黒のロングスカート。そしてそれを吊り下げるサスペンダー。シンプルな服装でも、絶世の美女の彼女はそれを着こなすものだ。
一人小さな子供が遊ぶ風景を眺めながらベンチに座り、手作りのサンドイッチを頬張る。ハムとレタスの純粋な味が口に広がると、彼女の頬を緩ませた。
ポシェットにしまっていた白いスマートフォンに着信が入れば、彼女はすぐにそれを取り出してメールを確認した。彼女が愛する青年からのものだ。
『今大学終わったから四時ごろ帰る』
必要最低限の文と、世界一有名なホモビデオ男優のインタビュー画像が送られてくる。雪華綺晶は写真のみを消去すると、慣れた手つきで返信した。
『晩御飯は何が良いですか(☝︎ ՞ਊ ՞)☝︎』
するとすぐに返信がくる。
『え、なにその絵文字は(困惑)そうですねぇ……やっぱり僕は、王道を往く、ミートソーススパゲッティですかね』
『ならお買い物をして来てくださいな』
『しょうがねぇな〜(悟空)よし、じゃあ冷蔵庫に食材ぶち込んでやるぜ!じゃあね』
メールの終わりと共に、雪華綺晶はメールアプリを閉じて写真フォルダを開く。そこには大量の、彼女のマスターの写真が広がっていた。それも全部隠し撮りだ。
「ふふ、可愛い」
おじさんに膝蹴りされてベッドの上に寝かされたひでのような顔で眠るマスターの写真を眺める。どうやらお気に入りらしい。しかしこの写真を見ていると加虐心に駆られるがなぜだろう。
「おやおや、写真など頼めばいくらでも撮れるというのに。まったくもって末妹の趣味は拗れていらっしゃる」
綻ばせていた顔を一瞬で無に帰し、目の前を見る。先ほどまで遊んでいた子供たちはいつの間にか消え、代わりに一頭のウサギが怪しい光を目に宿してこちらを嘲笑っていた。
雪華綺晶はスマートフォンをポシェットにしまい、何も発さずにただ紳士服を着たウサギを見つめた。
「結構。無口は神秘性を高め、淑女をより魅力的に魅せると言いますから」
うさぎはシルクハットを取ると、まるで映画の英国紳士がするように腕を抱えてお辞儀した。
「誇り高きローゼンメイデンが第七ドール、雪華綺晶。貴女方のお父様のお言葉を伝えに参りました」
雪華綺晶は動じずにその言葉を聞く。
「アリスとは穢れなき少女。今の娘達は闇にその身を投じようとしている、と」
「……そう」
興味がなさげな雪華綺晶に、うさぎは問う。
「おや。親愛なる父上の御忠告に心を揺さぶられないので?」
「ええ。何も」
微笑を浮かべて雪華綺晶は答える。
「ま、それも仕方のないこと。あの男は放任主義にも程があるでしょうから……しかし、貴女の姉妹はどう思うでしょう」
うさぎは続ける。
「唯一愛する父親に、ここまで言われて外れた私利私欲に走るでしょうか?それは劇の本筋から外れている」
本来のローゼンメイデンを語るうさぎの言葉に、しかし雪華綺晶はクスクスと笑みを浮かべた。おやおや、と困るうさぎに彼女は述べる。
「あらあらうさぎさん、それは違うわ。水銀燈も、蒼星石も、そして可愛らしい雛苺も。今では真紅でさえ、気づいてしまったの。お父様が自分のすべてではないと」
だから。
「今更お父様が何を言おうとしようとも、私達姉妹が考えを変えることはありませんわ。違くて?」
その言葉にしてやられたと言わんばかりの仕草を取るうさぎ。
「これはこれは。そうかもしれませぬ。人形とて彼の娘であることに変わりはない。いつかは自身の手を離れ、立派に旅立っていくというもの……それが少女」
ええ、と雪華綺晶は肯定する。
「そして旅立つのは私達だけではありませんわ。ラプラスの魔、貴方もよ」
「私も?」
「もう良いのではなくて?いくら鈍感なお父様でも、もうそろそろ気付く頃合い。自身を偽りアリスゲームという縛られた世界でしか生きられない道化としてではなく、真の自分を曝け出しても罰は当たらないのではないかしら?」
お返しとばかりに嘲笑しながらも手を差し伸べる雪華綺晶に、うさぎ……ラプラスの魔は心底驚いた。
「おや。おやおや、これは驚いた。なるほど、彼があれを手にしていた時点で気がつくべきでした。と、なればこの忠告に価値などありはしない、と……あ、そっかぁ(池沼化)」
正体表したね。急に地べたに座り込んで空手部の先輩のように惚けるラプラスの魔。彼はポッチャモ……と顔を両手で覆うと言った。
「正直このシリアスモードすっげぇ疲れるゾ〜。でもまだ仕事があるからね、しょうがないね。雪華綺晶も頑張るしかないよ!(関西おばさん)」
にっこりと笑う雪華綺晶。そんな彼女に、淫夢厨と化したラプラスの魔が言う。
「あ、そうだ(唐突)近々アリスゲームにすっげぇ動きがあるから見とけよ見とけよ〜。30分で5万!って感じで」
アリスゲームに進展があるということを言いたいらしい。ラプラスの魔は立ち上がると兄貴のように尻を叩いてタキシードに着いた砂を落とし、どこからともなく不釣り合いなサングラスをかけだす。
「それじゃ、またのぉ〜!!!!!!(大物YouTuber)」
ボンっと煙と共に消えるラプラスの魔。完全にあのふわふわうさぎが消えたのを確認すると、雪華綺晶は盛大にため息を吐いた。
「はぁ〜(クソデカため息)、せっかくのお散歩が台無し」
残ったサンドイッチを全て頬張ると、彼女は早々に帰路に着く。これから忙しくなりそうだ。
ハーレムと言えば聞こえが悪いが、それは第三者の都合だけを見ればの話。当の本人達はそれを満喫しているのだからどうだっていいのだ。
別の日時、桜田家も同じくある種のハーレム状態になっている。ジュンくんとそのドール二人の関係性であることは言うまでもないだろう。
「どう、かしら」
モジモジと花も恥じらう乙女のように部屋へと入ってくる真紅。その姿はいつものようなロリロリしい人形ではない。大人の……というか少女のあどけなさと可憐さを醸し出したべっぴんさんだ。
あの(皆さんご存知)薔薇を用いて人間大になった真紅は言うまでもなく美人だった。ジュンくんと雛苺の心を鷲掴みにするくらいには、綺麗だ。
「あ、あの、すごく、綺麗、だよ」
緊張のあまり吃るジュンくん。
「すごいの……ムカつくくらい可愛いの」
若干の悔しさとそれを上回る感心を表す雛苺。当然の如く彼女も大人化している。
本日の桜田家ではちょっとした行事が行われていた。それは真紅の初大人化とそれに伴うファッションショー。今の彼女はお父様から頂いたドレスではなく、ネット通販で購入した女物の服だ。ゆったりとした白の上着にハイウェストの赤いスカート。髪型もいつものツーサイドアップではなく下ろしていて、お姉さん感が漂う。
「そ、そう……ありがとう、なのだわ」
おまけにこの声。良い声に定評のある真紅だからこそ出せる声だ。
ジュンくんは雛苺に押されるような形で真紅のすぐ目の前に立ち尽くす。正直中学生の彼としてはどうして良いかわからない状況だった。
「あと、その……真紅?」
「な、なにかしら?」
お互いすごく恥ずかしそうにしながらも、ジュンくんが意を決して口を開いた。
「抱きしめても、いいかな?」
少年は素直である。欲望には逆らえないのだ。
「え!?あ、えっと……いい、わよ」
驚いて真っ白な頬を朱に染めながらも受け入れる真紅。ジュンくんは腕を広げてそっと優しく彼女を包み込んだ。
ふんわりとした優しくて甘い蜜の香り。お互いの肌が触れ合うことで、心臓の高まりが伝わってくる。それが彼の青春のページを埋め尽くすくらい簡単にやってのけるのは、当たり前だった。
「ジュン……好き……」
ボソッと呟く真紅。それを聞き逃さなかったジュンくんはお互い見つめ合いながら、唇を近づける。真紅は戸惑いながらも眉をハの字にさせながらも、心から受け入れて寄せた。
触れ合う唇。しばらくそうしていた。ただ触れ合っただけ。少年の欲求は時に力強い。ジュンくんから舌を絡ませれば、真紅は為すすべもなく口を蹂躙された。
まるで契約するかのように、彼に服従するかのようにお互いを確かめ合う。息が持たなくなれば、二人は口を離した。煌びやかで淫靡な糸を引きながら。
「む〜!ヒナもヒナも!」
我慢できなくなった雛苺が二人に抱きつく。
「きゃ!雛苺!?」
「おい暴れるなって!」
「うーん!二人とも良い匂い!」
暴れるなよ……暴れるな……
この後どうなったかは詳細を書けばBANされるのでNG。
近々3P書くゾ