ローゼンメイデン プロジェクト・アリス   作:Ciels

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sequence74 いい加減にしなさいっ!(キチゲ充填状態)

 

 

 昨日隆博がなんかわけわからない事言い出した。曰く、恋をしたのだとか。そしてハーレムを作りたいだとか。あいつが頭おかしいのは今に始まった事ではないからどうでもいいが、いきなりすぎて状況が理解できなかった。おまけに雪華綺晶も乗り気だし……そんなキャラだっけ?

 クリスマスまであと数日、俺は大学の帰りに隆博と合流して詳細を聞く。半分くらい支離滅裂だったがなんとか理解し、改めて隆博の突拍子の無さに呆れた。

 

「なんだよメイドさんって。お前幻覚でも見たんじゃねぇのか」

 

「いいや、あれはまさしくこの世に舞い降りた天使に違いない。リアルだよ」

 

 鼻息を荒げるクソメガネの言葉に適当に相槌を打つ。だがまぁサバゲーとアリスゲーム以外の話題をするのが久しぶりなせいで、俺も悪い気はしていなかった。何より悪友の恋路だ、面白くないわけがない。

 昨日隆博がそのメイドを見たというスーパーで買い物がてら観察をする。もしかしたらいるかもしれないからな。

 

「そのメイドさん釣り竿持ってた?」

 

「原発姉貴でなけりゃりゅーが姉貴でもねぇ殺すぞ」

 

 隆博をおちょくりながら俺も夕飯の買い物と洒落込む。今日は肉が食べたい気分だ、ハンバーグ……は昨日我修院チャレンジを見てしまったからパス。生姜焼きあたりかな。

 と、数分食材を吟味している時だった。別れて食材を探していた隆博が、カゴを手に固まっているのを見つけたのだ。何やってんだあいつ、とSNJばりに怪しみながらも背後から声をかけると、隆博はこれ以上ないくらいに慌てて指を差した。

 

「なんやどうしたんや騒がしい……」

 

「い、いた……!メイドさんが……!」

 

 え、と俺も唖然として指差す方角を見る。そしてそれはいた!なんと卵売り場にて、メイド服を着た眼鏡女子が卵を見ていたのだ!

 

「え、マジで!?マジのメイドか?どっかのコスプレとかじゃなくて」

 

「ど、どうしよう郁葉!?」

 

「突っ込め!突っ込めって言ってんの!ね?」

 

 二人して慌てて今後の方針を決める。ここは友人として彼の背中を押さなくちゃ(使命感)

 俺は隆博の背中を蹴っ飛ばして前へと押しやる。

 

「突っ込めって言ってんだYO!」

 

 蹴られた反動で数歩前へと行く隆博。振り返りざまにこっちを睨んでいたが、覚悟を決めたようで覚束ない足取りでメイドさんへと向かっていく。その隙に俺は商品棚へと身を潜めた。しかしメイドさんか、なんか身に覚えがあるような。なんだっけ。

 隆博が女性の横から接近し、挙動不審になりながらも卵コーナーを物色する。いや話しかけろよ。

 

「あら?」

 

 と、ようやく女性が隆博に気がついた。隆博も澄ました顔で女性の方に振り返ると、

 

「おや?」

 

 右京さんかお前は。何はともあれコンタクトは成功した、あとはお前次第だぞ隆博。

 

「お兄さん、今日もいらしてたんですね」

 

「ええ、まぁ……そちらもお変わりないようで」

 

 遠い親戚か何か?そんなんだからお前はコミュ障なんだよ(特大ブーメラン)と、メイドさんはなにかを思い出したのか笑顔でお辞儀をする。

 

「昨日はありがとうございました。おかげで美味しいオムライスが作れました」

 

「ええ、それはよかった。是非ともわたくしもあなたのオムライスが食べてみたいッ」

 

 気が早いんだよお前は(困惑)ほら見ろ、メイドさん固まってるぞ。

 

「え、それって……」

 

「ああいや、こっちの話です」

 

 どっちの話やねん。

 

「ふふ、面白いですねお兄さん」

 

「んにゃ……ンン゛!そうでしょうか、これはこれは……ハッ!ハハッ!」

 

 じゅんぺいみたいな咳払いをする隆博。話し方は何を参考にしたんだこいつは。

 

「お兄さんの晩御飯は?」

 

「私ですか?ええ、卵焼き、あるいはオムライス、もしくはオムレツにしようかと」

 

 卵ばっかじゃねぇかお前ん夕飯ィ!(ヒゲクマ)すると女性はくすくすと笑う。たしかにかわいいなあのメイドさん(掌返し)雪華綺晶がいなかったら俺も声をかけてた。殺されるからしないけど。

 

「卵料理がお好きなんですね」

 

「ええ、下町のロッキーと言われてますから」

 

 ロッキーは生卵だっただろ。ていうかなんだよ下町のって、ナポレオンか?

 

「お兄さん」

 

 と、俺の心のツッコミもほどほどに、メイドさんがちょっと真剣な面持ちで隆博を呼ぶ。相変わらず英国紳士みたいに背筋を伸ばしているハイパー猫背の隆博くんは右京さんみたいにはいぃ?と言った。それやめろ。

 

「その……もしよかったらですけど。私も卵焼き作るの、好きなんです。だから

、あの……」

 

 ん?これはもしかして、もしかするかもしれませんよ?(クソムリエ)

 

「卵焼き、作りましょうか?お兄さんに」

 

「ファッ!?」

 

 驚愕する隆博。ちょっと語録が出てしまうのは仕方ないね(レ)

 これはチャンスだ、まさかあのキチガイを誘う女がいたとは。どうすんだ隆博?

 

「え、あ、はい(素)」

 

 コミュ障炸裂。隆博は慌てて言い直す。

 

「是非ともお姉さんの卵焼きが食べてみたいです」

 

 キリッと言い直したがもう遅いからなそれ。しかしメイドさんはよっぽど良い人なのか、両手を合わせて花のような笑顔で喜んだ。

 

「まぁ!それは良かった、なら……明日はどうですか?土曜日ですし、お兄さんもお仕事はお休みでしょう?」

 

「ええ、ええ。それはもう。明日なにをするかで今日一日悩んだくらいですから!ハハ!ハハハハハッ!」

 

 俺の記憶では、明日は確か一限だけ講義があったはずだ。まぁいいか、必須じゃないって言ってたし。

 

「なら……是非とも電話番号とアドレスを交換したいのですけれど……」

 

 はい勝ち〜!(メスガキ)やったねタカちゃん、彼女が増えるよ!

 

「もちろん!えっとですね……」

 

 隆博が携帯を取り出すと、女性も同じように携帯を可愛らしいポーチから取り出す。しっかしあのメイドさんほんとどっかで見たことあんだよなぁ、誰だっけか。

 アッ!(スタッカート)琉希ちゃんとこのメイドさんだッ!よりにもよってあいつんとこのメイドかよ!

 俺は思わぬ伏兵に頭を抱える。隆博には悪いが、正直あのメイドと親密になるのはやめてほしい。それはつまり、翠星石陣営とも仲良くなる可能性があるからだ。現状、隆博は琉希ちゃんに敵とは見られていないはずだ。

 

「グッアアアアアクソ、しょうがない」

 

 やめよう。素直に隆博を応援することにしよう。雪華綺晶も、この恋路を邪魔することは望んでいないはずだ。

 俺は少しばかり計画の雲行きを心配しつつ、最終的にはどうにかなるだろうと楽観視する。そうだ、もうあいつらではどうにもならない。ていうか、させないさ。

 

 

 

 

 

 

 

「○ッラーアバァアアアアル!○ッラーアクバァアアアル!!!!!!」

 

 帰り道、テンションが異常な隆博が道で叫ぶ。その度に通行人がこっちを見ている。

 

「お前それシャレにならないからやめろ!……まぁ、良かったじゃんよ」

 

「はぁ〜アッツゥ〜!ビールビール!冷えてるか〜?」

 

 もう会話にすらなっていない。まぁいいや、見てて楽しいし。これは俺にとってチャンスでもある。これを利用して琉希ちゃん陣営を探ることだってできるはずだ。……乙女な雪華綺晶が反対しなければ、の話だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったわみっちゃん!大成功かしら!」

 

 車内で金糸雀が自分の事のように喜んでいる。同じようにメイドさん、草笛みつも笑顔でハンドルを握っていた。

 

「やったやった!アドレス貰っちゃった!うーかなぁ〜やっと春が来るかもぉ〜!」

 

 喜ぶのは良いが、その都度運転が危なくなるのはどうにかした方が良いと思います。

 

「でもあのお兄さんどこかで見覚えあるのかしら〜……」

 

 うーんと唸る金糸雀。それはね、雛苺の事件の時だよ金糸雀ちゃん。

 

「明日何着てこうかな?メイド服……はダメだし、スーツ……も変だし……あれ?私意外と服持ってない……?」

 

「……カナから連絡しておくから、今からでもお洋服買いに行った方がいいかしら」

 

 こちらもこちらでてんてこ舞いだった。かわいいからいいけども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電話をかける。数コールして、液晶に表示された人物の声がスピーカー越しに聞こえた。うさぎは周りを確認して誰もいない事が分かると、声を出す。

 

「私です」

 

『ああ。それで、どうしたこんな夜中に。俺今ゲームしてんだけど』

 

 音声にに銃声が混ざっている。もちろん本物ではないが。

 

「例の件で電話させていただきました」

 

 そう言えば、スピーカーから響く銃声が途切れる。きっとログアウトしたのだろう、それくらいには今から報告することはあの青年には大切な要件だ。

 

『そうか。どうなった?』

 

「はい。概ね同化が完了しているようです。今年中には、完全に」

 

 ふむ、と青年が頷く。

 

『なら仕掛けても良さそうだな』

 

「はい、私もそれが妥当かと思います」

 

『引き続きローゼンの動向を探れ。実行やら何やらは俺らでやる。お前はケツピンでも見ててくれや』

 

「もう見飽きました。それでは」

 

 困惑する青年の声を無視して電話を切る。同時にうさぎは深く深呼吸した。

 もうすぐだ。もうすぐ目的が果たされる。彼の目的、そして自分の目的。それが成就されようとしている。

 興奮で息が荒い。初めて淫夢MADを見たときのような困惑と、失踪していたと思われていた投稿者兄貴が久しぶりに動画投稿したかのような高揚感がうさぎの体を支配していた。

 

 


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