孤独。
それは人間の心を蝕む病魔。
時として孤独は知恵要約にもなり得るものだが、大抵は心を壊す
俺は決して孤独ではなかった。
家族との仲も良好だったし、高校時代の親友たちとは今でも飲んだりサバゲーに行く仲でもある。親が死んでからも、礼とはうまくやっているはずだ。
でも。
何かが足りない。
サバゲーで闘争心を剥き出しにして相手を倒し、仲間と勝利を共にする。
いつしか、それだけでは満足できなくなっていた。
心を満たす、致命的な何かが、俺には足りない。
そもそも、これは俺だけの問題なのだろうか。
意外と他の人間も抱えている問題なんじゃないか。
しかし、そんな事は知りえない。
他人は他人で、自分は自分だ。
この境界は崩せないし、侵すこともできない。
だけど。
そうだけども。
俺は孤独だ。
俺の心は満たされない。
満たされない限り、俺の心は晴れはしない。
―――雪華綺晶。
この
人間そっくり、いやそれ以上に洗練されたフォルム。
そして同じように感情があると思える、この
果たして、孤独を、虚無感を感じることはあるのだろうか。
あるのならば、仮にそうだとするのならば。
マスターという、俺の知らない関係になったのであれば、それを共有できるのだろうか。
俺はいったい、この
出来ることなら、教えてほしい。
俺は。
――――――――――
「逃がさねぇですっ!スィドリーム!」
翠星石の号令と共に巨大な蔓が、今度は進行方向からも伸びて迫る。挟み撃ちにするつもりだろう。
俺は舌打ちするとともに、対応しやすくするために姿勢を低くした。
雪華綺晶は相変わらず俺の腕の中だ。
人間とは似て似つかない軽さが、人形の脆さを感じさせるようで仕方ない。
蔓は直進して俺と雪華綺晶を文字通り潰しにかかる。
動きは速いが、その分直進的で読みやすいものである。
サバゲーで人間を相手にするより、避けるのは簡単だろう。
―――
「マスターっ!」
「大丈夫だッ!」
叫ぶ雪華綺晶に言い聞かせる。
そう、大丈夫だ。
答えを出すまで、俺は死ぬつもりは無い。
刹那、俺は迷彩服に備え付けられたニーパッドを利用して右膝を着き、左足を前へと伸ばした。
その間、雪華綺晶を両腕で抱きかかえ、頭を低くする。
甘い花の匂いが俺の頭を満たし、不思議と恐怖を掻き消してくれた。
直後に、頭の数センチ上を蔓同士が激突する。
耳をつんざくような衝突音に、一瞬耳がキーンとおかしくなる。
しかし今止まってはまた蔓に追っかけられる。
三度目の正直で、とどめを刺される可能性も大きい。
「やったか!?ですぅ!」
不意に翠星石がフラグ満載の言葉を発する。
残念、そういう時はだいたいやれてないもんさ。
チャンスだった。
翠星石からは蔓の下で姿勢が低くなっている俺を視認できていない。
チャンスは存分に生かす。
それが俺の戦い方であり、生存方法だ。
「絶対に声を上げるな」
抱き寄せている雪華綺晶の耳元で囁く。
意図を理解してかしないでか、彼女は頷くだけだ。だが、それでいい。
俺はしゃがみながら、足音を発てないように、それでいて出来るだけ早く走る。
もちろん見られていないというアドバンテージは生かす。
翠星石に発見されないように、蔓を遮蔽物として利用するのだ。
ちょうど見えない位置を突っ切ることにより、少しでも長く緑の性悪人形の魔の手から逃れる。
翠星石が俺たちの死体を確認しようと蔓をどかした時には、すでに俺たちは逃げおおせた後だった。
翠星石が周りを見渡すが、あるのは水晶の山と破砕した水晶のみ。
「きぃいいいいい!!!まんまと逃げやがったですぅ!スィドリーム!早く奴らを探すですぅ!そうしないと・・・・・・香織が・・・・・・」
今にも泣きだしそうな顔で発光体に命令する。
そんな彼女の姿を、俺はすぐ近くの水晶の柱から覗き見る。
発光体が見当違いな場所へ行ったところを見るに、どうやら少しの間は息をつけそうだ。
俺はほっと一息入れると、雪華綺晶を離した。
彼女は少し残念そうな顔をしていたが、今の俺にそこまで気付く余裕がない。
その間も俺は腰のポーチに何か使えそうなものがないか探すが、出てくるのはサバゲーの時に混入した砂だけだ。
「クソ・・・・・・」
悪態をつく俺に、雪華綺晶は尋ねる。
「マスター・・・・・・私は貴方を無理にここへと連れてきた。それなのに、なぜ私を助けたの?」
「自覚はあったんだな・・・・・・わかんねぇなぁ。ただ、一目君を見た時、俺の中で何かが変わる気がしたんだ。君が目覚めた時、俺の心は確かに・・・・・・あぁクソ、こんな事言う柄じゃないんだけどな」
俺はもっと、適当な事を適当なタイミングで言うキャラだ。
こんなアニメの主人公みたいな事言うようなタイプじゃない。
雪華綺晶は首を傾げた。
誘拐同然に、しかも養分にされかけたのにもかかわらず、可愛いと思ってしまう。
こうやって男はキャバ嬢に貢ぐのか(確信)
ふむ、やっと調子が戻ってきた。
「貴方も・・・・・・孤独なの?」
「的を得ない質問だな。いや、間違いじゃないか。そうだな、そうかもしれない」
頷いて肯定して見せる。
確かに、俺は、孤独でないように見えて孤独だ。
「そういう君も孤独なのか?」
今度は俺の質問に、雪華綺晶は頷いた。
そうか、と。それだけ言って、会話は終わった。
しかし若干の気まずさと、気になる疑問があったため、半ば強引に話を続ける。
「あー、雪華綺晶。聞きたい事はいっぱいあるけど、教えてほしい事がいくつかある。なんだってあいつは君を殺そうとしているんだ?まぁ最初からサイコパスだったなら理由なんてないだろうが」
しかしその質問に雪華綺晶は黙る。
黙秘ではなく、単純に分からないようだ。
これは困った、解決策が見つからない。
翠星石と戦おうにも、見た所、雪華綺晶は力が姉よりも弱いらしい。
「それじゃあもう一つ。なんで俺の格好がこんなフル装備且つ、非武装なんだ?」
それには答えられるようで、彼女は口を開く。
「ここはnのフィールド。現実のようで、そうではない世界。今のあなたは、夢の世界にいるようなもの。貴方がそれを望めば、出来る範囲で成すことが出来てしまう、そんな世界」
「つまり、この格好は俺の理想ってことか・・・・・・あながち間違ってはないからなぁ。武器を持っていないのは、出来る範囲を越えてるからか?なんともまぁ都合が良いんだか悪いんだか」
銃を召喚ってことは俺に出来る範囲を超えているのか・・・・・・ならなんで、サバゲーの装備はフルで持ってこれたんだろうか。
ふむ・・・・・・所持している者に関係しているのか?
いや、それだと電動ガンは?コンバットアックスは?なぜ持ってこれない?
分からない・・・・・・いや、待てよ。
ここで、あることが頭に浮かぶ。
「雪華綺晶、もしかして、俺の電動ガンとか斧とか、武器になりそうなものを取り上げたか?」
「もちろんです、抵抗されると困りますので」
「ウッソだろお前・・・・・・(絶望)」
やっぱりこの娘が原因か・・・・・・なんとなくわかってたけど、どうしようもない。
彼女に怒っても武器は手に入らない。
「取り上げた武器はどこに?」
「ここに」
「あんのかよ」
質問に即答すると、彼女は手から光を放つ。
途端に、光は二分され、コンバットアックスと電動ガンになって俺の目の前に降臨した。
なんだこれは・・・・・・便利だなぁ(関心)
召喚された電動ガンはM4A1。本物はアメリカ全軍に正式採用されている世界的な
ピカティニーレイルと呼ばれるアタッチメント取り付け台ももちろん装備されており、射手によって様々なオプションを取り付け可能だ。
このレイルはダニエル・ディフェンス社のRISⅡと呼ばれるもので、14.5インチの
のだが、これは電動ガン。当たれば痛いが死にはしないし、所詮はおもちゃだ。
しかし、このコンバットアックスは違う。
特殊部隊で使用されている本物で、日本でも買えるものだ。事実、俺もコスプレ用として所持している。
「使えるのはこれだけか・・・・・・まぁいい」
「貴方は戦うつもりですか?」
「あぁ、逃げることも考えたが、追跡されると厄介だ。火の粉は振り払うに限る」
事実、雪華綺晶も追跡されたからこうなった。
家にまで来られたらたまったもんじゃない。
雪華綺晶はまたしても不安げな表情を浮かべる。
そんな彼女の頭を、俺はグローブ越しに撫でる。
ちょっとびっくりしたような顔で雪華綺晶は俺を見上げた。
「大丈夫。きっと勝つ。君を孤独にはしない。聞きたいこともあるしな。・・・・・・マイナスかけるマイナスはプラスになる。そうだ」
「え・・・・・・?」
「雪華綺晶、作戦を伝えるぞ。よぉく聞いておけよ」
そうして、俺は戦いへ挑む。
そうだ、俺はまだ死ねない。
ようやく掴んだかもしれないんだ。
俺の、心を満たす何かを。
終わり!閉廷!