ローゼンメイデン プロジェクト・アリス   作:Ciels

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武田信玄ブームほんと草


sequence85 這い寄る暗闇

 

 

 

 

 

 あれは夏の事だった。夕飯を外で食べようと親父が言い出し、たまには寿司が食べたいと俺が言ったんだ。車に乗り、親父が運転して市内の人気が少ない所に差し掛かった時だった。何でもない、普通の曲がり角だ。あれだけ運転に自信がある……いや、自信がありすぎたのか。親父がハンドル操作をミスって単独事故を起こし、親父と母ちゃんは死んでしまった。弟は軽症だったが俺は重症で病院に運ばれ、そこで親の名前を叫んでいたのを覚えている。大学生の頃の話だ。

 そこからは何というか、この世の終わりだった。俺と弟の二人暮らしでなんとかやって、俺は大学を卒業して自衛隊に入り。弟は中学と高校を上位の成績で卒業し、大学も一流のところへ行き。

 すっかり連絡もしなくなった頃に、俺は所謂「特殊部隊」なんていう場所へたどり着いた。誰にも所属部隊を明かしてはならず、上がった給料と心に空いた穴を抱いて毎日海外製のライフルを手に訓練している。

 もう三十路が近くなって、ふとあの時の事を思い出す事が増えた。そういえば、親の遺品を整理しているときにおかしな手紙があったな。

 

 巻きますか、巻きませんか。

 

 あの手紙は一体何だったんだろう。今でもその手紙の事を思い出すくらいには、印象深い。確か、あの時俺はーー

 

 

「降下30秒前!」

 

 

 ふと、輸送機の後部に居る降下管制の隊員の声で我に帰った。それを聞いて先頭の俺は後ろに連なる仲間達にハンドサインで通達する。

 背中にはパラシュートを背負い、正面には背嚢とライフル。降下の時間が近く。

 

「10秒前!」

 

 ヘッドセットから声が響く。俺は身構えた。開いた輸送機の後部ハッチからは、闇に沈む富士山が見える。

 

「降下!降下!」

 

 一気に駆け出すと、ハッチから飛び降りる。高度1万の世界から見る下の世界は、夜の闇と点々とする街の明かりのコントラストで美しい。

 俺は浮遊感と寒さに身を任せる。今やるべき事だけを考えろ。それ以外はいらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海岸から少し森の中に行けば、それはある。琉希ちゃんの実家が保有するログハウス群だ。前々から金持ちだとは思ってたが、まさかこんな少年自然の家みたいな場所をまるごと持っているとは思っても見なかった。みっちゃんに先導され、一番中心のログハウスへと俺たちは入っていく。

 

「ここ全部林本家の所有物なのか?」

 

 ブレーカーに電源を入れるみっちゃんに尋ねると彼女は頷いた。

 

「そっ。昔は毎年来てたみたいだけど、ここ数年は忙しくて来れてないみたいだよ。だから所々汚れてるかも」

 

 確かに、蜘蛛の巣が張ってる。状態はいいから暮らすのには困らないだろうけども。とりあえずは一度荷物をリビングに持って行く。

 ドールズは良いとして、人間全員分の着替えと生活必需品をリビングに入れ込むと、俺たちは今後の生活について話し合う。もちろん琉希ちゃんは主途蘭が憑依したままだ。食料は缶詰やカップラーメンが一週間分、冷蔵庫もあるし洗濯機もあるから買い足すものは必要最低限にできる。

 

「とりあえずは一週間は持つと思う。買い出しも、ここにある鏡からnのフィールドを経由すれば簡単に行けるしね」

 

 蒼星石がそう言うと、金糸雀が不安そうな顔で質問を投げかけた。

 

「でも、分断された時に狙われないかしら?」

 

「ないな。あいつの事だから、やる時は全員まとめて始末しにかかる」

 

 俺がきっぱりと否定すると、逆に金糸雀は青ざめた。無理もない。

 

「奴め、もうここの場所はバレてる可能性もあるしのぅ。下手に移動もできん。nのフィールドに行こうものならそれこそ雪華綺晶に狙われるじゃろう。買い出しは車ですべきじゃ。街中なら奴も派手には動けんだろうしな」

 

 俺も主途蘭の意見に賛同した。ローゼンメイデンの中で一番厄介なのは、能力が未知数である雪華綺晶だ。ならば奴のステージに上がらない方がいい。

 

「じゃあ、買い出しは車で……タイミングは?」

 

「三日に一回。昼間の方がいいだろう。夜だとどこで襲われるか分からないからな」

 

 みっちゃんの質問に答えると、話し合いは終了。だだっ広いリビングに静寂が響いた。まだ戦いは始まっちゃいないのに、もう葬式気分だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森の中を、ただ一人這って進む。もう辺りは闇夜に包まれ、月明かりだけが木々を照らしている。

 全身をギリースーツで覆い隠し、背中には偽装のために迷彩に塗装したライフル。銃口の先端にはサイレンサーが装着されており、仮に発砲しても隣町の外れにある民家に聞こえるような事はない。今回持ち出したライフルも、いつもの5.56mm弾を使用するものではない。300AAC Blackout弾。元よりサイレンサーを装着したライフルを想定して作られた、専用の弾薬だ。耳栓をしていなくとも耳を傷める事はまずない。

 

 夜の森は人間は歓迎されない。動物達が目を覚まし、捕食者は他者を殺して糧として。俺も、本来ならば野犬や熊に襲われる側の存在だ。

 それがこうも、俺の存在を見た瞬間に怖がって逃げていくのは、俺の魂の異質さからか。足を使わずに地べたを這って泥だらけになっているせいか。それは分からないが。

 

「雪華綺晶、ログハウスを見つけた」

 

 指輪に話しかける。長らく使っていなかった、通信機能だ。

 

『わかりましたわ。マスターのご指示でこちらも動きます』

 

 通信を終えると、俺は高台まで這って移動する。ログハウス群との距離は300メートル。草むらから監視すればまず見つからないだろう。

 高台まで時間をかけて移動すると、俺は背中のライフルを手繰り寄せ、搭載されたごついスコープを覗く。米軍ではSU-232/PASと呼ばれるサーマルスコープだ。熱源をはっきりと映すこのスコープの前では、夜間だろうと隠れた敵を見つけ出せる。もちろんこれも米軍の武器庫からパクったものだ。

 

「隆博め、もっと森の中も警戒すべきだな」

 

 スコープに、少しだけ白く映る箱型の物体をログハウス群周辺に見つける。対人地雷、クレイモアだ。だが奴の事だろう、埋設地雷もあるに違いない。こっちを殺しにきてるな。流石に埋設されていては探知出来ないが、恐らく奴らが隠れている場所は中心のログハウスだから、その周辺には仕掛けないだろう。

 まぁ今は奴らを観察しよう。行動パターンがあるはずだ。それがわかってからでも襲撃は遅くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三日が経った。ここに来てから一切外に出ていないから時間の感覚がおかしくなる。狙撃を恐れてカーテンも閉めきっているから太陽光もあまり入ってこないのだ。それに夜間の対暗視装置のために全ログハウスに常時灯りを灯している。

 

「そろそろ買い出しに行かんとな」

 

 俺がそう呟くと、リビングにいる全員が俺を見た。

 

「じゃあ、私が……」

 

 率先してみっちゃんが手をあげる。確かに車を操縦できないと買い出しには行けないが、一人にはさせられない。

 

「それならカナも行くかしら!」

 

 そんな中、底抜けの明るさを保つ金糸雀が手を挙げた。しかし反発する人が一人。

 

「嫌!こんな奴と一緒に居ろっていうの!?こいつは敵!」

 

 一時的に主途蘭から意識を返されている琉希ちゃんだ。前のようにヒステリックさはそこまでは無いが、それでも俺と蒼星石を敵視している。手にはグロックを握っていて、隙あらば殺そうとしてくるから俺も彼女といるのは嫌だ。

 

「お嬢様……いい加減にしないと、私でも怒りますよ。隆博くんは私の恋人ですから」

 

「何よ……何よそれ……もう……」

 

 半ば見捨てられたと思い込んだ琉希ちゃんが俯く。ここ二日くらいこんな感じだ。主途蘭も憑依した状態だと精神力を使うらしく、いつでも憑依した状態にはなれないらしい。

 俺はため息混じりにみっちゃんに寄ると、耳元で言う。

 

「彼女はなんとかするよ。気をつけてね」

 

「うん……ごめんね」

 

 謝る彼女の頭を撫でると、みっちゃんは金糸雀とログハウスの外へ出る。そろそろ郁葉が仕掛けてくるかもしれないから、俺も準備を万全にしなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サーマルに人影が二つ。真っ白に映る。肉眼で見れば、みっちゃんと金糸雀が不自然な経路で車まで歩いていた。恐らく買い出しに向かうんだろう。

 俺はニヤッと笑って頬に吸い付く蚊を潰す。なるほど、あの経路上には地雷は無いのか。これは好都合だ。

 

「雪華綺晶、今晩仕掛けるよ」

 

 そっと指輪に呟くと、麗しの白薔薇が答えた。

 

『待ちくたびれましたわ』

 

 

 




KNN姉貴が元気そうでホッとしたゾ
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